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とある勇者の冒険譚  作者: azl
第二章 王国の魔物騒動
12/69

王国での魔物騒動<後編>

ーお前には我が計画の一端を担ってもらうとしよう。


 王国の生命結晶を奪うため、ゆっくりと歩みを続けるオーガ。

 弱弱しかったころの自分はもういない、今の自分はこの世界における強者の一人なのだと自負していた。

 だが彼はその強さに驕ることはない。

 彼は真の強者というものを知っていた。


 思い出させるのはかつて見たあの光景。

 ただの弱弱しいゴブリンであった頃の自分に力を与えた存在。流れるような黒髪、透き通るような白い肌。異種族ではありながらもその美しさには己を惹き付ける何かを感じた。

 だがその美しさをもって知っても彼に色情を抱かせるには至らなかった・・・、否、彼はとある感情を抱いていた。己が身を震わせる恐怖、そして絶望というものを。


 今まで幾度となく同胞が食らわれるのを見てきた。だがいくらあがこうと彼らを救うことは出来なかった、彼らを救うには今の自分はあまりにも弱すぎたのだ。

 だがその程度の恐怖など比ではなかったのだ、その美しき存在の前では。

 無知であった頃の自分でもわかった尋常ではないほどの生命力と今でも全くの見当がつかない強大な力。同胞が死んでいくのを黙ってみている、それに勝る恐怖と絶望などこの世にあってよいはずがなかった。しかしそこにはそれがあったのだ。

 

「・・・面白い。」


 その”恐怖”がただ身を震わせていた自分に声をかけてきた。

 何か答えなければならない、だが彼にはそんなことが出来るほどの頭脳は持ち合わせていなかった。


「私に恐怖しながらも逃げ出そうとはしない。」


 いままで同胞が死んでいくのを何度も見てきた。

 そこに送られるというのなら何の悔いもない。


「・・・そうかそうか、ならば。」


ーお前には我が計画の一端を担ってもらうとしよう。


 その時自分の身に何が起きたのか、それは今でもよくわからない。ただ求めていた”力”が授けられたのだということだけは分かった。

 己の身を内から食い破ろうとする力、だがそんなものかつての同胞たちに振るわれた牙の痛みに比べればなんということはない。だがそれと同時にあるものを抱いていた。


 恐怖や絶望?

 そんなものはない。彼が抱いていたのはたった一つの感情、喜びであった。

 この力を乗り越えることが出来れば、この力を手に入れられれば、これから死にゆくはずだった同胞を守る力が手に入るのだから。

 だんだんと視界が黒に覆われてきた、朦朧とする意識の中に彼にはっきりとその言葉が聞こえてきた。


ーお前には期待している。

 

 その言葉を最後に彼は深い眠りにつき・・・。

 

 彼が再び目覚めたときにはもうすでに弱弱しかったころに肉体はなかった。

 以前とは比較にならないほど屈強な肉体。

 なぜこんなことになったのか、それを理解できるほどの賢い頭脳は彼からはもたらされなかった。

 だがそれでもかまわない。この屈強な肉体に比べれば知能という存在などあまりにも脆弱に見えた。


 彼が最後に放った言葉、自分に何を期待しているのか。そんなものは全く分からない。

 だから彼は授かった力を同胞のために振るう。


 同胞たちが虐げられることのない、理想郷を作り出すために。

 だが今の自分は少し弱い。だから・・・。


 ー手始めにあの王国を滅ぼそう、あそこには強くなるための物があるはずだ。


 その理由一つでオーガは王国を滅ぼそうと決めた。


 いくつかの同胞たちも自分と同じくオーガへと進化していた。

 もっとも皆が全員進化したわけではなかった。

 さらに言えば自分が見た”恐怖”は現れなかったそうだが。


 しかし、それでも作戦を実行するには十分な戦力だった。

 犠牲もあるだろう、だがそれでも彼は戦わなければならなかった。


 彼の眼にはすでに北門が映し出されていた。

 

