197 side︰ミルク
本日、二話目です。
今日はここまでで!
とてもドキドキする。
客観的に考えて、私という人間は何かに依存しないと自我が保てないタイプだ。
最初はファッション。
ゴシック&ロリータ。いわゆるゴスロリ。
入口はファッションだったが、ゴスロリはその精神性にこそ真髄がある。
荘厳で優雅で朽ちて消え行く儚いものを尊び、永遠を求める心、そこにカワイイのエッセンスを足すことで、私の中のゴスロリは完成した。
儚いものにこそ、永遠を……。
切り花の腐り落ちて行く様を眺めながら永遠を願う。
その矛盾したテーマこそ、ゴスロリの根源なのだと思っている。
ただ、ゴスロリはファッション的にお金が掛かる。
さらに言えば、未だにサブカルチャーという扱いで、他者からの共感を得にくい。
まあ、その疎外感もまたゴスロリというテーマに欠かせないものではあるが、それと他人の好奇な目線とは相容れないものでもある。
まだ、自分でまともに稼げなかった時、『リアじゅー』に私は出会った。
完全なリアルと見紛うほどの再現性、雑誌の懸賞で当たったVR機器。
四六時中、好きなファッションに身を包めなかった私は、VRにそれを求めた。
宇宙服を着て、星々を巡る冒険なんてものに用はなかったし、魔法世界というファンタジックなものに惹かれて、『りばりば』を選んだ。
最初は幻滅した。
黒の目出し帽に黒の全身タイツなんて、冗談じゃなかった。
でも、ゲーム内通貨を貯めるために我慢した。
そうして、人間アバターを買い、『シティエリア』に買い物に出掛け、私は有頂天になった。
あのブランドもこのブランドも完全再現されているだけでなく、自分でデザインしたドレスを作ることすら可能だなんて、最高だった。
そうして、私は自分の好きなファッションに身を包み、どこにでも出掛けた。
あれは、第一フィールドの砦を背景に写真を撮っていた時だった。
PKされたのだ。
しかも、私のファッションをバカにされながら。
相手はレベルが30も上で、私は嬲りもののようにPKされた。
バカな私は、何度も何度も殺されては、復活と同時に第一フィールドに出掛けて、PKを探し、敵を見つけては返り討ちにされた。
私はファッションを揃えることこそが第一目標で、それが全てだったから、レベル差がどれくらい厳しいもので、スキルの有無がどれくらいの差を生むのか分かっていなかった。
打ちひしがれて泣いた。
アイテムを全て取り上げられて、散々に罵倒されて、なによりファッションをバカにされたのが許せなくて泣いた。
そんな時に、私に声を掛けたのがムックだった。
ムックは私の話を聞いて、すぐに出掛けて、私がドロップした大半のものを取り返して来てくれた。
アイテムの中にはPKのものも含まれていたけれど、それで気分が晴れることはなかった。
復讐してやりたかった。
そうしたら、ムックは私に遊び方を教えるといって、戦い方を教えてくれた。
それから復讐の仕方も。
相手の身体に発信機を埋め込んで、相手の動きを観察する。
何曜日の何時くらいが主な活動時間なのか、どれくらいの周期でどのフィールドに出没するのか、『シティエリア』に遊びに出るのはどういう時か。
発信機から分かる情報はたくさんあった。
そうして、ムックたちPKKと遊ぶようになって、私はそれに依存した。
私をバカにしたPKを全フィールド、『シティエリア』の全区画でPKKした頃、そのPKはゲームにログインしなくなった。
でも、その頃には他の遊び相手が見つかっていて、みんなで別のPKを追った。
そうして私はPKKという遊び方にのめり込んでいった。
ムックはいつも優しい顔をしていたけれど、心の奥底にドロドロした物を抱えていた。
私もそうだった。
そんなムックが心からの笑顔を見せてくれた時がある。
それが、グレン様と遊んだ後だ。
