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とある勇者の冒険譚  作者: azl
第五章 雪原地帯での謀略
36/69

獣人の集落にて2

評価していただきありがとうございました。

 聖剣を構え、ファリグの佇まいを観察するネイ。

 その研究者風の見た目とは裏腹に、その構えには一切の隙がなく、熟練の戦士の如き雰囲気を醸し出している。


 だがその実力の高さ自体は、ネイも予想できていた。

 ラスの技を意に介さず圧倒してのけたその能力。純粋な実力勝負だけならラスに軍配が上がったかもしれないが、今回行っているのは殺し合い、いわば総力戦である。

 そしてその総力戦の勝者は、驚くべきことにラスではなくファリグだったのだ。


 しかしその対戦相手がラスではなく、ネイであったなら総力戦はおろか、純粋な実力勝負ですら勝てなかっただろう。

 だが今の彼にはブルーという頼れる相棒がいる。そしてその相棒が今回の戦いの結末を大きく左右することになるのだ。


 最初に動き出したのはネイ。

 今の自分は鉈による攻撃を凌ぐことが難しいと判断し、早いうちに決着をつけることにしたのだ。


 身体強化された足で大地を蹴飛ばし、一気に距離を詰めるネイ。

 そして聖剣を上段に構え、一気に振り下ろす。


 だがそれを見てにやりと笑ったファリグ。

 そんな彼は自身の眼前に、ラスの攻撃をもろともしなかったあの障壁を出現させた。


 まるで人を嘲笑うかのような表情をするファリグ。

 だがそんな表情も次の瞬間、驚きに染まることとなる。


 聖剣がファリグの張った障壁に触れる。そして次の瞬間、障壁は軋むことすらも許されず、パリンッという音とともに粉々に砕け散った。


「くッ、一体何がッ!!」


 ファリグは焦りを顔に浮かべ、ネイの方を見る。

 そしてその腕の先端、つまりは聖剣を見て、さらに驚いたような声を上げた。


「それは例の!?なぜここにあるのだ!!すべて破壊したのではなかったのか!?」


 ネイの奇怪なものを見る様な視線すら気付かずに、ただ一人叫ぶファリグ。

 ぜぇぜぇと息を切らし、その鋭い眼光でネイのほうをにらみつける。


「君、それをどこで手に入れた?」


「あ?お前、何かこれについて知ってるのか?」


「質問に答えてください。私がそれを教える必要はありません」


「・・・お前のその言葉を、そっくり返させてもらうとするよ」


 フンッ、と笑いそう返事をするネイ。

 それを見たファリグはどうするでもなく、黙って武器を構えなおす。


「まぁいいでしょう。君が何であれ、私は目的が達成できればそれでよいのですから」


「目的?そこの黒い煙か?でもまぁ何かやってんのは分かってんだ、教えろよ」


「ククク、そう焦らずとすぐにわかります、よッ」


 タンッ、という音を立てネイに近づくファリグ。

 膝をかがめ、聖剣に防がれない個所を狙う緻密な一撃である。


 だがしかし、ネイには常人離れした動体視力と反射神経がある。

 それをフルで活用させ、その一撃を回避するネイ。

 そして生まれたわずかなスキに、聖剣による一撃を叩き込んだ。


 だがその一撃を鉈で一瞬だけ抑えるファリグ。

 そしてその隙に大地を蹴って、ネイから大きく離脱する。


 ファリグとネイのスピードはほぼ互角。

 若干ネイに軍配が上がるが誤差程度。


 だが力ではネイが大きく上回っていた。

 聖剣により強化された筋力は、半端なものではないのである。


 しかしファリグには、それを埋められるほどの、積み重ねられた戦闘経験がある。

 見た目とは裏腹に積んできた死線の数はかなりのものなのだ。


 もっとも彼の目的は勝つことではなく時間稼ぎであった。

 ラスが黒煙を発する魔法道具を破壊しようとしているが、未だに完了できていない。


 そしてその時は満ちた。

 つまり彼の目的は達したのである。


「フハハハハ、今のを防がれるとは思いませんでした。ですが何の問題ありませんねぇ」


「なんだと?」


「もう私は目的を達したのです。もっとも君はここで始末しておかないと後々不味そうですが・・・」


「お前は何を・・・」


 言っているんだ。その言葉は最後まで紡がれることはなかった。


「フハハハハ、タイムリミットですよ」


 ファリグが嘲笑うような声を上げる。

 そしてそれと同時に巻き上がる尋常ではない砂煙と腐臭。その漂う強烈な腐臭が、ネイの鼻腔を刺激してくる。

 それら双方ともに、出どころは集落周辺であった。

 そしてそこを見つめるラスから驚いたような声が上がる。


不死者(アンデット)・・・」


「そうですとも。実にいいでしょう!!獣人たちの肉体は非常にいい材料でしたよ!!」


「・・・そんなことが?」


「私なら可能なのですよ。ちなみに奴らの目的地は一番近場のカメテ集落です。止めないとまずいんじゃないんですか~?」


 下卑た笑みを浮かべ、ラスのほうを見るファリグ。

 しかしその言葉は真実であり、不死者たちの歩き出した方向も、それが真実なのだと肯定するかのようだった。


「ネイ殿、私はカメテ集落にこの事を伝えてきます」


「分かった、よろしく頼む」


 そう言って集落を出るラス。

 ファリグはそれを咎めるでもなく、笑みを浮かべながらその様子を観察していた。


「止めないんだな?」


「えぇ。別に私は彼の集落の結末など興味がありません。これは実験の延長線上の出来事にすぎませんから」


「・・・お前は何を言ってるんだ?」


「我が主の望みはこの世界のやり直しです。秩序なき世界に今一度秩序を齎すため、今あるものを破壊しつくす。別に私が手を下さずとも、結末は変わらないのですよ。

 ですので私がこの集落を襲ったのも、そこの魔法道具も、私が趣味の延長線上で行ったものということです」


「なるほど。お前を生かすのは害悪だと思っていたが、お前の主も中々の奴という事か」


「ククク、やる気になってくれたようだ。あの少年はともかく君を生かすのは我々としても問題がある。申し訳ないですがここで始末させていただきますよ」


「やれるもんならやってみろ。俺もお前と同じ気持ちだからな」

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