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とある勇者の冒険譚  作者: azl
第四章 神聖王国での激闘
27/69

仲間とともに

次の次で戦闘は終わりの予定です

 やってきたのはリューク、タイタス、セテスの三人。

 他は避難やその誘導に精一杯、それらが完了し次第やってくる予定である。


 黒龍と向き合い、ネイは聖剣を構える。

 久しぶりの戦闘だが、何も心配することはない。彼には最高の相棒がついているのだから。


 ネイが気を入れ直したその瞬間、黒龍が炎の吐息(バーニングブレス)を放った。

 凄まじいまでの熱量、しかしそれがネイたちのもとに届くことはなかった。


「守り給え、聖域結界」


 セテスが放った魔法、聖域結界。

 物理に対する高い防御性能を誇る結界である。


 放たれた炎は展開された結界の前に、悉く消滅した。かのように見えた。


「?なんですかねあれ?」


 その不可思議な現象に初めに気が付いたのはリュークだった。


 結界の中をぷかぷかと浮遊する赤い靄、それを認識した刹那、ネイが警告を飛ばした。


「それから離れろッ!!」


 その声に反応し、慌てて離れる三人。その行動が彼らを救った。

 三人がその場を離れた瞬間、赤い靄が爆発する。


 凄まじいまでの爆炎、その炎はセテスの張った聖域結界を悉く破壊しつくした。


「あれは一体・・・」


「おそらく黒龍の魔法の一種だな。あれは物理じゃなくて魔法への対策がないと防げないんだろうよ」


 得意げに話すネイだが、すべてブルーからの入れ知恵であった。


 そしてその内容だが、正解である。

 黒龍のブレスは純粋な炎と魔法による炎の相乗効果によって凄まじいまでの熱を誇っているのだ。

 そしてその炎は物理と魔法の二つの性質を併せ持っており、片方だけでの対策では不十分である。


 流石のブルーでもその原理までは解析不能だったが、それでも有益な情報をもたらしたことは否定できない。


「で、どうする?あれを掻い潜ったところで傷をつけれるとは思えんぞ?」


「俺に一つ考えがある」


 ネイがそう前置きし、語りだしたのは黒龍にまつわる御伽噺。

 かつて黒龍と対峙した戦士が、激戦の末それを追い払った。

 それの決め手となったのは黒龍のどこかにある逆鱗とされている。つまり・・・


「ようは逆鱗を見つけ出した後、そこを攻撃するってことだ?」


 ネイは頷く。


「まぁそれしか方法はないでしょうね。半端な攻撃では効果がないようですし」


 肯定したのはリューク。

 彼らが相談している間にも、リュークは矢を放ち続けていた。

 だがしかし一本たりともその体を傷つけることは敵わず、強靭な黒鱗ですべて弾かれていた。


「じゃあ準備はいいか?俺たち四人が対角線上に位置取って、うまく注意を惹き付けるんだ。それじゃあ散開!!」


 その言葉を皮切りに各々が動き始める。

 セテスは黒龍の背後、タイタスとリュートは黒龍の左右に位置取る。

 そしてネイは黒龍の正面を見据える。この中で一番機敏なのは彼なのだ。


 一見すると黒龍は囲い込まれた形であり、戦局的に不利なように見える。

 だがしかし、それは大きな間違いである。

 強大な力の前に戦略など無力、いくら知恵を働かせようがアリが象に勝つことなど不可能なのだ。


 その証拠に黒龍は一切動かなかった。

 有象無象が多少知恵を図らせたところで彼を害することは出来ない。


 黒龍はその帝王の如き眼光でネイを睨む。

 そしておもむろに頭部を持ちあげ、大きなアギトに魔力を集中させる。

 そして放たれたのは一条の閃光。


 灼熱の光線(バーニングレーザー)

