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本日、二話目になります。
まだの方は前話からお願いします!
『夜・雨』状況。しかも、結構な土砂降りだ。
「おっと、外に出る前にアイテム整理しなきゃなあピロ……」
ボランティアの人間アバターの戦闘員が、わざとらしく言って、核︰枕を捨てる。
「お、これはいいものだからもらっておこう……ピロ」
ムックが茶番劇を一生懸命やっている。
「うん、問題なく使えそうピロ」
使えるのか……。そうなってくると、もう運営がこの茶番劇を見たかったとしか思えなくなってくるんだが……。
「ゐーっ!〈じゃあ、達磨をゲットしに行こうか〉」
俺は本部から預かっている車のキーカードを出して、『りぞりぞツーリスト』を出る。
用意してくれていたのは四人乗りのピックアップトラックだ。
後ろはシシャモ、煮込み、ばよえ〜んの子供組だから全員乗れる。
しかも、このトラックは中古っぽいな。
クラシックカーだ。もちろん、自動運転はついているが、俺は俺の流儀で自動運転を切らせてもらう。
ちょいちょいと動線を弄れば、すぐだ。
ボウンッ! とエネルギーが入ってエンジンが回る。
車体に結構、振動が来るな。
前の持ち主は車好きの懐古趣味だったらしい。
「お、お、お、お、なんだかガクガクしてるけど大丈夫ミザ?」
「ゐーっ!〈本来、車ってのはこういうもんだったらしいぞ〉」
静音振動制御もわざと外してある。
なるほどと煮込みが頷いて、黙る。
俺はゆっくりと車体を発進させる。
目的地は経済区の外れにある神社だ。
スピードを上げていく。自動運転が当たり前のこの時代、手動運転ははっきり言って迷惑だ。
スピードは一定じゃないし、動きは不安定。
やんちゃしてた頃はそれを面白がったものだが、今ではいいことだと思えなくなっている。
それでも、懐かしい気持ちに浸りたい時だってある。
VRドライブゲームとか、散々やったな。
無秩序で無法で、傲慢で無謀は、ストレス発散にはいい。
まあ、『リアじゅー』は普通に警察に捕まったり、ヒーローに注意を受けたりするので、そこまでの無茶はしない。
車好きパパのちょっとワガママドライブくらいに収める。
煮込みとばよえ〜んが会話を始める。
「ばよえ〜んちゃんは友達と流行ってる歌とかなにかあるミザ?」
「アイドルの歌とか、友達は歌ってます!」
「ばよえ〜んちゃんは好きな歌とかあるミザ?」
「私は……うーん……あ、シメシメ団のテーマとか好きです!」
「ゐー?〈なんだそりゃ? そんなのあるのか?〉」
「ああ、あれ……」
シシャモは知っているらしい。
「総合警備会社、シメシメ家のテーマってことになってるピロ」
完全に『シメシメ団』の子会社だろそれ。
「んじゃ、一緒に歌うミザ! せ〜のっ!」
『シメシメ家のテーマ』
家の隙間にシメシメ〜〈シメシメ〜〉
家族の隙間にシメシメ〜〈シメシメ〜〉
お出かけ、声掛け、鍵かけてー
お任せ、ロボ貸せ、安心のー
総合警備は シーメシーメー家〜♪
『シメシメ団のテーマ〈替え歌〉』
闇の隙間にシメシメ〜〈シメシメ〜〉
心の隙間にシメシメ〜〈シメシメ〜〉
酒やけ、声枯れ、カマかけてー
でまかせ、声出せ、お祭りのー
ヒーロー倒すぞ シーメシーメー団〜♪
煮込みとばよえ〜ん、同時にふたつの歌が耳に入ってくる。
なんでCMソングって耳に残るんだろうな。
あと、シメシメ団のテーマは、まんまじゃねえか?
聞けば、表向きには『シメシメ家のテーマ』が流れていて、こっそり裏で『シメシメ団のテーマ』が流布しているらしい。
ここまであからさまだと、ヒーローレギオンが放っておかないと思うんだが、『シメシメ家』は明朗会計、おかしなことなど何一つない会社で、ツッコミどころがないから潰すに潰せないらしい。
優秀な会計屋でもついてんのかね。
興が乗ったのか、車の中は一時的にカラオケルームになっていた。
家族かよ。
いや、家族に偽装中だった。
「パパ〜、なにかパパも歌ってミザ〜」
「私も聞いてみたいです!」
「グレンさん、歌なんて歌うんですか?」
さらっとシシャモに失礼なことを言われた。
「ゐーっ!〈歌ってもいいが、たぶん、全部ゐーに変換されるぞ〉」
「ぶふぉっ! それはそれで聞いてみたいミザ……」
そうこうしている内に、神社が近づいてくる。
ヘッドライトに照らされるのは赤いスポーツカーだ。
こりゃ先を越されたか?
