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本日は三話投稿です。
こちらは一本目。
並べられた選択肢は主に四つだ。
その1、幹部クラスのプライベートルーム、家具・家電付き。
その2、ガチャ魂、星4と他に有用そうなガチャ魂を幾つか。
その3、Lv80になった時に使える、変身用コア。
その4、それらの複合、また、50万マジカまでならお金でも可。
消去法で考えると、真っ先に消えるのはプライベートルームだな。
自分のロッカーを弄って遊ぶことすらしていないのに、いきなり最高到達点のプライベートルームなど貰っても、宝の持ち腐れになる。
宝の持ち腐れといえば、コアもそうだよな。
何しろLv80にならないと使えないのだ。
使えるようになるの、いつだよ……ということになりかねない。
だが、コアがどういうものかは興味があるので、どんなものかは聞いておきたい。
「イーッ! 〈コアの説明をもう少し詳しく聞かせてくれないか〉」
「ああ、そうですね。
どういったものか分からないと、選択肢にもならないですからね。
今、お出しできるのは、遺物核、四点と場違い核、一点になりますね。
遺物核というのが通常、我々がコアと呼ぶもので、『遺跡発掘調査』で極々稀に手に入る変身アイテムということになります。
遺物核は様々な形があります。普通のアイテムとの違いはアイテム名に『コア』と付く物がコアで、それ以外はただのアイテムという差ですね。
例えば、煮込みさんの場合『コア・ハサミ』というハサミを使って変身しています。
煮込みさんは最初の三つのスキルのひとつを『血華蟷螂』にしています。
これに『コア・ハサミ』が結びついて『怪人・シザマンティス』に変身しているのです。
なので、もしグレンさんが『コア・ハサミ』を手にして変身した場合、『怪人・シザウルフ』『怪人・シザフェンリル』『怪人・シザピクシー』の内のどれかになると思います。
まあ、実際の名称は変わるかもですが…… 」
そこまで喋って、レオナは一度、紅茶で口を湿らせる。
「それで、場違い核というのは、魔法文明世界に本来なら存在しないはずのコアのことを言います。
とは言っても、説明文にそう書かれているから、そういうものと我々は認識しているだけですが……。
今回お渡しできる場違い核は『コア・バズーカ』で、マジカ換算で70万。
遺物核なら、『コア・鎌』が25万、『コア・スプーン』が60万、『コア・金槌』が50万、『コア・枕』が35万という計算になります。
あ、あとですね。コアを持っていると語尾にコアの特徴が出るという遊び要素がありますよ!」
「イーッ! 〈それって、例えば『コア・鎌』を持っていると、挨拶した時の語尾にカマーとかつくってことか〉」
「そうですね。こんにちはカマー!みたいになりますね……あ、今のグレンさんなら、イーカマーッ! でしょうか? 」
ふふふ、とレオナが笑う。
レオナの言い方が子供番組のお姉さんみたいだったので、つられて笑ってしまったが、かなりのデメリットな気がする。
自分から、コアを持っていると喧伝することになる訳だ。
他のレギオンから襲われることもあるくらいだ、狙われる場合もありそうだな……。
「イーッ? 〈ちなみに変身することのメリットは? 〉」
「能力値が数倍から十倍近くまで伸びます。それと『作戦行動』を行うことができるようになります」
「イーッ! 〈数倍から十倍近くまで!? 〉」
「ガチャ魂との相性もあるようですが、基本は五倍くらいは伸びますね!
それと、スキルにも多少変化が出るようですよ」
『変身』は確かに有用そうだが、現状だとコアを持つメリットはなし、デメリットはあり、やっぱりいらないな……。
ただ、入手率が悪いようなのは少し気に掛かる。
どうやらリアルラックは俺にはないようだしな。
かと言って、今からデメリットだけ持っておくのも厳しい。
そうなると、金とガチャ魂か……。
「イーッ? 〈ガチャ魂はどんなのがあるんだ? 〉」
「ガチャ魂は『星4確定コンパク石』がひとつ50万でふたつまでは出せます。他に『星3以上限定コンパク石』ならひとつ30万としてふたつまで、『星3確定コンパク石』はひとつ10万でこれは十個まで大丈夫ですね」
「イーッ? 〈全部、何が出るかはガチャ次第ってことか? 〉」
「そうですね。ひとつだけ、上の悪ノリで出してもいいと言われた星4のガチャ魂はあるにはあるんですが…… 」
「イーッ? 〈何かレオナが躊躇うようなことがあるのか? 〉」
レオナはしばし逡巡してから、歯切れ悪く説明する。
「一応、100万マジカでして……それにスキルの代価もよく分からないですし……100万マジカで星4ひとつというのも、釣り合ってないですし……まったく、なんでこんなこと言い出したのか…… 」
レオナの上か……幹部の上って大首領なのか? それとも、幹部会みたいな合議制でって話なのか?