 自分の立てた作戦通りに事は動いていた、自分の邪魔をするものは何もない。

 決戦の刻は近い。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 西門から北門の距離はさほどない、だから時間はあまりかからなかったのだが・・・。


「畜生ッ!!間に合わなかったか!!」


 少し遅かった。

 北門の少し進んだ先にあるアダマス草と石畳の境界、つまりは中央と北門の境界付近、そこでオーガはすでに好き放題暴れていた。

 オーガが荒らしていったのだろうか、北門に群生していたアダマス草たちも地面が抉られてしまった衝撃でいたるところに散乱している。

 だがそれよりも境界付近のほうは現在進行形で被害が出ている。

 今もなおオーガとの闘いは続いており、その衝撃ゆえだろうか、境界付近に建てられていた数少ない家屋はなぎ倒されてしまったようだ。

 時間の問題ではあるものの、生命結晶のもとにはたどり着けていないようだが・・・。


『ブルーさん、さっきのオーガと同じ種族なのか?』


 このオーガ、さっきの奴らとは異なっていた。

 つい先ほどまで戦っていたオーガはゴブリンの進化系らしく、皮膚の色が緑だった。

 だがこいつの皮膚は黒一色だった。特殊な個体、あるいはほかの種族なのか。


『・・・おそらく魔王の力を直接授かったのか、あるいは漏れ出す力を浴びたのかの違いだと思われます。先ほどのオーガに比べても生命力の量が段違いのようですし、間違いないとは思いますけど。』


 そうなのか。

 残念なことに俺の目では生命力の量は判別できないのだ。それ故敵がどれくらいの強さなのかの識別はブルーさん頼りなのである。


『で、ここからどうしようか・・・。』


 逃げるという選択肢はない、ラバンさんに託されたのだ。引くわけにはいかない。


『とりあえずは門の外に出した方がよいでしょう。石でも投げてみてはいかがです?』


 う~む、そんなんで大丈夫なのだろか。

 まぁやるだけやってみよう。


 俺はその辺に落ちてあった石ころを拾い、オーガに向かって歩き出す。


 黒いオーガ、さっきまで戦っていた個体に比べて体が大きいしゴツゴツしている。

 真正面から戦おうなどと考えてはいけないな。


 さてと、そろそろ頃合いだろう。

 そもそもあんなにでかいと石が当たったことにすら気付かなさそうだが・・・、どうだ?


 俺の投げた石は放物線を描きながらオーガに直撃した。

 その瞬間、オーガは顔をグルっと回転させ俺のほうへと振り向いた。


 俺の方を振り向いたその瞬間、その表情には怯えの色が見えたような気がした。

 だがその表情も束の間、今の俺を見る表情は殺気・・・、とは違う何かに満ち満ちている。


 オーガがゆっくりと俺のほうに歩みだす。

 さっきの奴らとは違い堂々とした佇まい。格の違いがそこにはあった。

 

 どうやらこのオーガは俺を敵と認識し、叩き潰そうとしているらしい。


『おぉ、この感じだと勇者と魔物は惹かれ合うという情報は信用できそうですね。』


 ・・・ブルーさん?あなたは何を言っているのですか?

 これは後でいろいろ問いただした方がいい、そもそも何でその情報を俺に教えてくれなかったのか。


 ただその情報自体は好都合。

 これでこいつを王国の外に出すことだ出来そうだ。

 もっともそのあとのことは何も考えてはいないのだが・・・。


「あなたはラバン殿の・・・、助けに来て下さったのですか?」


 ゆっくりと歩みを進めるオーガの後方から声が聞こえてきた。

 この声はエギルとか呼ばれていた老騎士の声だな。


「その通りです。エギルさん、こいつを門の外に出しますので門の封鎖の準備を!!」


「おぉ、わかりましたぞ!!騎士たちよ、お前たちは勇ましきあの少年が敵を惹き付けている間、怪我人の治療に努めるのだ。死人を出すことは許さん!!各々が自分の全力を尽くせ!!、以上!!」


