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【言霊】〈祝い〉をつけた状態で敵と戦ってみる。
雪だるまお化けと氷人間〈兵士〉だ。
雪だるまお化けは硬い雪玉を投げてくる遠距離型で、当たるとダメージは低いもののめちゃくちゃ痛い上に、かなり正確な射撃をしてくる。
「ゐーっ!〈痛えっ!〉」
なんでこんなに痛いのかとログを確認する。
───スノーマンソルジャーの【痛撃】───
───グレンは5ダメージを受けた───
なんだよ【痛撃】って。
リアルでやってる俺にしか効かないやつか。
氷人間〈兵士〉は武器を使ってくる。
今の槍持ち兵士は至近距離じゃなくても攻撃が届くため、前衛のcoinと煮込みは少しだけやりにくそうだ。
結果としては普通に勝てる程度だが、殲滅速度が少し遅くなった印象がある。
「お、レアドロ来たてぶ!」
「こっちも来たミザ!」
「あら、私もレアドロップ出てますねー」
「魔石が二個出てるな!」
やはり【言霊】は運が上がるようだ。
ステータスを確認する。おや? 上がってないな……。
「見てくれ、スキル付きの手袋だてぶ!」
「ムサシ、それ核ミザ」
ムサシが見せてくれたのは雪だるまお化けの手袋でそのまま『手袋』という遺物核だった。
【遠投】という射程を遠距離にして、遠距離の投擲命中にプラス補正がつくスキルが通常のスキル枠とは別に使えるらしい。
この【遠投】スキルは変身時、ムサシのキャラ特性に併せて別のスキルに変化するらしいが、それが何かは変身するまで分からないとのことだった。
「コ、コココ、核てぶ!?」
装備ガチャの当たり枠として、スキル付きのものが当たることもあるとのことで、ムサシはそれと勘違いしていたらしい。
「あら、おめでとうございますー」
「おめでとうございます」
「おめでとうミザ」
「ゐーっ!〈良かったな!〉」
「や、やったてぶ……初めての核てぶ。本当に嬉しいてぶ……」
ちょっとムサシは涙ぐんだ。
煮込みは先輩らしく、核について語る。
「基本的に変身できるのは『シティエリア』か基地内だけミザ。
フィールド内ではイベント時でもないと変身できないから注意するミザ。
普通は基地内で変身して、試しておくものミザ。
初めての変身時、いくつか設定があってちょっと時間掛かるミザ」
なるほど、ムックが核︰枕を渡されて変身した時もしばらく唸ったりしていたが、あれは初期設定をしている間だったのか。
「まさかこんなに劇的な効果が出るなんて……その【古代語】のガチャ魂はユニークですか?」
coinに聞かれるが、俺は首を横に振る。
「確か星4でしたよねー?」
「ゐーっ!〈ああ〉」
「星4ですか……全く出ない訳ではないとなると、下手したら人権スキルですよ」
「ん〜、まだそうと決めるのは早計なのでー、もう少し試してみましょう」
そんな話をしていたら、全員の頭上から『祝い』の状態異常が消えた。体感八分かそこらって感じだな。
「ぐるるるるっ……」
「構えて、ホワイトベアです!」
coinが全員に注意を促す。
「グレン、またアレ頼むミザ」
「ゐーっ! 言祝ぐものなり!〈分かった。【言霊】! みんな、頑張ろう!〉」
文言を変えてみたが、普通に発動するな。
「ま、待ててぶ。敵にも入ってるてぶ!」
「ドロップが上がるだけなら、問題ないですよ!」
coinがサーベル白くまに向かう。
サーベル白くまは突進してくる。
coinはカウンターを狙ったのか、サーベル白くまの肩にメイスを打ち込みながら、盾でダメージを相殺しようとした。
coinのメイスはサーベル白くまの肩から出る突起、肩角と言うべきか? ソレをぶち折る。
部位破損だ。相手の武器のひとつを封じた。
だが、サーベル白くまの突進はcoinの盾を吹き飛ばしてしまった。
「くっ、角度が……」
ガランッ! と吹き飛ばされた盾が壁に当たって落ちた。
「任せるてぶ!」
ムサシのアサルトライフルが面白いようにサーベル白くまに当たる。
大ダメージが出ている。
サーベル白くまがムサシの目の前で立ち上がる。
「爪攻撃ミザ!」
煮込みが注意喚起する。
ムサシは身体を投げ出して、左にローリング、サーベル白くまの射程から逃れる。
サーベル白くまの爪攻撃は地面を抉るだけに終わった。
「もらったてぶ!」
ムサシがアサルトライフルを構えた瞬間、サーベル白くまが抉った地面の土が、たまたまムサシの顔面を襲った。
「ぶあっ……目に……」
「これ、お互いにクリティカル出しあってる状況ミザ! グレン、まずいミザ!」
「ゐーっ!〈くそ! 【正拳頭突き】〉」
俺は頭から突っ込む。『昏倒』が入れば、態勢を立て直せる。そう信じて突っ込んだが『昏倒』は入らなかった。
サーベル白くまの腕に叩かれ、俺は掬い投げのような格好で宙を舞った。
