夜山を駆ける
冗長になりすぎた気もしますが、具体例の提示は必要だと思うのでこのままいきます。
少々単語が多いので、少しでもわかりやすくなるように最低限のものを解説します。
”職業”:その人物の職業を指す。
”経験”:その人物が今まで積んできた経験をさす。experienceではなくlevelです。
”技能”:”経験”を積むことにより、獲得できる。”職業技能”と”基本技能”の二つがある。
太陽が落ち、三日月がその美しさを表し始めるころ、木々生い茂る山を下る影があった。
この少年の名前は、ネイ。
この少年、なぜわざわざ夜に山を下りるのか?
夜逃げの最中…ではない。
彼は自らに課された使命である魔王討伐のため、こんな夜中に山を下っているのだ。
だが、こんな月明りだけが、足元を照らしているこんな夜中でも、彼の足取りはしっかりしている。
いったいどうしてなのだろうか?
それを知るためにも、彼に語り手の座を譲るとしよう。
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しかしブルーの能力はすごいな。
周辺の地形が手に取るようにわかる。
段差や、ぬかるみもすべて事前に察知できるのだ。
これのおかげで、高いところから落ちたり落とし穴に落ちたりはなくなることだろう。
「確かにこの能力は非常に便利です。ですが、察知できる距離には限界があります。あまり過信しないでくださいよ。」
「わかってるって。ただそれでも、周囲の地形が分かるっていうのは素晴らしい能力なんだよ。」
ちなみに、わかるのは地形だけではない。
周囲の生命体の場所もわかる。
これにより、奇襲の心配はなくなるわけだ。
だが、俺には少し気になることがあった。
俺が村を出る前、”世界の声”なるものが聞こえたのだ。
いままであんな経験はしたことがない。
もう少し詳しく知りたくなっていたのだ。
「あの声を聴いたことがない人間がいたことに驚きましたよ。本当に聞いたことがないんですか?」
「本当だ。嘘はいっていない。」
「つまり、いままで”技能”を習得してこなかったってことですか。・・・ということはネイ、スキルがどんなものか知らないのですか。」
聞いたことがないな。
そういえば、村に出る前にスキルがどうのこうの言ってた気がするけど…
「あなた、世間知らずにもほどがありますよ。スキルを知らないってことは、もしや”アビリティボード”もご存知ないのですか?」
「あぁ、今初めて聞いたぐらいだ。どこにでもあるものなのか?」
「当然です!!どんな田舎にも最低一つはあるでしょう。」
「そうだったのか。・・・まぁ、俺の村は田舎じゃなくて、ド田舎だからな。それよりさ、その、アビリティボード?っていうのを教えてくれよ。」
「わかってますよ。いいですか、アビリティボードっていうのは・・・」
村長の話並みに長い話をまとめるとこうだ。
アビリティボードで確認できるのは、”職業”、”称号”、”技能”、最後に”名前”の4つだ。
ただ、アビリティボードにも性能差があるらしく、ものによってはさらに詳しい情報を確認できるらしいが、今回は割愛する。
ではアビリティボードで確認できる情報について説明しよう。
まずは”職業”だな。
これはその名の通り、その人物のついている職業を表す。
例えば、”木こり”だったり、”農民”だったり。
後、職業じゃない気もするけれど、”遊び人”とか”ばくち打ち”とかいうのもあるらしい。
職業は、日々の行動によって、勝手に決められる。
毎日木を切っていれば木こり、畑を耕していれば農民。といった感じだ。
で、この”職業”とはいったい何なのかというと、後で説明する”技能”と密接に関係してくる。
なんでも、”職業”の”経験”を積むことで”技能”を獲得することができるそうだ。
とりあえず詳しい話は後回しにして、次は”称号”だな。
これは、ほかの二つと違って、戦闘に役立つといったことはない。
いわゆる通り名とか、身分証明のような役割を果たすそうだ。
先程、どんな田舎でもこのアビリティボードはある。とブルーが言っていたが、その大きな理由がこの身分証明だ。
なんでも、このアビリティボードを誤魔化すことはできないらしい。
この”称号”の情報の中に、目には見えない記録として、犯罪歴だとか、いままでの経歴が記録されているらしく、嘘をついた場合それを知らせる仕組みが内蔵されているそうだ。
これらのことから、防犯にとても役立つことが分かるのだけれど、なぜかうちの村にはないんだよな。
山の中だからいらないと判断したのか、あるいは単に手に入らなかったのか。
・・・まぁ、考えても正解は分からないな、この話はここまでだ。
最後に”技能”だな。
これは、いままで積んできた経験をデータとして可視化したものだ。