 歴戦の騎士みたいな見た目をしているだけのことはあるな、仲間の鼓舞の仕方というものを知っているみたいだ。


 エギルさんはすぐに動き出してくれた、しかし少しばかり迂回する必要があるだろう。

 北門から中央への道幅は非常に小さい、さらに言えばオーガの巨体のせいで一方通行のようになってしまっているのだ。

 ここを通るには命を懸ける必要があるだろし、間に入ってこられると俺としても戦いにくい。だったら多少時間はかかってでも安全な道を選んだ方がいい。

 一番大事なのはオーガを外に出すことであり、門を閉じることではないのである。


 当のオーガなのだが、エギルさんのことなど全く気にも留めていなかった。

 オーガはゆっくりと俺に近づいてくる。

 そして・・・。


ドゴォォォン!!


 拳が地面に叩き付けられた。

 ついさっきの奴とやはり格が違った。

 おそらくは威嚇のつもりだったのであろう。


 不可視の拳といっても過言ではない速度、あれが弱者の枠組みを無理矢理突破したものの力か。

 だが・・・。


『いくら拳の速度が速いといえどそれは接近されたらに限定できる話です。近寄らなければ当たりません、極力接近しないように。』


 同意見だな。

 いくらなんでもあれを見て避けるのは無理がある。

 だったら拳の届かない範囲にいればいいだけの話である。


 決してオーガから目を離してはならない。

 俺はオーガから目をそらさなかった。

 だからこそギリギリ認識できた。


「来る、な!!」


 オーガの瞳が俺を見た。

 強者の驕りゆえか、ゴブリンであったとは違い白目と黒目に分かれていたのだ。


 そして放たれるはアッパーカット。

 距離もあったし何かしてくることもわかっていた、だから難なく回避することは出来たのだが・・・。


「クソッ!!こっちが狙いか!!」


 突き上げられた拳の衝撃で石畳が宙に舞う。

 それもかなりの量、あれを捌くのはかなり・・・。


 いや、こんな時のための技があったな。

 ”霞斬り”、斬撃を空間に固定させ、通過する物体を斬り刻む”技”だ。


 これだけ聞けばかなり強力そうに見える。しかし実際は効果時間も短く斬撃の威力も弱いため、強力な技とは言い難い。

 だがこの斬撃には発動させた際に使用した武器の特性が反映される。

 例えば火属性を帯びた剣ならば、この斬撃にも火属性が付与されるのだ。

 つまり・・・。


 俺へと降り注ぐ石畳、しかしそれらすべてバラバラに切断され俺のもとに届くものは一つもない。

 ブルーさんに斬れぬものがあんまりない理由、それはその鋭さゆえではなく聖剣が持つ特性ゆえなのだ。


 巻き上げられた石畳が音を立てながら地面へと落下していく。

 当然俺への損害はない。

 まぁ王国にとってはかなりの打撃にはなるんだろうけど・・・、知ったことじゃないな。


『ッ来ます!!』


 ブルーさんの警告が頭に鳴り響く。

 ついさっきまでそれなりの距離があった。

 ただ今となってはそんなものはまるでなかったかのよう。


 クソッ!!

 完全に油断していた。

 図体がでかすぎるせいで距離の感覚を見誤ったのだ、恐ろしく一歩の距離が長かったのだ。

 今すぐ離れな・・・。


ーグルァァァァ!!


 動き出すにも考えをまとめるにも、オーガの動きはあまりにも早すぎた。

 早すぎるが故の見えない拳、下から斜め上向きの力を受けて俺の体は宙に舞う。


 その力はあまりにも強力で、かなりの距離を吹っ飛ばされることになってしまった。


 俺は地面に叩き付けられる。

 門の外、アダマス草の群生地まで吹っ飛ばされた。

 だいぶ痛かったが、ギリギリ受け身をとれたので複雑な骨折はしていない。

 もっとも凡人なら立ち上がることすら適わなかったとは思うほどの激痛ではあったのだが。

 とはいえあいつは俺には一切の油断がない、その瞳は今も俺をにらんでいる。今すぐ立ち上がって・・・。


 ・・・アダマス草?

