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14〈はじめてのPK〉

本日は二話、投稿。

こちらは一話目。


「そのガチャ魂、譲ってくれないか! 」


 そう声を掛けてきたのは槍を片手に黒い法衣を纏った、全身白タイツの男だった。


「イーッ! 〈誰だお前? 〉」


「えーと、もしかして【言語】スキル持ってないのか? 」


「イーッ! 〈それがどうした? 〉」


「参ったな……まあ、仕方ない…… 」


 白タイツは勝手に納得すると、近付いてくる。

 俺は『ベータスター』〈弾丸0〉を構えて、威嚇する。

 確か、白タイツに法衣は『ガイア帝国』だったはず。

 煮込みからは、襲われる場合もあるから気をつけろと言われていたな。


「ああ、待て、待て! 何もしない! 何もしないから…… 」


 そう言って、白タイツは両手を上げて、立ち止まる。


「ええと、実はだな……そのあんたが持っているガチャ魂を譲って欲しいんだ。ああ、もちろん対価は払う! だから、構えないでくれよ! 」


「イーッ! 〈どういうことだ? 〉」


 俺は油断なく構えながらも、一応、話を聞いてみることにした。

 まあ、さっきの電極兎戦で弾丸を撃ち尽くした上に、マガジンを引き抜く左手にはガチャ魂を持っているせいで、ただの脅しにしかならないけどな。


「ああ、【言語】スキルなしってことは、あんたまだこの世界に詳しくないだろ? 

 そうなると、胡散臭く感じるのは当然だと思うんだが、まあ、聞いてくれ。

 ほら、武器も手放すから…… 」


 そう言って、白タイツは槍をゆっくりとその場に落とした。

 俺は顎をしゃくって、言葉の続きを促す。


「俺が『ガイア帝国』所属ってのは分かるか? 」


 白タイツが聞くので、俺はゆっくりと頷く。


「ああ、分かるのか。

 んじゃ、誰かから『ガイア帝国』に気をつけろとか聞いてるか? 」


 俺は頷く。


「ああ、やっぱりな……一部にそういう阿呆がいるから、やりにくくなるんだよ、まったく…… 」


 白タイツはブツブツと文句を言ってから、ああ、悪い、悪いと笑ってみせる。


「えーと、そうだな。まず、自己紹介な。

 俺はネスティって言うんだ。お前は? 」


 白タイツが名乗ると頭上にネスティという名前が浮かぶ。


 このゲームは同じレギオン内では、個人識別のために頭上に名前が浮かぶが、他レギオンの場合、名乗らない限りはただのモブということで相手の名前が出ない。

 因みに名前変更は簡単ではない。名前変更専用クエストというのがあるそうだ。

 これは、俺がキャラクターネームを決めた時にそういう説明が、このゲームのマスコットキャラ『グレイトワン』からあったから覚えている。


「イーッ! 〈グレンだ! 〉」


 これで、ネスティから見た俺の頭上には名前が浮かんだはずだ。

 余談になるが、ここで偽名を使っても頭上には名前が出ない。

 基本的にレギオン同士はライバル関係にあるが、共闘してはいけない訳でもなく、情報共有なんかは良くあるそうだ。

 そういうことがあるから、レギオンの移籍なんかも成り立つ訳だしな。

 名前を名乗るってのは、そういう意味では信頼関係の第一歩とも言える。


「グレンね。オーケー、グレン! 

『ガイア帝国』にノルマがあるってのは知ってるか? 」


 そこからのネスティの話によるとこうだ。


 『ガイア帝国』にはノルマがある。

 一週間に一回、一定数の魔石かマジカの上納。それが遅れると、コンパク石の上納かガチャ魂を上納しなければならない。


 こういうゲーム内で誰にも使えるアイテム類がお互いのレギオンの持つ情報の売り買いに使われたりするらしい。

 例えば、『遺跡発掘調査』のモンスター情報や有効な戦略、ドロップ情報、ヒーローの出現情報やスキル情報なんかも売買のタネになっているらしい。


 そして、ネスティはノルマがこなせなかった。

 課金すればコンパク石を手に入れることはできるが、そこまではしたくない。

 頑張って、魔石とマジカを集めたが、期限切れでそれらは意味をなくしてしまった。

 そうなると、ガチャ魂を上納するしかないが、すでに五時間ほどこの森で粘っても一向にドロップしない。

 そんな時、戦闘音を聞きつけて、ここまで来てみれば、俺がガチャ魂を手にしている姿が見えたので、声を掛けたという話だった。


「……と、長くなったけど、そういう訳で、なんとかそのガチャ魂を譲ってもらえないかと言う話なんだわ」


 まあ、ネスティは可哀想だとは思う。だが、このガチャ魂は電極兎が残したものだ。

 ヤツはモンスターだったが、俺と命のやり取りをして、これを残した。

 正直、思い入れがある。


「イーッ…… 〈すまんが、諦めてくれ…… 〉」


 俺がインベントリにガチャ魂を仕舞おうとすると、ネスティは惨めったらしく懇願した。


「頼む! ほら、魔石なら10個はある! 他にもこの森の集めたドロップも出す! そのガチャ魂がないと放逐されちまうんだよ! 

 行くあてのない状態で放逐されたら、レギオンなしのフリーになっちまう……お前、フリーがどれだけ悲惨か知らないだろ? 