最初はムックの話を聞いていた。
面白いおじさんがいると言っていた。
リアル設定でPKされたおじさん。
みんなが同情した。
有名なPKが相手だった。私たちに狙われるとゲームから離れるものの、数日経つと復帰してくる諦めの悪いPKだった。
おじさんの敵討ちをみんなでやった。
有名なPKだから、行動は把握済み。
『シティエリア』で人混みに紛れて、ナイフで刺したし、フィールドでは何種類もの方法でPKKした。
おじさんは許さないと言いながら、何もしなかった。
代わりにムックを遊びに誘った。
私たちの言う遊びじゃなくて、普通の攻略だ。
段々とムックから聞く話におじさんが良く出てくるようになっていった。
特別なことをしている訳じゃない。
ただムックの中のドロドロが次第に溶けていってるのが、見ていて良く分かった。
懐いているとでも言おうか。
別に私たちと遊ばなくなったとかそういう話じゃない。
ただ、心からの笑顔を私たちにも見せてくれるようになっただけだ。
私たちはすっかりおじさんの話に魅了されていった。
普通なら恨んで当たり前のようなリアル設定での辛さを自分の物にして、運の悪さにめげることなく、スキルを使いこなして成長していくおじさん。
ムックの話を聞けば聞くほど、おじさんに興味が湧いて、つい私は動画を探したりした。
おじさんだった。動きは遅い、力も無い、運も無い、おじさん。
そんなおじさんが、ヒーロー相手に必死に食らいついている。
変なスキルがいっぱいあって、怪人じゃないのに、怪人みたいな存在感がある。
なんだか必死なおじさんが可愛いと思った。
何度も見返していると、尊くなってくる。
リスキーなスキルをリアル設定で使う様は、儚くて、尊い。
観れば観るほど、私の中の何かが膨れ上がる。
つい、総合に肩パッドスレを作ってしまった。
賛同者もいれば、否定者も多い。
否定者がとても多くなって、私の好きなゴスロリを否定されている頃に戻りそうになったけど、だからこそ、惹かれた。
ムックの伝手でフレンドになって、普段のおじさんを観察する。
農家の人だ。戦闘時とのギャップがまた尊い。
coinさんやナナミさんは一緒に遊んだことがあって、羨ましい。
たまに談笑している姿を見掛ける。
私は挨拶を交わす程度だ。
たまに話しかけて下さることもあるけれど、尊すぎて頭に血が昇って、まともに返事をした記憶がない。
でも、見守らせて頂けるだけで満足だった。
少しずつ賛同者が増えてくる。
肩パッド様の尊さを理解する同志を集めて、鍵付きのホームページまで作ってしまった。
お言葉を理解したくて、『言語』スキルをカンストした。
ラグナロクイベント中、グレン様の変身を観て、ちょっと鼻血が出そうになった。
賛同者たちから教祖様と呼ばれるようになっていた。
儚きモノを永遠に……。
グレン様はそんなテーマの体現者なのだ。
今日、私はムックたちにお願いして、グレン様と行動を共にする。
冷静に……冷静に……。
グレン様をお守りしつつ、お邪魔にならないようにしなければ。
そして、この貴重な経験を賛同者たちに分け与えられるよう、キッチリと記憶に焼き付けなくては……。
✣彼は大量のジャガーマンに囲まれた、その時、紫電一閃、群れを引きつけるように一人、我らから離れた。
仲間のために……✣
✣彼はその尊き行いの最中でも、不敵に嗤っていた。
それは仲間を信じているからできる行動だったのだ✣
✣我らは荒廃せし黄金の荒野の最奥へと踏み込んだ。
クリスタルとアメジストの煌めき、奇怪な歪さを持ちつつもどこか整然と並ぶ鍾乳石、襲い来るゴーレムと闇の番人どもを蹴散らしながら、財宝を求めて進む。
鍾乳洞の奥深く、眠れる翼ある蛇の目覚めを恐れながらも、その踏み出す足に迷いはない。
求める黄金は蛇の先、永遠を儚きモノに変じた先にあるのだから……✣
 