 練り上げられた魔力は音すら置き去りにするが如き速度でネイに迫る。


 ネイをもってしても避けられず、ブルーですら認識できないほどの速さ。

 灼熱の光線は一切の狂いもなく、ネイの下へと到達する。


「クソッ、防ぎきれなかったか」


 だがしかし、その光線はネイの前に現れた結界によって弾かれ、無理やり向きを変えられた。

 もっともそれでは防ぎきることが出来ず、腕に光線が掠り、焼きただれている。

 だがそれでもネイの体は焼き失せていない。黒の障壁、その凄まじく高い防御性能をもって身を防いだのだ。


 ネイは昨日もらった黒い布を、セテスから譲られている。

 黒の障壁は、布からネイに譲渡されたが消滅したわけではない。ブルーはその黒い布に残っていた情報の残滓から、黒の障壁を復元したのである。


 その復元された黒の障壁は常時発動型の結界となって、ネイの身を守っているのである。


 だがそれをもってしても完全に防ぎきることは出来なかった。

 高密度の魔素により練り上げられた炎、そして凄まじいまでの速度。

 この二つのエネルギーは悠々と”黒の障壁”の防御能力を上回っていた。


 だがそれでも、


「・・・修復完了だ」


 ネイを打ち破ることは敵わない。


 ネイにはその炎のエネルギーを上回る生命力がある。

 それこそ一撃で頭を破壊するか、心臓を破壊するかしないと死ぬことはない。

 当然彼の生命力は有限だ。

 だがしかし黒龍の灼熱の光線(バーニングレーザー)では彼を打ち破ることは不可能だろう。


 自分の自慢の攻撃を防がれたことに若干の焦りを覚えた黒龍。

 そんな彼の耳のもとに、若干挑発めいた発言が聞こえてくる。


「忘れてるかもしれないけど、お前の相手は俺だけじゃあないんだぜ?」


「その通りだとも。喰らいあがれ!!地衝斬!!」


 その言葉の後、放たれたのはタイタスの斧術中級技能、地衝斬。

 その一撃は大地をえぐりながらの鈍重な一撃。


「チッ、やっぱしあんま意味ねぇか・・・」


 常人なら即死か瀕死、現に黒龍の右足の鱗に傷をつけることには成功している。

 さらに片手で数えられる枚数ほどではあるが、その強固な鱗を砕いていた。だがその下にある肉までは刃が届かなかったのだ。


 そもそもの話黒龍は人間に比べて非常に大きい。

 軽く十五メートルは超えており、足の大きさは大体三メートルほど。

 人間を相手取るのとでは勝手が違うのである。


 だが、


「いえ、十分ですよ!!」


 彼は一人ではない。頼れる仲間たちがいる。


 リュークの放った矢は直線を描きながら黒龍の右足に直撃する。

 タイタスがつけた傷口に突き刺さった矢、その先端に塗りたくられていたのは猛毒だった。


 グルルルル!!


 黒龍が不愉快そうに吠える。

 だがしかし体内に侵入した毒は、少しづつ黒龍の体を蝕んでいくはずだった。


 ガルルアアアアアアアアアアアアアア!!


「大きすぎて効果なし、ですかね」


 まるでそんな小細工は通用しないといわんばかりの大咆哮。

 厳密にいえば効果はある、だがしかし一本打ち込んだだけでは大した効果は望めない。

 理由は先程と同じだ。黒龍の体は大きい、それゆえ必要となる毒の量も時間もその辺の魔物とは段違いなのだ。


 でも攻撃が通っているのは事実、そしてこのままいっても倒すことが出来ないのも事実。


『セテスさん、逆鱗は見つかりましたか?』


『申し訳ありませんがまだですな。ただ背中の部分と足回りにはありませぬ。おそらくは翼か首筋あたりかと』


 ネイの問いかけにセテスが答える。

 不思議なことに、この言葉は彼らの口から発せられていなかった。この会話にはブルーが行使する”念話”が使われていたのだ。


 本来であれば部外者相手にこのようなことをしないブルーであったが、黒龍の灼熱の光線(バーニングレーザー)を見て非常事態と判断。一切の躊躇いも無く、この場にいる四人の間にチャンネルを繋いだのである。


