帝国にて2
次の次の章が最終章でしょう。
今のうちに行っておくと、いい終わり方はしません。
バッドエンドという意味じゃなくて、物語の締めとしてよくないといった感じ。
「帝国近衛団の方だったんですか!?」
帝国近衛団というと、一人で百の兵に匹敵する者だけが成れるという、精鋭ぞろいの騎士団のことだ。
まさかそんなにすごい人だったなんて。
「新入りですけどね。先月の人員整理で枠が開いたんです」
「へぇ~、それでもすごいことですよ」
「・・・いつも以上に減りましたからね」
「う~ん、寄る年波には勝てない。ってやつですかね?」
「それもあると思うけど・・・」
何かを言いかけたが、すぐに口を閉ざしたルイさん。
まぁ無理に聞いたりはしない。
「ま、色々あるんですね」
「そう、色々。ところでお礼の件なんですが・・・」
「どうかしました?」
「申し訳ありません。私少し用事がありまして・・・。私の部下を呼んでいるので、そちらの方から受け取ってください」
そう言ってぺこりと頭を下げたルイさん。
そこまで気にしなくてもいいのにね。
「いえ、気にしないでください」
「そう言ってもらえると助かります。それでは私はこれで」
「あ、一つだけ。部下の方はどちらに?」
「もうすぐこちらに来ると思います」
「分かった。お仕事頑張ってね」
「はい」
そう言ってルイさんは街並みの中に消えていく。
方角的には・・・、お城かな?
まるで要塞みたいな、いかつい見た目だが、それと同時にフィクションのような美しさも放っている。
「綺麗な城だな」
「はっ!!ビョルケスの民として、嬉しい限りでありますっ!!」
「うおっ!?びっくりした!!」
いきなり後ろから話しかけられて、うっかり飛び上がってしまった。
現れたのは金髪の男。
年齢は結構若そうである。
「これは失礼いたしましたっ!!私は、ビョルケス騎士団所属、トワーヌともうします!!」
「あなたがルイさんの部下ですか?」
「はいっ!!」
そう言って大きな声で返事をするトワーヌさん。
何というか、元気な人である。
「ルイ様からお礼の品を預かっています。こちらですっ!!」
そう言って差し出されたのは、黄金色に輝くネックレス。
その中心にはさまざまな色の宝石がはめられており、日光が反射してステンドグラスのようになっていた。
ていうかこんなの頂けるわけがない。
流石に高価過ぎる。
「これはちょっといただけませんね」
「えぇ、ですが受けた恩を返さないわけには・・・」
困った困ったと頭を悩ませるトワーヌさん。
さて、どうやってこの場を収めようか。
そう考えていたのだが、事態の収束は思ったよりも簡単だった。
「ぐうううううう」
何処からか鳴り響いた腹の虫。
「いやぁ、悪いな。朝からなんも食ってねぇから」
その正体はタイタス。
まぁ確かに俺も腹が減っているけど。
・・・そうだ、良い案があるじゃないか。
「じゃあ、お昼奢ってもらうってのはどう?」
「え?」
「いやさ、そのネックレスの代わりに、昼ごはん奢ってほしいなぁって」
「そんなことでいいんですか?」
「いいよ、まぁ、お金あるならでいいけど」
「問題ありませんっ!!後でルイ先輩から徴収するので、大丈夫です」
「ハハハ、そりゃあいい。飛び切りうまいもん食べに行こう」
「じゃあ、服屋の横にあるパスタ屋さんに行きましょう」
「分かった」
俺たちはその店が何処にあるのかわからないので、トワーヌさんの後ろについていく。
都市の喧騒を掻き分けながら、そのうまいパスタ屋さんに向かうのだった。
・
・
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「美味しいね、このパスタ」
「でしょう?」
トワーヌさんが嬉しそうに答えてくれた。
やってきたのはさっき言っていたパスタ屋さん、ちょっと値が張るけれど、今日は気にしなくてもいい。
「あぁ、こら。お前、落ち着いて食えよ」
「・・・」
上手いものは人を黙らせる。
ラスはケチャップナポリタンを、無言でパクパク食べていた。
だがそのたびに口元周辺が赤く汚れていく。
隣に座ったタイタスが、布巾をもってふきふきしているものの、すぐに汚れていくのできりがない。
「しっかし凄い人ですね。いつもこんな感じなんですか?」
「いえ、普段はもう少し少ないです」
「じゃあ建国祭の影響ですかね?」
「おそらくは」
高級レストランだというのに、辺りの席は満席だった。
いやはやこれがお祭り効果ってやつなのかね。
「明後日だもんね。俺たちもちょっと寄っていくかい?」
「お、そりゃあいいね」
「・・・(コクコク)」
『まぁいいんじゃないですか。たまには休息を取らないと』
ブルーさんの許可も出たし決まりだ。
そう思って心躍らせていたのだが。
「・・・気を付けてくださいね。今回の建国祭、ちょっと事件が起きるかもしれません」
「どういうことだ?」
トワーヌさんが小声でそんな忠告をしてきた。
ちょっと気になったので、俺も小声で聞き返す。
「実はビョルケスの街に、新しい裏組織が出来上がったみたいで」
「裏組織?」
「はい。今の所は被害もなく、噂話の域は出ませんが、一応ね」
「・・・ま、気を付けておくさ」
裏組織ねぇ。
ま、騎士たちもいるし大丈夫、かな?
「ま、今気にしても仕方ないね」
「・・・確かにその通りですね。問題は起きてから考えましょう」
「それがいいね。パスタ、うまかったよ。ごちそうさん」
「はい、私もご一緒できてうれしかったです」
そう言って椅子から立ち上がった俺たち。
その後トワーヌさんにお金を払ってもらって、レストランをあとにした。
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白亜の彫刻、美しい絵画、光を受けて煌めく金銀財宝。
ビョルケス女帝、ミシェルの一室にて、二人の男女が会話を交わしていた。
その正体は、帝国近衛団団長ベルティエ。
そして現ビョルケス女帝、ミシェルその人である。
「して、有能な人材は見つかったかの?」
「えぇ、部下が見つけてきましたよ」
ミシェルの疑問に一切怖気ず答えたベルティエ。
彼らの付き合いは非常に長く、もはや親友と呼んでも差し支えないほどであった。
「ネイ、という名だそうで」
「一人だけか?」
「いいえ、何人か」
「・・・実力は信用できるのかの?」
「出来ます。火炎鳥の討伐に成功しているようです」
「であれば異論はない。至急呼んできてくれ」
「分かりました。部下に伝えておきます」
「うむ」
ベルティエが立ち上がり部屋から出ていく。
それを見届けたミシェル、天下一のその美貌に、黒い影が射し込んでいく。
「さてさて、何を企んどるのかはわからんが、全て無駄なことと悟るがいいッ、ジョミニ!!」
ミシェルが一人そう叫ぶ。
幾千年、帝国を守り続けてきた生ける伝説、ミシェル。
彼女は今、新たなる危機に直面していたのだ。
次の投稿は十月六日だと思われます。