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とある勇者の冒険譚  作者: azl
第六章 帝国での復讐劇
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夜道を歩く

ブックマーク登録ありがとうございます。

 キャバレーで色々楽しんだ後、俺達は夜道を歩いて宿屋へと向かっていた。


「ところで皆様、依頼のほうは受けてくださるのでしょうか?」


 そんな中、アンリさんが不安そうにそう問いかけてくる。

 その答えに悩む時間は必要なかった。その質問に対する答えは、俺の中でもう出ていたのだ。


「俺は受ける」

「おぉ、それじゃあ俺たちも・・・」

「いや、自分の意思で決めてくれ。せっかくだし祭りも楽しみたいだろ?」


 タイタスが言い終わる前に、そう言って遮った。

 祭りを楽しめる機会なんてそうそうないし、普段からこいつらには迷惑かけているからな。

 たまの休日なのだ。三度こいつらの楽しみを奪うのは、俺としては避けたいところであった。


「おいおい、俺たちがいなくても大丈夫なのかよ?」

「ガキじゃねぇんだぞ。安心しろよ」


 がさつそうに見えるタイタスだが、結構気が利く男なのだ。

 割と本心からの言葉なのだろう。

 滅多にない機会なので、俺のことなど気にせず楽しんでもらいたいところである。


「て言ってもなぁ。ラス、お前はどうするんだ?」

「・・・僕は、行ってみたいです」


 遠慮がちにそう答えたラス。

 少しばかり恥ずかしそうだ。

 そしてそれを見たタイタス、にやにや笑ってタスの肩をたたいた。


「お~、そうかい、だったら俺も行こうかな。お前の世話役も必要だろうし」

「いりませんよ」

「馬鹿言うなよ。誰がお前の口を拭くんだ?」

「・・・チッ」

「おいおい、不貞腐れんなよ」


 そう言われると、流石のラスも黙るしかなかった。

 ただ結局のところ、タイタスは祭りに行く口実が欲しかっただけなのだろう。


「ではネイ様だけがお受けいただけるということで、よろしいですか?」

「あぁ、悪いな」

「いえ、わがままを言っているのはこちらですので、どうぞお気になさらず」

「そう言ってもらえると助かるよ」


 別段不機嫌な様子も見られなかったので、こちらとしては一安心だ。

 相手は皇族の人間なのだ、圧制的に来られようものなら断るのも難しいからな。


「うし、土産はちゃんと買ってくるからよ。期待しててくれ」

「飛び切りいいのを頼む」

「任せときな」


 にやりと笑うタイタスを横目に見ながら、未だ騒がしい夜道を歩く。

 もうすぐ始まる建国祭、その準備は夜間にも及んでいるのだ。


「見えてきました、あちらが宿となっております」


 そう言ってアンリさんが石製の建物を指さす。

 豪華な建造物だった。ランタンの上品な光が、小綺麗な窓から漏れ出ている。


「げっ、高そうな宿屋だな。あんなとこに泊まっていいのかよ?」

「問題ありません。ごゆるりとおくつろぎください」


 そんな二人の会話を聞きながら、宿屋の扉を開いた。


「ようこそいらっしゃいました、どうぞカウンターの方へ」


 そう話しかけてきたのは、この宿屋の従業員さん。

 城の執事みたいな上品な制服を身にまとっている。

 そんな彼の案内に従って、宿屋のカウンターまで歩く。


「アンリです。城のほうから連絡は来ているでしょうか?」

「ッ!?これは失礼な態度を取ってしまい、申しわけありません」

「謙遜しないでください、立派な態度でしたよ。それで、連絡のほうは?」

「これは失礼しました。その連絡ですが、しっかりと受け取っています。今しがたお部屋の掃除も完了致しましたので、すぐにでも案内可能です」

「分かりました、それではよろしくお願いしますね」

「かしこまりました」


 頭を下げながら、従業員さんがそう返事をする。

 そして再び頭を上げると、机の戸棚から一本のカギを取り出した。


「こちらがお部屋の鍵です。105号室となっております。従業員の案内は必要でしょうか?」

「いりません。お前らもいらないよな?」

「おう、流石に迷わねぇだろ」

「ですね」


 俺の仲間たちに重度の方向音痴はいない。

 強いていうなら俺くらいだが、ブルーさんがいるので何の問題もなかった。


「さてと、そろそろミシェル陛下が心配される頃合いですので、私はここで失礼させていただきます」

「そうですね、今日は本当にありがとうございました。一人で大丈夫ですか?」


 一応女性だし、裏組織の話もあるのでちょっぴり心配だった。


「確かにちょっと不安ですね。距離もありますし、よろしかったら一緒に来ていただいても・・・?」

「構いませんよ」

「ありがとうございます」


 そう言ってぺこりと頭を下げたアンリさん。

 別に気にしなくてもいいのにね。


「と、言うわけでお前ら。部屋で待っててくれや」

「まぁいいけどよ・・・」

「僕もご一緒しましょうか?」

「さすがに要らないんじゃないか、多分」

「人の数はそれなりにあります、そう気を使ってもらわなくても結構ですよ」

「だがな~」


 ラスは納得した様子だったが、タイタスはなかなか納得しなかった。

 一体なんでなんだろうね?


『・・・』


 おっと、ブルーさんが何か言いたげだ。

 一体どうしたんだ?


『・・・朴念仁』


 は?朴念仁?

 何で?


『分からないならいいですよ』


 ブルーはそう言ったっきり、俺の問いかけには答えてくれなかった。

 何というか若干の呆れの色が見えた気がする。本当に何で?


「ま、安心しろよ。何とかするって」

「いや、実力の心配をしてるわけじゃ・・・」

「なら断る理由がないだろ?何がそんな気になるんだ?」

「えっ、いや、その・・・」

「何をそんな言い渋ってるんだ?はっきり言ってくれ」

「・・・いや、悪い。お前に任せるよ」


 おっとタイタスも納得してくれたみたいだな。

 たけどその顔色は若干沈んでいた気もする。まぁ気のせいだろう。


「解決したようですね。それではネイ様、行きましょうか」

「分かった」


 頷き返す。

 そのまま宿のエントランスを歩き、その扉を開けた。

 ほのかに暖かい夜風を感じつつ、夜のビョルケスの街に再び舞い戻るのだった。

十月二十五日

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