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とある勇者の冒険譚  作者: azl
第五章 雪原地帯での謀略
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不死者との闘い2

 長たちと別れたラスは、押し寄せてくるであろう不死者(アンデット)たちを発見するために、森の中へ糸を張り巡らせていた。

 この糸に何らかの力が及んだ場合、大きな音が鳴るように設計してある。


 そしてその罠はすぐに作動し、凄まじい爆音を森中に響き渡らせた。

 そしてその発せられた音を聞いたラスは、その現場へと急ぐのだった。


「思ったよりも早いな」


 そうぽつりとつぶやいたラス。その眼前にあるのは不死者たちの群れである。

 その群れの居場所、転じて、その音の発生地点は、獣人の集落からかなり離れた場所にあり、言い換えるならば、カメテ集落からかなりの近場にあった。


 その場所はカメテ集落からせいぜい一キロメートルほどしか離れておらず、凄まじく速い速度で進軍していることが分かる。


 不死者たちの進行速度にも驚きだが、その群れの総数も驚くべきものであった。

 見渡す限りの不死者の群れ。ラスの想像を優に超える大群が、カメテ集落へと進行していたのである。


 だがしかし、それは大した問題ではなかった、彼の忍術である糸遁は応用が利く。それこそ押し寄せる大群用の罠を設置することなど容易いのだ。


「木の間にでも張っておくか」


 設置するのは網状に張り巡らせた鋼鉄の糸。

 幾重にも重ねられたそれを力づくで通ろうものなら、糸によってサイコロ状に切断されてしまうだろう。


 そんな危険な罠を設置しようと木の枝から降りるラス。

 しかしその瞬間に感じたのは強烈な悪寒、その直感を信じて糸による盾を生成する。


 そしてその行動がラスの身を守ることとなった。

 木から降りたラスに振るわれたのは、強靭な爪による一撃。


 首筋を狙った正確無比な一撃は、確かにラスの命を刈り取りえた。

 だがその一撃はラスの生成した盾によって弾かれてしまった。もっともその盾はバラバラに砕け散っているのだが。


「なるほど。あの眼鏡が言ってたのはこれか」


 その一撃を振るった者の正体は、獣人を媒介にして作られた不死者だった。

 今しがたカメテ集落へ進行している不死者の中にも、ぼちぼちといるのが確認できる。


「キシャアアアアア!!!!」


 獣のような叫び声をあげ、ラスのもとに接近して来る不死者。

 獣人の面影を感じさせるのは、その見た目だけ。おそらく知性も理性も失われていることだろう。

 しかしその身体能力だけは、生前とほぼ同格であった。


「ここで成仏させてやるのが、最後の慈悲なのか・・・」


 そうぽつりとつぶやいたラス。

 ゆっくりとした動作で黒刀を引き抜き、不死者のもとに接近する。

 そして目にもとまらぬ早業で、不死者の体を一刀のもとに両断した。


「せめて安らかに眠ってくれ」


 そう願い、その場をあとにしたラス。

 そして当初の目的通り、木と木の間に糸を張り巡らせた。


「ふむ、取り敢えず準備は完了か。では群れの迎撃に向かうとしよう」


 そうつぶやいて、不死者の群れに忍術を仕掛けようとするラス。

 だがしかしその計画は、そう簡単には運ばなかった。


「BMOOOOOOOOO!!!!」


「今度は何だ!!」


 森の奥から発せられた叫び声。

 そして巻き上がる砂煙と腐臭。


 どう考えても放置できない事態。

 だがその正体を探り当てるのは位置関係的に難しく、ラスは大きく頭を抱えることとなる。


「念のため確認しに行くべきか?」


 仮にあの正体が長の言う不死牛(アンデット・カウ)であるのなら、不死者の群れを放棄してでも対応しに行った方が良いだろう。

 だが仮にそうでなかった場合、不死者の群れがカメテ集落に到着してしまう危険性もある。


 どちらか一つ、流石のラスも即断即決とはいかなかった。


「おい、ラス。さっきの声は何なんだ!?」


 しかしそんな彼の耳に、聞き覚えのある声が入ってくる。


「おや、タイタス。君も来たのですか?」


「当たり前だ。お前らが戦ってんのに俺だけ出ねぇってわけにもいかねーだろ?それとも邪魔だったかい?」


「いえ、こちらとしてもありがたい。後、そこの木の間に糸を張ってますので触らないように」


「って、危ねぇな。もっと早く言えよ」


 タイタスが文句を言っているが、ラスは無視して話を進めた。


「ところでタイタス、この場はあなたに任せてもいいですか?」


「あ?構わんけど何でだ?」


「あの鳴き声の正体を探りたい。長たちの言っていた不死牛(アンデット・カウ)だったらいけませんから」


「そういう事なら任せろよ。集落の連中もやってくるからそう簡単には落とされないさ」


「分かりました。では僕はあの声の正体を探ってきます」


「おう、気をつけろよ」


「そちらこそ。不死者の中に獣人を媒介にして作られたものがあります。絶対に油断しないように」


そう最後に助言して、その場から離れたラス。

もはや先ほどの憂いはさっぱり消え失せている。


とはいえこの騒動はいまだに続いていた。

ラスは全速力で森林を駆けるのだった。

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