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気がつけば『大部屋』だ。
「ゐーっ!〈くそっ! マジかよ……〉」
大画面では『アンブレミンゴ』が撃たれて、正体を現したところだった。
「ぐえっ! よくぞ見破ったアンブレ!」
『アンブレミンゴ』は片足を上げて、両手を斜め四十五度下方に広げて変身した。
「この命にかけて、貴様を倒してやるアンブレ!」
『アンブレミンゴ』。傘とフラミンゴが合体した怪人で、フラミンゴの細い足は傘の柄の部分のように巻いているし、腕と連動しているだろう翼は蛇腹になっている。
くちばしは金属のようで、ピカピカの銀色に光っている。
全体のピンクな身体と黒い傘が合体した姿は結構なインパクトがある。
───これよりレイド戦に移行します───
───レイド戦ルールにより、NPCは隔離されます───
レイド戦が始まった。
俺の目の前には、ばよえ〜んが復活した。
あれから、死んだってことだろう。
「ゐーっ!〈なあ、ばよえ〜ん。ヒーローって、NPCも撃つのか?〉」
「ご、ごめんなさい。死んじゃった……」
「ゐーっ?〈いや、俺が転んだからな。すまない。それより、ヒーローって撃つのかよ?〉」
「うん。悪を討つには必要なぎせい? とにかく、数人なら殺しちゃっても仕方ないってなるんだって。ふわこうりょく?」
「ゐー?〈不可抗力か?〉」
「うん。それで次から気をつけますって言えば、大丈夫なんだって」
「ゐー……〈そうか……ありがとうな。言われなきゃ客席に逃げてたよ。アイツらだって評判落としたくないだろうから、簡単には撃てないと思っていたが、俺が浅はかだったんだな〉」
もし、客席に逃げて、NPCごと俺が撃たれていたら……今頃、俺は後悔してもしきれない想いを味わっていたはずだ。
けんくんだって憎たらしいし、ぶっ殺すくらいは言うが、本当に殺したいわけじゃない。
もし、俺のせいであのお餓鬼様が死んだりしたら、俺は下手をするとこのゲームを辞めてしまうかもしれない。それくらいに『リアじゅー』のA.I.は生々しさがある。
必死になって俺を止めてくれた、ばよえ〜んには感謝しかないな。
パンパン、と手を叩いて注目を集めたのはレオナだ。
『大部屋』の戦闘員たちが一斉に静かになる。
「それでは皆さん、張り切ってお願いします!
いってらっしゃい!」
レオナの元気な声が『大部屋』に響く。
「「「イーッ!」」」
戦闘員たちが次々にポータルへと飛び込んでいく。
大画面ではNPCが隔離されたことで浮き彫りになったボランティア戦闘員たちが抵抗虚しく、続々と殺されていっている。
そんな中で『アンブレミンゴ』がばら蒔いた復活石からは、武器を持った戦闘員たちが湯水の如く溢れ出てくる。
お、新作の『ショックアロー』だ。
黄色い光の矢が弧を描いて飛ぶ。
飛距離は球場の得点ボードから外野の中頃まで。それなりに飛ぶな。
「さあ、行くのだ戦闘員たちアンブレ!」
わらわらと戦闘員たちが移動していく。
中には俺が知るだけでcoinとムサシがいるはずだが、全員が黒の全身タイツに黒の目出し帽だから、分からないな。
球場全体を考えると、戦闘範囲としてはかなり広いはずだが、戦闘員たちは基本的に一丸となって『マギアイアン』に向かうので、広さはあまり意味がなくなっている。
だが、『マギアイアン』以外の選手たち。
バット型ライフルを持つスターキャッツ選手たちはピッチャーマウンドに身体をさらけ出しているせいで、ちょいちょい『ショックアロー』が飛んでいく。
目の前にいたら、邪魔なやつは排除しておこうという意識が働くようだ。
『マギアイアン』は『アンブレミンゴ』がいる外野席へと跳んだ。
「【バネ式跳躍】とうっ!」
お前はホームランか、というくらいに高いジャンプだ。
「唸れエンジン! 風を切れ! 【悪征流回転蹴り】」
『りばりば』戦闘員たちの真ん中で、回転蹴りが炸裂する。
「「イーッ!」」 ちゅどーん!
蹴りを食らった戦闘員が爆発して、蹴られていない戦闘員を巻き込んでいく。
「どうだ! 【旧式発動機】付きの新キック! 俺のボディも震えるぜ!」
どうにも『マギアイアン』からは『マギハルコン』の系譜を感じる。
少し古いというか、熱気の空回りというか、そういう部分が、俺は嫌いじゃないが今の子たちにはウケないだろうなと思わせる。
「おのれ、ならば俺が相手だアンブレ!」
『アンブレミンゴ』が手、翼、蛇腹を伸ばす。蛇腹の先には傘の骨組みみたいな手がついている。
そこに一人の戦闘員が『ショックバトン』を投げ渡す。
外野席の最上段で『アンブレミンゴ』が『ショックバトン』をバッターのように構える。
階段踊り場で戦闘員の相手をしていた『マギアイアン』がそれを見て、またもや【バネ式跳躍】を使い、少し離れた外野席、最上段へ。
「ふっ……いいだろう。このスターキャッツの臨時エースの球、打てるものなら、打ってみろ! 食らえ、必殺ビーンボール! 【飛鉄拳】」
うん、確実に危険球だ。顔面狙いじゃねえか。
だが、その時『アンブレミンゴ』の眼が光った〈ような気がする〉。
「コースが甘いアンブレ!」
スっと下がった『アンブレミンゴ』が片足を上げる。
「秘技! 【一本足打法】」
カキーン!
