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 蝿だ。


 『メガロメガロドン』の片方の口から魂が抜け出るみたいに無数の蝿が出て来る。


 和邇を包み込んでいく。

 和邇が黒に染まる。


 藻掻くように、足掻くように、黒く染まった和邇の巨体が暴れる。


 近くにいるとまずい。

 本能的なものを感じて、俺は和邇から離れた。


 気付けば、あの耳障りな子供のような泣き声は止んでいた。

 代わりに聞こえるのは、くちゃくちゃとした水分混じりの咀嚼音。

 思わず耳を塞ぎたくなる。


 和邇は暴れている。それはワニの習性であるデスロールのような動きだ。

 地上で行われるデスロールは、身体に燃え移った炎を消そうかという動きに見える。

 黒い蝿たちが少しずつ剥がれ落ちていく。


 黄色の上に茶色と黒をぶちまけたような和邇の身体が黒と赤と白の点描画みたいになる。

 その内にデスロールで蝿が潰されたのか、全貌があらわになる。


 ウロコの大部分が剥がれ落ち、血肉が見えている。その血肉には夥しい数の蛆虫が這っていた。


 俺たちは呆気に取られてしまう。

 なんだ、この技……。

 和邇の頭上には『蛆虫』なる状態異常。


「【大罪(グラトニー)】メガ……」


 ぐじゅぐじゅ、くちゃくちゃ、ぴしゃぴしゃと和邇の体を蝕む音がして、和邇は動かなくなった。

 『絶望』の状態異常が足されている。


「もらったメガ……【魔体落とし(メガフォール)】」


 それはジャンプして身体を丸めて落ちるだけのスキルだ。

 だが、『メガロメガロドン』の巨体ならば、それだけで充分なダメージになる。


───リザルトに移行します───


 脳内アナウンスだ。これはつまり、和邇が死んだことを意味する。


「戻るソド!」「あ、来てるブレ」「得点を許すなタコ!」


「ゐーっ!〈キウイ!〉」


 駆けて来るキウイに飛び乗って俺は指定位置Bに向かう。


 『メガロメガロドン』以外のサメ人間たちも慌てて指定位置Bへと向かう。

 和邇の巨体が拡げた広場は思いの外、見通しが良い。


 レオナ班はボランティア部隊の人間盾に守られながら指定位置Bへと急いでいるが、かなりギリギリのタイミングだ。


「グレンさん、遠距離から仕留めるランニン!」


 並走してきた『ダチョウランニングシューズ』に俺は頷く。


 遠距離持ちと判明しているのは『ブレインシャーク』『サメたこ焼き』の二匹だ。

 『サメたこ焼き』……アイツから行くか!


「【残虐な英雄(アキレウス)】ランニン!」


 二人の『ダチョウランニングシューズ』が『サメたこ焼き』を挟み込んで乱舞技を叩き込む。


「ちょ、やめ、腕、足が……ダ……げふぅ……シャーク団に栄光……タコ……」


 『サメたこ焼き』は全身に部位破損を食らって粒子化した。


「ゐ、ゐーっ!〈た、たこ焼きー! くそ! あの薄味サメか、【正拳頭突き(ラビ・ロケット)】〉」


 俺はキウイを踏み台にして、前を行く『ブレインシャーク』へと突っ込む。


「がっ……」


 『ブレインシャーク』に『昏倒』が入って、転倒する。


「ゐーっ!〈今だ!〉」


「この『サメゴースト』がやらせないゴス!」


 俺の【神喰らい(オオカミ)】が『サメゴースト』の肉体を喰らう。

 更なる薄味!


「ゐーっ!〈精進料理かっ!〉」


「【霊体化(スペクター)】ゴス」


 片腕を食らってやったが、意識を『サメゴースト』に移しての攻撃は霊体化していて食えなかった。

 物理攻撃は透過してしまうようだ。


「【計算された跳弾(タクティクスシュート)】からの【サメ牙手裏剣】ブレ!」


 その隙をついて、『昏倒』から復活した『ブレインシャーク』が放つスキルが、ボランティア部隊の肉盾をすり抜け、武器に当たり、反射してレオナ班の『ディアスプーン』の腕に命中、ごとり、と『信楽焼の狸』が落ちた。