具体例を挙げると、”剣術”、”槍術”、”火炎魔法”とかだな。
勿論ほかにもたくさんある、それこそ挙げていたらきりがないほどだ。
で、先ほど挙げたのは、スキルをまとめた箱の名前のようなものだ。
さらにその中から、下級、中級、上級に分類され、それぞれ”経験”を積むことで”技”を習得することができる。
これらの”技能”は、一般的に”基本技能”とよばれていて、先ほど話した”職業”とはあまり関係ない。
遊び人だろうが、農民だろうが、経験さえ積めば習得できる技能、そういったものが、”基本技能”と呼ばれる”技能”だ。
では、”職業”の”経験”をつむことで、獲得できる”技能”は何と呼ばれるのかというと、”職業技能”と呼ばれる。
この”職業技能”も”基本技能”と同じように、種類がある。
”主技能”と”副技能”だ。
それぞれの例を挙げると、”主技能”は、”筋力増幅”や”魔力増加”、”副技能”は、”兜割”や”十文字切り”とかだな。
”主技能”は、身体強化系、”副技能”は、”技”が多いらしい。
そして、”職業技能”の特徴として、”主技能”はそれを獲得した職業でしか使用できないというものがある。
具体例を挙げると,”木こり”の経験を得ることで取得できる”腕力増強”という”主技能”は、”遊び人”に転職すると使用できなくなる。といった感じだ。
”副技能”にはこういった制約はない。転職しても使えるそうだ。
で、こういった”技能”をどうやって習得するのかといえば、先ほど言った通り,”経験”を得ることで習得できる。
この”経験”はその名の通り経験を積めば得られるそうだ。
つまり強くなるためには、”経験”を積んで、”技能”を習得する。これだけだ。
わかったかな?
俺としては頑張ってまとめたつもりだ。
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俺の考えをまとめ終わって少し経った頃思い出した、一つ気になることがあったんだ。
「なぁ、俺が守り神と話してた時にさ、ちょっと気になることがあってな。なんでかわからないんだけどあいつ、俺が勇者だって知ってたみたいなんだよね。問い詰めたかったんだけど、逃げられちゃって、何か思い当たることはないか?」
「まったくありません。それよりも、あなたが勇者・・・いいえ、厳密にいえばまだあなたは勇者じゃないですね。これから経験を積むことで勇者の素質を開花させるんですが・・・まぁ、いいでしょう。で、その守り神ですか?そいつは本当にあなたが勇者の素質を持っていると知っていたんですね?」
「あぁ、多分間違いないぞ。うっかりもらしてたし。」
蒸し返そうとしたら逃げられたところから考えても間違いない。
「そうですか、少しばかり異常です。それこそ、超常的な観察眼がないとそんな芸当不可能・・・いや、私の念話でさえ、割り込めないほど強力な回路を形成しているようでしたし、おかしくはない?しかし・・・」
まただ、すぐ自分だけの世界に突入するんだよな。
っていうか、気になる単語があったな。
”念話”。しかも割り込めないとかどうとか言っていた。
ブルーさんには悪いが、この疑問を解決せずにはいられない。
「ねぇ、念話ってなに?俺、そんなもの知らないんだけど。教えてくれよ。」
「あれ、話してませんでしたっけ?今こうしてあなたと私が話しているのは、”念話”によるものなんですよ。」
「今初めて聞いたぞ・・・。じゃあ、割り込むってどういう意味だ?」
「簡単です。今は私とあなただけで会話していますが、この会話の中に無理やり入り込んでくることです。私が今使っている”念話”ですけど、これは魔法の一種でして、魔法は魔力の操作技能や魔力量の差があまりにも大きい場合、発動の妨害ができます。自分で言うのもなんですけど、私の操作技能も魔力量もかなりのものです。それの侵入を防ぐということは、相当異常な事なんですよ。」
ブルーさんが世間的にみて、どの程度の実力なのか。
今の俺には推し量ることはできないが、自分の実力によっぽど自信があったらしい。
しかし魔法か。
まさかこの世界がこんなにも、物語みたいな世界だとは知らなかったな。
いや、厳密にいえば、スキルのくだりで”火炎魔法”を例に挙げたな。
この世界に魔法があるという話を聞いたときは、とてもうれしかった。
なにせ、魔法という存在に一種の憧れを覚えていたんだ。無理もないだろう。
ただ、魔法を知らないって言ったら、絶句されてしまったけどね。
「何を言っているんですか!!言葉も出ないに決まってます。魔法を知らないっていうのは、剣の振り方を知らない、ってのとほとんど同じレベルなんですよ!!」
だってしょうがないじゃん。今まで見たことも聞いたこともなかったんだもん。
