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とある勇者の冒険譚  作者: azl
第五章 雪原地帯での謀略
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決着2

 火宅勧請導は肉体に外傷を与えるものではなく、取り込んだ相手の精神へ攻撃を行う技能(スキル)となっている。

 作り上げた空間で精神を蝕み、ゆっくりと自分の言葉に恭順な人物へと作り替えていくのだ。


 これを凌ぐには、自分の精神を強固なものにするほかない。

 迷いが多ければ多いほど、精神が脆ければ脆いほど、見せつけられる光景は、より凄惨なものへと変わっていくのだ。


 この技能の恐ろしいところは、支配した相手への必要リソースが、恐ろしいほどに少ない点だ。

 魔法によって無理やり従わされるのではなく、自身の意思によって従っているため、一声かけるだけで命令が実行できる。


 幻覚を見せ、揺さぶり、最終的に打ち壊し、心を塗り替え、恭順な生物へ作り替える。

 それを凌ぐには精神を鍛えるほかない。


 まさしく絶対的な、破られるはずのない技だった。



「まずは私に祈りを捧げなさい。その祈りがこの世界を晴らす力となります」


「かしこまりました。救済者様」


 ”光”のことを疑いもせず、その言葉に従ったネイ。

 額を虫の死骸に突っ込んでいることも気にせずに、ただひたむきに祈りをささげている。


「素晴らしい。そのひたむきな祈りが、あなた自身を救うのです」


「ありがとうございます。救済者様」


 その言葉に感涙の表情を浮かべるネイ。

 それを見た”光”は、次なるステップを提示する。


「次に、貴方は戦う意思を捨てる必要があります。万物を愛し、万物に愛される人物へとなるのです」


「かしこまりました。救済者様」


「そう、争う必要はありません。生き物を殺すのは私の仕事、汚れ役は一人いればよいのです」


「あぁそんなことを仰らないでくださいませ」


 目じりに涙を浮かべ、そう訴えかけたネイ。

 だがそれを見た”光”は、優しそうな光を放ち、教えを発する。


「構いません。私はあなた方の平穏を願っているのです。あなたは私の努力を裏切らず、私の願いを享受してください」


「は、はい。救済者様のお言葉のままに!!」


 そう言って戦う意思も捨てたネイ。

 今の彼は、”光”に従う恭順な教徒となっていた。


「よろしい。それでは最後の言葉を伝えます」


 そう言って”光”が、最後の教えを発する。

 その内容は今のネイにとっては恐ろしく簡単なものだった。


「私を信じなさい。私の言うことは全て正しく、私の願いこそが、あなた方をより良いものとするのですから」


「そのようなこと、言われるまでもありません。私ネイは、貴方様の恭順なる教徒ですから」


 額を死骸にこすりつけたまま、そう宣言したネイ。

 それを聞いた”光”は優しい光を放って、大きな声で宣言した。


「今ここに、貴方を救済する準備が整いました!!今この瞬間、貴方の願いが叶うのです!!」


 そしてその刹那、おびただしいまでの虫の死骸も、壁と天井を這うおぞましい生き物たちも、みな平等に黄金の炎によって焼かれていく。

 また、ネイを睨んでいた無数の瞳も、その瞼を閉じて、巨大なステンドグラスへと姿を変えていった。


「もう、頭を上げて結構ですよ」


 ”光”の言葉にしたって頭を上げたネイ。

 そこに広がっていた光景は、先ほどの物とはまるで異なっていた。


「なんと美しい・・・」


 辺り一面に広がる花畑。

 サファイヤのような輝きを放つ蝶。

 そして、幻想的な御神を模したステンドグラス。


 だがその中央に鎮座する”光”の御姿の前には、どうにも霞んで見えてしまった。


「私はあなたと共にあり続けます。私はあなたを見捨てたりしません」


「はい。私はあなた様の恭順な教徒、いえ、奴隷であります!!」


 再び額を地面につけ、そう宣言したネイ。


 そしてそれを聞いた瞬間”光”の輝きが失われていく。


 だがネイがそれに気づくことはない。


 光が消えうせ、中から現れたのは教祖のような服を着たファリグの姿だった。


 彼は下卑た笑みを浮かべながら、胴の前で組んだ印を解除した。


「えぇ、えぇ。素晴らしい心意気です。その言葉、忘れないでくださいね」



 印が崩れたことにより、火宅勧請導も崩れ落ちた。


 今この場には、額を地面にこすりつけているネイと、それを見て嘲笑っているファリグの二人のみ。

 辺り一面に広がるのは雪だけで、美しい花も、蝶も、ステンドグラスも、何一つとして存在しない。


「フハハ、私の勝ちのようですね」


『ネイ、目を覚ましてください、ネイッ!!』


 ファリグの嘲笑も、ブルーの焦ったような声も、何一つとしてネイの元へは届かない。


「死ねッ!!」


 目を血走らせ、鉈をネイの首元へ振るったファリグ。

 そして鮮血が舞った。


 嘲るような笑みを崩さなかったファリグ。だが次の瞬間、その表情は焦燥と痛みに歪むこととなった。


「やれやれ。やっぱりお前、見た目通りのペテン師だな」



「やれやれ。やっぱりお前、見た目通りのペテン師だな」


 聖剣の一振りによって、胴を両断されたファリグに、そう煽った俺。

 とはいえ余裕があったわけではない。


 ほんの一瞬でも意識が覚めるのが遅れていたら、俺の首は吹っ飛んでいただろう。


 なんか変なものを見せつけられて、堕とされかけていたが、結局それだけだった。

 支配されるでもなんでもなく、ただ不愉快な思いをしただけだ。


 結局あれは何だったんだ?


『おそらくは精神に作用するタイプの攻撃かと。ですが、どうもあなたには精神支配系の攻撃は通用しないようです』


 え、そうなの?


『はい。どうも心の核が分厚い殻で覆われてみるみたいに、あらゆるものを弾くのですよ。私の魔法も通用しませんでしたね』


 は?そんなことしてたの?


『昔の話ですよ。ていうか伝えましたよね?』


 お前は覚えてるかもしれないが、俺は覚えてないんだよ。


 まぁいいさ。この話はここまでで。


 とりあえず今はファリグの始末を優先しよう。


「トドメだッ!!」


 そう叫び、聖剣を振り下ろす。

 だがしかし、


「クッ、今は引くことにしましょう」


 その一撃を済んでのところで回避したファリグ。

 どうもいつの間にか生えていた翼によって、その回避を可能にしたらしい。


「逃がすかよッ!!」


 だがここで逃がすのはまずい。

 俺は身体強化によって全力で跳躍、そして聖剣を再び、ファリグに切りつけようとした。


 だがしかし、拳半分届かず、その一撃は空を切る結果となった。


「それではまた会いましょう。フハハハハ」


 そう言って、東の大地へと飛んでいったファリグ。

 もはやあれを始末することは出来ない。


「畜生、仕損じたか」


 行き場のない怒りが自分の体を駆け巡っていた。

 とはいえ今はどうしようもない。しかし次は絶対に逃さない。


 今はその時に備えるとしよう。


 俺は兵器を破壊し、黒い盾を回収した後、集落へ戻ったのだった。

一応次の話でこの章はおわり。

次に番外編を挟んだ後、六章となります。


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