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とある勇者の冒険譚  作者: azl
第三章 大森林での反乱
19/69

暗がりの中で

読んでいただきありがとうございます。

「すまないラス、待たせたか?」


 やっと着いた。

 サイガさんがいきなり駆け出してしまったせいでだいぶ出遅れたのだ。

 まぁ、そのサイガさんも俺が自分の速さについてこれるとは、最初から思っていなかったようで、


『私は少し先に行っています。現地に着いたらラスと一緒の行動してください。』


 とだけ言い残してさっさと行ってしまったのだ。

 まぁ何が起こっているのかわからなかったからな、一刻を争う事態であった可能性もある。

 そう考えると恨み節もはけまい。そもそも俺はわがまま言って手伝ってる立場だからな。


「いえ、私も先程ついたところです。」


 嘘おっしゃい。

 付かなくていいウソつきやがって。

 わざわざ気を使わなくてもいいのだが。

 ちなみにサイガさんは入り口前で怪我したサーガのシノビ運ぶために、市街地へ帰っていたそうだ。

 仕事の早いことで。


「で、ここからはラスの命令に従うよ。俺はあんまりこういうことに詳しくないんだ。」


 俺が言っていることは本当である。

 魔物と戦ったことはあるもののそこまで詳しくはない。

 ましてや今回のケースだと相手は人間なのだ、一切の経験がないのである。


「わかりました、とりあえずは私の後ろに隠れておいてください。戦闘は私が行います。」


「わるいな、足手まといになってしまって。」


「いいえ、戦闘中は背後がおろそかになりがちですので、こちらとしてもありがたいです。」


「ん?糸で警戒できるって言ってなかったか?」


「まぁそうなんですけどね、欠点がないわけではありませんので。」


「そうだったのか。」


「はい、少しお話しておきたいところではありますが、またの機会に。」


「だな。それじゃ行こうか。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「なかなかの徹底ぶりだな。」


 地下壕の中は光源もなく真っ暗だった、かろうじてラスと俺が持ってきていたランタン頼りだ。

 当然ながら、この地下壕にも光源はある。

 否、あったというべきか。

 地下壕に備え着けられていたランタンは一つ残さず壊されていたのだ。

 ランタンが吹き飛んだ理由の大半は、さっきの爆発によるものなのだろうが、流石に地下壕全域を覆うほどの爆発ではなかった、吹き飛ばせるにしても入り口付近まで。

 にも関わらずここまでランタンが壊されているとなると、わざわざ自分から壊していったと考えるのが妥当。


 とブルーさんが言っていた。


「えぇ、どうやら爆発が原因ではないものもありそうですね。」


 おっと、ラスもブルーさんと同じ結論にたどり着いたみたいだ。

 まぁ俺ももう少し時間があれば同じ結論にたどり着けていただろうし、実質この場にいる全員が同じ結論にたどり着けたことになる。

 そういうことにしておこう。


「この暗闇の中だと、索敵するこちらが不利になる。向こうからすればただ待っているだけで有利な状況を作れるんだから、まぁこうするのも考えられるのか?」


 この行動に理由を持たせることは、一応可能である。

 ただ暗闇にするというのも相手からしてみればメリットだけではないはずだ。

 夜目が効こうが何だろうが、普通は暗い場所で戦えばデメリットの方が大きい。


「なぁラス、今回の襲撃犯はコーガのものだと思うか?」


「・・・恥ずかしい話ですがその通りかと。」


「お前も色々悩んでいるだろうけど、一つだけ聞きたいんだが・・・、コーガのシノビたちにお前のその糸の忍術は広く認知されていたのか。」


「えぇ、同期たちにはよく知られていましたよ。コーガの国では一応主席でしたので、注目は浴びていましたし。」


 なるほどな。

 となればなるほど、おかしいよな。

 ・・・そういえば、欠点があるって言ったか。

 いったいどんなだ?


