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とある勇者の冒険譚  作者: azl
第四章 神聖王国での激闘
28/69

太陽

VS強い人外はびっくりするぐらいやる気が出なかったので、しばらくないです。

 おっかなびっくり!!というのが正直な感想だ。


 黒龍が撃ち落されたのもそうだが、第一何故こんなところにラスがいるのか。

色々と気になることは多いが問いただしている暇はないようだ。


 撃ち落された黒龍が目を開く、その瞳には怒り・・・、ではなく喜びの色が垣間見えた。

 その表情のままおもむろに立ち上がり、


 グルアアアアアアアアアアアアアア!!


 天を貫かんとするほどの大咆哮。


 その声はまるで、強者との闘いへの喜びのように感じられた。

 

 そして、その声に連れられるかのように俺も・・・、


「フハハ、フハハハハ!!」


 不思議と笑いが込み上げてきた。


「ちょっ、どうしたの?ネイさん?」


 そんな俺にリュークが不思議なものに話しかけるかのような声色で質問してきた。


「悪い悪い、驚かせちまったようだな」


「あ、ハイ。急に冷静にならないでください」


「悪かったよ」


 今俺の胸を満たすのは、黒龍に対する恐れではない。

 それだけは良く分るが、これの正体は分からない。


 だけど、”喜び”に近しいものであることは間違いない。

 なんだかんだ言って、俺は戦うのが好きなのかもな。


『ブルー、引き続きサポートを頼む』


『お任せを』


 俺は頼れる相棒がいる、どんな壁だって乗り越えられるだろう。

 そんな気がした。


 俺を睨みながら立ち上がった黒龍だが、先ほどよりもさらに体温を上昇させ、湧き出る油の量も増加している。

 そしてその油は体中を這い回り、


ゴガアアアアアアアア!!


 黒龍が雄たけびを上げる。そしてその直後、その声を引き金にしたかの如く、油が発火する。


 黒龍の体は燃え上がり、まさしく炎の化身とでもいうべき風貌である。


 まるでもう一つの太陽とでもいうべき姿、近づいたものをすべて焼き払う存在。

 そんな超常の化け物が、俺たちに牙を剥く。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 つい先ほどまでフハハハ笑っていたネイだが、その思考は冷静だった。

 黒龍が何の前触れもなく放った、灼熱の吐息を気合で回避する。


 だがしかし、今の黒龍はまさしく炎の化身。

 そのブレスもさらに強力なものとなっており、少しだけ変化していた。


 通り過ぎる灼熱の塊、大地を焦がしながら直進していくが、それと同時にあるものをばら撒いていた。


「ラス!!」


「承知!!」


 ネイの警告を受け取ったタイミングとほぼ同時に、ラスは”それ”から距離をとる。

 ばらまかれた”それ”、赤い靄はラスがその場から離れたその瞬間に、大爆発を引き起こした。


 黒龍のブレスは、先ほどより魔素と黒龍自身の熱エネルギーの含有量が増している。

 結果余剰分として溢れ出す魔力が発生したわけだ。


「なかなか厄介な特性ですね・・・」


 そうつぶやくラス。

 だが諦めたわけではなかった。


「氷遁:氷華」


 放たれたのは絶対零度の忍術。

 触れたもの全てを凍てつかせる最上位の氷遁である。

 だがそれをもってしても黒龍には届かない。


 身にまとった灼熱は、絶対零度の空間すらも灼熱地獄に変貌させていったのだ。


「ふむ、効果無しですか」


「で、どうする?あぁなると迂闊には近づけねぇぞ」


 黒龍の周囲の空間は、凄まじいまでの熱気を放っていた。

 近づいただけで肉すら焦がしそうなほどの灼熱、攻撃することすら難しい。


「取り敢えずは様子見だ。全員あいつの動きには注意して・・・」


 ゴガアアアアアアアアアアアアアア!!


