163〈はじめてのラグナロク〉
本日、三話目!
ラグナロクイベントルールは後書きに簡単版があります。
めんどくさい人はそちらを見てね!
ログアウト後、静乃からはもう大丈夫だと言われているが、いちおう部長に電話をする。
なかなかに説明が難しく、拗れそうになったりもしたが、なんとか確認してもらえることになった。
俺は今日のレポートを書きながら、時間を潰す。
いつもよりプレイ時間は短いが濃い時間だったからな。
書くことはたくさんある。
一時間後、部長から着信があった。
「すまない……途中で取り止めたらしいが本当に出品していた。
もし売れていたら、俺の首が飛んでいるところだ。申し訳ない……」
まあ、問題はクリアになったようなので、これ以上、事を荒立てる必要もないとそれ以上、責めたりはしなかった。
気持ち的には、普段なら絶対に謝らない部長が俺に謝罪しつつ、息子の不出来を恥じ入るまで言ったことで、満足だった。
人間、たったひと言の心からの謝罪で、許せてしまうこともある。
ちょろいかな、俺?
まあ、いい。電話を終わらせて、静乃にレポートを送る。もちろん、部長との顛末も追記して今度、また天然野菜を持っていくと礼を書いておく。
───どっか連れてって! あ、グリムランド! グリムランドがいい!───
───グリムランドってVRじゃねーか。
本当にそれでいいのか?───
───うん、ちゃんとエスコートしてね!───
エスコートか……つまりは接待だな。
───了解。お客様のご満足いく時間を提供させていただきます───
───うんうん、よろしく頼むよ、キミィ───
───それで、それとは別に相談なんだが……なんで俺の変身は変わらないのか分かるか?───
───うーん……なんだろうねぇ? まあ、人間系ガチャ魂なんかだと顔が仮面で、あとはほぼそのままとかあるから、そういうやつじゃないかな?───
───俺の場合、顔すら変わらないんだが……───
───自前で変えられるからシステムが不要って判断したんじゃない?───
───お、おう……───
───ほら、リアじゅーはただでさえ重いから、グレちゃんの顔程度にリソース割く手間を省いたとか?w───
───悪かったな、その程度の顔で!───
───わははw 不精髭は剃りなよ───
───普段は剃ってるよ。忙しい時だけだ。
しかも、戦闘員なら目出し帽だから髭関係ないだろ───
───真面目な話、そのコア︰ウイングって、初めからそういう仕様なんじゃないかな?───
───怪人なのに?───
───そもそも、倍率十倍がイレギュラーだからね。普通の怪人は五倍から八倍。オーパーツコアとかガチャで出るコアなら九倍までは確認されてるけど、十倍はヒーローの中でもマギミスリル、マギハルコン、ホワイトセレネーとあと数人しか確認されてないから───
───そうなのか……───
───だから、サクヤさんが言ってた宝物庫クラスの逸品説が濃厚。レギオンボスってそれぞれにキャラクターが設定されていて、考察の人たちに言わせると、世界が分かたれる前の主要人物なんじゃないかって話があるのよ。だから、たまに変なボスが異常なアイテムくれたとかそういう話があったりするよ───
───なんだよ変なボスとか異常なアイテムとかってのは?───
───火炎浄土のお地蔵さんがバルトにあげたのが『魔剣グラム』って話───
───火炎浄土のボスってお地蔵さんなのか……───
一撃800点ダメージはたしかに異常ではある。
ボスの見た目がお地蔵さんというのも、変といえば変な話だ。
それでお地蔵さんは世界が分かたれる前の世界の主要人物?
