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110〈はじめてのレギオンイベント〉

また、予約失敗しました 泣

ごめんねぇ。何故か来週の予約になってたんよ(;´Д`)


 ログアウトすると、静乃からメッセージが来ていた。


───最っ高! めちゃくちゃ楽しかった!

 フレンドが三十人、レベルが57になったよ。やはり、私のやり方は間違っていなかった! スリル満点だし、風は気持ちいいし、久しぶりのシャバは楽しいね!

 んじゃ、グレちゃんはイベントだろうから、楽しんで来てね!

 レポート、期待してる!───


 牛丼をかっこみながら読んで、俺は噴き出した。


 フレンド三十人に、レベル57ってどうすればそんなことになるんだ?

 いくら初期はレベルが上がりやすいとはいえ、異常すぎる……。


 だが、楽しかったのか。

 内容は一切伝わって来ないが、楽しかったことだけは伝わった。

 まあ、『リアじゅー』がやりたくて、やりたくて、めったに起きない交通事故に遭った時も身体よりゲームも守った静乃だからな。


 感慨もひとしおというものだろう。


 そうだな。ゲームは楽しむものだ。

 仕事だとか、そういうのは抜きにして、楽しもう。

 少し気負っていたものが楽になった。

 もちろん、勝ちに行く。

 だが、それは俺が勝ちたいから、勝ちに行くのだ。

 社長も部長もバカ息子もどうでもいい。

 今日はたっぷり楽しもう!


 俺は慌てて残りの牛丼を腹に収めると、満を持してログインした。




 いつもの『大部屋』。

 装備部に移動して頼んでいたものが出来たか確認する。

 受け取って、『プライベート空間』へ。


 キウイに鞍と荷車をつけ、他のテイムモンスターたちに、もしかすると出番があるかもしれない、その時はよろしく頼むと頭を下げる。

 荷車に座席をつけてもらった方が良かったか?

 いや、今更だな。


 今日、レギオンイベントに参加するやつらと顔を合わせる。

 半分以上は見知った顔だ。知らない参加者も、幹部や準幹部が多いのだろう。

 結構、話が通じる。ありがたい。

 レオナから事前準備としての説明がある。

 俺とレオナが話していたことだ。


 今回のイベントに先立って、参加者は人間アバター用の変装セットを配られた。

 作業用ツナギやビジネススーツ、俺は何故かボーダーのポロシャツにカーキ色のズボンを渡された。希望者にはメガネやウィッグなども渡される。

 社長の息子に顔を知られているからな。

 メガネをかけておこう。


 これでシティエリアが指定位置に選ばれなかった場合は、今日の記念品だと思って下さいとレオナが言って、全員で、クスリと笑った。


 全部で二十三名。

 俺たちは四班に分かれた。


 俺の班は五名、俺、ムック、煮込み、シシャモ、ばよえ〜んだ。

 おい、俺、完全にお父さんポジだよな?

 だとすると、まさか、ムックがお母さん?

 いやいや、息子だわ。


「ジャンケンで勝ったよ!」


「くっ……こんないじりがい……面白……ええと、にこやか家族やりたかったですー」


 おい、サクヤ、本音だだ漏れじゃねーか。

 レオナは隅で拳を震わせていた。じゃんけんで負けてそれは、本気すぎないか?

 いや、確かに面白画像にはなるだろうけど、そこに入ったら、お前らお母さんポジだからな。


「私がお母さんミザ!」


「ゐー〈いや、どう見ても真ん中の中学生だわ……〉」


「ちくしょうミザっ!」


 真ん中の娘が非行に走りそうだ。


 そうこうしている内に時間が迫る。

 そろそろ録画を開始しよう。

 全員の視線が大画面へと向けられる。

 六時五十分。

 大画面にレギオンイベントの詳細が映し出される。


「地点Aが三ヶ所……」


 やはり、『シティエリア』。静乃の読み通りだ。

 だが、指定位置Aが三ヶ所もある。

 『繁華街』『経済区』『港湾区』。


 指定物は『招き猫』『達磨』『信楽焼の狸』と三種類。

 『信楽焼の狸』だけ、リポップ5分とある。

 破壊前提かよ。

 しかし、『招き猫』『達磨』は破壊不可。

 十分で最適解なんか出るか!?