悪いのはどう考えても俺じゃない。あの村だな。
「知らないもんは知らないんだよ。俺は悪くないぞ!!・・・それよりもさ、魔法について詳しく教えてくれないか?」
「まさかこんなことを教える羽目になるとは思いませんでした。当然ですがあまり難しい話ではありません。魔法を扱う上で大事なのは、魔力操作技能と魔力量の二つだけです。これらの、レベルを得ることで、スキルの系統の一種である”魔法”が解禁されます。魔法のためのレベルを得るには、毎日魔力を放出したり、魔力の動きを操作できるように練習を積めばいいんですけど・・・残念ながら、あなたからはびっくりするぐらい魔力を感じません。あなたが魔法を扱うのは絶望的ですね。諦めてください。」
「うん?ちょっと待ってくれ!!俺が魔法を使えないってどういうことだ!!憧れてたんだぞ?何とかならないのか?」
「無理です。ただ、一つだけ使えそうな魔法はありますが、今すぐは不可能です。気長に待ってください。なるべく早く解決させます。」
「あるじゃないか。びっくりさせないでくれよ。」
「ん?あぁ、この魔法というのはあなたが考えているような、やれ大きな炎だの、荒れ狂う雷だのではありません。身体強化の魔法です。多分どうあがいてもこれが限界です。あなたの、雀の涙よりも少ないこれっぽちの魔力では、いくら私でも無理です。むしろ、この微弱な魔力を身体強化の魔法へと流用できる私の技能をほめたたえてほしいぐらいです。まぁ、気長に待っていてくださいよ。」
「フフ・・・あぁ、頼りに・・・しているよ・・・。」
「なに泣きそうな声してるんですか?今の今まで魔法について知らなかったくせに。あぁそうだ、一つだけ注意してほしいことがあります・・・って聞いてるんですか?あらら、ショックのあまり聞いてなさそうだ、心此処にあらずってやつですね。まぁ、魔法の開発に成功したら話したらいいですね。」
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先ほどの悲しい宣告から少し時間がたった。
魔法が使えるだけありがたいということにしておこう。
悲しいけど。
さて、俺が村を出てからかなり時間がたった。
村を出るころに、きらきらと輝いていた三日月は沈みかけ、太陽が少しだけ頭をのぞかせている。
そろそろ、山を下り終わるんじゃないかなと考えていちょうどその時だった。
「ネイ、あれを見てください。草原が見えてきました。」
「ん?・・・すごいな。」
言葉を失うような、美しい景色がそこにはあった。
なんというか、草ばっかりだな。
「フフ、やっと出てきた感想がそれですか。もう少し良い表現はないんですか?」
うるさいやい。
この美しさを、表す言葉が見つからないだけだ。
「まぁ、いいでしょう。まずはこの平原を突っ切って、フィロンストへと向かいます。さぁ、時間がありません。急ぎましょう!!」
・・・ちょっと待ってくれ。
今の発言のおかげで、一番大切なことを確認していないことの気付いた。
というか何でブルーも気付いてないんだよ。
「ブルーさんブルーさん。よく考えたら俺、魔王を討伐しに行くとは聞いたけど、どこに行くのか全く聞いてないんだけど?」
「?別に知らなくても問題ないのでは?私が要所要所で伝えますよ。」
なかなか面白い考え方だな。
俺にはね、心の準備というものが必要なんだよ。
「いや、そういうことじゃなくて、熱いとか寒いとかさ、あるでしょ?人間にはね、心の準備が必要なの。」
「理解しがたいですね。熱いか寒いかですか、いいでしょう。教えてあげます。普通でジメジメしていて暑くて寒くて暑くて最後に寒いです。覚えましたか?それとも地名も言いましょうか?」
やはり俺の感じていた予想は正しかったようだ。
こいつろくな奴じゃないな。
自分さえわかってればそれでいいみたいな考え方だ。
少々の不安を感じた。
だがそれ以上に、これから出会える新しい出会いに心躍らせたのだった。
次回から2章です。
一人称と三人称を統一したほうがいいという意見をいただきました。初めての感想でうれしかったです。
これからしばらくは一人称視点になります。具体的にいえば、主人公がその場にいれば、一人称です。
いない場合は、三人称になると思います。
最初の8行ぐらいで、いきなり約束が守られていない。と思った方もいらっしゃると思います。
これについては理由が付きますので、安心してください。
2章からは戦闘シーンも出てきます。
私は一度も戦闘シーンを書いたことがありません。
ですから、ここをこう改善したほうがいい、ですとかここが分かりにくかったなどありましたら、ぜひ感想などで送っていただけると嬉しいです。
勿論改善点以外の感想でもうれしいです。