 待てよ、だったら今のこの状況を利用する方が得策なのではないか。


 吹き飛ばされ倒れ伏したこの状況ならオーガは俺があまりの衝撃に動けないと判断するはずだ。

 だったらそっちの方が都合がいい、俺はこの状況を生かして作戦を実行することにした。


「ッ少年!!今すぐそちらに向かいますぞ!!」


 エギルさんが叫ぶ、だけど・・・。


「いや、エギルさんはそのまま門の柵を下す準備を!!」


「しかし・・・。」


 問題ない、この作戦はおそらく成功する。


「問題ありません、むしろ急いでください。」


「・・・わかりました、ですが無理だと思ったらすぐに撤退を!!」


 分かってくれたみたいだな。

 最後の最後まで俺の身を案じてくれた、そのことに最大限の感謝を。


 さて、俺がエギルさんと話している間もオーガはゆっくりとこちらに歩みを進めていた。

 飛び掛かってこられるとさすがに詰みだったのだが、俺が門の下にいたからか飛び掛かってはこれなかったようだ。


 オーガは一歩つずつ進み俺の足元に歩み寄る。

 そして、巨大な拳が振り下ろされる。



 否、振り下ろそうとした。

 だがその拳が振り下ろされることはない。


 緑の鎖。アダマス草の持つ魔力増幅の性質、ラバンさんの薬、そして村長がくれた魔力増幅の薬の効能。

 この三つが乗算的に増幅し合った結果、いかなる怪力をもってしても破れない鎖が誕生したのだ。


 縛られているのは腕だけではない、両腕両足ともに縛られている。

 これを破るにはアダマス草を燃やすしかないだろう。


 だがオーガそのための手段を持ち合わせていないはず、この勝負俺の勝ちだ。


「少年、驚きましたぞ!!見たところラバン殿の魔法薬の効果なのでしょうが・・・、前もって教えて下され!!本気で焦ってしまったでしょう!!」


 オーガを分断するため門の上に移動していたエギルさんからが話しかけてきた。

 その節は申し訳ない、だけど説明する時間はなかったよね。


「・・・しかし困りましたな、オーガを門の真下で縛ってしまいました。オーガには少しばかり動いてもらわないと、これでは隔離できませんぞ・・・。」


 隔離?

 その必要はないだろう。オーガは門の・・・、極太で重圧な鉄柵の真下で拘束されているのだから。


「いいえエギルさん、この位置でいい、この位置がいいんだ!!」


「・・・なるほどなるほど、貴方もラバン殿と同じようにイカれた考えをお持ちということですな。」


どうやらエギルさんも気づいたみたいだな。

その顔はにやにやと笑っている。

オーガを隔離はしない、分断するのだ。


「別に問題ないんでしょう?」


「構いませんぞ!!王は寛大なお方、この程度の損害気にも留めはしないでしょう。」


「ならば!!」


「うむ、門には近づかないでくださいよ!!」


 そしてラバンさんが北門の鉄柵を下す。

 王国を守るために戦い続けた鉄柵は今、凶悪なる厄災を討ち砕く鉄槍となるのだ。


 ラバンさんにより下ろされた鉄柵が重力の力を受けながら、オーガの皮膚へと突き刺さる。

 しかしそこは屈強なるオーガ、最初のうちは降り注ぐ鉄柵を肉体をもってはじき返していた。

 だが・・・。


 ガシャァァァァン!!

