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「こぉぉぉんじょぉぉおっパーーンチ!」
シシャモ専用、超巨大鎧『リビコフ二号』のパンチが、それを上回る巨体になったサメ人間『メガロメガロドン』の腹部にぶち当たる。
金属で肉を叩く音が大きく響く。
『メガロメガロドン』はその巨大な顎からヨダレを滴らせつつも、その淀む瞳に『リビコフ二号』を捉える。
ふたつの頭に四つの瞳。
笑った?
「【TSUNAMI打ち】メガ」
大きく動かした右手で『リビコフ二号』を平手打ちしようとする『メガロメガロドン』だったが、『リビコフ二号』は大きくバックステップでそれを避ける。
振り切った指の間から、ざばんと海水が溢れた。
「ゐーっ?〈防具無視とかじゃないのか?〉」
俺の【正拳頭突き】【餅つき】にもついている『防具無視』付きの攻撃と同じような気がする。
顔を出したら、攻撃が飛んできた。
「見つけたぞ、コラ!」
『コーラシャーク』が近づいて来た。
『幕間の扉』前で怪獣大決戦をしているせいで一時的に全員がそれを見る雰囲気になっていたが、我に返ったのは『シャーク団』が早かった。
「グレンさん!」
レオナに引っ張られることで、なんとか事なきを得たものの、俺とレオナの二人で怪人の相手をするのは、少々、荷が重い。
「てめぇには、さっきの借りがあるからなコラ」
ああ、語尾に聞き覚えがあると思ったが、コイツ『達磨』の指定位置Aのところにいたやつか。
レオナとふたり、集落の建物を盾代わりに走りながら距離を取る。
「必殺、ダブルパイルバンカー!」
どかん! どかん! とシシャモのダブルパイルバンカーが『メガロメガロドン』に決まる。
相当なダメージが入っているが、『メガロメガロドン』は健在だった。
サメ人間たちが鮫島をガードする必要がなくなったためか、戦場が集落全体に広がっている。
本来ならば、ここで『シャーク団』を始末して、五分のリスポーン待機を稼いでいる間に基地に置いてきた『達磨』を運んで距離を稼ぐ予定だったが、厳しくなってきた。
俺のデバフコンボと【神喰らい】で一匹くらいなら倒せると思うが、アレを使ってしまったら、その後が動けなくなってしまう。
だが、やられるよりはマシだ。
ここらが切り札の切り時か。
「グレンさん、サクヤさんたちが『信楽焼の狸』を確保したそうです。
指定位置Aにシャーク団は現れなかったとか……」
『コーラシャーク』から逃げ回りながらも、レオナが情報をくれる。
『幕間の扉』、並びにこの集落内の敵は十五人。
なんらかの要因で『信楽焼の狸』を壊したなら、もう一度確保に来ても良さそうだが、それが来なかったとなると、残りの『シャーク団』はどこに行ったのか?
最低でも『シャーク団』の参加者が俺たちと同人数程度だとして、残りがいるとしたら指定位置Bくらいしか思いつかない。
持って行った先でも、一波乱ありそうだ。
「ゐーっ!〈レオナ、大勢が決したら俺を殺してくれよ!〉」
「えっ!?」
大勢が決した時、恐らく俺は、一度リセットが必要になっているだろうからな。
鮫島はユニーク持ちだと言っていた。
鮫島に喰らいつけば、逆転の可能性はある。
そのために、まずは目の前の『コーラシャーク』を始末する。
『コーラシャーク』はペットボトル入りコーラとサメの合体怪人だ。
鮫頭人身で肩が瓢箪みたいな形になってペットボトルが突き出している。
良く見れば、関節部分にペットボトルキャップ、背中に二本のデカいペットボトルを背負っている。
背びれは後頭部から背中にかけて大きめ、全体がサメ肌で硬そうだ。
走って建物の陰から飛び出し、【野生の勘】の赤い光に注意する。
「はっ、逃がさねえぞコラ! 【噴流嵐刺激】」
黒い液体のビームを、ギリギリで潜って近づく。
肘関節のキャップが外れて、そこからの遠距離攻撃スキルのようだ。
元は魔法攻撃っぽいな。
だが、能力値が倍加されている今は、危険な技だ。
「近づくなんて、馬鹿なやつだなコラ」
『コーラシャーク』のケンカキック。
これも能力値倍加のせいで威力は一撃死レベルだが、ケンカ慣れしていない感がある。
もしくは、普段、雑魚ばかりを相手にしていて、格上に挑まない弊害かね。
見え見えの赤いラインの手前で止まって、空振らせてから、【正拳頭突き】で顎をかち上げる。
「むぐっ……コ、ラ……」
コイツは煮込みからデカいスキル攻撃をもらっているし、『リビコフ二号』のパンチも食らっている。
HPはかなり減っているはずだ。
『昏倒』が入った。
「ゐーっ!〈寝てるなら喰っていいよな。【神喰らい】〉」
俺の右腕が狼頭になって、倒れた『コーラシャーク』の頭を喰らう。
能力値が3上がった。
ユニークなしだったか。
ちなみにサメ頭はコーラ味かと思ったが、そんなことはなく、淡白でほんの少し甘味がある。コーラ味ではなく、コーラ煮?
悪くは無いが物足りない味だ。
『コーラシャーク』が粒子化していく。
「ゐー……〈もう少し、頭使って生きろよ。お前の脳みそ、味が薄いぞ……〉」
食材にひと言コメントをして、俺は鮫島を睨む。
「ゐー……〈はぁ……なんでこの技つかうと、腹が減るんだろうな……〉」
食いでがありそうな『メガロメガロドン』を見て、俺の右腕の狼頭が、ぺろり、と舌なめずりをした。
俺は駆け出した。




