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今日は二話投稿の予定。
こちらは一話目。
「人間アバター、全身ひと揃えで5万から10万マジカくらいシザ! 」
「イーッ? 〈なんでそんなに差があるんだ? 〉」
「美容整形みたいなものシザ」
「現実ではできない髪型、髪色、体型を弄ったり、コンプレックスがある部分を治したりなんて人も多いですよ」
「あとはタトゥを入れたり、若返りみたいなことをする人もいますね」
「イーッ! 〈コンプレックスね…… 〉」
言われて、ついレオナを見てしまう。
「ちょ、何をジロジロ見てるんですかね、グレンさん……前も言いましたけど、私は純度98%ですからね」
そう言って、冗談じゃありません、とでも言うかのようにレオナは舌を出した。
なかなか茶目っ気がある。
アバターの年齢を信じるなら24、5歳だろうか。
ミディアムな茶髪に最低限の化粧、眼鏡の縁の色は毎回変わっているから、こだわりがあるのだろう。
普通にすれ違ったら、二度見したくなる美人な顔立ちをしている。
体型はスレンダーで、そのぶん胸にもあまり脂肪は回っていなさそうだが、それはそれだ。
見た目で言えば、才女なんだが、たまに見せる茶目っ気が、ギャップといえばギャップか。
「イーッ! 〈2%がどこか分からんな〉」
「教えませんよ! 」
「レオナは顎脇にあったエロ黒子を消したシザ! 」
「ちょっと、煮込みさん! なんで言っちゃうんですか!? 」
「イーッ…… 〈それは……エロいな…… 〉」
「だから、消したんですっ」
「リアルでナンパがヤバいって言ってたシザ! 」
何故か煮込みがドヤ顔で言った。
「もう……ほら、着きましたよ! 早く行ってきて下さい! 」
そう言いながら俺の背中を押すレオナは耳まで真っ赤になっていた。
あまりそういう話に免疫がないのかもしれない。今後は気をつけよう。
そう考えて入店する。
透明なシールドがついた楕円形のカプセルが並んでいる。
カプセル内部は液体が満たされているようで、水泡が浮かんでいる。
簡易シャワーみたいにも見えるな。
シールドが黒くなっているのは使用中らしいな。
入口脇にドールが座っている。
受付なのだろう。
簡単にドールの説明を受けて、空いているカプセルの前に立つ。
ボタン式の自動開閉シールドに触れると、カプセル内の液体が一気に排水されて、シールドが開く。
おお、ギュルギュルと回転しながら消えていく液体はなんだか浪漫溢れる心をくすぐる。
中に入ると自動でシールドが閉じて、その裏側に黒いフィルターが掛かる。
カプセル内は真っ暗だ。
そして正面には俺が立っていた。
その俺と俺の間には画面が現れる。
ふむ、純度100%で何も弄らないと5万マジカ。
何かを弄る度に金額が増減するらしい。
まあ、このままでもいいか。背伸びしたところで得られるのは自己満足でしかない。
現実に戻って、カッコよく作った自分とのギャップに自己嫌悪するのも想像つくしな。
それに、最初の時点での注意点にあったように、あまり現実とゲームが乖離していると、動きに支障が出るしな。
俺はそのまま決定ボタンを押して、出ようとすると、画面に『注意』と出る。
服を選んで下さいと書かれていた。
おお、真っ裸かよ。
白のワイシャツと黒のスラックスでいいだろ。
他にもTシャツ、ポロシャツ、ジーンズ、ハーフパンツなどあったが、自分の中では一番無難だと思う。
これにオシャレ要素でサングラスがあったので、これも装着。
服関係は占めて8マジカ。
これで約25万マジカが丸々残っている。
俺はアバター屋のドールに礼を言って、店を出た。
皆とは『食堂部』中央広場、ラーメン屋前で待ち合わせしているので、そちらへと向かう。
「イーッ? 〈レオナ、待たせたか? 〉」
「おかえりシザ! 」
「随分と早いですね? 焦らせてしまいましたか? 」
レオナと一緒にいるのは、トランジスタグラマーな肢体をオーバーオールに包み、赤毛を三つ編みにした少女と、グレーのパーカーに緑色のTシャツ、ブラックジーンズというラフな格好が、どこの少女漫画から抜け出して来たと言いたくなる金髪のイケメンだった。
「イーッ? 〈お前ら誰だよ? 〉」
つい、ツッコミを入れたくなるのも仕方がない。
煮込みは体型は別として、中学生にしか見えないし、ムックは服装を替えたら王子様だ。
「ふっふっふっ、私が想像より可愛くて、照れ隠ししてるシザ…… 」
「イーッ! 〈いや、中学生だろ、煮込み! 〉」
「違うシザ! 二十歳越えてるシザ! 」
「僕はどうですか? 」
「イーッ! 〈ムックはイケメンだろうと予想はしていたが、正直、予想以上だな〉」
「え……あ、ありがとうございます…… 」
やめろ、頬を染めないでくれ。
新しい扉とか、この歳になって開くつもりはない。
「それにしても、グレンは随分とダンディなアバターにしたシザね」
「ふふっ、そうですね。でも、よくお似合いですよ! 」
レオナは素直に褒めてくれるんだが、そう言われると純度100%とは逆に言いづらいな。
俺は適当に礼を言って流しておく。
「さてさて、それでは、シティエリアにごあんなーいシザ! 」
俺たちは『大部屋』へと移動する。
そこにいるドールに頼んで、1万マジカ分を100万ゴールドに両替しておく。
道すがらシティエリアの説明を受けたことによると、シティエリアは『住宅街』『繁華街』『行政区』『港湾区』『経済区』『遊興区』『郊外』『鉱山』と八つのエリアからなっているらしい。
「シティエリア内でヒーローレギオンのプレイヤーと出会っても、普通にしてれば大丈夫です。
それとシティエリア内では知り合いでも頭上のネームは出ませんから気をつけて下さい」
それはシティエリア内で身バレはヤバいって意味だ。
そんな説明を聞いてから、俺たちは巨大な虹色の復活石、ポータルに触れたのだった。