 その言葉が最後まで紡がれることはなかった。

 黒龍の大咆哮、その後彼から噴き出した炎はさらに勢いを増し、そして、


「もう一つの太陽・・・」


 誰かの呟きが不思議と響き渡る。

 黒龍の纏う炎が、赤色から純金のような色へと変化したのだ。


 そしてそれこそが滅びへの合図だった。

 黒龍は再び翼をはためかせ大空へと飛翔する。


 それを見たラスは再び影糸により撃ち落そうとするが、


「チッ、影が無いと来ましたか」


 黒龍はつい先ほどと違い、自身の灼炎をもって熱砂を照らし、自らを光源としていた。

 それゆえ糸を張り巡らせるための影が確保できなかったのだ。


「お前ら、急いで逃げろ!!」


 その言葉を皮切りに走り始めるネイ達。

 飛び出した黒龍の口元から、少しずつ炎が垂れ落ち、大地を焦がしていく。


 一見無作為に放たれたように見える炎、だがそれにはもう一つの狙いがあった。


「野郎、これが狙いかよ!!」


 まさしく炎の支配者、地を這う炎も、大穴をうがった爆発も全てネイをとらえるために。


 地を這う炎はネイを囲む檻となり、うがたれた大穴に流砂が流れ込む。


『お前ら、俺のことは放って遠くへ逃げろ!!』


『だけど・・・』


『安心しな。こんなところで死んだりしねぇよ』


『・・・分かった。しっかり生き残れよ!!』


 その言葉を最後にネイとのチャンネルが切断される。

 遠方へと駆ける三人。


 その三人が離れたのを見計らったかのように、黒龍の必殺技が放たれる。

 輪廻の炎。解き放たれた炎は地を這い、触れたもの全てを焦がしていく。

 まるで黄金の濁流のごとく、触れたものすべてを消し飛ばしていった・・・



 炎が這った大地は、その凄まじい熱によりガラス状に変化している。

 だがそんな中でさえも、”彼”は悠然と立っていた。


 胴体は炭化しており、左腕のほとんどが熱により溶かされ骨が見えている。

 だがそれでも彼は生きている。

 白煙を立てながら傷が塞がっていくが、その速度はすさまじく遅い。


「さっきのでお前は全部出しつくしちまったようだな。こっからは俺たちの番だぜ!!」


 だがそれでも彼、ネイは不敵に笑う。

 黒龍の纏う炎は全て消え失せた。

 反撃の時は来た。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 体中が痛い。当たり前である、1000℃を容易く上回る炎に包まれて無事な方がおかしいのだ。


 だがしかし俺は生きているぞ。

 その理由はたくさんあった。


 セテスさんが結界を張ってくれたのもそうだし、ブルーが黒の障壁を張ってくれたのもそう。

 だけど一番の要因は、俺が今羽織っているこの黒い布に隠されていた能力を、ブルーさんが解析してくれたからだろう。


 どうもこの黒い布も七つの神器の一種だったそうで、固有の能力を持っていたそうだ。

 たとえば俺の持っている黒い袋、これに”付与”されているのは”亜空収納”という属性である。

 これを属性というのもどうかと思うが、物に特殊効果が付与されているときは、その効果を属性と呼ぶのが一般的なのだと。


 で、俺が今羽織ってる黒い布。はじめこの布が持つ属性は”黒い障壁”かと思っていた。

 だけどそれは間違いで、この”黒い障壁”は黒い布に宿っていた意思が所有していた技能であり、決して七つの神器の一つである、黒い布が有していた技能ではないのである。


 言うなれば聖剣とブルーさんみたいな関係だ。

 ブルーが言うには聖剣は”絶対切断”という能力を持つのだと。

 ただしそれはブルーの持つ技能ではなく、聖剣自体に付与された属性なのだ。


 そんな感じの関係が、黒い布とそれに宿っていた意思にもあったのだ。


 その意思の有していた機能は”黒い障壁”、では黒い布に付与された属性は何なのか。

 そしてその属性の解析が、ちょうど黒龍が炎を放つ瞬間に完了したのだ。


 その黒い布の持つ属性の名は、”停止空間”という。

 簡単に言えばこの空間内に侵入したエネルギーの運動を停止させる能力である。

 この空間というのがややこしいのだが、今回の場合は黒い布そのもののこと、つまり黒い布に触れたものの運動を停止させることが出来るのだ。


 だから俺は大急ぎで、この布に包まったのである。

 流石に体全体を覆える大きさではなかったので、無傷というわけにはいかなかった。


 でもまぁ解析が完了してなかったら死んでいたことだろう。

 生きててよかったぁ~。


 ちなみに俺の生命力の残量なのだが、昨日の時点で全体の三割まで減り、寝て起きたら六割にまで回復していた。

 だが黒龍との度重なる戦闘で、今の俺の生命力の残量はおおよそ全体の三パーセントほどとのこと。


 そのせいで傷がほとんど回復せず、アホほど痛い。

 まさしく生ける屍とでもいうべき様になってしまったけど、俺の心は燃え盛っている。


「さっきのでお前は全部出しつくしちまったようだな。こっからは俺たちの番だぜ!!」


 決着をつけよう、ゾダグア!!



