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「ゐーんぐっ!〈変身!〉」
「声は一緒ですねー」
悪かったな。言語がないんだよ。
「ゐゐゐゐゐーっんぐ……」
口から変な声が出る。
脳内アナウンスで色々と決めなければならないようだ。
そうか、そうだったな。
まずはどのガチャ魂と組み合わせるかを決める。
組み合わせると名前の候補が出る。多少なら名前をいじることも可能らしい。
例えば『ロンリーウルフ』と核︰ウイングの場合。
・ウルフウイング
・ウイングウルフ
・ロンリーウイング
・孤狼の翼
・オオカミウイング
・堕天ウルフ
……など。ん? これ、堕天使の翼なのか……。
その厨二っぽさに、俺は震えを隠せない。
「だ、大丈夫ピロ? なんか震えてるピロ?」
「グレンなら変な拒絶反応とか起きても不思議じゃないミザ!」
「まあ、グレンさんですからねー」
俺はなんとか手のひらを向けて、気にしないよう伝える。
堕天はヤバい……この場にいる全員。
下手をすれば変身後の名乗りでヒーローから笑われる可能性もある。それだけは避けたい。
───何、迷ってんのよ。こんなのダークピクシー一択でしょ!───
───きうー! きうー!───
左右から声が聞こえる。
じぇと子はまだ分かるが、フジンはなんだ?
うっ……そういえばあったな……霧胡瓜のガチャ魂。
さすがに嫌だぞ怪人『キュウリウイング』とか……。
試しに『ダークピクシー』との組み合わせだと……。
・ウイングピクシー
・闇の堕天使
・ピクシーツバサ
・ダークウイング
・ジェットウイング
……など。
いや、なんだ、どれも痛々しいな。
『フェンリル』や『グレイプニル』は少しでもネタバレを避けたい俺としては論外だ。
そうなると『クマウイング』やら『ツバサラビット』やら『ミミックウイング』『ウイングスキッパー』なども、どうもしっくりこない。
───聞いてよー!───
「ゐゐーんぐっ!〈ダメだろ! もうおっさんなんだよ俺は!〉」
「なんか声だけ聞いてると、ヤバいですカマ」
「じぇと子ちゃんと何か言い争ってるみたいですけど、我々にじぇと子ちゃんの声は聞こえないですからねー」
───いっそ、振りきった方がいいってば!
絶対見た目だってカッコよくなるから!───
見た目……そうか、見た目の問題もあるよな……。
見た目は確かに重要だ。 カッコよくて強そうで威圧感があるとか、醜悪でおぞましくて恐怖を感じるとか。
ちょっとしたことかもしれないが、そういう部分で敵が怯んでくれればめっけものだ。
───それにほら、敵が笑うなら笑わせておけばいいのよ。先制攻撃のチャンスでしょ!───
ぐうぬぬぬ……それはたしかに。
ピクシーの羽根を取って、翼にしたらある意味、そのまま天使や堕天使っぽくなりそうだし、見た目は悪くない。
いっそのこと……いやいや……これはゲームだし……待て待て……だがたしかに傾きかけている俺がいる。
静乃なら迷うことなく、漆黒の翼くらいは名乗りそうだが……。
くっ……。
───ほら、嫌になったら他のガチャ魂に変えればいいでしょ───
「ゐーんぐっ!〈くそ! 負けたよ!〉」
───やったー!───
「ゐーんぐ!〈じゃあ、じぇと子がいいのを選んでくれ〉」
───ホントに? それじゃねえ……えっとー……これ!───
マジか……。じぇと子が選んだのは『闇の堕天使』だった。
ヤバいな。考えるだけで顔が熱くなる。
それから脳内アナウンスはスキルか派生アーツから四つ選ぶか、自動設定にするか選べと言ってくる。
これ以上耐えられないと思った俺は自動設定を選んだ。
───自動設定の場合、四つ以上のスキル・派生アーツに紐付けされる場合があります───
───名称・効果が自動補正されます───
───以上、変身プロセスを終了します───
俺の身体が光に包まれた。
「お、来ましたピロ」
「結構、長かったミザ」
「どう変わるか楽しみカマ!」
光が収まり、俺は言う。
「ゐーんぐっ!〈闇の堕天使〉」
さあ、笑え!
