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とある勇者の冒険譚  作者: azl
第五章 雪原地帯での謀略
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獣人の集落にて2

「お前、なかなかしぶといな」


 俺の振るった一撃を、ファリグがひらりと回避する。

 そしてその攻撃の後、一瞬のスキをついてファリグが反撃を行った。


 風を切りながら放たれた一撃。それを最小限の動きで回避した後、後方に飛んで距離を取る。


 幾度となく繰り返した光景。

 だがそれでも決着はいまだついてはいなかった。


「やれやれ、お前の実力は本物みたいだな。獣人の集落を一人で壊滅させるなんて、にわかには信じがたかったけど、どうもそれが真実みたいだ」


「おやおや、信じていなかったのですか」


「獣人ってのは強力な種族らしいからな、無理もないだろ?」


「フフフ、一理ありますね。とはいえ彼らの中に”覚醒”に至ったものが一人でもいれば、結果は大きく異なっていたでしょうが」


「覚醒だと?」


 どうも聞きなれない単語だったので、反射的に聞き返してしまった。


 そしてそのファリグだが、特に秘匿にする情報でもなかったようで、一瞬の逡巡もなく説明を始めた。


「正確には”獣身化”といいます。なんでも自身の体を強靭な獣の体に変化させる”技能”だそうです。まぁそう簡単に獲得できるものでもないですがね」


「そうなのか」


「聞いた話によれば”勇気”と”親愛”が獲得のトリガーらしい。死にゆく中でも家族への情と、生きながらえようとする強い精神を持つ者だけが獲得できるとされています」


 ふ~む、なるほど。確かになかなか厳しいな。

 死にゆく中でも諦めるなという事か。


 人の精神というのは結構脆いものだ。

 獣人も同じなのかは分からないけど。


 死にかけたことが無いので何とも言えないが、俺なら多分無理だろうね。


「なるほど。俺には無理だろうな」


「フフフ、そうですか。確かに一般的な生物ではそうでしょうね」


「全くだ」


 ここでこの話は終わり。

 俺は聖剣を構えなおし、ファリグとの戦いを再開しようとしたのだが、奴にはまだ言いたいことがあったらしい。


「フ~ム、今の私はすこぶる機嫌がいい。せっかくですしそこの兵器についても説明してあげましょう」


 そう言ってファリグが指さすのは、黒い煙をプスプスと放出し続けている謎の兵器。


 気になる話ではあるものの、この話は聞くべきなのだろうか。

 時間稼ぎの行為にも捉えられなくはないが・・・。


『かといってあの兵器の情報を逃すのも避けたいところではあります。無計画に破壊していいものなのかも分かりませんし』


 なるほどな。

 まぁその望んでいる情報が分かるかどうかは分からないが、聞いてみる価値はあるという事か。


 もっともそれが真実だという確証はないだろうけど。


「聞いてやろう」


「そう言うと思いました」


 そう言って笑みを浮かべたファリグ。

 そしてその表情のまま、ゆっくりと説明を開始した。


「この兵器は一般的な生物の生命力を、魔物の生命力へと変換する道具です。そしてそれこそが今回の計画のかなめなのです」


「それはトレントの大量発生のことか?」


「正解です。樹木の持つ生命力を、魔物の持つ生命力へと変換した結果、この近辺の樹木がトレントへと姿を変えたというわけですよ」


「その生命力の変換というのは?」


「簡単です。生命力の配列を変更してやることですよ。

 魔物の生命力も一般的な生物の生命力も、その根幹にある力は同じ成分なのです。

 違うのはその配列、しかしその配列が生物のメカニズムを大きく左右させるのです」


 ふ~む、なるほど。

 俺にはまるで意味が分からないが、ブルーさんは違った。

 ブルーさんはさっきの論理に結構な衝撃を受けているようだった。


 つい先ほどからぶつぶつと独り言をつぶやいている。


 とはいえその独り言を聞く限り、100%信用しているわけではなさそうだが。


「すべての生物の情報は、この配列によって委ねられています。