 そう長く抵抗は続かなかった、重い鉄が大地に叩き付けられた。

 長きにわたり王国を守り続けた鉄柵、それはオーガを貫く槍となり役目を終えたのだった。


「・・・。」


 鉄柵に貫かれたオーガ、だがその瞳は俺を見つめていた。

 尋常ではない生命力によって、首の皮一枚つながっている状態だ。


 だが、頭を貫かれ胴体を貫かれ四肢も貫かれている。そう長くは持たないだろう。


 俺を見つめるその瞳は何かを俺に懇願するような目だった。


「・・・悪いがお前の願いにはこたえられないよ。お前は俺たちから奪おうとした、その時点で道は分かたれたのさ。もしもお前が俺たちと手を取り合うように尽力したのならお前の願いは・・・、今直ぐにじゃないけどかなってたかもしれないな。だけどお前は俺たちからそれを奪う事で叶えようとした。俺はお前の言葉も伝えたいことも何もわからない、だけどもしお前が俺たちと手を組もうとしたのなら、今この瞬間分かり合えたかもしれなかったのかもな。」


 もしもの話をいくらしようが、それはもしもの領域からはみ出すことは決してない。

 俺はお前の願いを引き継げない、まだやることが残っているのだ。


「少年、うまくいきましたかな?」


 俺の頭上から声が掛けられる。

 そうだな、そろそろ今と向き合わないと。

 仮定の話なんていくらでもできる、俺が今するべき事は今から目を背けないことだ。


「あぁ、死んだよ。」


「わかりました、それではオーガの死体を片付けたいので申し訳ないのですが東門か西門へ向かってもらえますかな?」


「了解、頑張ってくれ。」


 それだけ言い残して俺は東門へと移動を開始した。

 オーガは守るべきもののために戦っていたのだと思う。

 だが俺はその希望を真正面から叩き壊した。

 だからこそ俺の目的の礎となった者たちのためにも歩みを止めてはいけないのである。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 俺が西門についたころにはすでに、オーガたちは全員討伐されていた。

 何でもオーガを三体殺し終えたラバンさんが颯爽と現れ、どんどん殺していったんだと。


 しかしこういう話を聞くと実力の差を痛感するな、地の利を生かせたからよかったものの真正面から戦っていたら通常種のオーガにでさえ勝ち目はなかったと思う。

 そんな相手を一人で何体も同時に相手しながら打ち勝ったのだからもはやすごいとしか言いようがないのだ。


「あの、どうやったらラバンさんみたいに強くなれますか?」


 討伐隊が演説台の前に集められていた。

 エギルさんが労いの言葉を話す前に少しだけ時間があったので質問してみた。


「なら一歩一歩確実に歩いてみることだ、今の自分にできることを一つ一つしっかりね。人間一歩目より先に二歩目を歩きだすことは出来ないんだからさ。」


 師の受け売りだけどね。

 最後にそれだけ言ってこの話は終わった。

 一歩一歩、ね。

 俺の歩みは遅いか早いか、今はまだわからない。

 だけど歩みだしが遅かったのは間違いないだろう、他の人間に比べて経た経験は少ないはずだ。

 だからこそ一歩一歩確実に、そして歩む方向を間違えないようにしよう。


 俺の方針が決まったところでエギルさんが演説台の上に立った。


「討伐隊の諸君!!貴君らの勇士、しかと見届けた!!報酬の配布に関してだが、私の話が終わり次第開始するため先に帰らないように。貴君らのおかげでわれらの王国は滅びを免れた、われらが故郷のため勇ましく戦った勇者たちに最大限の感謝と敬意を。それでは報酬金の配布をするため、列になってくれたまえ。」


 エギルさんの演説、思ったよりも短かったな。

 まぁ疲れているので早く帰って休みたいし長々と話を聞くのは得意じゃないので俺としては大歓迎なのだが。


「・・・それと、ネイ!!貴君にはあとで大事な話があるので報酬の配布が終わっても帰らないように。」


・・・お前さっき問題ないって言ったよな?