おそらく剣技で敵の遠距離攻撃を打ち返す技なのだろう。
【飛鉄拳】は空高く飛んで星になった。
「なにぃっ!」
『アンブレミンゴ』は『ショックバトン』を『マギアイアン』へと向ける。
「マギアイアン、今こそ貴様を葬らんアンブレ!」
おおっと、ここで『アンブレミンゴ』選手の葬らん予告キターーー!
俺の脳内実況者が声を張り上げる。
「ふん、一球打ったくらいでいい気になるなよ……試合は九回裏まで分からないものだからな!」
く……今度は脳内実況者が勝手に実況を始める。
仕事の関係でたまに野球観戦をするから、どうにも擦り込まれているな。
さあ、『マギアイアン』選手。セットポジションから、全身のばねを使うように大きく振りかぶって……【飛鉄拳】投げたー!
またもや、危険球! 跳ねるように顔面へと向かうーー!
「だから、コースが甘いと……言ってるアンブレー! 【一本足打法】」
またもや、またもやの完璧なバッティング!
ホームラン予告に偽りなし!
いや、これはピッチャー返しだ!
葬らん予告はこの狙いだったー!
カッキーン!
「く……【動力回避】」
 
前回り受身のような形で『マギアイアン』がそれを避ける。
それから【急加速】というスキルで一気に距離を詰める。
「【十字受け】アンブレ」
『アンブレミンゴ』が使ったのは前にバルトも使っていた敵の攻撃を吸い込んで受けるという技だ。
『マギアイアン』のパンチが十字に構えた『ショックバトン』と蛇腹腕に防がれる。
「今、アンブレ!」
「「「イーッ!」」」
『りばりば』戦闘員たちがリズム打ちを始めた。
おお、前回の教訓が生きている。
「くそ……まだか……」
『マギアイアン』が言った直後、球場左右のベンチから『マギスター』戦闘員が大量に出てきた。
選手姿ではなく、いつものテカテカ素材の未来服姿だ。
「待たせたな、マギアイアン」「電磁バリケード急げ!」「固まるな! なるべく散開するんだ!」
電磁バリケードと言う二本の棒の間に電磁バリアを張る道具が持ち込まれ、球場のあちこちに棒を突き立てる。
普通に考えたらダメなことだぞ。
球場のグラウンドが穴だらけだ。
「狙え」「撃て!」「隙間を作るな!」
逆転は一瞬だった。『りばりば』戦闘員たちが次々に粒子化していく。
『ショックアロー』持ちたちが対抗しようと散発的に撃ち返すが、弾数が段違いだ。
面の制圧力に点を返しても、『マギスター』側には電磁バリケードがある。
「火星の彼方からやって来た、先史文明の戦士、マッハマーズ!
貴様らに古代からの教訓を叩き込んでやる!」
戦力が逆転したと思った瞬間、得点ボードの上、赤い古代戦士が立っていた。
赤い古代戦士の仮面。朱色、真紅、赤紫などの色使いで全身を覆うスーツとポイントアーマー。サンダルを思わせる茶色と赤のブーツから繰り出されるキックは再生怪人を一撃で葬る力がある。
「ちっ! 今頃、登場とはいい気なもんだな」
戦闘員を蹴散らしながら『マギアイアン』が文句を言う。
「ふん、真のヒーローとは遅れてやってくるものだ!」
「何を……ハイエナならハイエナらしく、俺の食い残しでも漁ることだ! 【両飛鉄拳】」
「はっ! そうはさせるか! 【古代核戦争】」
「「イーッ!」」
「はっ……お前ら……すまないアンブレ」
なるほど、どちらの攻撃も単体用の必殺技か。
戦闘員が身体を張って、それを止めた。
「お前らが必殺技なら、俺も必殺技を使わせてもらうアンブレ! 【桃色の雨】+【実在する恐怖】名付けて、【今日、槍が降る】」
『アンブレミンゴ』の必殺技は幻覚系の技。
それにおそらく昨日見た氷人間〈子供〉の【氷結打撃】のように他のスキルやアーツに上乗せできるアーツ、この場合、おそらく幻覚を実体化するアーツをプラスして、超広範囲に桃色の槍を降らせる技としているらしい。
「戦闘員たちよ! 俺の下へ!」
「「「イーッ!」」」
『アンブレミンゴ』が片足立ちで蛇腹腕、すなわち翼を前で合わせるように広げると、それはまるで一本の傘だ。
最初に集まった戦闘員が『アンブレミンゴ』の足を持って、上に掲げる。
『アンブレミンゴ』の意志を反映するかのように、傘は大きくなって、集まった戦闘員たちを槍の雨から守る。
「ふん、ぬるいぞ、怪人!」
「おい、ヒーローの防御力、舐めてんのか?」
『マギアイアン』と『マッハマーズ』、二人のヒーローは槍ぶすまに身を晒しているが、桃色の槍は「1」点ダメージにしかなっていない。
「俺にはユニークスキルがないからアンブレ……こうでもしないと勝ち目がないアンブレ」
「ぎゃあ!」「避けられるか、こんなの!」「おい、バリケードを上に!」「間に合わねえ!」「HPが……」
しばらくして、球場内にいた『マギスター』戦闘員は全滅した。
後には半分抜かれた電磁バリケードが虚しく、ジジジと雨を弾いていた。
「さあ、我が戦闘員たちアンブレ!
