138〈恐怖! 絶対目に入るシャンプー大作戦〉
『大部屋』の大画面にはふたつの作戦が示されている。
とりあえず見比べてみよう。
・土曜作戦行動概要
・作戦名『恐怖! 絶対に目に入るシャンプー大作戦』
怪人『スライムシャンプー』による『住宅街』シャンプー詰め替え作戦です。
ボランティアによってドラッグストア、ハイパー銭湯、ホテル、イベント会場などのシャンプーを状態異常『眼痛』に掛かるスライムシャンプー剤に取替えます。
これは『スライムシャンプー』の操るテイムモンスター『弱酸性スライム』を分割混入してあり、どうやってもシャンプーが目に入って痛みを与えるという作戦になります。
住宅街では本日『どろんこ大相撲』が予定されており、シャンプーの大量使用が見込まれます。
また、怪人『デビルクレイゴーレム』、怪人『スカラベブレイン』の協力によって、ヒーロー早期殲滅を目指します。
情報によれば『マギスター』出現率が七割以上のため戦争イベントに繋がる可能性があります。
・日曜作戦行動概要
・作戦名『日曜特別リベンジ企画! 協力レギオン合同、どきっ! 作戦だらけの大行動会! 射撃もあるよ』
先週の作戦行動の焼き直し版になります。
各地で作戦行動を行うことでヒーローを分散。
敵対勢力である『マギスター』側ヒーローの出没地域に怪人『ユニコーンガン……』を派遣、射撃によってヒーローを撃退します。
迅速な行動が要求されるためボランティアバイク部隊によって『ユニコーンガン……』を運びます。
『ユニコーンガン……』の射撃は強力ですが、装弾数に限りがあるため、次弾装填に時間が掛かります。
戦闘員各員は『ユニコーンガン……』の守備に注力をお願いします。
土曜の『作戦行動』では戦争イベントに繋がる可能性はあるものの確実とは言えず、日曜は他のレギオンの怪人次第で難易度が大幅に変わりそうだ。
先週の日曜の『作戦行動』で『マギスター』側も随時ヒーローを送り込む算段をつけて来るだろうから、上手くやらないと前回の二の舞いだ。
それにしても、『シャーク団』から得た核が惜しげも無く投入されている。
デビル・ブレイン・ピストル、三つか。
『マギスター』のヒーローもかなり減っているはずだが、どれだけ残っているやら。
確か従妹からの情報によると、『マギクリスタ』はコアが残ったと聞いた。
そうなると、『マギミスリル』『マギアイアン』『マギクリスタ』『マギブロンズ』は出てくる可能性が高いな。
「なあ、あんたはどっち狙いだ?」
俺が大画面を眺めていると、見知らぬ戦闘員から声を掛けられる。
どちらがいいか、迷うところだ。
俺が迷っていると、見知らぬ戦闘員が勝手に喋り出す。
「迷っているなら、明日にしてくれよ」
「ゐー?〈どういう意味だ?〉」
俺の不思議そうな表情に意味を理解したのだろう。
「あー、俺は配信者なんだ。ゴム屋の弾力放送って知らないか?」
俺は首を捻る。
「そ、そうか……俺もまだまだだな。
いや、理由は単純なんだ。俺は明日の作戦に参加予定だからさ。
あんたが画面の端にでも出てくれりゃあ、視聴者が増えるだろ」
そういうものか?
「だから、もし迷っているなら、日曜で頼む。
別に特別なことをしてくれって話じゃないんだ。いつも通りにゲームしてくれればいいだけだからさ」
まあ、そういうことならと、俺は頷いた。
「やった! 助かるよ! 改めて俺はゴム屋。
よろしくな」
「ゐーっ!〈あ、ああ、グレンだ〉」
手を取られて、問答無用の握手だ。
そうしてゴム屋は去っていった。
まあ、迷っていたからいいか。
じゃあ、ボランティアポイントでも稼ぐか。
俺は受付へと向かった。
「ゐーっ!〈俺にできるボランティアはあるか?〉」
「ああ、グレンさん。ちょっと待ってくださいね……」
今日の受付は糸か。普段からやっているだけあって、慣れた対応に安心感がある。
「どろんこ大相撲の力士くん着ぐるみとかどうです?
ウチの主催イベントなんで、簡単ですよ」
「ゐーっ!〈どろんこ大相撲の仕掛け人もウチなのか……相変わらず手が込んでるな。
それで頼む〉」
毎回、俺なんかでもやれるボランティアが用意されているのはありがたい。
ボランティアに登録して、俺は『大部屋』を出るのだった。
 




