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例えば、アニメなんかで良くあるひとコマ。
最後の手段として、動力炉を暴走させて、自爆に巻き込む。
総員退艦せよ! なんて言われて、自分も残ります、なんてドラマが展開する中、素直にその話を聞いて、いち早く逃げ出した乗組員は何を思うんだろうか?
なんてこった……とか、一緒に死にたかったとか思うのがドラマとしては正しいのかもしれない。
だが、俺が思ったのは、コイツの前でだけは死んじゃいけない。ただ、そのひと言だった。
順調だった。
前衛はサクヤとムックとばよえ〜んと青海で、後衛は俺、レオナ、SIZUの三人。
後衛の力不足は否めないが、少しの援護で前衛はめちゃくちゃ活躍してくれた。
一層目、街。サクッとクリア。
二層目、城。SIZUがどこからか入手したそれは完璧な地図だった。
「色んなレギオンの地図を照らし合わせると、埋まってない部分が全部埋まった一枚になるってのが面白いよね!」
「入手方法は聞かない方が身のためですかねー……」
サクヤが、ふぅとため息吐いた。
「ゲーム内フレンドは多いですよ、私の自慢なので!」
未だ最新フィールドの地図情報は各レギオンでの秘匿情報だ。いや、それなりの金額でやり取りされる今だから売れる情報とも言える。
ただ、俺たちが『マンジクロイツェル』と取引したように、どこも四分の三程度しか埋まっていないのが現状らしい。
最後の四分の一は、例えばギミック付きの道やら、鍵がないと通れない部屋などの謎解き要素があって、それの解法が全部載っているとなると、今なら結構な高値がつく。
さらりと俺たちに配られたソレはそういうものだった。
ただ、それにしても三層目の行き方は載っていない。
「最後の謎解きもアタリはつけてますけど、言いません。
それくらいは楽しまなくちゃね!」
「SIZU、目的は三層のダンジョンボスだろう?
分かっているなら、もったいぶる必要はなくないか?」
「青海ちゃん……そんな言葉じゃ私は吐きませんよ!
どうしても知りたかったら、私をキュンとさせるか、一芸を披露して下さい」
「いや、なんでよ……」
「つまり、SIZUさんからの挑戦状ですね!」
レオナはノリノリだ。
「うーん……この地図観てると、グレンさんしか読めないはずの古代語情報も載ってますねー……」
チラリ、とサクヤが俺を覗き込む。
「ゐー!〈毎回、俺が経験したことはレポートにしてコイツに送ってるからな。そりゃ載ってて当たり前だ〉」
「こういうギミックはみんなで楽しんでこそですよ、サクヤさん。
ちなみにグレちゃんからもらった情報は悪用厳禁!
そこは心得てますよ」
「まあ、そういうことなら、納得しておきますかねー」
「いやあ、グレちゃん、愛されてるー!
なんか、ニヤニヤしちゃいますね!」
「え、いや、別にそういうことでは……」
サクヤが、たじたじになっている。珍しい。
「また、またー。グレちゃんが変なことに巻き込まれないように、確認しておきたかったんですもんね!
問題ないです。この地図は今回限り、終わったら破棄予定ですから!」
「先生! ヒント下さい!」
「ばよえ〜んさん。SIZUでいいですよ」
「先生じゃダメですか?」
「ん〜、じゃあ、ばよえ〜んさんだけ特別に先生でおっけーです!」
「やったー!」
「ん〜、ヒントですか……ヒント……ばよえ〜んさんは自分の一番大事な物ってどこに隠しますかね?」
「ん〜、自分のお部屋?」
なるほど、女王の部屋にヒントがあると。
俺たちは女王の部屋に向かう。
城の天守付近に女王の部屋はある。
行き方はかなり複雑だ。
地図があるから関係ないが。
だが、最後のギミック付き通路を解くと、城内に冷気の風が吹いた。
「雪の女王ピロ……」
「フィールドボスですねー。離れましょうか」
「ううん。あれは倒さないと先に進めないですよ」
この第七フィールドにはフィールドボスが二体いる。
『雪の女王』と『勇者』だ。
その内の一体、『雪の女王』が自分の部屋の前に陣取っていた。
「じゃあ、僕が引っ張っていくピロ」
ムックが近づこうとするのを静乃が制する。
「いえ、ここで倒しちゃいましょう。下手に引っ張るとザコが湧きます。
ちなみに、私の合図で皆さん拳の中に親指を握り込んで下さい。
でないと巻き込まれます」
霊柩車を見掛けたら、拳の中に親指を隠すなんておまじないがあったな、とふと思い出した。
「勝てるの?」
「あれ? 青海ちゃんには見せなかったっけ?」
ぷるぷる、と青海は首を振った。
「グレちゃん、とどめはお願いね!」
「ゐー……〈あ、おい……〉」
SIZUに引っ張られるように、俺たちは『雪の女王』とエンカウントした。
「ゐー!〈いきなり始めんなよ! 【賢明さ故の勝利】〉」
とりあえず、『雪の女王』の情報をと思って、俺たちはげんなりした。
HPが五万もある。つまり、五万回殴れば勝てる計算だ。
「はい、いきなり行きますよ!