「おらあ、どけ雑魚どもソド! 【回転斬り】ソド」


 『ソードシャーク』のスキルは中国映画さながらの移動回転斬りつけ攻撃だ。

 ボランティア部隊の肉盾を切り裂きながら、突進していく。


「渡さんプーン! 【捻れる(サイコキネシス)】」


「ふっ……誰が一人で突っ込むソド……」


「【地獄の業火(デビルフレア)】デビ」


 『ソードシャーク』の影から別のサメ人間が現れる。

 『サメデビル』と言えばいいか、捻れた角に蝙蝠の翼、サメ顔に隈取りみたいな禍々しいメイクが施してある。


 そいつの口から放つ炎は火吹き男のように『ディアスプーン』を炙る。


「くっ、近づけないプーン! こうなれば!」


「遅いソド……【ノコ斬り】ソド!」


 『ソードシャーク』が鼻先についた剣を頭ごと振り回す。

 幻影のノコギリが現れて、それが巨大化。

 『ディアスプーン』を切り裂いた。


「ぐはっ……大首領様、バンザイスプーン!」


 『ディアスプーン』が粒子化していく。


「サメデビル、そいつは任せたソド」


 『ソードシャーク』は幻影のノコギリを振り回したまま、もうひとつの『信楽焼の狸』を持つ『カナヅチゴーレム』へと向かうと、『信楽焼の狸』ごと『カナヅチゴーレム』を切り裂いた。


「くっ……割って!」


 レオナが言って、元は『ディアスプーン』が持っていた『信楽焼の狸』を割ろうとする。

 だが、『サメデビル』の方が速い。


「インベントリには入らなくても、ここには入るデビ……【新月渡り(イン・ザ・ダーク)】デビ」


 ムックと同じ技かよ。


 『サメデビル』が『信楽焼の狸』と共に影に沈んでいく。


「ゐーっ!〈どいてくれ!〉」


 【闇芸(えんかいげい)】は中距離の派生アーツだ。

 影を膨らませる分には中距離内に始点があればいいが、縮めようと思えばやはり中距離内にその影がなければならない。


 誰だ? 誰の影に入った?

 それが分かるのが一番だが、既に他の影に移動している可能性が高い。


 恐らく『サメデビル』は指定位置Bに一番近い影まで移動しているはずだ。

 それを見つけて、【闇芸(えんかいげい)】で封じ込めれば、あとはムックを呼べばなんとかなると思う。


 だが、他のサメ人間を防ぐため、肉盾をしているボランティア部隊が逆に邪魔になっていた。

 ボランティア部隊を掻き分けて、指定位置Bに向かおうとしていると、指定位置Bのすぐ近くに大きな影がかかる。


 ボロボロになった『メガロメガロドン』だ。


「僕と戦え! 鮫島ーーー!」


 巨大甲冑『動く棺桶(リビングコフィン)三号』を操るシシャモが吼えた。

 『リビコフ三号』は片腕だけの異形の甲冑だった。

 基本は変わらないものの、片腕。

 その片腕はドリルだった。手で何かを掴むことをやめ、その腕は穴を穿つことに特化されている。


「そう、あれもこれもできるかメガ!

 ポイントが入ったら、ゆっくり相手をしてやるメガ……」


 そう言って『メガロメガロドン』はボランティア部隊を蹴散らしにかかる。


 一緒にやられてやるわけにはいかない。

 スキルを駆使して、どうにか避ける。


 『メガロメガロドン』の影が動いた。

 指定位置Bのすぐそばに、『サメデビル』が顔を出す。


「ゐーっ!〈あそこだ!〉」


 星5、星4スキルはウエイトタイム中で使えない。俺はどうにかそちらに走りながら、声を出すしかできなかった。


 レオナともう一人が反応して銃を撃つが、『サメデビル』の身体に阻まれて、『信楽焼の狸』に当たらない。


「これでリードデビ!」


 『サメデビル』の手を離れた『信楽焼の狸』が指定位置Bの穴へと吸い込まれるように落ちていく。


「ゐー!〈くそ!〉」


 バン! バン! バン! バン! バン!


 得点される寸前、銃弾が飛び交い、『信楽焼の狸』は粉々になった。


「はあっデビ?」


 銃弾を放ったのは三十名近い灰色の全身タイツの集団だった。


「よお、手伝ったら供給してくれる武器のレベル上げてくれるってホント?」


「野良……なんで……?」


 レオナが呟いた。


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― 新着の感想 ―
[一言] ひょっとしてフェンリルがソース味嫌いなのでは…
[一言] え?!参加者以外でも信楽焼壊せるの?! って思ったら野良なら干渉できるのか! つまり野良を味方につけたもん勝ちか!
[一言] どうしてもたこ焼きが食べられない…
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