 


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「エギルさん、ついさっき問題って言ってましたよね?」


 討伐隊への報酬金配布が終わり、俺はエギルさんに呼び止められていた。

 で、今こうして彼に突っかかっているわけだ。

 ちなみにタイタスも一緒である、あいつ一人だけ返すわけがない。


「落ち着いて下され、何も今回の行動が問題に問われているのではありません。むしろ今回の件についてお礼がしたいと国王から勅令を受けましてな。今から儂と一緒に王城へと向かっていただきたいのです。」


「・・・王城?」


「おぉ、よかったじゃなぇか。国王陛下に会える機会なんて滅多にねぇぞ。」


「そうですとも。夕食もこちらで用意してありますうえ、ご安心なされ。」


「・・・夕食、一人分増えますか?」


「可能ですぞ、もしやそちらの方もご一緒ですかな?」


「あぁ、よろしく頼む。」


「ちょっと待てよ!!俺も行くのかよ!!」


「当たり前だろ、分かったらさっさと準備でもしてろ!!」


「はっはっはっ、仲のよろしいことで。それではよろしいですかな?」


「はい、それじゃあ行きましょう。おらタイタス、行くぞ。」


 こうして俺たちは王城へと乗り込んだのだった。

 楽に終わればいいんだが・・・、大丈夫なのかね。



「貴君の活躍のおかげでわれらの国は未曽有の大災害を免れた。国を代表して例を申し上げる、本当に助かった。」


 豪華そうなテーブル、豪華そうなシャンデリア、そして豪華そうな料理たち。

 俺はエギルさんに連れられて王城の中にある・・・、なんていうんだろ?来賓室?に来ていた。

 今まで見たこともないほどの豪華絢爛なその様にはさすがの俺も度肝を抜かされた。


 そして今俺に話しかけてきたのがフィロンスト国王らしい。

 豪華そうな服に身を包んだ小太りのお爺さんだ。

 こんなこと言ったら処されそうなものなのだが、許してくれそうな見た目をしている。


 で、俺はこの言葉に対してどうやって答えればよいのだろう。

 下手な返答をしたくはないが答えなかったら答えなかったでそっちのほうが失礼だと思うし・・・。う~ん。


「・・・この場は無礼講じゃ、あまり深く考えなくてよいぞ。」


「そうですか?そう言っていただけるとこちらとしても嬉しいです。」


色々悩んでいたが、国王自らが俺に救いの手を差し伸べてくれた。ありがたいね。


「うむ、それでよい。」


で、だ。と国王の話が本題に入る。


「今回貴君をここに呼んだのは、追加の報酬を渡すためじゃ。おぬしの活躍はそこのエギルから聞いておる。おぬしがいなかったら今わしらが生きておったかどうかもわからない。それゆえおぬしには特別な報酬を渡したい、受け取ってくれるかの?」


 なるほどね。

 しかし追加の報酬か。報酬金はもう受け取ったし、今回の特殊個体のオーガを討伐できたのは他でもなく皆の力があったからこそだ。だからここで報酬を受け取るのは申し訳ないのだが・・・。


「ネイ殿、遠慮する必要はありませんぞ。今回われらの国に甚大な被害が発生しなかったのは紛れもなくあなたのおかげなのです。あなたの力添えがなければ我々はおそらく・・・、恥ずかしいことではありますが死んでいたでしょう。ですのでぜひともあなたに受け取ってもらいたい、そうでもしないと我らの気も晴れませんからな。」


 そっか、そういうことなら遠慮する理由もないだろう。

 喜んでもらっておくとしよう。


「そういうことでしたらぜひお願いします。」


「うむ、それでよいのじゃ。ではラバン、宝物庫に案内してやってくれ。」


「かしこまりました。それではネイ殿、迷わないようしっかりついてきてくだされ。申し訳ないがタイタス殿はここでお待ちを。」


「わかった。」


「ありがとうございます。それではネイ殿、まいりましょう。」


 エギルさんの言葉に頷き返す。

 こうして俺はエギルさんの後について、宝物庫に向かったのであった。



 広い、とんでもなく広い。

 さすがはこの広大な草原を治める王の居城というべきか、滅茶苦茶広いのだ。

 こんな広いところをよく迷わずにこれたものだ。


 で、その宝物庫だが、来賓室からかなり離れた地下にあった。

 壁も床も石でできており、防犯性はばっちりなのだろう。


「ネイ殿、お疲れさまでした。さてさてここが宝物庫です。今後使用する可能性も考えて好きなだけとは言えませんが・・・、好きなものをなんでも一つだけ選んでくだされ。」


「わかりました。」


 なんでも、ねぇ。

 何にしようかな?