まあ、そこは置いておくとしても、どういうガチャ魂なのか、なかなか言わないな。
「イーッ? 〈スキルが使えないスキルだとか、そういう話か? 〉」
「いえ、スキルの能力だけで言えば、確かに強力なんですが……いえ、忘れて下さい!
上には選ばなかったと伝えればいいだけですから! 」
レオナはきっぱりと言った。
だが、大首領なのか幹部会なのかは知らないが、レオナの上では俺にソレを取らせたいって意図がある訳だろ?
一応、『りばりば』に所属する身としては上の覚えはめでたくしておいた方がいいんじゃないだろうか?
悪ノリ? そういうのはゲーム的にノッてなんぼなんじゃないかと思うわけだ。
「イーッ! 〈よし! じゃあ、ソレだな! 〉」
「え? 」
「イーッ! 〈いや、上としては俺にソレを取らせたら面白いんじゃないかって話なんだろ? なら、ノッてやるよ! 〉」
「ですが、あのハッキリ言いますが、ダメージが出ないスキルなんですよ? 」
「イーッ! 〈あれか、ダークピクシーの【夜の帳】的な? 〉」
「はい。生産でも便利スキルでもなくて、しかも、代価が分からないんです! 」
「イーッ! 〈まあ、使えなかったら外せばいいだけだ! ソレを貰う! 〉」
「まあ、そうですけど…… 」
俺はくれ、という意志を込めて手を出す。
「でも、100万マジカ分の報酬が星4ひとつなんて…… 」
「イイッ! イイッ! 」
渋々と、本当に渋々とレオナはインベントリからひとつのビー玉を取り出す。
ガチャ魂ってオブジェクト化するとこんななのか。
説明の画面を呼び出して見てみる。
・グレイプニル〈☆☆☆☆〉
知力+4、特殊+4、器用-4
【封印する縛鎖】1
その昔、フェンリル狼を封印したとされる鎖。
ああ、悪ノリだな。
確か、北欧神話だとフェンリルを制御するべく神々が課した枷がグレイプニルだからな。
俺が『フェンリル』を引き当てたから、セットでこれもつけておけって感じか。
だが、『フェンリル』の説明文には『グレイプニル』を引きちぎって、という文があった。
つまり、俺の『フェンリル』は止められない!
まあ、そういう中二病的、発想は置いておくとして、能力値的には『フェンリル』に続いて、また器用が下がるのか。
能力値的に〈1〉というのはシティエリアの一般人並ということなので、当分は『ベータスター』のフルオート射撃頼りになりそうだな。
せめて、基礎値の〈5〉は欲しいところだから、レベルアップのフリーポイントは当分、器用に振ることになりそうだ。
そういえばスキルの代価が分からないとか、レオナが言ってたな。
一応、スキルの確認もしておくか。
【封印する縛鎖】
命中:必中
攻撃:麻痺、盲目、暗闇、猿轡、回復無効、行動阻害〈確率Lv〉
範囲:単体
射程:至近距離~超遠距離
重量:なし
対価:??
え、強くないか?
命中が必中で、6種類の状態異常が確率で付くんだろ?
確かに対価が『??』になってるのは怖い……怖いがこれはゲームだ。
ある程度、想像がつく。
【夜の帳】の対価は疲労。
同じ系統の【封印する縛鎖】も恐らくは疲労、いや対価??だから、同時にMPも持っていかれるとか、ありそうだな。
死ぬ気で一発は撃てるとかだと、効率が悪いが『レイド戦』なら死ぬ前提だから問題ないか。
問題は『遺跡発掘調査』だな。
『遺跡発掘調査』だと戦闘員のデスペナが重い。
一定時間の能力減衰と所持金の半分、さらに所持アイテム〈個人インベントリ含む〉を低確率でその場に落とすという仕様だ。
試すならロッカーに素材と金を預けて、身ひとつでやってみるのがいいかもな。
俺はその場で煮込みにチャットを送る。
グレン:カロリーバーの報酬で謎のスキルを入手した。悪いが今日は初心者講習を辞退してもいいだろうか?
煮込み:了解シザ! また暇な時にやるシザ!
グレン:助かる、ありがとう!
じゃあ、これで! とレオナに挨拶してその場を辞去する。
「あの、気に入らないとかあったら、言って下さい! 何とかしてみますから! 」
レオナが俺の背中に声をかける。
と、その時、脳内に大きな音が響く。
『ワールドアナウンスです。
ヒーロー側レギオングループ:マギスターの技術流出により、怪人側レギオングループ:リヴァース・リバースのレギオンレベルが上昇しました。』
「イーッ! 〈うおっ、びっくりした! 〉」
ワールドアナウンスというと、この世界全体にアナウンスが流れたってことか。
俺がレオナから報酬を貰った間際にこれが流れたってことは、契約が成立したから、正式にあの『カロリーバー』が『りばりば』の物になったってことなのかもな。
「イーッ! 〈ま、せっかくだから試してみるよ! 〉」
俺はレオナの言葉に背中越しで、手を振ることで、答えとした。