まあ、どこかの王様だったとか、地蔵菩薩は閻魔大王なんて話もあるしな。
『火炎浄土』らしいと言えば、らしいのか。
ただ、お地蔵さんと『魔剣グラム』の関係はよく分からないが、その辺りが異常なアイテムってことか。
───だから、グレちゃんのコアもそういう類のものかなって。あ、あと『グレイプニル』もね───
───あ、そうか。『グレイプニル』もボスの肝いりで渡されたんだったか……───
───まあ、考察班に投げたら色々と考えてくれそうだけど、今はまだ秘密がいいと思うよ。
スキル内容がバレると弱点探られたりするから───
それはそうだな。
───じゃあ、結果的に何故俺の変身が、変身じゃないのかは分からないままか───
───でも、敵は油断してくれそうだよね!───
───見た目ほぼ変わらないしな……───
───能力値だけ十倍w せっかくのカッコイイ名乗りも相手には聞こえないしね。良いよね、フォールン・ジェット!───
───おっさんはついていけてないぞ……───
───なんでよ? カッコイイのに───
───厨二臭い───
───だが、それがいい!───
名乗ると思うと、俺は微妙に身体が震えるんだがな……。むず痒いというか、気恥しいというか……。
それから少し雑談をして、俺は寝た。
翌日は部長の謝罪から始まった。他の営業が会社を出たあと、こっそりとだが、まあ、部長にも体面があるからな。
天然小麦のクッキーを菓子折りとしてもらったから許したわけではないことは記しておく。
ゲーム内では、俺の『プライベート空間』で空を飛ぶ練習を重ねている。
変身前の【飛翔】はゆっくりなので、そこまで苦労はないが、変身後は十倍のスピードで動くのでまだ慣れない。
これはちゃんと使えるまで、しっかりと練習を積む予定だ。
火曜、水曜、木曜と日が過ぎる。今週末は従妹も退院だ。リハビリはまだ必要らしいが、これでようやくちゃんとゲームができると喜んでいた。
いや、学校行けよ。
運命の日は金曜日だった。
つまり、決戦は金曜日……。
俺はいつものようにログインして、畑をいじり、飛ぶ練習を重ねる。
フレンドたちも慣れて来たのか、俺が上空に居ても驚かれなくなった。
脳内アナウンスが響く。
───『マギスター』から宣戦布告。ラグナロクイベントを開催いたします───
「グレン、大部屋行くミザ!」
時間は現実時間で夜七時半。
俺たちは連れ立って『大部屋』へと向かった。
『大部屋』の中は人でごった返していた。
大画面には『ラグナロクイベント』の概要が書かれている。
・『ラグナロクイベント概要』
ラグナロクイベントは魔法文明と科学文明、ふたつの世界のレギオン生命を掛けたレギオン間最終イベントです。
このイベントはどちらかのレギオンボスが倒されるまで平日夜八時~十時、土日祝昼二時~四時、夜八時~十時の間行われます。
イベント詳細はラグナロク中、いつでも自身のイベント詳細欄から確認できます。
この時間はポータル使用が制限されます。
また、開戦初日以外、時間になると自動的にレギオン員は基地へと転送されます。
・ラグナロクイベントルール
該当レギオンは異次元回廊というものをレギオンレベルの消費に伴い繋げることができます。これは該当レギオン同士を繋げる特殊なバトルフィールドとして扱います。基本ルールは『遺跡発掘調査』『宙域発掘調査』に準拠します。
プレイヤーのアイテムドロップはありません。
死亡時はデスペナ五分、復活は各レギオン防衛設定位置からとなります。
また、敵基地内での戦闘は『シティエリア』ルールに準拠します。『発掘調査』専用武器は使用できません。
アイテムドロップは高確率となります。
死亡時はデスペナ五分、復活は各レギオン防衛設定位置からとなります。
味方基地内ではアイテムドロップはありません。
全NPCドールが戦闘に参加します。死亡したNPCドールに復活はありません。
戦争勝利レギオンは各回廊に防衛用オブジェクトを設置できます。
回廊を完全制圧した場合、次のラグナロクイベント開始時に十五分の猶予が与えられます。
ルールを眺める。回廊の陣取り合戦が基本になりそうだ。
ただし、完全制圧された場合、次の時には基地の防衛が必要になってくるらしい。
肝心のルールが書いてないが、わざとだろうか?
わざとだろうな。
俺が『ラグナロクチート』を食らった時は、復活位置の固定と感覚設定の変更があったはずだ。
ラグナロク中のイベント詳細辺りが怪しい。
レオナが壇上に立った。
「傾聴!」
暫くして、騒ぎがやんだ。
「只今、科学文明レギオン『マギスター』が我々との条約破棄、並びにラグナロクイベントの宣戦布告を申し入れて来ました。
ラグナロクイベントは過去、ベータ版最終イベントとして『ブラッククロニクル』『マギスター』のレギオン間で一度だけ行われた、どちらかしか生き残れないイベントです。
また、その全容は誰にも明かされなかった、未知のイベントでもあります。
我々、リヴァース・リバース幹部会は辛い決断をしなければなりませんでした。
自由を標榜するレギオンとして、どこまで皆さんに命令するのか、です。
ことはレギオン存亡を掛けた一大決戦ではあります。
ですが、中には戦いたくなくてこのレギオンに入って来た人もいるでしょう……。
お孫さんと遊ぶために籍を置いている方、VRでのお買い物やレジャーを求めて来ている方、そういう方たちにまで戦えと命令することは、レギオンの理念に反することになります。
大画面に出ていることから分かるようにラグナロクイベント時間は必ず戦闘に参加することになります。
ですから、先に言っておきます。
戦闘をしたくない、戦闘ができないという人は、この時間帯のログインをしないで下さい。
ラグナロクイベントが終わり次第、掲示板やりばりばのホームページ、もしくは公式のホームページで告知が上がります。
それまではこの時間帯のログインをお控えくださいますようお願いします。
ただ、願わくば、このリヴァース・リバースの存続に一人でも多くのレギオン員が参加いただけることを!
