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とある勇者の冒険譚  作者: azl
第六章 帝国での復讐劇
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ビョルケスの夜4

「マンモン、勇者というのは何なのだ?」


 きつく睨み付けるような視線でそう問うファリグ。

 彼の知的好奇心は凄まじい。それこそかつて自分の上司から会議の招集がかかった際、その命令を無視してまで自らのその欲求を満たそうとしたほどにだ。だからこそマンモンが発した勇者という言葉を知らないままにしておくことは出来なかった。彼にとって知的好奇心とは何よりも優先されるべき物なのである。


「おっと、知らへんのか。こりゃ良い事聞いたな」

「知らないから聞いているのだ。御託は良いからさっさと教えろ」

「ただで教えるわけないやん。情報も立派な資源やで」


 卑しい笑みを浮かべながら手で金のマークを作るマンモン。彼の守銭奴っぷりがこれでもかって程に発揮されていた。

 ファリグもそれを見て大層不愉快そうな表情を浮かべるが、マンモンの言う事も一理あると考えていた。だからおとなしくそれに従う事にする。


「仕方ない、払おう」

「お?マジ?」

「嘘は付かない。それで、いくら払えば良い?」

「それは任せるわ。気持ち込めてくれればええねん」


 そう言われたファリグは傍らにおいてあった布袋に手を付けた。

 その中に入っているのはイーナウド硬貨が数十枚。計画遂行のための浮浪者を雇うのに使う予定だった金だが、最早その必要も無いだろう。そう考えたファリグはその袋をマンモンの方へ放り投げた。


「ひー、ふー、みーやー、とー・・・。オッケー、十分やで」

「ならとっとと話せ、夜ももう遅い」

「せやな。じゃあまず質問なんやけど、お前さん六魔公って知っとるか?」


 ファリグにそう尋ねるマンモン。彼はその単語に聞き覚えがあった。


「知っている。確か我らが主が反逆神を滅ぼすためにおつくりになった原初の六人の魔人の事だったかな」


 ファリグがマンモンの質問にそう答える。彼に知らない事はほとんどない、それは彼自身も自負するところであった。だからこそ勇者という”謎”を解明しておきたいと考えていたのだ。知らないままというのは彼のプライドが許さないのである。


「正解や。ちなみに七魔公は分かるか?」

「あぁ、六魔公に我が主と反逆神が行った二度目の大戦の後置かれた世界の管理者を足した呼称だろう」

「正解、ちなみに儂は六魔公の一人の訳やけどその管理者君には会ったことない」

「そうなのか。それで、それが勇者と何の関係がある?」


 ファリグが急かすようにそう訪ねるとマンモンは面白そうに笑った。


「こと知識の事になるとお前さん躍起になるな。じゃあ教えるけど、勇者っていうのはその管理者に近い存在なんや」

「というのは?」

「管理者君は三度目の大戦が起きないよう監視する者。勇者君は三度目の大戦が起きた際、可及的速やかにそれを終わらせるために作られた兵器みたいなものなんよ」


 マンモンがファリグにそう伝える。ここまで一切の嘘は無い、マンモンは金に誠実だった。


「なるほど。そんな存在が現れたらまず間違いなくクーデターは失敗するな」

「やろ?やけど心配は無いと思うけどな」

「何故だ?」

「力を一切感じんからや」


 マンモンがそう言う。

 彼の考えでは、それこそ大戦を終わらせ得るほどの凄まじい力を持つ存在が現世に現れた暁には、まず間違いなく自分は気が付くと考えていた。何故ならそれほどの強大な力となると察知しない方が難しいからだ。そしてそれはファリグも同意見だった。


「まぁ一理あるな」

「やろ?まぁ単純に覚醒がまだなだけでもうこの世界に解き放たれた可能性はあるけどな」

「ふむん、何か特徴とかはないのか」

「あるで。生命力が尋常じゃない」

「それだけか?」

「馬鹿言え、尋常じゃないってのはホンマに尋常じゃないんねん。骨折が一瞬出直るレベルや」

「なるほど、それは尋常じゃないな」


 ファリグが思わずそう漏らす。自分だって中々の生命力保有量であるが一瞬で治る程度の怪我となると精々切り傷くらいであった。要は骨折が一瞬で治るなどありえないのである。

 だからこそ彼は勇者という存在を有り得ない力を持つ存在なのだと認識できた。彼の積み重ねた知識を踏まえた結論だ。


「まぁいないことを祈るとしようか」

「やな、考えるだけ無駄やしな。んじゃ儂は寝るわ」

「分かった。私は少し準備してから眠るよ」


 そう言って二人の夜は終わった。

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