不死者との闘い7
「助けに来たぞッ!!」
タイタスとアルバが、ラスの元にたどり着く。
その場所は鼻をつんざくような腐臭と、物が燃えたようなにおいが混ざり合い、深い極まりない空間となっていた。
特にアルバはその影響を強く受けている。
獣人は人間の倍以上に嗅覚が優れているのだ。
だから彼は鼻を指で押さえて、なるべく吸い込まないようにしていた。
しかしそれでも涙目になるほどの激臭であった。
「おや、来て下さったのですか」
「おう、来てやったぞ」
「・・・(コクコク)」
「ふむ、戦力が増えるのはいいことだ。ぜひ協力してください」
「おう、任せろ!!」
そう言って親指を立てたタイタス。
しかし話し相手であったラスの興味は、もうすでに別の所に移っていた。
「で、アレが長の言っていた不死牛か。でけぇな」
その彼の視線の先にあったのは、森の中を我が物顔で闊歩する巨大な牛。
しかしその皮膚は腐り落ちており、皮膚の色も紫色に変色していた。
「おそらくその通りです。一応動きを止めてはいるんですがね」
そう言われて、目を凝らしてみるタイタス。
よく見てみれば、確かに細い糸のようなものが、不死牛の体中にまとわりついている。
「やっぱあの巨体を止めるのは難しいわな」
「はい。一応やれるだけのことはやってるんですがね」
「まぁ、俺達であれを始末すればいいだろ。ところでこの辺は木が少ないんだな、なんでだ?」
「あぁ、それは・・・」
ラスが言い終わる前に、不死牛が動き出した。
不死牛の皮膚、その表面から黄緑色のガスを放出し始めたのだ。
「タイタス、アルバ、今すぐにその場から離れてください」
ラスの忠告に従って、その場を離れる二人。
そして彼らの立っていたその場所に、ゆっくりと黄緑色のガスが漂ってくる。
「・・・なるほどな。これが原因か」
そのガスが樹木に触れ、腐らせ、どんどんと不死者を製造していく。
そしてその不死者の総数は、軍隊とでも称すべき数であった。そう簡単に対処は出来ない。
「火遁:炎蛇」
しかしラスならば出来る。
彼の放った忍術、炎蛇。放たれた炎はまるで蛇が如く不死者を伝い、次々と灰に変えていった。
「お前、すげぇな・・・」
「それほどでもありません。それよりも不死牛の動きに注意してください、何か動きがありますよ」
タイタスの驚嘆に、あっさりとした返答を送ったラス。
そのラスの視線は、再び不死牛の方、もっと詳しく言うとその喉元に向けられている。
つい先ほどまでは特別特筆するようなことはなかったその喉元。
だが今はその喉元が蠢いており、何らかの攻撃を仕掛けてくる可能性があった。
「ッ!?何か来る!!」
そしてその考えは正解だった。
ラスが気付くより前に、アルバが警告を飛ばす。
そしてその瞬間、不死牛の喉の動きがますます激しくなる。
それはまるで何かが逆流するような動き。
「来ますッ!!」
アルバが再び警告を飛ばす。
そしてその瞬間、不死牛の口からブレスが放たれる。
それを全力で回避する三人。
雪を穿つ結果となったその吐息の正体は、気体ではなく液体だった。
不死牛の胃液が、三人に向けて放たれたのである。
その胃液の表面はブクブクと泡立ち、触れる草木を次々と枯らしていく。
「チッ!!あんまり見たくねーな」
だが吐き出されたのは胃液だけではなかった。
不死牛の胃の中にあった未消化の死骸たちも、そのタイミングで吐き出されている。
当然消化途中である。見るに堪えないものばかりであった。
「え?動いてませんか、あれ?」
だがしかし、不死牛とは死と再生の紡ぎ手である。
それこそ、体からあふれ出るガスで不死者を作り出すような存在、胃液が特殊な成分を含んでいても、おかしくはない。
吐き出された死骸たちが、ぴくぴくと動き出す。
彼らは不死牛の胃液によって、不死者として蘇ったのである。