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とある勇者の冒険譚  作者: azl
第五章 雪原地帯での謀略
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不死者との闘い6

 合成獣が唸り声をあげている。

 生命の本能を揺らがせるような獰猛な響き、しかしそれに怯えるような者はこの場にいなかった。


「アルバ、俺があいつに攻撃を仕掛ける。お前は隙を見て攻撃してくれ」


「分かりました」


 作戦会議を手短に済ませた二人。

 そしてそれを見計らったかのように、合成獣が牙を剥いた。


 虎の足で大地を蹴る。

 合成獣は雪の深みをもろともしない跳躍力で、二人のもとに接近する。

 開かれた顎からはのこぎりのような歯が幾重にも並んでいるのが見える。


 嚙まれたら一溜まりもない。武具による防御すら、成立するか怪しかった。


 よって彼らが取った行動は回避である。

 タイタスは大きく、アルバは軽くバックジャンプでその場を離れる。


 そして雪が舞い上がった。

 合成獣がその四肢を、大地に全力で叩き付けたのである。


 まさしく天然の煙幕、タイタスの視界は白く染まり、何物も見ることが出来ない。

 だがしかし、アルバは違った。


「そこッ!!」


 彼が放ったのは左足による回し蹴り。

 一見すると出鱈目に放ったように見えるがそれは間違いである。


 獣人は身体だけではなく、嗅覚も人間より優れている。

 それこそ独特な匂いを放つ合成獣を索敵することなど、朝飯前なのだ。


ーghyyyy!!


 パンッ!!という肉がぶつかるような音。

 そしてその刹那、舞い上がった雪の中から悶絶するような声が聞こえてきた。


 舞い上がった雪が地に落ちる。

 そこにいたのは先程の合成獣、ただし獅子の顔面が若干へこんでいた。


ーGAOOOOOOOOOOOOOO!!


 激高したような咆哮を上げる合成獣。

 しかしそれに臆する者などこの場にはいないのだ。


「食らいやがれッ!!」


 合成獣の背後、連なる樹木の中から現れたタイタスが、ハルバードによる一撃を振るった。

 視覚外の一撃、一般的な生物であればもうすでに決着はついていただろう。

 だがしかし、この合成獣は一般的な生物ではなかったのだ。


「チッ!!マジかよ!!」


 背中に生えた獣人の腕、それによってハルバードが受け止められてしまったのだ。

 合成獣は規格外の察知能力を有していた。

 この生物の前に、死角というものは存在しないのだ。


 武器を掴まれたタイタス。

 武器を掴んだ合成獣。

 双方ともに動きを止めている。それはほんの少しの間ではあったが、彼にとってはそれで十分だった。


 ハルバードをつかんだ腕、四つあるうちの一本が、飛来した一つの人影によってバキッ!!という音と共にもぎ取られる。

 その正体は木の上にいたアルバ。彼の筋力をもってすれば、継ぎ接ぎの部位をもぐことなど造作もないことだった。


 悲鳴のような声を上げる合成獣。

 だがすぐに立ち直り、アルバのほうに向きなおった。


 向き合う合成獣とアルバ。

 その視線が互いに交錯し合い、重苦しい空間を作り出している。


 しかしその空間は、いとも簡単に崩れ去った。


「ブン回しィ!!」


 隠れていたタイタスが斧術、ブン回しを放つ。

 厄介なことにその一撃は、地面すれすれで放たれており、獣人の腕では長さが足りず、受け止めることが出来ない。


 かといって合成獣の体はそれほど固いわけではなかった。

 ゆえに回避を選択する合成獣、再び大地を踏みしめて、大きく跳躍する。


「読んでましたよ」


 だがその耳に聞こえてきたのは、そんな冷徹な声である。

 アルバは、合成獣が回避をするために、跳躍して逃げるだろうと予測していたのである。


 だからタイタスが技を放った瞬間に、合成獣と同じく跳躍していたのだ。


「落ちろッ!!」


 そう言って合成獣の頭をつかんだアルバ。

 そして自由落下の勢いを味方につけ、合成獣の顔面を大地に叩き付けた。


 強い痛みが走った。だがその痛みは大した問題ではない、それ以上にアルバの筋力が強すぎて、身動きが取れないことのほうが問題だった。


 もがく合成獣、しかしアルバの力の前には遠く及ばなかった。


「トドメだッ!!」


 そしてその首元に振るわれるハルバードの一撃。


 次々と肉を切っていく刃。しかし合成獣の首の骨によって、その動きを止められる。

 だが大した問題ではなかった。そのまま力任せに刃を振るい、合成獣の首を刎ね飛ばした。


「どうだ?」


「・・・死にました」


 ピクリとも動かなくなった合成獣。

 だがしかし、勝利の余韻に浸っている暇はなかった。


 未だに戦いは続いているのである。


「ラスを助けに行くか」


「でも、一体どこに・・・」


ーBMOOOOOOOOO!!


 まるでアルバの疑問に答えるかのように、森中に響き渡った咆哮。

 その出どころはつい先ほどの場所とほぼ同じ、だが確実にカメテ集落のほうに近づいて来ていた。


「いくぞ」


「はい」


 森を掻き分け走る二人。

 少しづつ腐臭が強くなる、目的地は近かった。

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