 それこそ肉体や性格といった情報も全てその配列次第なのです。

 つまりそこの兵器は、この近辺に生えている樹木の生命力の配列を、魔物特有の配列に変更し、さらにその性格を狂暴なものとする配列に変更する道具というわけです」


 長い。


 まぁ言いたいことは分からんでもないが、専門的過ぎて理解が追い付かない。

 いささか壮大すぎるぞ。


 ただそう簡単にぺらぺら話せるような情報ではないのは確かだろう。

 だってあのブルーさんがその情報に対して、非常に強い衝撃を受けているのだから。


「なるほどな。なかなか面白いじゃないか、しかしそんな情報をそう簡単に話していいものなのか?」


「構いませんよ。だって君、私の言っていたことがまるで理解できないでしょう?」


「まぁな」


「そう、ですから話しました。情報というのは使い方が大事なのです。

 君は何物も得ることが出来ませんでした、強いて言うなら使い道のない純金のガラクタを手に入れたようなものでしょう。要は豚に真珠です。

 ですが私は君とは違って、得たものがありますよ」


「ほう、それは?」


「時間ですよ」


 そう言っていやらしい笑みを浮かべたファリグ。

 そしてその刹那、俺の四方に高い炎の壁が出現した。


「なるほど。最初っからこれが狙いか。してやられたな」


「フフフ、経験の差ですよ。これがね」


 鼻に付く笑みを浮かべ、勝ち誇った様な声色でそう宣言したファリグ。

 しかしその宣言はいささか早すぎる気がするぞ。


「だったらここから抜け出せば・・・」


「それは無理でしょう」


 だがしかし、その考えが間違っていたのだと、すぐに気が付くこととなる。

 体が思い通りに動かないのだ。


「迷い、乞いなさい」


 これは非常にまずいぞ!!

 今まで幾度となくピンチに追い込まれてきたが、ここまでではなかった。


 意識がどんどんと暗闇に沈んでいく。

 必死に舌を噛んで耐えているが、そう長く続くものでもない。


 逃れる術など思いつかなかった。


「惑え、火宅勧請導」


 そしてその言葉を最後に、俺の意識は完全に暗闇の海へ沈んだのだった。



「・・・うわっ、気持ち悪っ」


 ネイの目が覚めた時、彼の視界に飛び込んだ光景は、まるでこの世のものとは思えないほどに、おぞましいものだった。


 その光景は、彼の精神を脅かすためだけに生まれたかのよう風景である。


 ドーム状の壁に張り付く無数の目。

 その壁を我が物顔で闊歩するムカデ、蛾、ごきがぶり。


 その形相も様々。異常なまでに巨大なものもあれば、異常なまでに小さいものもいる。


 何処を見渡してみてもネイの精神を不愉快で塗りつぶすだけであった。


 それを避けるために視線を下げてみても、そこにあるのはおびただしい量の虫の死骸。

 僅かにあるその隙間からも、精神を逆なでする瞳がちらちらと覗くばかりである。


「なんなんだよここは・・・」


 その光景に、ネイの精神も少しずつ蝕まれていった。

 肌を撫でるかさかさとした感覚、自分の体を貫き続ける無数の視線。


 心を乱すには十分だった。


「誰か、誰かいないのか?」


 頼りの相棒の声も響かない。

 ネイはただ一人、少しでも心を落ち着かせるために瞳を閉じてその空間を散策する。


ーシャン。


 音がする。

 まるで鈴の鳴るような音。


ーシャン。


 ネイはその音のほうに歩みを進める。


ーシャンシャン。


 歩みを進めるにつれ、音が大きくなってくる。


ーもう目を開けて構いません。


 暗闇を歩き続けたネイに、あやすような声が掛けられた。


 それに従ったネイ。

 ゆっくりと瞼を持ち上げ、正面を見据えた。


 そこにあったのは”光”。

 ネイにはそれが自分を救う救済者に思えた。


「あぁ、救済者さま。どうか私をこの暗闇からお救い下さい」


「えぇ、えぇ、分かっています。ですのであなたは、私の言うことに従いなさい」


「かしこまりました。救済者様」

次はちゃんとアルバ達の話をします。

多分それで不死牛編は終わりです。

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