112 side︰レオナ・サクヤ
本日、三話目です。
各指定位置Aでのお話。
side︰レオナ
軽トラックとセダン、二台に分乗して私たちは『繁華街』の外れにあるドラッグストアに向かう。
そこに『招き猫』はある。
私、幹部のジョーさん、PKK部隊のcoinさん、それから、核︰スプーンを預けたコイルさん、核︰金槌を預けた砂場さん、カンスト勢のナックルさんの六名だ。
カウンター要員には、判明している『シャーク団』の基地入口に回ってから向かうようにしてもらっている。
「う、くそ、人が多い……ちょっと大通りは避けますプーン」
カーナビには人通りの多さまで反映されないのが仇となってしまった。
『夜』状況だけど、『雨』状況ならそこまで酷く人通りはないだろうと予想したが、思いのほか人通りが多い。
何かのイベントでもあっただろうか?
自動運転の軽トラックとセダンは一方通行の迷路に入ってしまった。
無為に時間が過ぎていく。
「止めて下さい。車を捨てて走るか、一方通行迷路を出てタクシーを拾いましょう」
全員にチャットを送る。
次に『繁華街』の外れに出た辺りで、タクシーを拾う。
気ばかりが急いてしまうが、夜の『繁華街』など、ヒーローパトロールだらけなので、下手に目立つこともできない。
じりじりとした時間を過ごす。
もうすぐドラッグストアが見えてくる辺りで、カウンター要員からチャットが来た。
ホテル街で敵戦闘員と遭遇、『招き猫』アリ。
カウンター要員はバイクだ。小回りが効いたからこそ、迎え撃てたということだろう。
「ルート変更しますプーン!」
コイルさんがA.I.タクシーにルート変更を指示する。
結果的にカウンター要員が敵一人を倒すものの、敵の一人が変身。
カウンター要員は死亡した。
その後、たまたま近くにいたヒーローが変身した怪人『サメブレイン』を倒したらしいが、『招き猫』はまんまと奪われてしまった。
『サメブレイン』はクラゲのような半透明のサメ頭の中で脳だけが目立つ、サメ人間という形状をしていたらしい。
いきなり切り札を使ってきたのは驚きだった。
私たちは出遅れてしまった。
仕方ない。『死にワープ』を使って、大急ぎで基地へと戻る。
『幕間の扉』で迎え撃ってやる!
でも、感覚設定︰80%の死は体温が低下する感覚や鈍痛を感じて、かなり怖い。
五分間のデスペナがあって良かった。
とてもじゃないけど、こんな顔は人に見せらないわね……。
sideサクヤ
「たぶん、港湾区の『信楽焼の狸』が今回の肝ですよねー。
今回の糸司令もそう考えているようで、オオミ班から三人、こちらに向かっているそうなので、先着すれば奪取しますが、万が一、相手とかち合ってしまった場合、指定物の壊し合いになると思いますー。
ちなみに、ウチの怪人はムサシさんとにゃんこの日さん、ナナミさんの再生怪人ですので、まずいと思ったら躊躇なく変身でいきましょうね〜」
「誰かに見られたりしたら、指名手配ですよね?」
ナナミちゃんはドキドキしているみたい。
最悪の場合、私が責任を持つつもりではいますが、今、ここで言ってしまうと『りばりば』を信用していないみたいになりかねないので、安心材料だけ与えておきましょうか。
「そのための変装ですから、大丈夫ですよ〜。
みんなで目撃者を出さないように充分に注意はしていきましょうねー」
「あ、そうですよね。はい、注意しましょう」
『港湾区』の指定位置Aは廃棄された倉庫の片隅。
車は大型のバンなので、『招き猫』サイズなら問題ないはずです。
おそらく、『シャーク団』と『りばりば』、両者のポータル位置と指定位置Aまでの距離はほぼ同程度でしょうから、移動速度が同じで交通量が同じ程度なら、到着は同時くらいのはずです。
ああ、やっぱり、向こうにヘッドライトが見えましたね。
「同着みたいですね〜」
「へ、変身しますか?」
「パトロールは見えないてぶ。NPCも現状は大丈夫そうてぶ」
「では、私とみるくさん、バリボーさんで『信楽焼の狸』を確保。変身組はいきなりかましちゃいましょー!
運び役は私がやりますねー」
【怪力】【肉体連動】を起動。
これで重量60程度なら一人で運べるはずです。
同時に廃棄倉庫前で車が止まります。
オオミさん、他二名のカウンター要員はバイクなのをいいことに相手のセダン車を囲みます。
あら、不良。
大型バンの停止と共に私たちも動き出します。
私たちの後方からはボランティア戦闘員が静かに止まりましたが、車からは降りません。
いざとなったら車ごとぶつけて『信楽焼の狸』を破壊する方針のようです。
「変身てぶ」「変身カマ」「変身!」
ムサシさんは手袋のゆるキャラみたいな姿、にゃんこの日さんは、鎌の刃を翼のように取り付けた猫人間、ナナミさんは前にも見た『ブラシアラシ』ですね。
「手袋奇術師てぶ!」「カマスコティシュ、カマ!」「ブラシアラシ、ブラ〜!」
さて、指定物は……あ、アレですね!