 宝物庫の中には何やら古臭そうなものが無造作に積まれている。 

 だがそれと同時に金銀財宝・・・、じゃなくって金や銀でできた武器のようだな、そんなものも置かれている。

 全部見てると相当時間がかかりそうなもんだが・・・。


『ネイ!!あれっ、アレにしましょう!!』


 ついさっきまで黙りこくってたブルーさんが話しかけてきた。

 あれってどれだよ。


『その棚の上にある黒っぽい袋です。』


 棚の上の袋、袋・・・、これか。

 う~む、手が届かないな。

 俺は背が低い方ではないと思うんだが、高いわけでもない。

 こういう時にちょっとだけ困る。


「ネイ殿どうされましたかな?」


「エギルさん、ちょっとそこの棚の上の袋をとってもらってもいいですか?」


「・・・これですかな?」


「そう、それです。」


「取れました、はい、どうぞ。・・・確かその袋は城前の生命力の結晶が地下鉱脈付近で見つかった際、一緒に発見されたものでしたかな。歴史的な価値はありそうですが、その程度の価値しかと思いますぞ。」


 そうなのか、じゃあ何でブルーさんはあんなに推してたんだ?


『あぁ、それはですね・・・。』


 !!

 ブルーさんの言葉が言い終わる前に、受け取った黒い袋が青く光りだした。

 アビリティボードを触ったときの光によく似ている。

 そしてその光もアビリティボードと同じく俺に情報をもたらした。


「ネイ殿ッ!!」


「そう焦らなくても大丈夫です、別に何ともありません。」


「そうですか、それならよいのですが・・・。」


 心配性だな。

 しかし・・・、


『七つの神器・・・、ですか。』


 ブルーさんに先を越されてしまった。

 そう、俺がその袋に触れた瞬間、とある単語が頭の中に思い浮かんできた。


 七つの神器。


『ブルー、何も知らないのか?』


『えぇ、何も。』


『あぁ?知ってて俺にこの袋を選ばせたんじゃないのか。』


 ブルーさんはその質問に『いいえ。』と答える。

 じゃあ何で俺にそれを選ばせたんだ?


『その袋はちょっと特別でしてね、”付与(エンチャント)”がされているんですが、少しだけ不思議な点があるんです。』


 ”付与(エンチャント)”とは、その物体に魔法の効果を付けることだ。

 たとえばアンデット特効だったり炎耐性だったり。


『どの辺が不思議なんだ?』


『”付与(エンチャント)”されている属性ですね。なんでも”亜空収納(ストレージ)”というのが付与されているんですけど・・・。』


 亜空収納ねぇ、試しに干し肉でも入れてみるか。

 収納から干し肉を取り出し、その袋に入れてみる。

 すると、


「むっ、ネイ殿!!肉が消えてしまいましたぞ!!」


 後ろでエギルさんが驚いている。

 そう、干し肉が袋の底に落ちるでもなく消えてしまったのだ。


『ブルー、干し肉がどこに行ったか分かるか?』


『えぇ、干し肉自体はその袋の中に存在しています、ですがその干し肉をこちらから観測することは出来ない。この事から推測するにその袋は名前の通り亜空間につながっているようですね。』


 名前のまんまだったな。

 この袋の中に入ったものは亜空間に送られる。つまりはこの袋、とんでもない容量を誇る収納道具ってわけだ。


「エギルさん、これにします。」


「わかりましたぞ。お気に召すものが見つかってよかったです。」


「えぇ、ありがとうございました。・・・ところで七つの神器って知ってます?」


「初耳ですな。逆に私が聞きたいくらいです。」


 そっか、何か知ってるとうれしかったんだが。


「しかし面白いこともあるものですな。我々が発見した時にはそのような現象は起こりませんでしたぞ。」


 う~ん、なんでだろうね。

 ブルーさん何か思い当たる節ってあるか?


