とある集落の一騒動<前編>
七月は長期の用事があるので、これが今月最後の投稿かもしれません。
ガインの大森林で大量の薪を手に入れた俺は、ファウスノーで一番の集落、カメテ集落へ意気揚々と帰還した。
このカメテ集落が、例の宿がある集落である。
さて、そのついさっきまでいた集落なのだが、集落の雰囲気がついさっきまでと違っていた。
なんというか重苦しい雰囲気、男の叫び声のようなものも聞こえてくる。
少しばかりの不安を覚えた俺は、その声のもとに急いで駆け付けた。
「だ~か~ら、俺は何ともないって言ってんだろ!!」
叫んでいたのは宿のオーナーのラズリさん。
その近くにはラスとタイタスの姿もあった。
だがそのそばに倒れ伏す一つの人影があった、頭のてっぺんに耳のようなものが二つ。あれはもしや・・・
「だがしかし、そのものは獣人で・・・」
やはりそうか。
しかし獣人って人を追い払ってるって聞いたぞ。なんでこんなところにいるんだ?
取り敢えずラズリさんのもとへ行ってみよう。
「ラズリさん、何があったんです?」
「おぉ、お前か。えらい沢山持ってきてくれたんだな」
俺の背負っていた袋を見てそう言ってくれた。
結構嬉しかったが、今はそれどころでもない。
「それほどでも。それより・・・」
「あぁ、こいつだろ?実はな・・・」
曰く、宿の隣にある食糧庫から音がするのが聞こえた。
不審に思い確認しに行くと、トラ型の獣人の少年が、その食糧庫を漁っているのを発見した。
それをとっつ構えようとしたら、その少年が反撃。
物音が激しくなったことに気付いたラスが現場に向かい、暴れていたその少年に薬を飲ませ、こん睡させたそう。
聞いた感じだと暴力は振るっていなさそうなのだが、倒れている少年は傷だらけである。
「・・・の割には傷だらけだな?」
「それが疑問なんだよな。獣人って人間よりもずっと屈強な種族なんだよ、にもかかわらず何でこんなに傷だらけなのか」
「そんなことはどうでもよいだろう!!とにもかくにも今考えるべきはそいつの処遇じゃ!!」
ラズリさんがいろいろ考えているのを横目に、その隣に立っていた老人が声を荒げる。
どうもこの集落の長らしい。普段は温厚らしいが、仲間を傷つけられて、平静を保てなくなっているようだった。
「そうだそうだ、食料を漁るだけならまだしも、我らが同胞を傷つけるなど言語道断!!」
「然り然り」
次々に声を荒げる人が出てくるが、その渦中の人物であるラズリさんは呆れた声色でこう言った。
「あのなあ、俺は何ともないって言ってんだろうが。それよりももっとやるべきことがあるだろ?」
その言葉によって口を閉ざされる住民たち。
そんな中で、俺の仲間たちも発言する。
「同感です。そもそもなぜ今になって獣人が人里に現れたのかを調べるべきでは?」
「だよな。そもそも獣人って屈強な種族なんだろ?だったら何で傷だらけなんだ?」
「むう?確かに捨て置けぬ問題じゃな・・・」
つい先ほどまで声を荒げていた長も同意する。
ラズリが傷つけられたことに激高していたようだが、今ではすっかり落ち着いたようだ。
「ここって牢屋はあるの?」
「あぁ、一応な」
「だったらそこに入れておこう。事情を聴くにしても、暴れられても困るだろ?」
「・・・それがいいかの。ラズリとそこの旅の方、わしには荷が重い故、手伝ってもらえぬか?」
ラズリとタイタスが頷き、獣人の少年を担ぐ。
どうやら平和に片付きそうで一安心だ。
「こんなもんでいいだろう。君も出ておいで?」
「・・・よく分かりましたね」
俺の呼びかけにきょとんとする人が多かったが、ラスは気付いたみたい。
「・・・」
「ッ!!まだいたのか」
「ひっ!!」
その声にビクッ!!と驚き、そぉっと食糧庫から出てきたのは獣人の少女。
少年と同じく、トラのような耳をしている。
しかしその体は、彼と同じく傷だらけだった。
そんな彼女は不安そうな顔のまま、俺に向かって叫ぶ。
「あのね!!お兄ちゃんは私のために・・・、だからっ!!」
「大丈夫だ。悪いようにはしないよ」
なるべく安心させられるよう、優しく話しかける。
「・・・ほんと?」
「本当だとも。さ、こっちにおいで」
「・・・うん」
その少女は、俺が差し出した手を心配そうに握った。
「心配ならお兄ちゃんの側にいてあげなさい。すぐに目を覚ますだろうからさ」
「・・・うん!!」
はにかみながら返事をする少女。
この感じなら大丈夫かな。
・
・
・
ここはカメテ集落の牢獄。
とはいってもそんな厳重なものではないが。
「ん?ん~」
「よぉ、目が覚めたか」
そのとある牢の前に座り込んでいた俺。
目的は獣人の少年の監視である。
「ッ!!妹は!!」
「お前の横で寝てるよ」
それを聞いて妹の存在に気付く獣人の少年。
妹って言ってたから、そこの少女とはきょうだいなのだろう。
「で、お前、名前は?」
「誰が人間なんかにッ!!」
威勢よく俺に反発しようとしたのだが・・。
ーぐぐううううう。
「ハハハ。腹の虫は正直だな」
「~っ!!お前~!!」
顔を真っ赤にする少年。
「ま、いいさ。とりあえず飯にしようか」
「え、いいのか!?俺はお前のとこのを・・・」
「気にすんな、済んだことだしよ。ただし一つだけ頼みたいことがある」
「なんだ?」
「お前たちに何があったのかを話してくれないか?無理にとは言わないけど・・・」
そう言うと少年は少しだけ逡巡して見せた。
「・・・いや、話すよ。貰いっぱなしってのもダメだから」
そして少年は少しだけ悲しそうな表情を見せた後、そう言った。
大変なことが起きている、そんな予感がした。