「……えと」「え……変身はどうしたカマ?」「どういうことミザ?」「失敗したピロ?」
「ゐーんぐ?〈は? いや、変身してるぞ?〉」
「見た目がなにも変わってないカマ」
「ゐーんぐ?〈え?〉」
「あ、頭の耳ピロ! 耳の周りに光の輪がついてるピロ!」
「ゐーんぐ!?〈待て待て、鏡。鏡はどこだ!?〉」
「自分のステータスの名前のところをダブルクリックするミザ。それで現在の状態が見えるミザ」
教えられたようにステータス画面を出して……。
うおっ! ステータスが跳ね上がってる!
ええと……倍率、十倍!?
「ゐーんぐっ!?〈能力値が十倍なんだが……〉」
「場違い核ですねー最高レベルのものですよー」
「え、ずるいミザ! 私のだって九倍なのにミザ!」
「ははあ……レオナさん、やりましたねー。
宝物庫クラスの逸品を持って来るとは、期待度の高さですかねー?」
レオナが分捕って来たとか言いかけてたが、本来なら簡単に出ないやつか。
ありがたい。
期待されているなら、それに応えたいところだ。
それで、ステータスの名前『闇の堕天使〈グレン〉』をダブルクリックするんだったな……。
……。
俺は左肩を、じとーっと見る。
俺の現在はスキルテストをしていた関係で、牙折れ熊顔うさ耳な戦闘員でうさ耳を囲むように天使の輪が載っている。以上。
顔から上、ごちゃごちゃしすぎ。身体に変化が全くない。
え、翼は? ステータスを眺めると、別枠に【飛翔】というスキルが増えていた。
【飛翔】
代価︰MP2
あなたは翼を生やして、十秒間、空を自由に動くことができる。移動は一秒に素早さmまで。あなたは落下する。
・堕ちた。叛逆ゆえに。全てを許すのではなかったのか? いや、唆されたか……。そう始まりはそこだった。
「ゐーんぐ!〈【飛翔】〉」
使えば翼が生えた。黒くて大きな四枚の翼。
これはアレだ。尻尾なんかと同じ、追加器官というやつだ。
「生えたピロ!」
翼で羽ばたくのではなく、四枚の翼で舵を取る感じだ。微妙な角度調整でスピードや方向をごっ……。
「うわっ! グレンが天井に突っ込んだミザ!」
「痛そうですねー。ポーションを用意しましょう」
俺は天井を舐めるように移動、右に、左に、のち、落ちた。
「大丈夫ですカマ?」
『カマスコティッシュ』がHPポーションを掛けてくれる。
首をやってしまうところだった。危ない……。
痛みが取れていく。
「ゐーんぐっ!〈すまない、助かる〉」
「これ、変身しないのってなんでミザ?」
「すでに化け物だから、というのは冗談でー。
変身で変わるのは頭のリングだけということじゃないでしょうかねー?」
「編集画面で見た目は編集できたはずピロ」
「ゐーんぐ?〈もしかして、スキル設定を自動にしたからか?〉」
「それにしたって、ある程度ガチャ魂とコアの融合体みたいな見た目に変わるはずミザ」
皆が集まってきて、俺は可視化させた状態で編集画面を呼び出す。
「ああ、じぇと子ちゃんと言い争っていたのはコレですかー。
ピクシーは大きさと虫系の羽根くらいしか変化ないですからねー。
あ、天使っぽいローブとか着せられますよー」
「大きさも変えられるミザ。ほら小学生グレンミザ」
「ぷぷ……これは天使カマ!」
「ゐーんぐ……〈おい、俺をいじって遊ぶなよ……〉」
白い天使っぽいローブを着せられ、視点が低くなったり、高くなったりする。
ローブに色々種類があるようで色を変えたり、汚しを入れたり、質感を変えたり……。
「あ、こっちにピクシーっぽい黒のレオタードが……」
「ゐーんぐっ!〈やめろ、バカ!〉」
こいつら人の編集画面で遊びやがって……。
俺は画面を不可視化して、自分で元に戻す。
「ああ、もうちょっとミザ……」
「ゐーんぐっ!〈俺をおもちゃにすんなっ!〉」
これなら最初のリングだけでいい。
ふと時計を見れば夜の九時。もちろん現実での時間だ。
俺は皆に礼を言って、ログアウトさせてもらう。
部長に静乃からの情報を確認しておかないとな。
ごめんね。ミスリードいっぱい張っちゃった。
これがグレンの怪人スタイル。
最初から怪人やったやんけー! その通り。
祝え!キメラ怪人・闇の堕天使フォールン・ジェット誕生の瞬間である!
ハッピーーーっっヴァースデイ!!
 




