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とある勇者の冒険譚  作者: azl
幕間2
22/69

黒い使者どもの密会

小さな少女って何か変な感じなんですけど、セーフかアウトかよくわからなかったんですよね。

ちなみに違和感を感じるは一概にも間違いとは言えなかったりします。

 日が落ちて月が昇り切ったころ。イーナウド城のとある一室、そこに集まった四人の者たち。


 一人はやせ型の男、もう一人は筋骨隆々の大男、そしてほかに比べると小さな少女、最後に芸術品のごとき美貌を誇る中世的な”それ”。これだけ聞けばなんてことの無い団欒のよう、何も特別なことはない。ただしこの者たち四人は黒い髪色をしていた。当然染めたものではなく、純粋なものである。


 この世界において髪色というのは出身を分別する際に用いられることが多い。金色や茶髪ならフィロンスト王国、それらに若干の白が混ざった色をしていればディザード神聖王国など、髪色は地域によってある程度違ってくる。


 それでは黒髪はどこなのかという話だが、この世界では知られるところではない。ただ東にあると漠然と言い伝えられている限りである。もっとも彼ら四人が黒髪のルーツを知らないという理由にはなりえないのだが・・・。


「あかん、やられてもうた!!」


 別に団欒していたわけではなかったので、その部屋はとても静かだった。だが非常に静かだったその部屋に突如として声が響き渡る。叫んだのはやせ型の男、それに対して抗議の声を上げたのは小さな少女だ。


「んもう!!うるさいなぁ。なんなのさ、いったい!!」


「おお、すまんすまん。でもリーはんも人のこと言えないぐらい騒がしいで」


「私はいいのよ、それよりも何が起こったのか説明しなさいよ!!」


 リーはんこと、リーテン。彼女は見た目の割に年を取っている。ただし精神はその限りではなく、子供の持つ純粋な凶暴性とわがままな部分を持ち合わせた、非常に苛烈な性格をしている。


「ああ、そうしよか。えっとな、この前・・・、つってもだいぶ前にコウガの長の死体を回収したやんか。で、そいつ結構使えるなぁって思ったから”傀儡支配(マリオネット)”で生き返らせてやったわけなんやけど・・・。」


「わかったわマンモン、そいつが殺されちゃったってことね」


「なんや、わしが言おう思たのに」


 おちゃらけ、不満げに顔を膨らませるマンモン、それを見て大笑いするリーテン。しかし話している内容は明らか様に常軌を逸していた。


 そんな中この四人のうちで最も逞しい大男が口を開く。


「・・・お前らのことはいつになっても理解できる気がせんな」


「いやいや私たちがおかしいんじゃなくって、ストゥールがおかしいのよ」


「せやせや、わしらがおかしいんじゃなくて、お前さんがおかしいんや」


 彼の意見は至極全うであったが、二人にそろって否定される。もはや何を言っても理解されないだろうと、これ以上口を利くのを諦めた。このメンツの中では比較的常識人、その名をストゥールといった。


「で、さっきの話に戻るんだけどさ。その”お人形さん(マリオネット)”ってどれくらい強かったの?」


「ん、そうやな・・・、リーはん”世界系”って呼ばれる技能があることを知っとるか?」


「ん?知らなーい。ストゥールは知ってる?」


「ああ、確か魔法系の技能を極めると習得できるもの、だったかな」


「その通りや。やっぱお前さんは物知りやなぁ」


 マンモンは少し馬鹿にした様子でストゥールを称える。当の本人は若干苛立ってはいるもののそれを口に出すことはない。


「ふーん、それってすごいことなの?」


「そりゃそうや。わしらの力をもってしても一筋縄ではいかんと思うで」


「えっ、じゃあそれがやられたってことは・・・、ちょっとヤバいんじゃないの?」


「いや、一口にそうとも言えんのよ。コウガの長の技能は”陰影世界”っていうんやけど、他の世界系とは若干違ってたみたいなんよ」


「・・・どういうことだ?」


「世界系の能力って、基本的に発動者が支配者、取り込まれた側が被支配者って関係が成り立つんよ。だから世界系の能力は特別危険視する必要があるんやけど、陰影世界っちゅうのはあくまでその空間を作り出す能力であって、そこに支配関係は生まれないのよ」


