1 side.グレン〈はじめての作戦行動〉
本日、二話目です。
「くっ……まぎみすりるシザッ! 」
ハサミと蟷螂の特徴を融合させた、怪人シザマンティスが、悔しさに歯噛みする。
「罪なき人々への悪業三昧、このマギミスリルが天より誅する! 」
白銀の鎧、肥大化した左肩のショルダーガードは天を突くように鋭角的で、バイザーに隠された瞳には正義の志が光っているのだろう。
マギミスリルと名乗るヒーローは四階建て雑居ビルの屋上から跳ぶ!
そんな姿がモニターに映し出されている。
画面隅には『LIVE!シザマンティスVSマギミスリル』の文字が御丁寧にも、踊っている。
「はい、魔石の紐付け、まだの戦闘員はもういないですね! 」
全身黒タイツの戦闘員の中、普通の私服に白衣と眼鏡という女性が声を張り上げる。
なかなかに美人だ。
俺は慌てて手を上げる。
「イーッ! イーッ! イイーッ! 〈あー、すまん、自分、今、キャラ作成したところで……〉」
んん? 俺の口から出る言葉が……。
「あら、新人さんですか!
ようこそ、『リヴァース(うらがわ)・リバース(さいたん)』へ!
わたくし、戦闘員人事部のレオナと申します……。
作成したばかりなら、【言語】スキルが取れなくて当然です。
今は時間がないので……あっ! 」
レオナと名乗る女性のミディアムにしている茶髪が揺れると、ふうわりと良い香りがする。
このゲーム、香水の香りも再現できるのか、と感心していると、レオナはモニターを注視する。
俺も釣られてそちらを見ると、モニターに映る怪人が殴り合いの中、どうにか距離を取って、自身の腰につけたポーチをハサミになっている鎌、怪人シザマンティスとしては腕に当たる、ソレでポーチを切り落とした。
───ボロボロと虹色に輝く石が零れ出る。
怪人シザマンティスがポーチを蹴り飛ばすと、虹色に輝く石を零しながら、ポーチが転がっていく。
「行くぞ! 」「イーッ!! 」
俺と同じ部屋にいる戦闘員たち、全身黒タイツを纏ったレギオンメンバーが巨大な虹色に輝く石に吸い込まれるように消えていく。
「とりあえず、コレとコレ、持って下さい」
レオナが渡して来たのは、赤いルビーのような石が三つとボタン付きのこん棒だ。
「イッ? 〈何だ、これ? 〉」
相変わらず俺の口からは「イ」しか出ないが、レオナには通じているようで、目の前に光のプレイヤー画面を浮かべて、それを操作しながら説明してくる。
「そっちの赤いのが魔石です。
魔石は持っている数だけ、無条件で復活石、あのシザマンティスさんがバラ撒いた虹色の石の位置に復活できます。
それから、今、右手に持っているのが対ヒーロー装備の『ショックバトン』です。
振れますか? 」
俺は片手で『ショックバトン』をぶんぶんと振り回して見せる。
重いが振り回せないほどではない。
「あ、ボタンはヒーローにぶつけた瞬間に押して下さいね。今は押さないように!」
「イッ? 〈何故? 〉」
「MPが一撃10点持っていかれます」
「イイッ!? イーッイーッ…… 〈はあ!? 効率悪いな、これ…… 〉」
「ふふっ、最初はそう感じるのも仕方ないかもしれませんね。
まあ、まずは様子見だと思って、おもいきって死んできて下さい」
レオナはそう言って、笑う。屈託のない笑みだ。
言ってる意味は分からないが、可愛らしいじゃないか。
「イーッ! イイーッ! イーッ! 〈いや、始めたばかりで何も分からんのだが! 〉」
「まあ、習うより、慣れろ!そんな感じで……っと、では、いってらっしゃい!」
レオナがウィンドウにあるであろうボタンをタップすると俺の身体は他の戦闘員たちがそうだったように、巨大な虹色に輝く石、これポータルとか転位石みたいなもんなのか?───それに吸い込まれてしまうのだった。