親指隠してない人は敵認定、私も制御できないんで、よろしく!
【死の軍団】」
「ゐー!〈いや、ちょっと待てって!〉」
「もう使っちゃった!」
床から様々な戦闘員が湧いた。
それはヒーロー側、怪人側、どちらもいて、一様に悲惨なことになっている。
首がなかったり、腹に穴が空いてたり、上半身が裂けてたり、焼け焦げていたりする。
死者の軍団だ。
「あばばばば……」「ひえぇ……」「グロいピロ……」「全員、頭にドクロマーク?」
「せーつめいしよう!」
静乃は自身も親指を隠したまま、人差し指を一本立てた。
「このスキルは今まで私が見てきた死者の魂を現出させ、戦わせるのだ。
能力値、四割減、スキルあり、本人の取りそうな行動を忠実に再現!
ただし、私の決めたサインを守ってない人には問答無用で襲いかかります!
今日のサインは親指を隠すです。
死にたくない人はサインを守りましょう!」
怪人もいる。シメシメ団、世界征服委員会、ガイア帝国なんかの怪人だ。
ヒーローもいる。マイナーどころらしく、どこのヒーローかは分からない。
つまり、静乃がゲーム内で見た死亡したキャラクターたちだ。
正しくは本人の影みたいなものだろう。
それにしても、床から溶け出すように湧いて来るキャラクターたちは、みな一様に悲惨な姿をしている。
「おお、先生、凄いです!」
ばよえ〜んだけが、両拳で拍手を送っている。
年齢フィルターで、このグロさが伝わっていないのだろう。
能力値四割減だとしても、この数千人規模の死者の軍団は単純に暴力だ。
これ、時が経てば、つまり、静乃がゲーム内で死亡シーンを確認すれば、いくらでも増えるのか?
「一回限りの大技なので、もうからっけつ。
後はグレちゃんよろしくね!」
「ゐー!〈いや、待て、待て、あんな中に入れる訳ないだろ!〉」
「え? グレちゃん、空飛べるじゃん!」
「ゐー!〈コアは置いて来てるんだよ!〉」
「いやいや、スキルの組み合わせで!」
「ゐゐっ?〈はぁっ?〉」
「ジャンプ床、ラビジャンプ、ラビロケット、ラビリニア、空中でアドバンスベアしたら届くから、そこでオオカミで頭狙いでフィニッシュ! 完璧!」
「ゐー……〈マジか……〉」
「うん、グレちゃんならできる!
それにほら、初撃破報酬、貰えるよ!」
ゴー、ゴー、と静乃が楽しそうに腕を振り上げた。
従妹は本当にゲームのこととなると容赦がない。
俺は『雪の女王』までの距離を慎重に計って、飛び出した。
絶対にコイツの前では死なない。
俺の影を弄ばれるのはゴメンだ。
そう思った。
結果、勝った!
そして、作者は負けた。
はい。『ヘル』は皆さんの予想通り、静乃のところでしたw
【死の軍団】は溜め込んだ死者を大放出するスキルです。
静乃がレイド戦巡りをして、目の当たりにしてきた死者が数千人。
一回のレイド戦で同じ戦闘員が五回死亡したら、五人分カウントされます。
ただし、死亡シーンを見てなきゃダメです。
グレンは気付いてませんが、シティエリアの一般市民も混じってたりします。
嫌なとこ見てますね、静乃。




