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本日、五話目です。
灰色兎が粒子になって消えた後、赤い石が落ちていた。
それを煮込みが拾って、俺に渡してくる。
「お、ラッキー、魔石シザ! はい、あげるシザ」
「イーッ? 〈いいのか? 〉」
「今回は初心者講習ですから、どうぞ。
『レイド戦』で経験値を稼げなかった分、ある程度までお手伝いしますから! 」
まあ、貰えるのなら貰っておこう。
俺は魔石をインベントリに放り込む。
俺たちは薄暗い森の中、道を頼りに奥へと進む。
森の中、時折、銃声が聞こえたり、木々を掻き分ける音がしたり、「イーッ! 」とか「ピココッ! 」とか「ぴぎゃー」やら「グオゥッ! 」やら、結構うるさいな。
道から外れたところで戦ってるんだろう。
俺たちは道沿いに、獲物を見つけて、それが別の誰かの獲物ではないというのが分かったら、時折、狩る。
魔石、肉、毛皮、牙、木の実なんかがドロップとして俺のインベントリに入っている。
木の実は犬くらいある栗鼠の魔物がドロップした。
あれから、何度か『ベータスター』を撃っているが、セミオートは正直、当たらない。
三点バーストなら、それなりというのが実感だ。
「まだ『器用』が低いですから。
人間ガチャでリョースかデック辺りが出ると、射撃に有利なスキルが入りやすいんですけどね…… 」
「まあ、グレンだから、出しても星1で【森の住処】とか【暗視】って可能性もあるシザ! 」
聞けば【森の住処】は森林行動に有利なるスキルで、【暗視】は暗闇を見通せるようになるスキルらしい。
いいスキルじゃないか、と思ったが、【森の住処】は本人のレベルが上がると、そもそも森の狩りだと、あまりおいしくないので、森に行かなくなるし、さらに【暗視】でスキルセットひとつ使うくらいなら『暗視ゴーグル』を買った方がいいと言うことらしい。
煮込みは慣れてきたのか、口調がどんどんぞんざいになるな。
気を使わないで済むのはありがたいけどな。
ちなみにリョースとデックはこのゲームで言うところのエルフとダークエルフのことらしい。
能力値やらスキルやら北欧神話が多いな。
だが、煮込みの使う【両断刃】はギリシャ神話か。
結構、ごった煮で使っているのかもしれないな。
そうして解説を聞きながら進むと、目の前に巨石を集めて造った建造物が見えてきた。
森の木漏れ日に照らされてあるソレは、台形の上に塔が建っているような巨大な建造物だ。
近づいて見上げると、森の木々を飛び越して、かなりの高さになっているように見える。
「ここは、古代の砦跡とされています。
大きく分けて三つのエリアで構成されていて、最初が巨石の迷路、次が石壁の施設、最後が塔ですね! 」
「まあ、最初は巨石の迷路を彷徨いて、レベル上げと魔石集めシザ! 」
煮込みが先頭に立って、進んでいく。
その足取りには迷いがない。
「一番最初に解放されてたエリアで、モンスターも素直な敵が多いですから、何度も来る内に迷路とか覚えちゃうんですよね…… 」
ポップする敵はその都度ランダムらしいので、飽きるまではいかないというのがレオナの弁だ。
ただ、慣れてしまうと物足りないものではあるらしい。
「おっと、敵シザ! 」
少し進んだところで、煮込みが止まる。
煮込みは感知系スキルとか持っていそうだな。
巨石の影から現れたのは、切株を頭に載せた木製ゴーレムだった。
俺は『ベータスター』の三点バーストを後ろから撃ち込む。
ダダダッ! と軽快な音が響いて、木製ゴーレムに当たる。しかし、灰色の文字で1、1、1とダメージ表示が出る。
灰色文字は相性が悪い証拠らしい。
ダメージ半減、その上、木製ゴーレムは防御が固いらしく、1点ダメージだ。
「あらら、敵にも恵まれませんね…… 」
レオナがハンドガンを抜き撃ちにする。
だんだんとレオナも口調が砕けてきたか。
ただ、敵にもの『も』の部分が、ガチャ運のことを言っているのなら、俺としては抗議したいところだ。
灰色文字だが、82点ダメージで、木製ゴーレムはどう、と倒れた。
ええ〜、レオナのハンドガンの方が強いのかよ……と思うが、このゲーム、全てのダメージに『力』と『生命』が乗るらしい。
攻撃の相性と能力値がかなり重要ということか。
頭の中に軽快な電子音が響く。
何かと思えば、今のがレベルアップのお知らせだったらしい。
「イーッ! 〈レベルが上がった〉」
「おめでとうございます! 」
「おめでとうシザ! 」
二人に礼を言って、ポイントの割り振りをする。
『力』と『生命』に1点ずつ、スキルは各スキルに1点ずつしか割り振れないらしいので、【回避】【全状態異常耐性】【夜の帳】に入れておく。
そういえば、【夜の帳】とか使ったことないが、1回試しておくか。
さらに進むと、小鬼とエンカウントした。
「イーッ! 〈【夜の帳】! 〉」
俺の掌から黒い靄のようなものが、生まれる。
それは、人の頭くらいの大きさで、ふよふよと小鬼に寄っていく。
疲労が3溜まった。
「いぎゃーぎゃ! 」
小鬼はこん棒片手にこちらに向かってくる。
その途中、漂う靄をこん棒で殴るも、靄はそのままだ。それを見た小鬼は、靄をひょいと避けた。
避けた!
