帝国にて4
「あの、そのジョミニっていうのは?」
聞いたことが無い名前だった。
この国の中では有名人なのかもしれないが、俺はビョルケスの人ではないので、その辺詳しくないのである。
「おっとすまん、おぬしは旅人じゃったな。ジョミニというのは、前帝国近衛団副団長だった者の名前だよ」
「そんな人が裏切ったと?」
「あぁ、大層不愉快なことだがの」
「ふむ、で、その理由は何なんでしょう?」
前帝国近衛団副団長、そんな偉い人がなぜ裏切ったのか?
その理由が全く思いつかない。
「ジョミニはとても欲深い奴でね。自分の欲求を満たすため、不正に手を染めてたのさ」
そんな俺の疑問に答えてくれたのは、現帝国近衛団団長、ベルティエさん。
若干の怒りをにじませながら、ジョミニについて教えてくれた。
「詐欺、脅迫、窃盗、それに暴行。あいつは自分の欲望のため、好き放題やってたんだ。しかも足が付かないよう、自分でじゃなくて部下に命令してね。そして俺たちも奴の実力は認めてたし、やる内容も見逃して問題ない程度のもんだったから、つい最近までは見逃してた。だけどだんだん無視できないほど大規模なものになってきたから、奴の徒党ごと騎士団から追放したんだ。これがちょうど先月のことさ」
「じゃあそのジョミニって人は、追放されたことを恨んでるってことですか?」
「だろうね。逆恨みもいいとこさ」
そう言ってベルティエさんが眉を顰める。
でもどうやってその恨みを晴らすつもりなのか?
少し考えてみたところ、一つだけ心当たりがあった。
「そういえば、新しい裏組織が出来たって聞きましたけど・・・」
「おそらくはジョミニ一派の仕業じゃろう」
「俺もそう考えてる。調査はまだ途中だけど、多分間違いないだろうな」
ミシェルさんもベルティエさんも、同じ考えのようだった。
「ジョミニの奴、あれでも結構人徳があっての。おそらく騎士団の中にも、奴との関わりが続いている者がいるはずじゃ」
「つまりそのジョミニと関りが無い俺たちに、パレードの警戒を頼みたいってことですか」
「その通りじゃ。奴らの目的はおそらく、この建国祭を無茶苦茶にすること。これは我が国の品格に関わるため、絶対に阻止しなければならん。無論、報酬はたんまり払わせてもらうゆえ、前向きに考えてほしい」
「・・・さすがに考える時間をもらってもいいですか?」
俺の一存で決められるような問題ではない。
仲間たちと相談してから決める事案だ。
「今日の夜、こいつが城に帰るまでに決めてくれるかの?」
そう言ってミシェルさんが手招きしたのは、小麦色の髪をした眼鏡の女性。
「アンリです。しばらくの間、よろしくお願いいたします」
その女性、アンリさんは、俺のほうを見つめながら丁寧に腰を折った。
俺もつられて腰を折る。
「どうも、ネイです。よろしくお願いします」
美人には慣れない。
ちょっとおどおどしてしまった。
「宿はこちらで用意しておく。夕食はアンリの案内に従っておくれ」
「分かりました」
「うむ、では機会があればまた会おう」
「はい。それでは」
頭を下げて部屋から出ていく俺たち。
結構緊張したけれど、うまいことやれたんじゃなかろうか。
「それではご案内いたします。はぐれないように注意してください」
「分かりました」
「うし、ラス、はぐれないようについていくぞ」
「・・・えぇ、その通りですね」
お兄ちゃん風を吹かせるタイタス。
お前がだよ、とラスの視線が語っていた。
次の投稿は十月十八日です。
空きます。