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二話目です。


 『破滅の森の砦』にやってきた。

 昨日と同じ、青空と陰鬱な森、その中を進む黄色い道だ。

 『幕間の扉』が閉じるので、少し横に寄っておく。

 所持金とアイテムは全てロッカーに入れてきた。

 唯一、デスペナルティ対象外アイテムである『ベータスター』だけが俺の相棒だ。


 まあ、せっかく来たのだから、少しだけ一人で戦えるか、確認しておくか。


 と、その前に☆4グレイプニルを設定するか。


名前:グレン〈Lv1→2〉


トール:3→4

器用テュール:5→1

素早さ(ヘルモーズ):8→6

知力ロキ:4→9

精神ブラギ:9→10

特殊オーディン:11→15

生命ヴィーザル:5→6

フリッグ:5


〇魂:『フェンリル』『グレイプニル』『ダークピクシー』

〇スキル〈残り3〉:【回避】2→3【夜の帳(ダークネス)】1→2【全状態異常耐性フェンリル】1→2【回し蹴り】1【農民】1【装備設計】1【封印する縛鎖(グレイプニル)】1


△副能力値


△装備重量:6→8

△ダメージ:+8→10

△武器命中:+10→7

△回避:+13→7

△装備設計:+9→14

△状態異常:+15→24

△異常耐性:+21→25


△体力:13→12

△疲労:14→15

△HP:16→11

△MP:24→34


 結構、迷ったが『グレイプニル』は能力値を反映する形にしてみた。

 どうせなら特化させてしまえ、と外したのは『ロンリーウルフ』でこちらはスキルだけを反映させる形にしている。


 状態異常と異常耐性だけが突出している。

 さて、これでやってみるか。


 俺は黄色い道を歩いていく。

 確か、最初は森でレベル上げが基本とか言っていたか……森に入ってみるか。


 森の中は暗い。だが、まったく何も見えないというほどでもない。

 木が密集しているところを避け、木漏れ日が落ちる場所を転々と渡るように歩く。

 暫く歩くと、ピコンと脳内に電子音が響く。

 確認すると体力が一点減っていた。

 歩く分にはそこまで急激な減りでもないな。


 あちらこちらから戦闘音が聞こえてくる。

 俺もそろそろ敵を見つけたいところだ。

 そう思いながら、辺りを見回すと緑色の森の中に違和感がある。


 いや、普通に緑の草のはずだが、なんだか胸の奥がウズウズするというか……と、その違和感の正体を探るべく草を見詰めていると、その草の上に青い逆三角形のマークが出て、『薬草』という文字が付いた。


 ▽薬草


 おお、ゲームっぽい。

 もしかして、採取とかできるのか。

 とりあえず、その薬草に触れる。


 ───薬草を手に入れた───

 触った薬草が消えて、目の前にメッセージが流れた。

 インベントリを確認すると、『薬草』が入っている。

 取り出して確認してみる。


 ───グレンの畑がない。栽培はできないようだ───


 と、メッセージ。

 ああ、【農民】スキルなのか。

 薬草の説明文を呼び出してみる。


☆薬草〈疲労〉

 疲労回復に効果のあるドリンクが作れる。

 【農民】は作物として取り扱いができる。


 なるほど。これは残しておくか。

 他にないだろうかと、再度、辺りを見回す。


「ぐるるるる…… 」


 黒と暗緑色の斑模様の狼と目が合った。

 なんだこのスイカみたいな狼は……。

 やつはこちらの隙を窺うように体勢を低くしている。

 これ、急に動いたら襲われるやつな気がする。


 ゆっくり……ゆっくりと『ベータスター』に手をやる。


「イー……イー…… 〈動くなよ……そのまま〜…… 〉」


 我知らず声に出ていたようだ。

 何かを抑え込むように、小さく低く、言葉を出しながら、その言葉の遅さに併せるように、銃把を握る。

 安全装置を解除して……カチッ。

 セレクターを動かす音と同時、スイカ狼が茂みから飛び出した。


「ぐわぅっ! 」


 慌てて銃口をスイカ狼に向けて、引鉄を絞る。


 フルオートで放たれた18発がスイカ狼のいる方向に飛ぶ。


「ぎゃんっっ! 」


 スイカ狼が、それこそ砕け散ったスイカみたいに赤い粒子をはね散らかす。

 だが、それを合図としたかのように、あちらこちらの茂みが揺れる。

 そう、狼は群れで獲物を狩る生き物なのだ。


「イッ! 〈ちっ! 〉」


 俺は舌打ちしつつも、殺した狼の方に走る。

 俺を包囲しているのだとしたら、穴はそちらだからだ。

 マガジンを抜いて、弾丸を装填しようとするが、動揺もあり、走りながら、『ベータスター』を保持しながらでは、片手で上手くマガジン上部に触れない。

 もしかして、器用テュールを下げたからか……。


 マガジン上部に触れないと、弾丸は装填されない。

 だが、逆に考えれば、指で触れなくてはならないとの説明は受けていない。

 一か八かだ。

 俺は自分の脇腹にマガジン上部を宛がう! 


 ジャララと弾丸装填の音がする。

 よし、触れるのはどこでも良さそうだな。


 『ベータスター』にマガジンをセット、振り向きざまに、目に付いたスイカ狼に掃射、また走り出す。いや、走り出そうとしたところで足に衝撃が襲う。

 タックル!? そう思うが、タックルではない。遅れて痛みが襲う。


 がああああああああああっ! 