『わかった。俺たちはあいつを惹き付けるから、セテスさんは・・・』


 その言葉は最後まで紡がれない。

 黒龍が動き出したのだ。


 両前足を持ち上げ、トカゲのような形態から二足歩行の形態に移る。

 そしてネイのほうではなく灼熱の熱砂のほうに眼光を向ける。


 そして、


 カァァァァァァァァッ!!


 耳を貫くような轟音を立てながら再び黒龍の大顎に魔力が集中する。

 先程と違うのは黒龍がネイではなく大地のほうを向いていること、そして口元に集う魔力の量も段違いであること。

 そこから導き出される結論は・・・。


『全力で逃げろッ!!』


 ネイの絶叫じみた警告が三人の脳内に響く。

 そしてその声と同時に、大地が爆ぜた。


 大爆発。凄まじいまでの熱波と閃光が砂漠を駆け巡った。

 黒龍から放たれた灼炎は熱砂を伝い、もたらされた爆炎は広範囲に及び、その熱量も尋常ではなかった。

 爆発した大地は赤熱化し、まさしく赤熱砂とでもいうべき様に代わっている。

 さらにその爆心地の大地は白熱化しており、煌々と輝いていた。


 爆炎が砂漠の大地から消え失せ、砂塵が舞い上がった。そしてその中心から現れた巨大な黒龍。

 四人の勇ましき者たちは悉く消え失せたかのように思えた。


 だがその予測に反して、燻り消えゆく爆炎の中より、一つの影が黒龍に向けて飛来する。


 彼だけではない、黒龍の目には残る三人の姿も発見できた。

 無事とは言い難いが仕損じたのは間違いない。


 なぜ彼らを仕損じたのか。

 黒龍が大あごに魔力を集中し始めた瞬間、ネイとセテスは黒龍の異変に気付き、とある技能を発動させていた。

 黒い障壁と聖域結界だ。


 聖域結界は彼ら四人を包み込むように。黒い障壁は彼らそれぞれを包み込むかのように。


 聖域結界はともかく黒い障壁を個人に付与するのには座標計算という非常に大きな労力が必要となる。

 だがしかし彼ら四人の間にはチャンネルが繋がれており、その必要はなかった。だから素早く黒の障壁を付与できたのだ。


 それによってほんの少しだけ生まれた猶予の間に、結界を自分たち四人だけでなく、黒龍の口元にも張り巡らせたのだ。

 当然全て防ぎきることは不可能ではあったが、その威力の減衰には成功させた。


 もっとも減衰させてもなお、大地を爆ぜるほどの爆炎が引き起こされるのは流石に想定外だったが。


 だが焦っていたのは黒龍も同じ、しかしその心を落ち着かせ、今起きている事態の収拾に努める。

 爆炎から飛び出した影は少しづつ黒龍に接近していた。

 だがそれをそう簡単に許す黒龍ではない。


 カッ!!