よっ、という感じで『信楽焼の狸』に抱き着いて、そのまま持ち上げます。
前が見えないので、斜め移動でバンに戻りましょう。
スタスタ、と歩を進めて行くと、突然、破鐘のような凄い轟音が辺りに響きます。
来ましたね。
『シャーク団』のセダン車の屋根を破って出てきたのは五人のサメ人間でした。
「あら〜、ちょ〜っと想定外ですねー。
まさか、全員コア持ちとは……驚きですー」
全体チャットを開いて、状況を書き込む。
レオナさんは自動運転が仇になって初動が遅れていて、ムックさんは既に『達磨』を確保。
敵戦闘員二名を不意打ちで排除したらしい。
お話を聞く限りでは、『繁華街』はシャーク団の方が詳しそうだし、『経済区』は向こうの間抜けなカウンター要員のやらかしっぽい。
最低でも『シャーク団』のコアは八つくらいあると思った方が良さそうだ。
「くっ……【不思議時間】! おい、お前、てぶくろを反対から言ってみろてぶ!」
「はっはっはっ……暢気にクイズしてる場合じゃないガン! 【血と硝煙】ガン」
背びれが頭の先に移動している、ピストルと合体したサメ人間は、指鉄砲から鉛玉を連射する。
『手袋奇術師』は体をグーの形〈受け身だろうか?〉にして転がって避けようとしたが、飛んで来る弾丸の半数が曲がり、『手袋奇術師』を撃ち抜いた。
「ぬっははっ! また、血を流したガン! そろそろ、全弾が追尾弾になるガン!」
『サメピストル』の技は血の分量に応じて追尾弾を放つスキルらしい。
「く……ろくぶて、ろくぶて……時間切れてぶ! 俺が何回、答えを言ったか知っているてぶ?」
「はあ? 何言ってんだこいつガン?」
『サメピストル』が『手袋奇術師』の中指の先、おそらく眉間に指鉄砲をポイントする。
「二十回てぶ。はい、ペナルティてぶ!」
どこからともなく、残念賞という感じのBGMが聞こえる。
でろっでろっ、でろっでろっ、でーん♪
その直後、『サメピストル』は百二十回、見えない何かに叩かれて、大ダメージを負った。
「おぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼ……」
がっくりと膝をつく『サメピストル』。
「油断してんじゃねえソド! 【ひきち斬り】ソド!」
ノコギリ鮫のノコギリがロングソードになったサメ人間が腕に移動した背びれを振ると、衝撃波が飛ぶ。
『手袋奇術師』が引きちぎられたような傷を負って粒子化していく。
私は大型バンに『信楽焼の狸』を積み込むと、他の全員を無視して、車を発進させた。
「逃がさんタコ! 【ソースビーム】タコ」
身体の各関節がタコ焼きになっているサメ人間の肩のタコ焼きから茶色いビームが放たれた。
そのビームは車に積んだ『信楽焼の狸』と私を同時に貫いた。
まずいですね。粒子化していきます。
「おい、ネコ怪人、このタイガーシャーク様とどっちが強いか勝負だヘリ!」
「うっさいカマ! 可愛くない猫に可愛い猫は負けないカマ! 【爪とぎ】カマ」
「俺は格好いいんだヘリ! 【ヘリコプタイフーン】ヘリ」
メカメカしいサメ人間の頭に、プロペラが伸びて、『タイガーシャーク』の頭で回り始めます。
「虎じゃないカマ……」
そのまま『タイガーシャーク』が頭を『カマスコティッシュ』に向けると、竜巻のような風が『カマスコティッシュ』を空へと巻き上げてしまいました。
「部位破損で許してやるヘリ。イベントが終わるまで、そこで寝っ転がって泣くといいヘリ……【誤差数センチ】」
『タイガーシャーク』が両腕を広げると光のミサイルポッドがその両手に握られます。
そこから放たれた光のミサイルが『カマスコティッシュ』の両足を吹き飛ばしました。
私が認識できたのはそこまでで、気付けば基地の中、幽霊状態でリスポーンまでのカウントダウンが私の目に映ります。
───残り2分28秒───
半分は現地で、半分はリスポーン地点で過ごすことになるようですね。
チャットは開いて見れますが、書き込みは出来ません。
ああ、悔しいですね。
まさか戦力をあんなにも集中してくるとは……。
やることがないので、大画面を睨みつけます。
復活。同時に大画面に映る『港湾区』でも『信楽焼の狸』が復活しました。
全体チャットの方では糸司令からボランティア部隊に石を投げるなどしての、指定物の破壊指令が出ました。
サメ人間が『信楽焼の狸』を担ぎます。
もう、ボランティア部隊と動けなくなった『カマスコティッシュ』しかあの場に残っていないようですね。
こっそり近づいたボランティア部隊の一人が投石しました。
カン! と石が当たって、ダメージは入りません。
ボランティア部隊が叫びます。
「参加者以外の魔法文明レギオン員、破壊不可! 参加者以外の魔法文明レギオン員、破壊不可だ!」
同時に、部隊員がサメ人間に消されました。
「はんっ、せこい手を使うソド……」
サメ人間たちが去って行きます。
残された『カマスコティッシュ』はボロボロの手で地面を叩きました。
レオナたちが『死にワープ』を選択したのは、もう間に合わないと悟ったからです。ヒーローとサメ怪人の一騎打ちの現場を遠回りすれば、間に合わず、中を突っ切る訳にもいかず。
シャーク団にとって、繁華街は庭みたいなものなので、道だけでなく混み具合まで計算した動きにやられました。
サクヤたちは、初動こそ満点の動きでしたが、さすがに五人もコア持ちを投入しているとは思わず、どう足掻いても勝てませんでした。
にゃんこの日の部位破損による足止めは、実は『死にワープ』で回避できます。
ですが、にゃんこの日はPKK部隊員。PKにはトラウマがあります。タイガーシャークのPKらしいいたぶり方にトラウマを刺激され現在、リアル混乱中。
シャークネードとシャークトパス出そうと頑張った。
頑張った結果はこれさ……タイフーン使いのヘリ野郎にヤキソバンの技を使うタコ焼き……許したまえ(-人-)