リズムゲームで鍛えたお前らの力を今こそ貸してくれアンブレ!」
「まさか、怪人自ら戦闘員を狙うとは……」
「お前、怪人として恥ずかしくないのか!」
『マギアイアン』と『マッハマーズ』は憤っていた。
まあ、このゲームのお約束を次々に打ち破っている『りばりば』に対応しなければならないんだ、今までの楽勝ゲーム感覚でいられても困る。
というか、俺としてはたった数度の『作戦行動』で見せた動きで、ここまで全体の意識改革が進んだことにびっくりだ。
おそらく、戦争イベントという自分たちの居場所がなくなるかもしれないという危機感が、そうさせているのかもしれないが、普通なら有り得ないことだと自分に言い聞かせておく。
こんな感覚を体感できるのもゲームだからこそなんだろう。
「勝てば官軍、お前らヒーローレギオンの動画を観ているとそれを思い知らされるアンブレ。
自分たちに都合のいい部分だけを流して、プロパガンダを形成するやり口に、いい加減、頭に来たアンブレ。
お前らを倒して、ヒーローだって集団じゃなきゃ勝てないって、俺の中で証明してやるアンブレ!」
もしかして、この『アンブレミンゴ』はヒーローに憧れている?
なんとなく、そう感じた。
ヒーローになりたい、でも現実の厳しさを知ってしまったから、ゲーム内でも悪の戦闘員を選んだ。
身近に敵として見たヒーローに幻滅してしまったのかもな。
ヒーローは、孤高の存在、絶対強者、そうじゃない。
ヒーローだって動画では見せないだけで自分たちのレギオン戦闘員に助けられている。
しかし、それを表に出さないことでヒーローを作り出す手法に、撮影の裏側を見て、ヒーローは役者さんなんだと子供心に知らされてしまったような悔しさを感じているということかもな。
そこからの戦闘は熾烈を極めた。
たった二人のヒーロー。
生き残った『りばりば』戦闘員と怪人『アンブレミンゴ』。
まさに昔観ていたヒーローの生の姿だ。
「イーッ!」
「くっ……まずい……」
「マッハマーズ! 倒れてんじゃねえ! 【悪征流回転蹴り】」
「くそ! 礼は言わんぞ!」
「はっ、そんなもの欲しくてやってねえよ」
「おい、右だ! 【超速攻撃】! 油断するな!」
「食らえ、【カウンターブロウ】アンブレ!」
「弱えぞ、怪人!」
「ユニークは持ってないんだアンブレ!」
「なら、これで終わりだ! 【古代核戦争】」
「ぐはっ! ヒーローめ……これで終わりだと思うなよ……大首領様、バンザーイ!」
爆発が起きた。
───レイド戦を終了します───
───戦争状態における得点を算出します───
───『リヴァース・リバース』2点───
───『マギスター』10点───
「よ! 良くぞ言ってくれた!」
「アンブレミンゴ、かっこよかったぞ!」
「良く頑張った! 感動した!」
見れば『アンブレミンゴ』をやっていたのは三十代後半くらいの男だ。
「負けました。すいませんでした!」
負けたが、少しだけ嬉しそうだ。
最後の最後、ヒーロー二人が、本当の意味で二人だけで戦い、勝った。
そのことが俺たちの胸を少しだけ、じんわりと温めていた。
他の戦闘員たちから歓声が上がる。
『アンブレミンゴ』を責めているやつは誰もいなかった。
そのことが、俺は少し嬉しかった。
【旧式発動機】
代価︰MP15
あなたの放つ攻撃にガソリン漏れ爆発を起こさせる。
爆発はあなたの攻撃力の三分の二のダメージとなる。
・旧式? ポンコツ? いいや、まだまだ現役バリバリだよ。まあ、ちゃんと整備していればの話だ……。
マッハマーズさん、再登場。
ある意味、ヒーローらしいヒーローな人。
悪即斬で「叡智、叡智」と連呼する脳筋。
 