 駆けだすネイ。

 だがそれを簡単に許すはずもなく、黒龍は即席で練り上げた魔力砲を彼目掛けて放出する。


 だが彼はあくまで囮であった。

 魔力砲がネイの真横を掠っていくが、彼が歩みを止めることはない。

 ただひたすらに歩き続け、


「いまだラス!!」


 その言葉を合図に、彼の影から何かが飛び出す。


 その男の名はラス、黒龍のアギトに糸をくくり付け、弾丸の如き勢いで突っ込んでいく。

 そしてその勢いのまま、黒龍の体を駆けまわり、次々と傷をつけていった。


 だがそのまま黙ってやられている黒龍ではない。口にくくり付けられていた糸を大あごを開けて引きちぎり、自身の足元へ灼熱の吐息を放つ。


 凄まじい熱をはらんだそれは、熱砂を吹き飛ばしながらの大爆発を引き起こす。

 巻き上げられた砂は、霧のように視界を遮った。


 そしてそれが晴れた瞬間に、またしてもラスが突っ込んできた。

 さらに黒龍の周囲には、二人の人間、タイタスとリュークが立っており、矢継ぎ早に黒龍へと攻撃を仕掛けている。


 だがその一撃は黒龍にしてみれば、蚊の一撃のようなものであり、ラスの一撃は強力ではあるものの、彼の命を脅かせるほどの脅威ではなかった。


 そう考えをまとめたとき、一つの異変に気が付いた。

 では自分を害する可能性のあるあの男は、いったいどこにいるのだろうか。


 地上を見渡しても確認できない、であるならば上空!!

 そう考え上を見上げる黒龍。


「どりゃああああああ!!」


 その考えは正解ではあった、だがほんの少しばかり遅すぎた。

 ネイはラスによって、上空へと放り投げられていたのだ。


 そしてそのまま自由落下の勢いをつけ、黒龍の翼に降ってくる。

 ラスはネイに向けて、逆鱗の正確な位置を伝えていた。

 つい先ほど黒龍の体を駆けまわりながら傷をつけたのも、そのためである。


 グギャアアアアアア!!


 黒龍が初めて悲痛な叫び声をあげた。

 ネイが放った聖剣の一突きは、黒龍の逆鱗を穿っていたのだ。


 だがまだ足りない。


「くそ、熱ぃ!!」


 黒龍は自身の体温を増加させ、ネイを追い払おうとする。

 だがこのチャンスを逃がしてしまっては、ネイ達に勝ち目はないだろう。


 ゆえに彼は逃げない。そして苦痛に満ちた表情で放たれる最後の一撃。


「これで終わりだ、円弧斬!!」


 円弧斬。大地を薙ぎ払うように切りつける一撃。

 深々と刺さったそれは、黒龍の肉をうがち、そして内部器官を破壊した。


 逆鱗とはその名の通り、反り返った鱗のことである。

 彼はその逆鱗の反り返った部分から、大気中の生命力や魔素を取り入れている。

 そしてその逆鱗の内側にある内部器官で、自身の体に適合するよう作り変えるのだ。


 では、そんな内部器官が損傷したらどうなるのか。

 そもそも彼が生命力や魔素を作り変えるのは、そのまま取り入れると危険だからだ。


 彼の体に流れる発熱液は、空気に触れるとすぐに発火する。

 それゆえ逆鱗付近にある内部器官を使って、純粋な魔素と生命力だけを取り入れるようにしなければならない。



 にもかかわらずその内部器官が壊されてしまった。

 そうなってしまえば起こることはただ一つ。


 黒龍の発熱液は発火し、黒龍の体の内側から焼き尽くす。

 その炎が外面に噴き出した刹那、黒龍の体を中心に大爆発が巻き起こった。



 炎の爆心地となった黒龍は、その体を内側から壊され、ズタボロになっている。

 だがそれでも生きていた。


グガアアアアアアアア!!


 再び雄たけびを上げるが、うまく体動かない様子。

 その後、黒龍はネイを一瞥した後、翼を広げ北の方角へと去って行った。


 そのネイだが、ラスの糸によって爆発の直撃は免れたものの、かなり危篤な状態にある。


 黒龍の放つ熱によって、体を焦がされた結果だ。


「とりあえず町に戻りましょう。ネイ殿の治療をしなくては」


 ラスの発言に皆頷く、そこに勝利への余韻などなかった。

 何故なら戦いはまだ終わっていない、全員生き残ってこその勝利なのだから。

次回から文量を減らそうと思います。

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