179〈みたびの……〉
レオナは避けなかった。
それよりも、全体への指示を優先させた。
レオナ︰全部隊員へ。各員、持ち場を死守するように!
死亡時、復活場所に敵がいても構いません。
持ち場に戻って、持ち場を守ることを考えて下さい!
『マギブロンズ』の【岩石砲】が迫る中、自身の持ち場が全体への指示出しだと心得た上での全体チャットだった。
代わりに動いたのは幹部の糸だ。
「レオナさん! 頼む、地精霊の山岡くん! 【土壁の術】!」
それは巨人の手だ。手のひらを広げて、【岩石砲】を包むような仕草の巨人の手が生まれる。土塊でできた芸術作品。
「題して『後出しの勝利』」
パーだった。だが、あいこだ。
【岩石砲】は止めたが、巨人の手は崩れてしまった。
黒部隊は死に戻り推奨。
復活地点が『大部屋』以外に設定されているのが黒部隊だ。
隔壁が閉じた今、各部隊に割り振られた黒部隊員たちは覚悟の自殺を決行しているはずだ。
俺もそうするべきかもしれない
ただ、なにもせずに死に戻りをするのはどうだろう……死を前提にした時、俺のスキルは最も輝く。残念ながら。
少しだけでも、NPCドールを生かす。
俺たちの基地でヒーロー共に好き勝手はやらせない!
そう決めて、俺は『大部屋』に残るヒーローたちに視線を送った。
再生ヒーローの『マギブロンズ』、『マギアイアン』と、純正ヒーロー『マギクリスタ』。
ヒーローは脅威だ。
たった三人で、その内二人は再生ヒーローだというのに、戦闘員が束になっても敵わない。
三人というのがネックだ。
一人が『りばりば』名物になりつつあるリズム打ち〈リズムに合わせて、順番に叩くことで相手の動きを封じる戦闘員のリアルスキル〉で止まっても、他の二人のどちらかがフォローを入れることで、ヒーロー相手の技を成立させないようにしている。
二人でもマズイ。
俺は『マッハマーズ』と『マギアイアン』の二人が『アンブレミンゴ』相手にたった二人で全ての戦闘員と怪人を倒す姿を見ている。
二人でも慎重に戦われたら勝てないのに、三人になったらもっと勝てない未来が待っている。
「【神の血】! おっと、そんな簡単にカカトを狙わせるか!」
さすがに『マギブロンズ』も警戒しているか。
だが人数がこれだけいるなら、やりようはある。
俺は【熊突進】の吹き飛ばしでヒーローたちを分断。
『マギブロンズ』を【正拳頭突き】で『行動不能』に追い込んで、【神喰らい】で食い殺してから、『マギアイアン』を見た。
リズム打ちだ。
なら、『マギクリスタ』を止めよう。
俺は片腕を代償に『マギクリスタ』を永久の氷棺に閉じ込めてから、その身を堪能。『マギアイアン』に【血涙弾】を三度浴びせて、スーっと冷たくなる身体に意識を委ねた。
冷たい。
冷たい、冷たい、冷たい、冷たい、冷たい、冷たい、冷たい、冷たい、冷たい……。
身体が動かない。ここは冷たい。そう、父から見放された時から、俺は温もりを失い。熱を失くした。
簡単に言えば、裏切ったのは父だ。
騙して、俺から全てを奪った。
身体は動かせない。身動きを封じられているから。
なんのことはない。俺がいる場所、ここが地獄だからだ。動けなくて、忌み嫌われて、ただ永遠の氷の世界。
生まれた瞬間、俺には熱があった。輝きがあった。だが、今はもうない。
冷たい永遠の牢獄。
リュングドヴィ? コキュートス?
呼び名はどうでもいい。ここは俺にとっての地獄だ。
神の子を唆した? 挑発したのは向こうだ。
神の子であることに胡座をかいて、俺を蔑んだ。
俺たちの知らない魔術を知っている。
俺たちには必要ないものだ。火が欲しいなら自分の中の熱をひと欠片、そこらの木に移せばいい。それができないから、魔術としてもらったくせに、驕り高ぶるから、ギャフンと言わせた。
それが永遠の罪か?
違うな。恐れただけだ。
主座を奪われることを。殺しうる存在を。
小さな炎が俺の中に灯る。冷たい、冷たい炎。俺の魂を焦がし続ける冷たい炎。
暗闇の中の揺らめく影。いつか来る……。
アレとアレの共通点。
だからこそ、混ざったとも言えます。
 




