185 side︰ロミオ
多少、猟奇的な表現があります。
ご覧になる時は、ご注意ください。
次話、前書きにて超あらすじを入れときます!
じいじと一緒に敵の基地に乗りこんだ。
敵はほとんどがNPCドールだった。
みんなNPCドールと戦うのは気が進まないって言ってたけど、じいじとぼくは違う。
あれはこの前、ぼくたちが『青のかいろう』を完全制圧した時だ。
「ロミオ、見てごらん……」
じいじがぼくに空を飛んでいるフォーリン・ジェットを指さした。
「あのおじさんがなんでNPCドールばかり狙っているか分かるかい?」
「えっと……羽が黒くて悪モンだから?」
「違うよ。ロミオは悪ものだったか?」
ぼくは首を横にふる。
「ううん、善いモンだよ! えっと……信じる正義がちがうから、どっちも善いモン。
でも、ほかのみんなはNPCドールは生き返れないから、それをやっつけるのはかわいそうだって。弱い者いじめは悪モンでしょ」
「ああ、NPCドールは生き返れない。
私たちは『りばりば』のNPCドールに死んで欲しくないから戦ってる」
「うん、キーサン好きだよ。肉じゃがおいしい!
だから、キーサンを守るんだ!」
「そうだな。これは戦争なんだ。
もし、私たちが負けたら、キーサンや他のNPCドールも死んでしまう。
でも、私たちが勝ったら、相手のNPCドールは全員、死ぬんだ」
「そっか。どっちにしろ死ぬから……」
「違うよ。ロミオ。そういうことじゃない。
ロミオは知らないNPCドールだったら殺しても平気か?」
「うーん……ちょっとかわいそう……」
「そうだろうな。じいじもそう思う。
じゃあ、NPCドールが可哀想だからと、みなが敵のNPCドールに手を出さなかったら、私たちはどうなる?」
「え、そんなの負けちゃうよ!
勝負で手を抜くのは悪いことって、この前の通信授業でも言ってたよ」
「そうだな。敵のNPCドールをやっつけたら、じいじも他のみんなも、悪いことをした気持ちになる。
でも、誰かがやらなきゃいけないことだ。
分かるかい?」
「だから、フォールン・ジェットは進んでNPCドールをやっつけるの?
みんなが嫌がるから?」
「どうだろうね。
でも、じいじは闇の堕天使様は綺麗だと思うよ……」
「うん。ぼくも……」
キレイでいたい。そう思ったから、敵がNPCドールでも戦うんだ。
「突っ込め! 狙いはボスだ!」「隔壁を開けろ! ハンドルを見つけろ!」「くそ! プレイヤーだろ!」
みんなが嫌がることを避けるから、ぼくとじいじでNPCドールをやっつける。
ロボットみたいな見た目だけど、気持ちを感じる。
怯えてたり、怒ってたり、泣いてるみたいだったり、笑ってるのもいる。
泣きじゃくって斧を振り回しているNPCドールが、ぼくに向かってきた。
いじめられっ子の逆襲みたいで、むちゃくちゃだけど、そのむちゃくちゃぶりが他の戦闘員を傷つける。
じいじが前に出た。
「私が止める!」
じいじがNPCドールの斧を止める。
「じいじ、頑張って!」
「任せろ!」
ぼくは走って、じいじが止めてるNPCドールの背中を『ショックバトン』で叩いた。
身体からMPが流れ出るのが分かる。
バチバチ、と音がして、NPCドールがぼくを見た。
顔に表示は何も出なかったけど、驚いてるのは分かる。
「ごめんね……」
ぼくは『ショックバトン』をふり抜いた。
NPCドールの腰にハンドルがついていた。
「ハンドル見つけたー!」
「孫! こっちだ!」
じいじのフレンドが手を出すから、ぼくはハンドルを取って投げた。
ぼくたちは進む。
「ロッカールームだ!」「壊せ! 俺のロッカーの仇だ!」「数が多い!」
「装備部どこだ!」「それよりボス部屋は?」「どうせ大した装備は作れねぇ、無視しろ!」
「こっち、通路があるぞ!」「集まれ!」「プレイヤーだ! 注意しろ!」「人数少ねぇぞ!」「よし、突っ込め!」
十人くらいの『マギスター』戦闘員がライフルを構えている。
「斉射!」
キュン、キュン、と空気を震わせるような音がして、先頭の味方が倒れる。
敵の中から、一人の『マギスター』戦闘員が前に出てきた。
「おめでとう。俺たちを越えれば、俺たちの司令長官まで一直線だぞ。
この俺を越えればな……。
へん、しん……」
「ヒーローだ!」「気合い入れろよ!」「リズム取れよ……」
『マギスター』戦闘員が光に包まれる。
「標本人形?」
そのヒーローはなんていうか、保健体育で見せられた標本人形みたいだった。
人間の皮の下はこうなってるとか先生が言ってた気がする。
筋肉のすじだっけ?