 ロッカーすらなくて、デスペナにビクビクしながら、どこか拾ってくれるレギオンを探す毎日……最低限しか解放されてないNPCショップで惨めな食事……そうなったらゲームを辞めてく奴がごまんといるんだ…… 」


 なんだその在野プレイ。

 それはそれで、ちょっと楽しそうじゃないか……。

 まあ、所謂いわゆる負けプレイを突き詰めると、そこに行き着くって感じなのか。

 こんな、ヒーローに殺される前提のゲームを怪人側でやってる奴は、そんな簡単に辞めるとも思えないんだが……。


 まあ、普通のゲーム感覚でやってたりすると、在野プレイは遠回りすぎてついていけないとか、あるのかもしれないが。


 電極兎よ……本当は俺の血肉スキルとなって、共に生きようかと思っていたが、ネスティの必死さに、迷っている俺がいる。


 むう(イー)…… と唸って、ガチャ魂を見つめる。


「馬鹿が! 【黒犬の息吹(ファイアブレス)】! 」


 俺は馬鹿だった。ネスティが武器を手放したこと、魔石を両手に抱えていたこと、情に絆されたこと、そして、俺の迷いがネスティから視線を外してしまったこと。

 全ては俺の油断が招いたことだった。


 ネスティは俺が視線を落とすと同時に、俺にスキルによる攻撃を放ってきたのだ。


 気付いた瞬間、俺は防御行動を取った。

 だが、それも無駄だった。


 ───状態異常『炎上』に掛かりました───


 俺の身体が炎に包まれる。

 熱い。燃える。俺は手にしたガチャ魂を落としてしまう。

 ゴロゴロと地面を転がる。


「油断すんなよなー、ばーか! これだから低レベル狩りはやめらんねー! ぶひゃひゃひゃひゃっ! 」


 ネスティは俺が落としたガチャ魂を拾う。

 俺のHPが凄い勢いで減る。


「イーッ! 〈ぐああああっ! 〉」


「いー! くくくっ! 人間松明……くくくくくっ…… 」


 ───【全状態異常耐性フェンリル】成功───


 一瞬だけ、そんな表示が見えた気がする。

 俺を覆っていた炎が消えた。


「はっ? なんで、消えた? 俺の【黒犬の息吹(ファイアブレス)】はLv5だぞ! 」


「イーッ! 〈てめえ! 〉」


 俺の全身から煙がシューシューと上がっている。

 いてぇ……。


「そんな……状態異常だけで40点は割り振ってるん……」


 ネスティの戯れ言に耳を貸す気はない。

 お前を実験台にしてやるよ! 


「イーッ! 〈【封印する縛鎖(グレイプニル)】〉」


 宣言と同時に、俺の右腕が破裂した。

 まるで巨大な獣に噛みちぎられたようだった。

 痛みが痛くて、痛いぎぃいいいいいっ! 

 俺は咄嗟に左腕で右腕を押さえる。

 一瞬、頭の中が真っ白になる。

 そんな中、ネスティの頭上には状態異常を示すマークが六つ並ぶ、麻痺、盲目、暗闇、猿轡、回復無効、行動阻害だ。

 地中から金属製の鎖が出てきて、ネスティの全身を縛り上げる。


「ごもがっ……んんん……」


 猿轡の効果だろう。何を言っているか分からない。

 俺は痛みを堪えて、立ち上がる。

 落ちている『ベータスター』のグレネード射出器のポンプアクションを、本体を膝で固定しながら左手でどうにか開ける。

 グレネードが入るべき場所に触れると弾丸が装填される。

 それをネスティへと向ける。

 膝と頭でどうにか固定する。

 トリガーを引く。


 ゴポンッ! と間が抜ける音に続いて、大きな爆発音が響く。


「ん"ん"ん"ん"ん"…… 」


 ネスティは生きていた。腹に穴を開けて、あちこちに裂傷が出来ているが、生きている。

 ちっ! しぶとい! 相当レベルが高いのか……。


 俺はフラフラしている。

 これは、HPがまた減少を続けているに違いない。血が抜けていく感じがある。

 急がねば……。

 薬草を食う間も惜しんで、『ベータスター』を落とすと、今度はマガジンに弾丸を装填する。

 ネスティの状態異常は盲目、暗闇が外れた、回復無効が点滅しているから、外れかかっているのだろう。


 俺はひぃ、ひぃ、と荒く息をしながら、左手で『ベータスター』を引き摺って、ネスティの前に立つ。


「イーッ! イー…… 〈くそっ! ガチャ魂、返してもらうぞ…… 〉」


 左腕一本で支えるのはツラいので、ネスティの身体を利用する。

 ポイントするのは心臓だ。


「イーッ! 〈ぬあーっ! 〉」


 ドドドドドッ! 


 0距離射撃に対応していない『ベータスター』はそれでも15〜16点の平均ダメージを出して、ネスティのHPを削る。

 ネスティは感覚設定を低めにしているのか、痛みに顔を顰めることはない。

 だが、恐怖に怯えたような瞳をしていた。


 ドドドドドッ! 


 撃つたびに、銃身が跳ねるので、フルオートで全弾連射してしまうと、ネスティの身体から逸れてしまう。

 だから、手動で少し撃っては、トリガーを戻して、心臓に改めてポイントする。

 ヤバい……もう鈍痛すらしなくなってきた。

 だとしても、コイツだけは……。

 ネスティがいやいやと首を振ろうとしているのだろう。

 怯えてくれるなら、ちょうどいい。

 しっかりトラウマになりますよーに、と願いを込めてトリガーを引く。


 ドドドドドドドドッ! 


 ネスティが光を撒き散らして、死んだ。

 バラバラと地面に何かが落ちるのを見回す。

 赤い石と実体化した金と幾つかのドロップ。

 ない。

 そこには俺から奪ったガチャ魂がなかった……。

 俺は膝から崩れ落ちる。

 運がねぇ……。

 くそっ! 


 そうして、俺は死んだ。


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