表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
とある勇者の冒険譚  作者: azl
第六章 帝国での復讐劇
60/69

ビョルケスの夜2

ちょっと短いです。

 人気のない路地裏に、とある裏組織のアジトがあった。

 ビョルケス帝国の監視網をすり抜け結成されたその組織は、恐ろしいほどに凶悪で苛烈な組織であった。


「ひっ、ひぃ~!!金なら払う、だから命だけは助けてくださ・・・」

「お前はそう言われて、一度でも搾取をやめたことがあるのか?」

「はっ、はい。それはもちろん・・・」

「無様だな。貴様のような畜生に、掛ける情けなどない!!」


 刹那、アジトに響き渡った男の絶叫。

 密閉され、風通しが恐ろしく悪い裏組織のアジト、不愉快な音と匂いが何重にも響き、重なり合っている。


「く、貴様っ、私をルーカス商店の長と知っての狼藉か?わしは貴様を絶対に許さんぞ、きっと後悔させてやる!!」


 腹を殴られ、先ほどのビビり腰とは打って変わり、怨嗟のこもった声色でそう叫ぶ肥えた男。

 その両手には手錠が掛けられており、その首元にも黒く頑丈そうな首輪が強引に嵌められていた。


「ほぉ、そんな態度をとるか。折角許してやろうと思っていたのに」


 そしてそんな声で吠えられたのは、少しやせた金髪の男。

 恐ろしいほどに感情がない、子馬鹿にするような声でそう返した。

 右手には両刃の斧が握られており、まるで処刑執行人のような出で立ちだった。


「ッ!?許して下さるのですか?」

「あぁ、もちろん。助けてくださいジョミニ様って叫べば許してやるよ」

「はっ、はい。今すぐにでもぉ!!」


 その言葉を聞いて、肥えた男の顔が喜色に染まる。

 首輪が肉を締め付けることすら意に介さず、稲穂のように首を垂れて言われたとおりに叫ぶ。


「助けてくださいジョミニ様!!」

「・・・駄目だ」


 瞬間、振るわれた両刃の斧。

 肥えた男の首がゴトリという音ともに、アジトの床に落ちる。

 その死に顔は喜色一色で、怒りや憎しみの色など微塵もなかった。

 まさか自分が殺されるなど、考えてもいなかったのだ。


「俺はお前みたいなのが一番嫌いなんだよ。弱者を虐げ、強者に媚び諂うその性根がな」


 そしてその首を踏みつけ、そう吐き捨てた男、ジョミニ。

 他人を殺したことへの嫌悪は微塵もない。強いていうのであれば、流れた血でアジトの床が汚れることだけが、嫌悪の対象だった。


「よぉ、兄ちゃん。正義の執行は終わったかの?」

「・・・マンモンか、何の用だ?」


 だがそんな彼が、特段理由もなく嫌悪する存在がいた。

 ちょうど現れた黒髪の男、マンモンである。

 ジョミニを子馬鹿にするような笑みを浮かべ、ゆっくり階段を下りてくる。


「用なんか無いで、ただ話しに来ただけや」

「ふん、俺は貴様と話すつもりなどない。お前は傭兵らしく、黙って俺の命令に従っていればいいのだ」

「ケッ、まぁええわ。雇い主様がそう言うんなら、黙って従うしかあらへんしな」


 そう言って肩をすくめるマンモン。

 彼はお金が大好きなのだ。命令に反して、得られる金の量が減ってしまうのは、何としてでも避けたかった。


「ふん、ならばいい。奴のようになりたくなければ、黙って私の言う事を聞いておけ」

「えぇ・・・、また殺したんかいな」

「これは正義の執行だ。殺しではなく救済といってくれ」


 そう言い放ったジョミニを、不可思議な物を見る目で見つめたマンモン。

 彼にはジョミニの言っていることが、まるで分らなかったのだ。


「何が違うんや、それ。わしには全く分からんけど?」

「悪人を殺すことは正義なのだ。お前も我々の目的は理解しているのだろう?」

「あぁ。腐敗した上層部を打ち壊すことやろ?」


 ジョミニが満足げにうなずく。


「今の上層部は腐りきっている。不正が蔓延しているのにも拘らず、それを咎めようともしない。そんな腐りきった世界を打ち壊すことこそが、大衆のための正義なのだ。違うかね?」

「・・・よぉ分からんわ」

「だったら黙って俺に従っていればいい。こいつらとは違って、貴様らを虐げたりはしない」


 そう言ったジョミニを、マンモンは嘲るでも同意するでもなく、ただ静かに反芻を繰り返していた。


「・・・まぁええわ。その結末がどんなであれ、金さえしっかり払ってもらえればな」

「それに関しては問題ない。君と俺との約束だ」

「だったら全力で協力しましょ。金の切れ目が縁の切れ目、しっかり頼んまっせ」

「ふん、そこは任せておけ。それじゃあ、そこの死骸の後始末を頼んだ」

「え?」

「頼んだぞ。お前の仲間と協力しても構わない」


 それだけ言って、ジョミニは階段を上ってアジトの地下室から消えていく。

 マンモンは不愉快な感情を覚えたものの、従うほかなかったのだった。

今週末に注射打つので、来週の投稿はありません。

次の投稿は十一月八日の予定です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