「ラス、さっき糸にも欠点があるって言ってたけどそれは一体?」


「あぁ、簡単ですよ。物体と物体の間しか開通できないのと、むやみな乱用はできない。この二つです。まぁ一部例外も作れますけどね。」


「なんだ、暗闇の中では機能しにくいとかではないのか。だったら一体・・・。」


「・・・僕にも分かりません。兎にも角にも早いうちに解決することにしましょう。おそらくこっちです。」


 そう言ってラスがぐいぐい進んでいく、まぁとっとと解決する方が良いしな。

 黙ってついていくことにしよう。


『・・・ふむ。』


ん?どうした?


『いえ、お気になさらず。』


 そうは言われても気になるもんは気になるんだがな。

まぁ割り切るしかないか。

こうして俺たちは暗闇の中を進んでいく。ーーーーーーー




 ーーーーーーどれくらい歩いたか。

 地下壕の中は思ったよりも広かった、迷路とまではいかずとも相当に入り組んでいる。

 もっとも入り組んでいるということは、相手からすれば襲撃をかけやすいというわけで・・・、


 『ッ!!後ろ!!』

 ブルーさんの警告が鳴り響く。

 それに従い即刻後ろに切り払う。


「クソッ、何故分かった。」


「ええぃ、われらコーガの計画を邪魔するものには死を!!」


 斬った感覚はなかった。

 すんでのところでよけられたみたいだが、どうも二人いたらしい。

 片方については飛び出さなければ気付かなかったと思うが。


『場所についてはこちらで指示します。安心して戦闘を行ってください。』


 了解。これで安心して戦えるな。

 ただ人間を相手にするのはこれが初めてなのだ。うまく立ち回れるかどうか。


「黙れ。貴様らわれらの主のお言葉を忘れたか。」


 そう思っていたのだが、ラスには少々聞きたいことがあったようだ。


「ふん、我らが祖国を裏切った貴様の話など聞く理由などない!!」


「然り、我らは我が主のために戦うのみ。」


「お前たちは何を言って・・・。」


「問答無用ッ!!」


 それだけ言って二人のシノビは飛び掛かってきた。

 だが、その刃は俺たちに振り下ろされることはなく。


「糸遁:糸縛斬。」

 

