帝国にて3
トワーヌさんと別れた後、俺たちは宿泊する宿を探して、ビョルケスを彷徨っていった。
「なかなか見つかんねぇ~~」
当初、俺たちは宿くらい簡単に見つけられるだろうと高を括っていた。
しかし結果はどこも満室、お祭りシーズンというものを軽視し過ぎていたのだ。
「どうしようか、このままだと野宿だぞ」
新しい裏組織の噂もあるし、可能であれば野宿は避けたい。
どうしようかとうんうん唸っていると、後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「お~い、ネイさ~ん!!」
その正体は、帝国近衛団のルイさん。
はぁはぁと息を切らしながら、俺たちの方へ走ってきていた。
「どうしました?」
ついさっき用事があると言ってたけど、もういいのかな?
色々気になってそう聞いてみたのだが、帰ってきた答えはとんでもないものだった。
「実は、ミシェル陛下が城に来るようにと・・・」
ミシェル?知らない名前だな。
『”黒薔薇”の異名を持つ、ビョルケス現女帝です』
はぁ!?女帝!?
何だってそんな奴が俺を呼び出してんの!?
「人違いじゃないんですか?」
「それは私も思いましたけど、ベルティエ団長から直々に聞いたので、間違いないです」
「えぇと、一体全体どんな要件なんだ?」
「なんでも依頼したいことがあるとか」
依頼?
何で俺達なんだ?
「依頼って、俺たちにか?」
「はい。ベルティエ団長が強い人を探してるって言ってたんで、ネイさんのことを伝えてみたんですが・・・」
「だからか」
「はい・・・、っということで、来ていただけますか?」
「女帝直々となると断りにくい。いいよ、付いて行ってやるさ」
「すいません、助かります」
「気にすんな、困ったときはお互い様だよ」
何もルイさんが気に病むことはない。
でも俺の心は緊張でバクバクである、何だってこんな目に・・・。
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「よく来てくれたのう、ゆるりとくつろぐがいいわ」
くつろげるはずがない。
豪華絢爛、その言葉をそのまま可視化したかのようなビョルケス城の一室。
とてもではないが落ち着けなかった。
この部屋にいるというだけで、とんでもない罪悪感に襲われていた。
こんな一市民が入るような場所ではないのである。
そしてそんな場所にいるのは、俺、タイタス、ラス、そして眼鏡をかけた小麦色の髪の女性と、銀髪の男性である。
恐らく後者は、帝国近衛団団長ベルティエ。
ここに来るまでに、ルイさんから聞いた特徴と照らし合わせてみても、ほとんど齟齬がなかった。
でも眼鏡の女性の正体は分からない。
黄金の瞳に小麦色の髪、これに該当する人物のデータはないのだ。
しかしとんでもない美人なのは間違いなかった。
現にタイタスが礼儀正しくしようと必死こいている。
でもこういうのは普段の行いがものをいうのだ。
タイタスの隣に座るラス、その姿は必死に頑張っているタイタスとは比較にならないほど美しかった。
「さてと、では余のほうから、おぬしらを呼んだ要件を話そうかの」
部屋に響いた声。
女帝ミシェル、その姿は彫刻と見間違うほどに美しい。
陶器のような肌、しなやかな両腕、そしてこの世界では珍しい、暗闇のような黒髪。
どんな美術品であれ、彼女の前では霞んでしまうだろう。
「お主らを呼んだのはな、パレードの警戒を頼むためじゃ」
俺たちを見つめ、そう言った女帝ミシェル。
パレードの警戒、そういうのは騎士の仕事ではないのだろうか。
「どうして我々に?騎士のほうが適任な気がしますが・・・」
「うむ、余もそう思う。だがの、今回ばかりはそうもいかんのだよ」
「なぜでしょう?」
そう問い返す。
すると女帝ミシェルは、その美しい黒瞳をすっと細めてこう言った。
「騎士の中には裏切り者がおるかもしれぬのだ。ジョミニのような者共がな」
次の投稿日は十月七日です。
投稿日を月曜と木曜に矯正しようと思います。