まあ、人が小走りする程度の速さで迫る黒い靄、普通は避けるよな。
慌てて『ベータスター』を構える。
煮込みは斬撃を飛ばすのではなく、迎え打つことにしたようだ。
代価が重いのかもな。【両断刃】。
「いぎゃーっ! 」
小鬼が振るうこん棒を、煮込みが盾で受ける。と、小鬼の頭がいきなり黒い靄に覆われた。
「いぎゃっ! 」
「お、暗闇に掛かったシザ! 」
そうか、小走り程度のスピードでも追尾するのか。
嫌がらせに最適な感じだな。
小鬼は靄を振り払おうと、頭を振ったり、手で目の前をはらったりするが、一度包み込んでしまえば、暗闇は簡単には取れないらしい。
あっさりと煮込みの剣で、小鬼は斬られるのだった。
「ダークピクシーの【夜の帳】って、初めて見たけど、結構いやらしい性能してるシザ…… 」
「そうね、ダメージじゃなくて状態異常だけだからいいのかも!
フレイムピクシーの【熱血玉】も似たような動きだけど、あっちはダメージと燃焼の状態異常でしょ。武器とかに当たったら、その場で消えちゃうもの…… 」
「あれは肉体の一番近いところを追尾するってのもあるシザ。
グレンのは頭限定追尾みたいだから、余計に小賢しいシザ! 」
「イーッ! イーッ! 〈褒めてんのか! 貶してんのか! 〉」
「いえいえ、もちろん褒めてるんですよ! 」
ふふふっとレオナが楽しそうに笑った。
「目視系の敵にはかなり有効シザ! どんどん使うシザ! 」
まあ、褒められてるんだな。それならいいと自分に言い聞かせる。
そこからはぐんとモンスターとの戦闘が楽になる、なんてことはなく。
何しろ【夜の帳】1発で疲労が3点溜まる。
4発撃ったら、俺の目蓋は今にも上と下がくっつきそうになっていた。
「イー…… 〈眠い…… 〉」
「ああ、まだLv2ですからね…… 」
「いやあ、これは予想外シザ…… つい【夜の帳】の検証に手を出したら、こんなことになるとはシザ…… 」
「イー…… 〈検……なんだって…… 〉」
正直、頭が回らない。バーチャルの眠気ってこんななのか。
ずっと目の前が霧に覆われているような、それより、自分の身体が重い。
一度は攻撃を当てないと経験値が入らないということで、『ベータスター』を使うが、もう三点バーストすら当たらない。
先程から、フルオートで弾をばら撒いてどうにかしている状況だ。
フルオートで弾をばら撒くと、その都度、MPで弾を装填する必要が出てくる。
MP回復ポーションを飲み飲み、どうにか言われた方向に弾をばら撒く。
「せめて、Lv10くらいまで行きたかったんですが、仕方がないですね…… 」
「イー…… 〈すまん…… 〉」
「いえいえ、最初は森で狩りが基本なんですが、私たちがフォローすれば行けると、ここまで来たんです。
なのに、つい【夜の帳】の検証につきあわせてしまったので……こちらこそ、すみません」
レオナが謝ってくるが、何か悪いこととかされたっけか?
言ってる意味もよく分からないので、とりあえず問題ないと手を振っておく。
「とりあえず、今日はリアルでもいい時間ですし、帰りましょうか…… 」
レオナに手を引かれるように来た道を戻る。
「ドロップは適当にインベントリに突っ込んでおくから、後で確認するシザ…… 」
『幕間の扉』を抜け、『りばりば』の秘密基地に戻る。
俺はログアウトした。