 一切の逡巡もなく繰り出された技。

 そのつぶやきの後、シノビたちは静止したのだ。


「・・・切れ味の高い糸で束縛する技か。」


「えぇ、生かさず殺さずという状況を作り出すのはこの技が最も適切です。しかし・・・。」


「もう死んでないか?」


 そう。

 眼球一つ動かさず静止しているのだ。

 ラスが生死を確認してみたが、死んでいるらしい。


「死んでいるとなると、こいつらはどうする?」


「そうですね、せめてもの報いです。私の術で葬っておきます。」


「わかった。」


 それだけ言ってラスはシノビたちを灰にしていく。

 割り切ろうとはしているが、心のどこかでは大切な友のままなのかもしれない。


「さて、それでは進むとしましょうか。」


「わかった。」



 そのあとも戦闘は続いていった。

 地下壕の下層は特別天井が固く作られたらしく、崩れてはいなかった。

 まぁ、爆発の範囲外ではあったからというのもあるだろうな。

 明かりは上の方と同じように無かったものの、探索自体は楽に済んだ。

 もっとも下層になればなるほどシノビの量は増えてきたのだが。


 何も置かれることが無かった食糧庫に広く作られた集合所、その他諸々見て回りここが最後の部屋。


「く、貴様ら、もうここまで!!」


「ひるむなッ!!敵を撃退しろッ!!」


 当然のようにコーガのシノビはこの部屋を占拠していた。

 ブルーさん曰く四人。

 しかし・・・。


「お任せを。」


 それだけ言ってラスがシノビたちを蹂躙していく。

 あまりにも一方的であった。


 で、肝心のシノビたちだが、


『おかしいですね、この程度で死ぬとは考えにくいのですが・・・。』


 すっかりこと切れていた。

 さっきも言っていたが、この程度で死ぬことはあり得ないのである。

 最初のうちはラスの忍術が強すぎていたのかと思った。

 しかしブルーさんが、問題ないと断言していた。

 ラス自身も可能な限り加減しているといっていたし、そう簡単に死ぬとは思えないそう。


 サーガの立場からしてみれば、なぜ今になってイーガの国が裏切ったのか、情報が欲しいわけだ。

 ただその情報源が死んでしまっては元も子もない。

 だから可能な限り殺したくはなかったのだが・・・。


「もしかして全員死んだか?」


「・・・そうかもしれませんね。」


 残念なことに全員死んでしまった可能性が高いようだ。

 こうなるといろいろまずいのだが・・・。


「おい、ラス。何か成果はありましたか。」


 突然後ろから声がした、びっくりして振り返ると、


「申し訳ありません族長殿。全員死んでおりました。」


 サイガさんがいた。

 避難誘導もけが人の搬出も済んだらしく、俺たちの増援に書き付けてくれたそうだが、もう事は済んでしまっている。


「おや、珍しい。あなたが加減を間違えるだなんて。」


「・・・申し訳ありません。私はもう一度残党がいないか確認してから帰還しますので、族長殿はネイ殿と一緒に地上へ。」


「わかりました、気を抜かないように。」


「かしこまりました。」


「それではネイ殿。暗闇の中ですのではぐれないよう、しっかりついてきてください。」


「わかりました。それじゃあラス、気を付けて。」


ラスがうなずき返す。

こうして俺たちは地上へと帰ったのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 サーガとネイが地上への帰路に就く。

 残されたのはぽつんとたたずむラス一人。

 その空間は何一つとして音を立てず、暗闇の中に()()していた。


「いるんでしょう、師匠。」


 不意に沈黙が破られる。

 声が沈黙に満ちた空間に響き渡る。


「・・・ほう、よくわかった。さすがは我が最高の弟子だ。」


 その後、どこからともなく声が聞こえる。

 穏やかな口調、しかし・・・、


「ラスよ。お前は私の願いを無碍にするつもりか?」


 その内に込められた本質は怒り、自らの望みを遂行しようとしない弟子に対する憤りを抑えきれていなかった。


「・・・師匠、貴方の望みとは?」


 だがそれにラスが動じることはない、怒りの感情は師匠と呼ばれたその男だけのものではないのである。

 彼の師匠が殺されたのは、彼自身がよく知っていた。

 それゆえに自らの憧れを騙るその偽物には、報いを与えるべしと考えていた。


「いわれなくてもわかるだろう、我らコーガの繁栄よ。弱者どもを淘汰し、そして・・・。」


「もういい、黙れ。」


 しかしながらラスももしかしたらと考えていたのも事実である。

 彼は自分の見たものしか真に信じることが出来ない。

 だが彼は師匠が死んでいく様を見ていたし、何度も何度も後悔した。

 言い逃れは出来なかった。

 でももしかしたら・・・と。考えていた。

 だからよく聞いた声が聞こえたとき、ほんのかすかに希望を見出した。


 だが結局のところ自分の中では結論は出ていたのだ、と今気が付いた。

 彼の師匠が目指したのは、武力によるコーガだけの繁栄ではなく武力によるショーコンド全域の調和。

 それは彼の残した最後の望み、その理想にラスは大きく心動かされたのだ。

 その過程で色々間違えてきたと思う、だが自分の師匠はその目的のためだけに力を振るい続けていたことをラスは知っていた。

 そして今、武力による調和の時代は終わりつつあり、新たな時代が始まろうとしている。

 ラスは理解していた、今師匠が望んでいた理想が出来上がりつつあると。

 調和された世界を今一度、弱者を淘汰する世界に作り替えるなど彼の理想とは大きくかけ離れている。


 それゆえに、


「我が師の名を騙る貴様には死を持って償わせてやる。」


 覚悟を決めた。

 自分の中でもはっきりと考えがまとまったのだ。

 今話しているのは間違いなく、かつての師匠だった何か。

 これがある意味師匠から自分に向けられた、最後の試練なのだと。

 

「ふん、お前が私に勝てるとでも?」


「当たり前だ、俺は俺の師以外に負けたことなど生涯において一度もない。」


「・・・面白い。その勝負受けて立とう。」


そうして、暗闇は膨張する。


ー陰影世界。


そこに存在していたそれは、ラスを飲み込んでいった。

一切の光が存在しない、暗闇の地獄へと。

読んでいただきありがとうございました。

4月までには完結できそうもないので、6月7月をめどにしたいですね。

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