何卒、よろしくお願いいたします……」
「じじいでもやるぞ!」「僕もやるー!」「終わったら、レオナっちと買い物行くぞー!」「いーっ!」
あちらこちらで気炎が上がる。
「これより、レギオンボス、大首領様からの演説がありまーす! 大画面をご覧くださーい!」
普段は食堂部をまとめている……ええと、名古屋か。名古屋が声を張り上げる。
大画面は切り替わって、俺も行かせてもらった謁見の間が映し出される。
「大首領である」
「お、大首領たんだ!」「来るか、メタ発言」「どっから声出してんだろうね?」
「レオナが言うべきことは全て伝えたようなので、我からはひとつだけ。
このラグナロクイベントの勝利条件は、我が倒れることなく、敵、マギスターのボスを倒すこと、それだけだ。
我はこのレギオンが愛おしい。NPCドールだけでなく、プレイヤーの皆を我が子のように思う。
誰にも傷付いて欲しくはない。
だが、このレギオンも無くしたくはない。
矛盾した願いなのは分かっている。
だが、辛い時は思い出して欲しい。
このレギオンにある思い出たちを!
出会った人々を!
それだけだ。
……メタ発言を期待していた者はすまぬ。
イベント終わりにまた、皆と会えることを!」
唐突に画面が暗転。別画面が映し出される。
「幹部会の糸です。今から防衛設備の説明をします。
画面をご覧下さい」
「え、大首領たん、終わり?」「メタ発言自覚発言がメタ発言だよな」「結構良い事言ってたはずなのに、全部吹っ飛んだわ」「またメタ発言を聞くために頑張れってことだろ?」「お前、今、良いこと言った!」
「お静かにお願いします……もう時間がありません……」
糸は静かに言った。思いの外、真面目な口調で、シンと辺りが静まり返った。
「回廊は今のところこちらから繋ぐ予定はありません。防衛設備を存分に利用して完全制圧されないことを念頭に置いておいて下さい。
まず……」
糸の説明を要約すると、敵の回廊は基本的に大部屋に繋がる。
『幕間の扉』のように扉が現れるそうだ。
今いる戦闘員は大きく四つに分けられる。
敵の出方に合わせて、それぞれに投入することになるとのことだった。
またNPCドールたちも総動員される。
まずは警備部のNPCドールたち。これも四つに分けられ、随時投入される。
それ以外のNPCドールたちは戦闘訓練を受けているそうだ。
警備部のNPCドールが足りなくなった時のために。
各回廊にはこちら側だけ塹壕〈掘った穴〉、魔法壁〈土壁を補強したもの〉、重機関銃十門、弾薬庫三箇所が設置されている。
回廊が繋がり、扉が現れたら、命令を受けた部隊は素早く侵入。
設置されたものを確保して敵を殲滅、参謀部では敵の狙いは短期決戦と見ていて、今のところは時間稼ぎに終始して欲しいという要望が出ているらしい。
今いるメンバーにドッグタグが配られる。
更に配給としてNPC製ポーションセットと飲食物セットだ。武器を持っていないやつには武器の貸出もしてくれている。
俺のドッグタグは黒の五番と書かれていて、別命あるまでは白の百五番として戦って欲しいと言われた。
赤、青、黄色、白の四色が現在の部隊分けだ。
『りばりば』総員が千二百人ほどで、夜に稼働しているのが八百人ほど。
赤、青、黄部隊が百八十名、白部隊は百五十名と少ない。
残りは参謀部、幹部会、装備部のメンバーだ。
「今のうちに補給と装備をしっかりお願いします!」
あと十分程で開戦だ。全員が慌ただしく動いていた。
ラグナロクイベントルール補足。
要は敵基地に入るまではアイテムドロップなし。
永遠に起き上がり小法師状態エインヘリアル。
そこにいる敵を殲滅したら5分貰えるから、その間に先に進もうね、というジリジリ陣取り合戦。
リスボン場所抑えられたらリスキル天国。素直に捕まる?それとも死ぬ?の二択。