 獣のような咆哮を上げて、口から熱量を放ち痛みを忘れようとするが、俺の口からは「イィィイイィィッ!? 」と相変わらずの戦闘員語しか出てこない。

 スイカ狼の一匹が俺の太腿に食らいついている。

 咄嗟に持っている『ベータスター』の銃床でスイカ狼の頭を殴りつける。

 二度、三度と殴ると俺の太腿をマンガ肉のように齧っていたスイカ狼が粒子となった。


 逃げなくては……そう思って、痛む足を引き摺るように立ち上がる。


「「ばわっ! 」」


 それはまるでスローモーションのようにも感じる。

 俺が背を向けるのを待っていたかのようにふたつの獣の気配が後ろから迫る。


 ───ヤバいっ! 

 それは死の気配とでも言うべきか。

 何故か俺にはそれが分かった。

 このままでは、後ろから押し倒されて、俺はスイカ狼の餌となるのだろう。


「イ、イーッ! 〈【回し蹴り(ベスト・キッド)】〉」


 俺はそう宣言していた。

 身体は宣言に合わせるように、勝手に動く。


 痛い、痛い、痛い、痛いぃぃぃっ! 


 足が俺の痛みを無視するように、身体の向きを変え、目はスイカ狼二匹を捉える。

 そして、俺は痛む足で二匹のスイカ狼を迎撃した。


 ぐるりと身体の回転する遠心力を載せて、二匹のスイカ狼を粒子化する。

 すたっ! とスキルの効果で蹴り足が地に戻った瞬間、足に力が入らず、ぐにゃりと俺は無様に転がった。


 俺はどうにか『ベータスター』の弾丸を補充して、辺りへ目をやる。

 どうやら、追撃は来ないようだ。

 ホッと息を抜いた瞬間、足の痛みが思い出したようにぶり返す。


「イーッ! 〈いだだだだーっ! 〉」


 のたうち回る。まさかのゲームでこれだけ痛い思いをすることになると思っていなかったので、頭が混乱している。

 ゴロゴロと転がり回っていたら木の幹に頭を痛打した。


「イーーーッ! 」


 頭と足を抑えて、痛みに耐える。

 くそっ! 涙まで実装されてんのかよ……。

 滲む視界には抜けるような青空が見えた。

 荒く息を吐いて、ふと横を見る。

 色とりどりの小さな花が辺り一面に拡がっていた。


 ▽薬草▽薬草▽薬草▽薬草▽薬草▽薬草▽薬草


 全部、薬草らしい。震える腕で触れようとすると、次々にインベントリに収納される。

 ポッカリと雑草だけの空白地帯が出来てしまった。

 ぬおおっ! 花ひとつ愛でることもできないのか、このクソゲーは! 

 痛みは未だ消えない。消えないというよりも、激痛が鈍痛に変化していた。

 身体から血が喪われていくような感覚があり、身体が冷えていく。


 ふと、確認すると、体力が0で、HPは継続的に減っている。


 ヤバい……これ死ぬやつか……。

 せめて、ポーションと食い物くらい持ってくればよかった……。

 いや、考えてみれば当たり前の話か。

 デスペナを恐れて、何も持ってこないなら、そりゃ死ぬわ……。


 自分の馬鹿さ加減に笑いが零れる。

 目の前にはステータス画面。そのHPは4から3に減少した。

 その画面をぼーっと眺める。

 ああ、薬草って使えるのかな……。

 その時になって、俺はハッとした。

 画面をインベントリに切り替える。


 ・薬草〈HP〉

 ・薬草〈MP〉

 ・薬草〈フレーバー〉

 ・薬草……


 色々な薬草が順不同で入っている。

 HP、HPに効く薬草なら使えたりしないか? 


 俺は薬草〈HP〉を取り出して説明を確認する。


☆薬草〈HP〉

 HP回復に効果のあるポーションが作れる。

 【農民】は作物として取り扱いができる。


 見た目は黄色い小さな花を付けた雑草みたいなもんだ。

 だが、これがHPポーションの素になるというのなら、これ単体でも効果があっていいような気がする。


 デスペナで失われる可能性もあるのだ。なら、試してみるか。


 俺は、薬草〈HP〉を食った。


 甘っ! いや、苦〜っ! は、吐きてぇ……。いや、我慢だ、我慢……。


 どうにか、薬草〈HP〉を飲み込む。

 ど、どうだ? 


 ステータス画面を呼び出して見てみる。


 HPは未だ3。だが、体力が1回復していた。

 どういうことだ?

 しばらくステータス画面を眺めていると、脳内の電子音と共に体力が0になる。

 同時にHPの3が点滅を始める。

 そして、HPが2になった。


 体力か! 体力が0になったから、HPの減少が起きてるのか! 


 俺はインベントリの薬草〈HP〉をあるだけ取り出すと、貪り食った。

 ぐええ、まずい……。


 だが、と、ステータス画面を確認。

 体力が8、HPが5になっていた。

 回復だ、回復している! 


 辺りを見回せば、ここは森の中にぽっかり空いた広場のようになっていて、一面が花畑だ。

 未だ鈍痛を感じる足は力が入らないので、地を這うように移動しながら、手を振り回す。

 花畑を食い荒らす害獣みたいな気分になるが、そんなこと、生命に比べたらどうでもいい。


 インベントリから薬草〈HP〉を出しては食べ、また、手を振り回して薬草を回収していく。

 途中でソート機能に気付いて、効率的に薬草〈HP〉が食えるようになる。


「イッ! 〈げふっ! 〉」


 いつの間にか、足の怪我が治っていた。

 すげー……俺、生きてる……。

 俺は感動を覚えていた。

 これが、ゲームか……マジかよ……世界観変わるぞ……。


 俺は立ち上がって、空に向けて雄叫びを上げる。


「イーイイイイーッ!!! 〈生ーきてるぞーっ!!! 〉」


 俺は何故かわからないが、身体を震わせて、生命の讃歌に感動したのだった。


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