神社の境内を二人の男が、デカい『達磨』をえっちらおっちらと運んでいる。
「達磨ピロ!」
「用意するミザ!」
だが、俺は大して焦っていなかった。
「ゐーっ!〈問題ない。あのスポーツカーには載せられない。周囲の車だけ気をつけて、家族のフリして近づこう〉」
「あれ、イタチさんだ……」
シシャモが一人を指さす。
「知ってる人ですか?」
ばよえ〜んが聞くのに、シシャモは頷く。
「たしか、レベルは130超えてたはずです」
「もう一人は分かるピロ?」
「あまり面識はないですけど、イタチさんの舎弟みたいな人で、それでも100は超えてると思います」
「じゃあ、コバンザメさんは私とグレンさん、イタチさんは煮込みさんとムックさんにお任せしますね」
ばよえ〜んはそっと小さなナイフを握り込んだ。
「コア持ってるのバレちゃうから、お父さんとお兄ちゃん、お姉ちゃんはお口にチャックですよ!」
子供らしい可愛い服にツインテールを揺らして、ばよえ〜んがイタズラっぽく微笑んだ。
「ゐー……〈ばよえ〜んさん、ね……〉」
何故かばよえ〜んが周りから、さん付けで呼ばれる理由が分かった気がする。
シシャモがマスクをして、コホコホとやり始めた。
俺はわざと神社に横付けせず、駐車場に車を入れる。
向こうも俺たちに気づいているのだろう。視線がこちらに釘付けだ。
「ゐー!〈よし、行くか!〉」
ドアを開けて車から降りる。
真っ先に動き出したのは、ばよえ〜んだ。
「お父さん! お兄ちゃん、お姉ちゃんも! は〜や〜く〜! 猫ちゃん、寒い寒いってなっちゃうよ〜!」
少し進んで、その場で地団駄を踏む、ばよえ〜ん。
なるほど、機転が効くじゃないか。
捨て猫を拾いに来た家族ってところか。
俺は車に備え付けの傘を取り出すフリをしてインベントリから傘を出す、変装セットに入っていたものだ。
煮込みとムックは相合傘で、シシャモはゴホゴホ言いながら後をついてくる。
『シャーク団』のイタチたちは、俺たちを見ている。
俺は小走りに、ばよえ〜んを追う。
「もうっ、早くってば〜」
一人先行する、ばよえ〜んがイタチたちの横を通り抜けようとした時、イタチの舎弟〈ばよえ〜ん言う所のコバンザメくん〉に捕まった。
「おい! お前ら、止まれ!」
「え、ちょ……」
「へへ、悪いな。ちょいとこいつをお前らのトラックに載せて、鍵くれや。このガキがどうにかなるとこは見たくないだろ?」
「お、お父さん……」
と言いながら、目線を『達磨』にやる、ばよえ〜ん。
俺は、ムックと二人、『達磨』を運んでピックアップトラックにきっちりと固定させてもらった。
触れると、これが指定物だと分かる。
それにしても、この二人、指定物は参加者しか持てないというのに、ルールをちゃんと理解していないようだ。
馬鹿かな?
コバンザメくん、すげーニヤニヤしてるな。
イタチは煮込みと、煮込みに庇われるようにしているシシャモが逃げ出さないように睨みを効かせていた。
「おら、鍵寄越せ!」
俺はモタモタと鍵どこにやったっけ? という風にポケットを叩いて探すフリをする。
「おい、早くしろコラ……」
イタチが手を出して寄って来る。
コバンザメくんとイタチの距離が離れた。
「えい!」
「えっ?」
ばよえ〜んが動いた。
同時に俺たちも動き出す。
「もう一回、えいっ!」
「ちょ……おい、何して……」
「ゐーっ!〈そろそろウチの娘を離してもらうぞ! 【一刺し】〉」
「うおっ!」
コバンザメくんの脇腹に刺さった蠍尻尾で、コバンザメくんがようやく状況を理解する。
「て、敵!?」
「ありがとうミザ! 包丁【両断刃】ミザ!」
「なっ……」
イタチはいきなり粒子化した。
「あ、兄貴……あ、え、ど、毒……」
コバンザメくんも毒に倒れて、粒子化していく。
ふぉーんっ! とエンジン音がするので、視線をやると、オオミ班の一人、カウンター要員だ。
「少し待って、シャークの増援が来るようなら足止めしておく。お前らはそいつを頼んだぜ」
そう言ってカウンター要員はバイクごと、神社の境内に乗り入れると姿を隠した。
俺たちはピックアップトラックに乗り込んで、基地ポータルへと向かった。




