不死者との闘い2
長たちと別れたラスは、押し寄せてくるであろう不死者たちを発見するために、森の中へ糸を張り巡らせていた。
この糸に何らかの力が及んだ場合、大きな音が鳴るように設計してある。
そしてその罠はすぐに作動し、凄まじい爆音を森中に響き渡らせた。
そしてその発せられた音を聞いたラスは、その現場へと急ぐのだった。
「思ったよりも早いな」
そうぽつりとつぶやいたラス。その眼前にあるのは不死者たちの群れである。
その群れの居場所、転じて、その音の発生地点は、獣人の集落からかなり離れた場所にあり、言い換えるならば、カメテ集落からかなりの近場にあった。
その場所はカメテ集落からせいぜい一キロメートルほどしか離れておらず、凄まじく速い速度で進軍していることが分かる。
不死者たちの進行速度にも驚きだが、その群れの総数も驚くべきものであった。
見渡す限りの不死者の群れ。ラスの想像を優に超える大群が、カメテ集落へと進行していたのである。
だがしかし、それは大した問題ではなかった、彼の忍術である糸遁は応用が利く。それこそ押し寄せる大群用の罠を設置することなど容易いのだ。
「木の間にでも張っておくか」
設置するのは網状に張り巡らせた鋼鉄の糸。
幾重にも重ねられたそれを力づくで通ろうものなら、糸によってサイコロ状に切断されてしまうだろう。
そんな危険な罠を設置しようと木の枝から降りるラス。
しかしその瞬間に感じたのは強烈な悪寒、その直感を信じて糸による盾を生成する。
そしてその行動がラスの身を守ることとなった。
木から降りたラスに振るわれたのは、強靭な爪による一撃。
首筋を狙った正確無比な一撃は、確かにラスの命を刈り取りえた。
だがその一撃はラスの生成した盾によって弾かれてしまった。もっともその盾はバラバラに砕け散っているのだが。
「なるほど。あの眼鏡が言ってたのはこれか」
その一撃を振るった者の正体は、獣人を媒介にして作られた不死者だった。
今しがたカメテ集落へ進行している不死者の中にも、ぼちぼちといるのが確認できる。
「キシャアアアアア!!!!」
獣のような叫び声をあげ、ラスのもとに接近して来る不死者。
獣人の面影を感じさせるのは、その見た目だけ。おそらく知性も理性も失われていることだろう。
しかしその身体能力だけは、生前とほぼ同格であった。
「ここで成仏させてやるのが、最後の慈悲なのか・・・」
そうぽつりとつぶやいたラス。
ゆっくりとした動作で黒刀を引き抜き、不死者のもとに接近する。
そして目にもとまらぬ早業で、不死者の体を一刀のもとに両断した。
「せめて安らかに眠ってくれ」
そう願い、その場をあとにしたラス。
そして当初の目的通り、木と木の間に糸を張り巡らせた。
「ふむ、取り敢えず準備は完了か。では群れの迎撃に向かうとしよう」
そうつぶやいて、不死者の群れに忍術を仕掛けようとするラス。
だがしかしその計画は、そう簡単には運ばなかった。
「BMOOOOOOOOO!!!!」
「今度は何だ!!」
森の奥から発せられた叫び声。
そして巻き上がる砂煙と腐臭。
どう考えても放置できない事態。
だがその正体を探り当てるのは位置関係的に難しく、ラスは大きく頭を抱えることとなる。
「念のため確認しに行くべきか?」
仮にあの正体が長の言う不死牛であるのなら、不死者の群れを放棄してでも対応しに行った方が良いだろう。
だが仮にそうでなかった場合、不死者の群れがカメテ集落に到着してしまう危険性もある。
どちらか一つ、流石のラスも即断即決とはいかなかった。
「おい、ラス。さっきの声は何なんだ!?」
しかしそんな彼の耳に、聞き覚えのある声が入ってくる。
「おや、タイタス。君も来たのですか?」
「当たり前だ。お前らが戦ってんのに俺だけ出ねぇってわけにもいかねーだろ?それとも邪魔だったかい?」
「いえ、こちらとしてもありがたい。後、そこの木の間に糸を張ってますので触らないように」
「って、危ねぇな。もっと早く言えよ」
タイタスが文句を言っているが、ラスは無視して話を進めた。
「ところでタイタス、この場はあなたに任せてもいいですか?」
「あ?構わんけど何でだ?」
「あの鳴き声の正体を探りたい。長たちの言っていた不死牛だったらいけませんから」
「そういう事なら任せろよ。集落の連中もやってくるからそう簡単には落とされないさ」
「分かりました。では僕はあの声の正体を探ってきます」
「おう、気をつけろよ」
「そちらこそ。不死者の中に獣人を媒介にして作られたものがあります。絶対に油断しないように」
そう最後に助言して、その場から離れたラス。
もはや先ほどの憂いはさっぱり消え失せている。
とはいえこの騒動はいまだに続いていた。
ラスは全速力で森林を駆けるのだった。