 指定位置Bは第二フィールドの『第四の島』中央に設置された穴。

 ここに落とした時、最後に触れてたやつの得点になるらしい。


 さらにリスポーン地点の更新オブジェクト。

 『シティエリア』では自動販売機。

 第二フィールドでは岩。

 文字だけの説明だ。これはつまり、自動販売機と岩、全てがリスポーン地点になりうるということだろう。


 最後に制限時間が追加された。

 三時間。

 この三時間の間により多くのポイントを取ったレギオンの勝ちらしい。

 いきなりのルール追加とか運営は何を考えているのか……。

 叱責ものだと思ったが、意外と大画面を見つめる人たちの表情に怒りはない。


「ほら、やっぱり……」「くそ運営らしいわ……」「ああ、今回はそのスタイルね……」


 諦めが大半だ。こういう面での信用がない運営のやり方におおかたの人たちが慣れざるを得ないということか。


「オオミ班を解体。各一名ずつを指定位置A、三ヶ所に派遣。カウンターとします。ボランティアを数名港湾区に派遣、参加者以外でも指定物の破壊が可能か調べましょう」


 糸目の幹部が全体に指示を出している。

 カウンターは言わば敵の足止め役だな。


「レオナ班、繁華街。ムック班、経済区。サクヤ班、港湾区に向かって下さい。オオミ班残り三名はここで待機、状況に応じて派遣します」


 素早い指示出しに呼応した各員が動こうとするが途中で動きが止まる。


「糸さん、ダメだ! ポータルがスタートまでロックされてる!」


 先に現場に行くのも、参加者以外を派遣するのも封じられているらしい。


「くっ……誰かフレンドでシティエリアに行ってるやついないか? 事情を説明して、何でもいいから情報を!

 有益な情報提供者には百万マジカ出す!

 スタート一分前までだ!」


「百万!」「あ、よっちゃんとか雑貨見に出てなかったっけ?」「たしか、マンジのフレンドが……」


 大画面応援組が一斉にざわつきだす。

 中で一人の戦闘員が手を上げる。


「なあ、これ! さっき繁華街のA地点に業者が置いていったのを、フレンドが面白いって自撮り送ってきたんだけど!」


 糸という幹部が確認。少し可視化された画面を弄ると、大画面に投影される。

 そこには二十歳前らしき顔に目線の入った少年が『招き猫』と並んでポーズをとっていた。

 招き猫は少年よりデカい。


「でかっ!」「あれ、運ぶの?」「すげー少年、猫に懐いてるやん」


 メロメロで腰砕けポーズ。手は丸めて肘を縮めて上半身は招き猫を模している。

 仲間うちでは、さぞウケるだろうな。

 お前、バカじゃんとか笑われるやつだ。

 心の中で合掌しておく。

 黒歴史行きだな。


「推定重量60以上、最低二人掛りで運ばないと厳しい。他の指定物も同じような重量物の可能性がある。参加者は留意しておいてくれ。

 それから、現場での行動は諸君ら参加者に任せられるが、こちらのサポート状況はレギオンチャットに、行動指針はパーティーチャットに送られる。なるべくそれを参考に動いてくれ。

 ……そろそろ時間だな。

 それじゃあ、みんな、カウントダウンと同時にいってらっしゃい、だ。

 分かっているな!」


「ヒュー!」「イェーイ!」「いと〜、見せ場だよー!」「頑張れー!」


 何人かから、幹部の糸氏に黄色い声援が送られる。

 意外と人気があるようだ。


「よし、カウントダウンだ。じゅう!」


 大画面に映されるランダムな街の景色が一瞬、止まる。NPCたちが薄れていく。

 雲が急速に流れて、状況が変わっていく。


「くそ! マジか! くそ運営が! ここで状況変えるだと……」


 陽が落ちて、どんどん暗くなり、雨が降り始める。


 応援組がザワつく。


「おい、暗視ゴーグル……いや、怪しすぎる……」


「「なな……」」


「手持ちライトの支給を……」


「糸、そんな時間はありません。あとはこちらで……」


「「よん」」


 声を合わせてカウントダウンのはずが、ぱらぱらと尻すぼみになっていく。


「えーい! 初めての号令でこれか……」


「「にぃ」」


「いちーっ!!!」


 糸氏が声を張り上げる。

 そうか、普段は号令かけるのレオナだもんな。そのレオナが参加者に入っているから、代役に選ばれたのが、糸氏か。


 糸氏の最後の声の張り上げが効いたのか、応援組は見事に声を揃えてくれた。


「「「いってらっしゃい!」」」


 俺たちはその声に押されるように、解放されたポータルを潜った。



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― 新着の感想 ―
[一言] デビュー戦でいきなりのハードモードの糸氏の明日はどっちだ!
[一言] 装備できたりしないかな?
[気になる点] 〉噴飯もの 国語警察みたいで申し訳ないですが、本来の意味は「おかしくてたまらず,口の中の飯をふき出すこと。 ふきだして笑うこと。」という意味なので誤用です。
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