地面が遠い。叩きつけられても、これだけ雪が積もっていれば、そこまでのダメージにはならないはず。
そう思って、空中でなんとか体勢を立て直す。
「グレンさん!」
目の前に貴族屋敷の壁に設置される泥棒避けの鉄柵。天に向かって槍が並んでいるように設置されているソレが迫っていた。
「ゐーっ!〈【緊急回避】〉」
ギリギリで俺は地面に落ちた。
めちゃくちゃ怖ぇ……。
「【両断刃】ミザ!」
煮込みの必殺スキルがサーベル白くまを真っ二つにした。
「くそ、片目潰れたてぶ!」
「盾、壊れました……」
「咄嗟に必殺スキル使っちゃったミザ……」
「これはー、ダメですねー、かなり時と場合を選びますねー」
敵を言祝ぐのはダメだ。めちゃくちゃ危ない。
俺たちは回復を重ねて、【言霊】を検証した。
そうして、あれこれやりながら敵と戦いまくったが。
「こ、これ以上の検証は危ないですねー」
「ああ、防寒装備の残りも危ないてぶ」
「ポーション類も限界近いミザ……」
「王城も今日は諦めた方が良いみたいです」
【言霊】検証結果は、俺の声が聞こえたら、聞こえた全員〈俺を除く〉に『祝い』も『呪い』も入る。
囁き声で聞こえていなければ、影響は受けない。
もしくは、耳を塞いでいれば、影響は受けない。
前半は劇的に効果が出たが、後半はそうでもなかったので、効果の出る出ないはかなり波がある。
効果時間はかなり長いものの、味方だけ、敵だけと選別的に掛けられればいいが、そうでなければものすごい泥仕合になる、といったところだろうか。
非常に使いづらい。
対ヒーロー戦では、同レギオンとはいえ、不特定多数が参加する中で使うと酷いことになる。
例え、参加者全員に耳を塞ぐように徹底したとしても、使えて初見の時、一回。
あとはヒーロー側に対策されて終わりだろう。
俺の言葉を全員が理解していればいいが、そうでなければ発動タイミングがわからない。
囁き声で使うにしても、ヒーロー相手にそこまでの接近をするのは至難の技だ。
ある程度、味方を巻き込む前提になるしな。
味方数人に『祝い』を与えるにしても、味方は簡単に死ぬ前提だ。無駄に終わる可能性が高い。
まあ、それでも使わないよりはいいだろうか?
俺たちは王城に届かないまま、今日は帰ることになった。
「それにしても、グレンさんの防寒装備はかなり実用的でしたね」
「NPCの指摘がかなり的確だったミザ。
私も今度からグレンに倣うミザ」
「ゐーっ!〈そういえば、結果的に一度も『寒冷』にならずに済んだな……〉」
『蓑』も補修しまくったがまだ余裕がある。
それから貼る使い捨てカイロが多少の防御力があるのが良かった。カイロが破けることで中の砂が多少ながらダメージを抑える効果があるのが良かったな。
まさに使い捨てだが。氷系ダメージにアニメ的チョバムアーマーのような効果が出ていた。
帰ったらアカマルに礼を言っておこう。
俺たちは『幕間の扉』から帰った。
「ふぅ、なんとか帰って来られたミザ」
「また次回、リベンジしようてぶ!」
「ゐーっ!〈ああ、今回は小麦は手に入らなかったが、色々と実入りは大きかったしな〉」
魔石が合計六個、『サーベルホワイトベア☆☆☆』のガチャ魂、氷のコイン多数、素材も新しいフィールドなだけあって、かなり高額買取してくれるらしい。
そうだ、ガチャ魂を装備しておこう。
完全に死にスキルになっている『ドヴェルグパンピー☆』【装備設計】を外して、『サーベルホワイトベア☆☆☆』を装備する。
・サーベルホワイトベア〈☆☆☆〉
力+5 生命+1 精神-6
【バンパーファング】
代価︰体力-6
口から太い牙が伸びることで前面に、ダメージ肩代わり︰50 の防御装備を得る。
ダメージが超過した時点でこの装備は部位破損として破壊される。
・女王陛下の怒りより生まれた私は、必ずやあの女を殺そう。王子を連れ去るあの憎き勇者を名乗る女を……。
口から牙が伸びるのか……。ダメージ肩代わりで部位破損ってことはどんなデカいダメージも一撃だけ防げるってことだよな。
便利だ。便利だが牙が伸びるのか……。
少々、複雑な心境になるな。
「グレンさん、なんだか面白い顔してますけど、何かありましたかねー?」
サクヤが何かを感じ取ったのか、さっそくいじりに来た。
いや、被害妄想だな。
まあ、スキル字引のサクヤに相談してみるか。
「ゐー……〈いや、さっき手に入れたサーベル白くまのガチャ魂なんだが、少し見てくれるか〉」
俺は可視化させた画面を見せる。
「お、また変なスキルだったミザ」
煮込みがそそくさと寄ってくる。
coinとムサシも気になるのだろう。
まあ、広く知識を募るか。
「バンパーファングってのはあれてぶ。
サーベルホワイトベアのサーベルてぶ」
ムサシが自分の口元から手で牙が伸びる様子を示してくる。
やはり、そうだよな……。
「くくく……やっぱグレンは外さないミザ!