「つまり今回の件は大したことないと」


「断言は出来んけど、あまり問題視する必要はないってことや」


 そのことを聞いて、リーテンは安堵する。彼女にも作戦の可否を判断するだけの頭脳はあるのだ。


「良かったぁ、せっかくの計画が台無しになっちゃったらダメもんね」


「まぁ新しい障害が出てきてしもたんやけどな」


「・・・何?」


「あぁ、勇者がとうとう現れてしもてな」


「勇者だと?」


 ストゥールが訝し気に尋ねる。しかしマンモンは守銭奴であった、強欲が生き物の皮を着ているような彼がそう簡単に教えるはずもなく・・・。


「なんや、知らへんの?せやったらチャンスやな。」


「・・・何がだ?」


「フフン、ただで教えるわけないやろ。金寄越せってゆうとんねん、今回は特別にマケとくからさ」


 ストゥールが不愉快そうに顔をいがめた。しばしの沈黙の後、この会話を黙ってみていた”それ”のほうを振り返る。


「生憎私は金には興味がないゆえ、一銭も持っていない。金をせびるなら私じゃなくて・・・」


「待て待て、さすがにわしも相手は選ぶで!!お前さんやから言っとるんや」


「俺に金はない、ないものはないのだ。諦めろ」


「ちぇ、ケチやのお」


 マンモンはそう吐き捨てた後、口をとがらせた。いくら守銭奴とはいえ、危険な橋を渡ってまで自分の欲を優先することはなく、諦めるということも知っていた。それがマンモンという男である。

 もっとも彼にとって危険な橋はないに等しいわけなのだが・・・。


「ま、お得意さんの顔に免じてちょっとだけ教えてやろ。今の所勇者を警戒する必要はないで」


 今の所は、と心の中でほくそ笑む。彼なりの仕返しであった。


「ほう、お前がタダで動くなんて珍しいな」


「フン、お得意様の気を損ねるわけにはいきませんからな」


 彼は信用を最も大切にする、ゆえにこれは彼の心からの言葉であった。もっともそのお得意様はいまだに口を開かないのだが。


「ねぇマンモン、今回の計画成功するかなぁ?」


 心配そうな声で質問するリーテン、先程までの話を聞いて少し不安になったのだろう。ついさっきまでのやかましさを一切感じない声であった。


「何を弱気になっとんねん。安心せい」


ーー六魔公が一人、マンモンがついてるんやから。


「・・・六魔公?七魔公じゃなく?」


 カッコつけてそんなことを言ってみたマンモンだが、その発言に反応を見せる者がいた。


 この発言に反応したのは、つい先ほどまで口を閉ざしていた”それ”だった。さすがに顔面の皮が厚いマンモンも驚きを隠せない。


「えっ?」


「・・・私の知る限りでは魔人公と呼ばれる存在は七人存在したはずだが?」


「あぁすんません、貴方様が喋るの、珍しすぎて気が動転してました。それはいわゆる”世代の(ジェネレーション)ずれ(ギャップ)”ってやつですわ」


「・・・ふむ、まぁ良い。してその者共の所在は?」


「ご安心ください。五人のうち一人が死亡、二人は今回の計画の邪魔になる可能性は0%、後二人行方不明ですが、片方は私よりも弱いんで問題ないです」


 もう片方はちょっとわからんけど、と締めくくる。

 六魔公とはマンモンのかつての仲間たちのことだ、だがしかしマンモンは金さえ払えばなんだってする。それこそかつての友を裏切ることに、何の感情も抱かないのだ。


「・・・最後の一人は?」


「それは分かりません。如何せん会ったことないもんで」


「・・・ふむ」

 

 頬杖を突きながら深く考え込む”それ”、ーー魔王ーーはマンモンのことを信用していた。それは彼との付き合いの長さもそうだが、自分よりも強いものには絶対に逆らわないという、その性根を見抜いていたからだ。


「まぁ良い、信じるしかなかろう。して七聖公どもは?」


「申し訳ありませんが全員の所在は把握できてません。二人死んだことは分かってるんやけど・・・」


「・・・予想でいい、聞かせろ」


「おそらくは彼らの主を警護中かと。未だ復活の兆しを見せませんし」


「計画の障害になる可能性は?」


「ほぼゼロです」


 その言葉を聞いても魔王の顔に変化はない、何を考えているのか誰にもわからない。

 だがしかしこの計画の成功を彼以上に望んでいたものはいなかった。


「ならばよい。今回の計画、失敗は許されない。絶対に成功させるぞ」


「「はい。必ずや、我らが主のために」」


 その言葉を聞いて魔王は満足げにうなずく。


 今回の計画に最も障害になりえる者たちは不参加、さらにこちら側の戦力は非常に高くこの世界においては敵なしだろう。失敗などありえなかった。


 皆表情は明かるげ。だがただ一人、ストゥールだけはその裏で物憂げな表情を浮かべていた。

お読みいただきありがとうございます。


次回はネイ達ステータスをのせて、その次に新章突入です。一切のアイデアがありませんが頑張ります。

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