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とある勇者の冒険譚  作者: azl
第六章 帝国での復讐劇
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パレード前日1

お久しぶりです。

 ビョルケスの宿屋のベッドは、恐ろしいくらいの寝心地の良さだった。

 一度寝たら最後、もう二度と起き上がれないんじゃないかと錯覚したほどである。


「お前さ、もっと寝たいなぁとか思わなかったの」


 俺としてはもう少し惰眠を貪るつもりだったのだが、一緒の部屋で寝ていたタイタスだけは違った。

 日が昇り始めるくらいに起き、そのまま宿の食堂へと直行したのだ。

 自分一人だったら何ら問題なかったのだが、タイタスは俺とラスを巻き込んでその食堂に直行しやがった。大変迷惑な話である、なので俺たち二人とも、好き勝手愚痴をこぼしていた。


「いや、分からなくはないがよ。うまい食い物のほうが大事だろ?」

「・・・もっと寝たかったな」


 ラスが恨めし気にタイタスの方を睨む。

 タイタスは何だがばつが悪そうだ。

 ていうか早起きしようが何だろうが、うまい飯にはありつけてたと思う。だってここは宿屋だもの。


「あはは、悪かったよ。次から気を付けるぜ」

「是非そうしてください」


 ラスがそう言って、この話を締めくくる。

 しばらくはこんな風に穏やか?な時間を過ごしていた。


「あの、ネイ様、で宜しいのでしょうか?」


 だがそんな折、俺の耳元に男の声が聞こえてきた。

 その声の主は、昨日俺たちの対応をしてくれた、執事みたいな服を着た従業員の男性である。

 わざわざこんなことを聞いて来るってことは、何か俺に伝えたいことがあるんだろうな。

 若干不安そうな表情なので、少し食い気味に肯定してやった。


「そうですけど、どうかしました?」

「実は、王城のほうから連絡を預かっておりまして」


 王城って言うと、多分依頼関連だろうな。

 おそらくは場所の指定かなんかだと思う。


「その連絡というのは?」

「えぇと、朝食を取り次第、王城に来るようにとのことです。時間の指定は受け取っておりませんので、焦って召し上がる必要はないかと」


 おっと、それは重畳。この絶品たちを味わわずに食べるのは、少々もったいなかったからな。


「分かりました。それじゃあ、朝食後すぐに」

「よろしくお願いいたします」


 そう言って丁寧に腰を折り、食堂を出ていく従業員さん。

 俺は提供された朝食を目いっぱい楽しみつつ、少し身だしなみを整えてから、ビョルケス城へ向けて出発したのだった。



「よく来てくれたのう、ネイよ。儂がお主をここに呼んだのは他でもない、依頼に対する報酬を与える為なのじゃ」


 案内された豪華絢爛な部屋に入って早々、そんなことを言ってきたのは、ビョルケス女帝ミシェルである。

 その傍らにはベルティエさんとアンリさんが控えていて、ふかふかのソファに腰かけていた。

 立ってはいない、文字通り座っている。信頼されているのか、はたまた舐められているのか。まぁ前者ならうれしいけどね。


「と、言いますと?」

「その言葉の通りじゃよ。儂はお主に報酬を与えるため、この城に来てもらったのじゃ」


 そう言うとミシェルさんは、アンリさんを手招きしてこっちのほうに呼び寄せる。


「報酬は前払いじゃ。この国の国庫から一つだけ、好きなものを持っていくがよい」


 おっと、またこの展開ですか。

 ってことは、また七つの神器が眠ってたりするのかね。するんだろうな、今までの傾向的に。


 ちなみにファウスノーで発見した二つの神器なのだが、それらの解析は無事完了している。

 ブーツに”付与(エンチャント)”された属性は”加速励起”、盾に”付与”された属性は”幻影障壁”だった。

 幻影障壁は”黒の障壁”と大体同じ感じの技能であった。なので説明は割愛させてもらおう。

 そして”加速励起”、この技能を一言で説明するなら、止まらずに走れば走るほど、俺のスピードが速くなる技能だ。

 もしかしたら無限の加速度を与える技能といっても良いのかもしれない。もっとも制限がある可能性も否定はできない、今の所その辺よく分っていないのだ。

 ただまぁ、いくら強力な技能でも制御できなければ意味がない。よく考えて扱わないといけない技能なのは間違いないだろう。


 閑話休題。


「国庫ですか・・・。本当にいいんですか?」

「構わんよ。一つなくなったくらいでは、大した痛手でもないしの」


 そう言ってけらけら笑うミシェルさん。

 気前の良い人である。


「その国庫へは私が案内いたします。用意はよろしいですか?」

「問題ありません」

「でしたらすぐにでも参りましょうか」


 そう言ったのは昨日お世話になったアンリさん。

 だけど昨日よりも他人行儀な感じがする。昨日色々あったからなのか、はたまた他に要因があるのか。


 兎にも角にも、その返事に首肯で返した俺。

 そのままアンリさんの後ろについていき、ビョルケスの国庫に向かうのであった。



「こりゃまた煌びやかな・・・」


 もはやそれしか言葉が見つからない。

 見渡す限りの金銀財宝、そして様々な色に光る美しい宝石の数々。一般人では一生働いても手に入らないであろう栄華の極みが、この国庫にはあった。

 フィロンスト王国にも国庫はあったが、豪勢さでは比べ物にもならない。


「先ほど言いました通り、好きなものを一つだけ持って行ってください。遠慮はいりませんので、何でもどうぞ」


 何でも、ね。


『ネイ、分かっていますよね。あの籠手をもらってください』


 だが残念なことに、俺に選択権は初めから与えられていなかった。

 この国庫に入るや否や、ブルーさんがずっと同じことを繰り返し言い続けている。

 文句も無くはないが、否定はしない。俺の目的は魔王を倒すことなので、強くなるのが最も優先するべきことなのだ。目先の欲に眩んではならない。


「でしたらこの・・・、この、黒い籠手をいただきましょうか」

「・・・そんなガラクタで宜しいのですか?遠慮なさらずお好きなものをどうぞ」


 案の定というかなんというか、やはりガラクタ扱いされていたようだ。

 まぁ仕方無いっちゃ仕方無い。歴史がありそうなこと以外、何の価値も見いだせない見た目をしているのだから。


「いえ、これで構いません」

「・・・でしたら宜しいのですが」


 怪訝な目で見られてしまった、あれもこれもブルーさんのせいだ。


『ふんっ、他の女にどう見られようが、私の知ったことではありません』


 お前が良くても俺が駄目なんだよな。

 余りにも他人事なブルーさんに若干の不満を抱きつつ、黒い籠手をもって国庫を出た。


『その籠手の解析につきましては、さほど時間は必要ないかと思われます』

『そっか、そりゃよかった』


 解析に関しては結構な数をやってきたので、少しづつ慣れてきたのだと。

 手元にある神器は計五つ、残り二つは無事見つかるのだろうか。


「さてと、報酬の受け渡しも済みましたし、次は外に向かいましょうか」

「へ、外?」

「えぇ、明日のパレードの警備場所の下見をしましょう。本番は明日ですが、前夜祭は今日から行われています。はぐれないようしっかりついて来て下さい」

「分かりました、よろしくお願いします」

「えぇ、こちらこそ」


 それだけ言ってアンリさんは、ここに来るまでの道を逆行していく。

 俺も黙ってそれについていき、城の外へ向かうのだった。

 ちなみに昨日みたいに迷ったりはしなかった。昨日よりも入り組んでいると思うのだが、流石は城使いというわけか。

次回の投稿は十一月十一日です。ポッキーの日ですね。

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