でも、前面だけとはいえ、かなり有能なスキルミザ。
これがあれば、ヒーローへの接近も可能になるかもしれないミザ」
そうか。そういう使い方をすれば、ヒーローへの最接近が可能かもしれない。
【言霊】が生きるかもな。
「良いスキルですね。一撃だけならヒーローの攻撃も防げますよ」
coinも太鼓判を押してくれる。
「うーん、ちょっと待って下さいねー。
えー、これをこうして、こっちを入れてー」
サクヤは自分の画面をいじり始める。
「むむっ……そうなると、吐くしかないですねー……ははぁ、なるほどー」
なにがなるほどなのかと、全員の視線が集まる。
サクヤは自分の画面を可視化して俺たちに見せてくれた。
・氷の彫像〈子供〉〈☆☆☆〉
素早さ+3 知力+3 生命-6
【氷の身体】
代価︰MP-3
あなたは『刺突』『炎熱』弱点を得る代わりに、『寒冷』『氷』無効、『打撃』『衝撃』『爆発』耐性を得て、身体が氷化する。
・女王様は僕たちを生贄にしたって。悪魔の鏡とそういう契約をしたんだって。ようやく王子様が帰ってきて、これからは幸せだねってお母さんが喜んでたのに、なんで?
【氷結打撃】
攻撃︰+10『氷結』 代価︰体力-3
あなたの攻撃は相手に『氷結』を与える可能性がある。
・どうしよう……お母さんが凍っちゃう。僕が触れると犬のジョンも氷になっちゃった。悪魔が言うんだ。元に戻りたかったらゲルダって子に触りなさいって。
【雪煙】
回避︰+5 代価︰疲労+5
あなたはどこでも雪を呼び出して、瞬間的な逃走の助けとできる。
・いやだ! 怖いよ! 隣りの国の軍隊が僕たちを殺しにくるらしい。ゲルダが呼んだって! カイを返せって! カイ王子は女王様の子供なのに!
【雪結晶の身体】
代価︰人間アバター
氷の身体使用時、あなたは死亡から瞬時に雪結晶の身体となってフル回復して復活する。
雪結晶の身体は『炎熱』『打撃』『衝撃』『爆発』の弱点を得る代わりに『寒冷』『氷』『刺突』無効を得る。
・これで終わりだ。悪魔の呪いは空へと消えた。あとはお母さんのところへ行くだけだ。もう身体はすっかり冷たくなったけど、この魂は死んだらお母さんのところへ行ける。
サクヤが見せたかったのは、おそらくスキルではなくフレーバーテキストだろう。
氷人間〈子供〉が恐怖の表情を浮かべているわけだ。しかも、もう救いがない。
「すげーてぶ! サクヤってスキルポイント貯めてるてぶ?」
「まあ、そうですねー。色々持ってはいるんですが、なるべく似た系統は育てないようにしてますねー」
「星3にしては、ちょっと微妙なスキルですね……」
coinが首を捻る。
「スキルというより、あの『寒冷なる氷雪の都』の謎解き要素としてのガチャ魂みたいですねー」
「これ、あそこで出るガチャ魂、全部育てたら、物語が完成しそうミザ」
「ゐー……〈どうにも、やりきれないな……殺してやるのが救いか……〉」
「んー、これだけで全てを理解することはできないですけど、個人的に試してみたいことはできましたねー」
「ゐー?〈試してみたいこと?〉」
「お城の尖塔に登りたいですねー。
まあ、もしかしたら程度の話ですけどね〜」
「ゐーっ!〈なるほど、良くわからんが目的が増えたってことだな〉」
「明日は作戦行動の予約があるから、俺は行けないてぶ……」
「自分も同じくですね……」
「ゐーっ!〈俺も明日は大画面越しだが、作戦行動の行く末を確認しておきたい〉」
「じゃあ、素直に金曜日にするミザ!」
そういうことになった。
シシャモたち第四フィールド組はまだ帰っていないようだが、もう一度フィールドに出るには遅い時間だ。
チャットで先にログアウトする旨だけ告げて、俺は先に上がった。
敵も味方もクリティカル祭りじゃーい!
乱数って怖いよね。
あ、古代語さんはまたしばらくおやすみですw