「マギフレッシュ、再誕……。
命の儚さ、命の尊さ、命の意味を教えてやろう。
お前たちの命でな」
「うぇ……気持ち悪ぃ……」「グロ……」「見たことねぇぞ、こんなやつ……」
筋肉が縮んで、伸びた。
そう思ったら、『マギフレッシュ』は両手に『りばりば』戦闘員を捕まえていた。
戦闘員が暴れる。
でも、顔を掴まれて持ち上げられ、上手く力が入らないみたいだった。
「【肉の剣】、【肉の盾】……」
「痛っ……」「なん、がああ……」
持ち上げられた戦闘員が、ボキッ、グシャ、グチュ、ゴキゴキッ、ってピンク色の剣と盾になった。
「さて、俺の鎧はどこだ?」
「あ……」「はっ……」「いやいや……」
『マギフレッシュ』が剣の感じを確かめるように手首でくるりと回す。
すると剣から「痛いっ! 痛いっ! 痛いっ!」と声が出た。
『マギフレッシュ』の顔の筋肉がぐにゃりと歪む。
「笑った……」「なんだよ、それ……」「きもっ……」
「俺の鎧は、どこだ?」
『マギフレッシュ』が剣をふるう。
「やめ……いぎぃぃぃっ!」
「がふっ……」
剣が叫んで、戦闘員が斬られた。
「ふ、ふざけんなっ!」
戦闘員が『ショックバトン』をふるう。
「があぁぁぁぁっ!」
盾が絶叫した。
「ん? これは俺の盾じゃなくなった。
お前が鎧だったか? 【人の鎧】」
盾から声がしなくなって、『マギフレッシュ』が盾を捨てると、攻撃してきた戦闘員を掴んで自分の胸に当てる。
「あ、や、やめ……」
ゴキ、ボキッ、グチュグチュ……。
「胸当てだけか……次を探さないと……」
「ロミオ……逃げるぞ……」
「えっ? じいじ?」
ぼくはじいじに手を引かれて、走り出した。
「た、戦わなくちゃ! じいじっ!」
「ダメだ! アイツは怪物だ! いいか、卑怯でもなんでもいい。逃げるんだ!」
「じいじっ! じいじっ!」
ぼくは背中にみんなの叫び声を聞いた。
痛さと悲しさと辛さが聞こえる。
急に、ゾワッと背中が冷たくなった。
「なんだ、俺の鎧がこんなところにあったか……」
振り向くと『マギフレッシュ』と目が合った。
ぼくは……その瞳に見つめられた途端、足がもつれた。
「ロミオっ!」
じいじがぼくを抱き上げた。少し走って、じいじが止まった。
ぼくは放り出された。ちょっと痛かった。
「投げないで……」
たまに、じいじはぼくの扱いが雑になる。
男の子は自分だけで立ち上がるすべを身につけなきゃならんからなって言われる。
いつもなら。
でも、今回は投げたくて投げたわけじゃなかった。
じいじは後ろから頭を掴まれてた。
「ロミオ……逃げろ……」
「これが左肩で、そっちが右肩? いや、逆かな?」
じいじが小さく畳まれる。肉の固まりになっていく。
じいじは叫ばないように、んっ……んっ……って喉を鳴らして、ぼくに目で訴えていた。
だから、ぼくは叫んで逃げた。
「きゃああああああああああああああああっ!」
「孫、そのまま走れ!」「じじい、返せやこら!」「サイコすぎんだよ、このクソが!」
「あぎゃああ!」「あが、いだだだだ……」「逃げろ、孫! ぐひゅっ……」
振り返れない。こわくて、ぼくは逃げた。
「俺の鎧、待ってよ! ちゃんと大事にするからさ!」
じいじ、ごめんなさい。じいじ、ごめんなさい。じいじ、ごめんなさい……。
風が当たると身体がずきずきする。
歩く振動が太い針を刺されたみたいに痛い。
ぼくは左肩当てになっていた。
他の戦闘員の『ショックブレード』が『マギフレッシュ』に当たった。
右手甲になった戦闘員が叫んだ。
「殺してくれ!」
「頼む、俺を!」「いや、俺を殺せ!」「耐えられねえよ!」
「はぁ……俺のスキルってラグナロクでもないと役立たずだからよ……活躍させてくれよ……」
『マギフレッシュ』がぼやく。
ぼくは、それよりもなんとか他の戦闘員の攻撃がぼくに当たって、この時間が早く終わるように祈った。
孫、左肩パッドになる。
変身が解かれれば、死亡して普通に復活になります。
ログアウトも可能です。ラグナロク中だと、なんでログアウトしたか分からず同じ部位に帰ってきてしまうので、絶望感二倍です。
マギフレッシュくんは、フレッシュゴーレムという人間の肉や骨を集めて作ったゴーレムを中心に変身しております。




