不死者との闘い9
中々思うようにいかないので、次回はネイとファリグのパートを挟んで息抜きします。
ーBMOOOOOOOOO!!
再び不死牛の咆哮が、森林中に響き渡った。
その不死牛の表皮からは、黄緑色のガスが噴き出しており、触れた植物を次々と不死者に変えていく。
「あのガス、底が知れません。無尽蔵に湧き出ると考えるべきでしょう」
それを見たラス。今まで見てきたものを統括し、そう結論を出した。
仮にその説が正解だった場合、本体である不死牛を倒さない限りは、不死者たちは無限に生成されていく。
そうなってしまえばラスたちの敗北はほぼ必須、ゆえに不死牛討伐の優先が最も適当だと考えられた。
「タイタス、アルバ。ここは不死牛の討伐を急ぎましょう」
「それがよさそうだな。ありゃきりがねぇよ」
ゆっくりと立ち上がる不死者、この近辺の植物はほとんど枯れ失せ、はげ山のようになっている。
まさしく蘇った厄災、その厄災の正面に立つのはタイタスとアルバの二人。
しかしこの場にはもう一人、ラスがいた。
つい先ほど不死牛を相手取ろうとしていたラス。しかし今の彼は不死牛を相手取ることはせず、不死者の進行を妨害するため、この場を離れようとしていた。
「つい先ほどの意見、少し改めます。どうもあのガス、作り出した不死者にも同じ成分を持たせているらしく、不死者を放置するのもいささか問題があるようです」
慎重なラスだから気が付いた。
周囲を警戒するために張っていた糸の反応が、すっかりなくなってしまっていたのだ。
糸が自然に消滅することはあり得ない。
そう簡単にほつれることはないのだ。
切断されたか、あるいは支点が壊れたか。
そしてラスは周囲を再び見渡した結果、後者なのだと判断した。
「どういうことだ?」
「不死者に触れた植物もまた、不死者になってしまうということです」
つい先ほどよりも周囲の木々が減っていたのだ。
その減少速度はかなり遅いものの、放置できる事態ではない。
「おいおい、そりゃ不味いんじゃ・・・」
「ですので僕はそれの対処に向かいます。この中で一番早いのは僕です、さっさと倒して戻ってきますよ」
あのまま放置しておけば、カメテ集落は間違いなく陥没する。
集落の戦力では対応できないだろう。
それはラスも避けたいところであった。
自分みたいな人間を増やすのは、もううんざりなのだ。
「分かった。よろしく頼む」
「えぇ、すぐに戻ってきます」
そう言って走り出したラス。
それを見送るタイタス、その後不死牛のほうに向きなおり武器を構える。
「でかすぎて効くかはわかんねーけどよぉ、一発かましてやりゃあッ!!」
不死牛の体は非常に大きい。
一般的な牛の二倍はあるだろう。
ゆえにその威圧感は半端なものではないが、タイタスは臆さず攻撃を振るう。
その攻撃座標は不死牛の右前足、力任せに振るわれた一撃はまさしく豪傑の力技。
刃がどんどんめり込んでいく。
不死牛の肉をえぐり取りながら、深々と突き刺さった刃を振り払った。
ーBMOOOOOOOOO!!
「やべッ、離れろ!!」
不死牛の体に走った痛み。
そしてその瞬間、不死牛は今この場にいた有象無象を、初めて敵と認識した。
両前足をもたげ、大地に叩き付ける。
その一撃だけで大地は揺れ、雪が上空に舞い上がる。
「クソッ、厄介だな」
舞い上がった雪が降り注ぐ。
まさしく天然の煙幕、視界は真っ白に染まってしまっていた。
「だったら僕に任せてください」
だがしかし、タイタスには通用してもアルバには通用しない。
アルバは舌を噛みながら、自分の嗅覚をもって不死牛の位置を察知する。
そしてその方向目掛けて大きく跳躍した。
アルバの体が降り注ぐ雪の層を突き破った。
そして晴れ行く彼の視界。その先にはタイタスの方を睨む不死牛の姿があった。
「させるか!!」
それを認識したアルバ。
吹っ飛んだ勢いそのままに、不死牛の体に着地する。
そして、
「倒れろッ!!」
渾身の右ストレートを不死牛の顔面に放った。
めり込む右腕、凄まじい痛みがアルバにも走ったが、歯を食いしばり、再び拳を振るう。
「アルバ、降りろッ!!」
そして件の不死牛も平気ではいられなかった。
ふらふらと揺れ始めた不死牛の体。
それを察知したタイタスがそう叫ぶ。
そしてそれに従ったアルバ、急いで不死牛の体から飛び降りた。
その刹那、ドンッ!!という派手な音を立てて不死牛が地面に倒れ伏す。
「チャンスだッ!!」
そう叫び駆けだすタイタス。
それに付き添うようにアルバも走り出す。
そして、
「「食らえッ!!」」
振るわれた二つの一撃。
空を切るような音を立てて振るわれたそれは、不死牛の顔面を切り裂き、穿っていた。
だがそれでも不死牛が死ぬことはなかった。
目をかっと開き、二人の方を睨む。
そして、
「おいおいおいおい!!」
口を開け、大地を抉り取りながら、タイタスのほうへ走り出す。
慌てて走り出すタイタス、しかし走る速度は不死牛のほうが速く、状況は絶望的だった。
このままではタイタスが死んでしまう、そう理解したアルバはとある行動に出た。
不死牛のほうに駆け出し、出来上がっていた顔面の傷跡に、全力の拳を振るったのだ。
「こっちだッ!!」
パンッ!!という音を立ててめり込む拳。
これで意識は自分のほうに向いたことだろう。
そう考え拳を引き抜こうとするアルバ。
だがめり込んだ先にあったのは不死牛の顎だった。
不死牛は上下の歯によってアルバの腕をがっちりと挟んでおり、思うように身動きが取れない。
「馬鹿ッ!!逃げろッ!!」
タイタスが焦ったような声で叫ぶ。
だがそれだけではこの場を覆すことが出来なかった。
不死牛は顔を持ち上げて、頬を大地に叩き付ける。
その衝撃でアルバの体が地に落ちた。
しかし今の彼では逃げることは出来ない。
不死牛は大地を抉り取りながら、アルバの体を飲み込んだ。
会話パートのほうがスラスラかけます。