ビョルケスの夜2
ちょっと短いです。
人気のない路地裏に、とある裏組織のアジトがあった。
ビョルケス帝国の監視網をすり抜け結成されたその組織は、恐ろしいほどに凶悪で苛烈な組織であった。
「ひっ、ひぃ~!!金なら払う、だから命だけは助けてくださ・・・」
「お前はそう言われて、一度でも搾取をやめたことがあるのか?」
「はっ、はい。それはもちろん・・・」
「無様だな。貴様のような畜生に、掛ける情けなどない!!」
刹那、アジトに響き渡った男の絶叫。
密閉され、風通しが恐ろしく悪い裏組織のアジト、不愉快な音と匂いが何重にも響き、重なり合っている。
「く、貴様っ、私をルーカス商店の長と知っての狼藉か?わしは貴様を絶対に許さんぞ、きっと後悔させてやる!!」
腹を殴られ、先ほどのビビり腰とは打って変わり、怨嗟のこもった声色でそう叫ぶ肥えた男。
その両手には手錠が掛けられており、その首元にも黒く頑丈そうな首輪が強引に嵌められていた。
「ほぉ、そんな態度をとるか。折角許してやろうと思っていたのに」
そしてそんな声で吠えられたのは、少しやせた金髪の男。
恐ろしいほどに感情がない、子馬鹿にするような声でそう返した。
右手には両刃の斧が握られており、まるで処刑執行人のような出で立ちだった。
「ッ!?許して下さるのですか?」
「あぁ、もちろん。助けてくださいジョミニ様って叫べば許してやるよ」
「はっ、はい。今すぐにでもぉ!!」
その言葉を聞いて、肥えた男の顔が喜色に染まる。
首輪が肉を締め付けることすら意に介さず、稲穂のように首を垂れて言われたとおりに叫ぶ。
「助けてくださいジョミニ様!!」
「・・・駄目だ」
瞬間、振るわれた両刃の斧。
肥えた男の首がゴトリという音ともに、アジトの床に落ちる。
その死に顔は喜色一色で、怒りや憎しみの色など微塵もなかった。
まさか自分が殺されるなど、考えてもいなかったのだ。
「俺はお前みたいなのが一番嫌いなんだよ。弱者を虐げ、強者に媚び諂うその性根がな」
そしてその首を踏みつけ、そう吐き捨てた男、ジョミニ。
他人を殺したことへの嫌悪は微塵もない。強いていうのであれば、流れた血でアジトの床が汚れることだけが、嫌悪の対象だった。
「よぉ、兄ちゃん。正義の執行は終わったかの?」
「・・・マンモンか、何の用だ?」
だがそんな彼が、特段理由もなく嫌悪する存在がいた。
ちょうど現れた黒髪の男、マンモンである。
ジョミニを子馬鹿にするような笑みを浮かべ、ゆっくり階段を下りてくる。
「用なんか無いで、ただ話しに来ただけや」
「ふん、俺は貴様と話すつもりなどない。お前は傭兵らしく、黙って俺の命令に従っていればいいのだ」
「ケッ、まぁええわ。雇い主様がそう言うんなら、黙って従うしかあらへんしな」
そう言って肩をすくめるマンモン。
彼はお金が大好きなのだ。命令に反して、得られる金の量が減ってしまうのは、何としてでも避けたかった。
「ふん、ならばいい。奴のようになりたくなければ、黙って私の言う事を聞いておけ」
「えぇ・・・、また殺したんかいな」
「これは正義の執行だ。殺しではなく救済といってくれ」
そう言い放ったジョミニを、不可思議な物を見る目で見つめたマンモン。
彼にはジョミニの言っていることが、まるで分らなかったのだ。
「何が違うんや、それ。わしには全く分からんけど?」
「悪人を殺すことは正義なのだ。お前も我々の目的は理解しているのだろう?」
「あぁ。腐敗した上層部を打ち壊すことやろ?」
ジョミニが満足げにうなずく。
「今の上層部は腐りきっている。不正が蔓延しているのにも拘らず、それを咎めようともしない。そんな腐りきった世界を打ち壊すことこそが、大衆のための正義なのだ。違うかね?」
「・・・よぉ分からんわ」
「だったら黙って俺に従っていればいい。こいつらとは違って、貴様らを虐げたりはしない」
そう言ったジョミニを、マンモンは嘲るでも同意するでもなく、ただ静かに反芻を繰り返していた。
「・・・まぁええわ。その結末がどんなであれ、金さえしっかり払ってもらえればな」
「それに関しては問題ない。君と俺との約束だ」
「だったら全力で協力しましょ。金の切れ目が縁の切れ目、しっかり頼んまっせ」
「ふん、そこは任せておけ。それじゃあ、そこの死骸の後始末を頼んだ」
「え?」
「頼んだぞ。お前の仲間と協力しても構わない」
それだけ言って、ジョミニは階段を上ってアジトの地下室から消えていく。
マンモンは不愉快な感情を覚えたものの、従うほかなかったのだった。
今週末に注射打つので、来週の投稿はありません。
次の投稿は十一月八日の予定です。