『少しばかり情報が足りないので何とも言えませんが・・、もしかしたら七つの神器というのは私に非常によく似た存在なのかもしれません。』


 お前とよく似た存在?

 それってどういう意味だ?


『つまりは持ち主を選ぶ、ということです。エギルの話を聞いた限りだとその可能性が非常に高いように思われます。もっとも、先ほど言った通りあくまで推測の域ですけどね。」


 じゃああれか、この袋は”勇者”がやってくるのをずっと待ってたってことなのかな。


 『同意見ですね。』とブルーさんが同意する。


 となると、一つだけ気になることがあるぞ。


『・・・一つ気になることがあるんだが、お前って何のために作られたんだ?』


『勇者を魔王のもとに導くためです。それがどうかしましたか?』


『・・・つまりお前は誰かに作られたんだな、魔王と勇者の存在を知る誰かに。』


『・・・よくわかりませんが、多分そういうことだと思います。』


『じゃあお前を作った存在は今どこで何をしてるんだ?』


『・・・さっぱりわかりません。』


 やっぱりそうか。


 今までブルーさんの出自については気になっていたのだが、多分知らないし必要になったら教えてくれると考えていた。

 だが今回の一件で俺たち以外に勇者という存在が出現するということを知っている存在がいることが発覚したわけだ。もしブルーさんがそいつが今どこで何を知っているのか知っていたらかなり良い情報だったのだが、まぁ想定通りだったな。


 ・・・いや、一人いたな。


『お前の作り主って俺の村にいた守り神の可能性ってないか?』


 そう、あいつは知ってそうな感じだった。

 というかそのことを隠そうと必死だった、多分黒だったと思うのだが・・・。


『あるかもしれませんけど保証はできませんね。というよりも考えても仕方ないと思いますよ、仮に彼が私の肉体の制作者だったとしても私たちに協力する意思はないってことでしょう?』


 あっ、そっか。

 確かにブルーさんの言うとおりだ。


 協力するつもりがあるのなら何かしらの行動を起こしてくれたのだろうが、そんなことはなかった。

 つまりそういうことなのだろう。

 それによくよく考えると勇者の存在を知っている奴が一人しかいないという前提も間違っているのかもしれない。


 じゃあこの話はこれで終わりだな、これ以上考えても何も進歩することはあるまいし。


「それじゃ、ラバンさん。帰りましょうか。」


「わかりましたぞ。迷わないようしっかりついてきてくだされ。」


 頷いて答える、こうして俺を大きく成長させてくれた王国での一日は過ぎていったのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 王城を出て宿で一泊した後、タイタスと一緒に北門に来ていた。


「門番さん、ショーコンドに行きたいのですが・・・。」


「あぁ!!いつぞやの少年ではありませんか。無事問題も解決しましたし通れますよ。」


 よしよし、それはよかった。

 ・・・が、これで王国ともおさらばと考えると少しだけ悲しいな。


「ネイ、お前の目的が終わったらまたここで肉でも食おうぜ。」


 俺の気持ちを察したのかそうではないのかは全く持ってわからない。だけどその言葉は確かに俺の心を再起させてくれた。


 ・・・そうだな、また帰ってこればいいもんな。

 それまで待っててくれよ。


「あぁ!!そうしよう!!」


「少年、そんなに肉がうまかったのかい?王国民として嬉しい限りだね。後、お代はいらないからね。迷惑かけたお詫びだよ。」


「わかりました、それじゃあ通りますね。」


「うん、しっかり頑張って来いよ。」


 俺とタイタスは頷き返す。

 長かったような短かったような、そんな体験だった。


 さてと、いったいショーコンドの旅はどんなものになるのやら。

 

次のおまけで2章は終了です、とても短いおまけですけどね。

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