「チッ、やっぱ化け物だな!!」


 黒龍は急いでその影のもとに灼熱の吐息(バーニングブレス)を放つ。

 だがしかしその炎は彼の持つ剣と外套に張られた結界により悉く消え去っていく。


「これでもくらえ!!」


 飛来する影は黒龍の頭部に剣を突き立てた。

 本来ならば弾かれるはずの一撃。だがしかしその剣は黒龍の鱗を易々と貫き、肉へと至る。


「・・・逆鱗を狙わないとだめか」


 だがしかし、あまり効果はなかったようだ。

 一般的な生物の弱点である頭部を攻撃したものの、大した影響は見られなかった。

 もはや逆鱗を狙うしか方法はない、そう考えてそれを探そうとしたのだが、ふと異常に気が付いた。


「・・・油の匂い?」


 油の匂い。つい先ほどまではまるで感じなかった匂いである。

 その匂いが漂い始めたその合間に、黒龍の体に変化が見られた。


「黒光りしてやがるな。出どころはここか」


 鱗の下にある黒龍の肉、どうもそれが動いているらしく黒龍の鱗の間に隙間ができる。

 そこから黒い液体が少しづつ溢れ出ており、黒い鱗を濡らしていく。

 溢れ出るのは液体だけではなく、ガスも噴き出ていた。


「ガス?・・・ッ!!まずいッ!!」


 慌ててネイが黒龍から離れる。

 噴き出したガスは、発火し、黒龍の体から噴き出る炎の柱と化す。

 黒龍の体は揺らぎができるほどの高温となり、鱗の隙間からあふれ出た油も発火し始めた。


 そして、黒龍の体が爆ぜた。


 先程の爆発とは違い小規模なものであったが、それでも威力は絶大。

 砂塵を巻き上げ、熱砂の大地を焦がしていった。


「ネイさん。大丈夫かい?」


「あぁなんとかな」


 ネイが黒龍に飛び掛かっていた間も、リュークは矢を放ち続けていた。

 百発百中。放たれた矢は全て黒龍の鱗の間を貫き、毒が染み渡る。

 だが、


 ゴガグアアアアアアアアアア!!


 まるで弱った雰囲気を感じさせない王者の咆哮。

 そして、巨大な翼を広げ、天空に飛行する。


「ッ!!来るぞ!!」


 大きな顎に魔力が集まり始めた。

 集まった魔力は熱の波動を帯びて、遠く離れるネイ達にも伝わってくる。


「あれはまずいな・・・」


『えぇ。対策は万全ですが、安心とは言えません。ですが・・・』


『ですが?』


 ネイは自分の問いかけに対して、ブルーが少し微笑んだような気がした。

 そして、その雰囲気のまま、


『まもなく強力な助っ人がやってきますので、心配はご無用かと』


 そう断言した。

 ネイ達四人はその言葉にいまいち釈然としなかったが、すぐに答えは示されることとなる。


 黒龍に集められた魔力は着々とその強さを増していき、音と熱は先程とは比較にならないほど強くなっていた。

 だが、


「ん?あれは!?」


 ネイの驚いたような声が響く。


 その刹那、飛翔する黒龍の影とその腹部の間に黒い線が繋がれる。

 そして大地と飛翔する黒龍は凄まじい力で引かれあった。


 だがしかし、そう簡単には撃ち落されない。

 黒龍はさらに高く羽ばたき、その線を引き千切ろうとする。


 だがしかし、影に潜んでいた”彼”はそれを許さない。

 影の中から弾丸の如く飛び出す、標的は黒龍。


 グギャァ!?


 黒龍が堪え切れず、初めて焦ったような声を上げた。

 だが取り乱すことなく、急ぎで練り上げた魔力を影向けて発射する。

 だが、


「ここですよ」


 耳元から冷徹な声が聞こえてくる。

 そして、


「糸遁:天網恢恢」


 そのつぶやきの刹那、黒龍の体が束縛される。

 糸によって体の自由を奪われ、体がよろめき始める。

 だがそれでも地に落ちない黒龍。


「粘りますね。それでは糸遁:斬裂糸」


 その刹那、黒龍の体に激痛が走った。

 その体に張り巡らされた糸が、黒龍の体を切り裂いたのだ。


 体の自由は取り戻されたが、駆け巡った激痛により意識が揺らいだ。

 とうとう空中での制御を失い、地に落ちる黒龍。


 そんな人間離れした所業をやってのけた男の名は、


「ラス、なんでここに!?」


「説明したいところですが、それは後程。それと、お伝えしたい情報が一つ。逆鱗のありかですが、羽の付け根です」


ラス。

強力な助っ人である。

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