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#1 新宿三丁目。柳通りにあるコンビニ。

投稿ほぼ初めてです。

使い方がまだよく分かってません……。変なところがあれば教えてください!



 新宿三丁目。柳通りにあるコンビニ。私はそこで働いている。

「よう、店長」

 私がレジでタバコの補充作業をしていると常連の一つ目オヤジが話しかけてきた。

 まだ夕方だというのにもう酒を飲んでいたようですでに顔は赤く、一つしかない大きな目を充血させている。

「いらっしゃいませ。今日はお煙草どうしますか」

 一つ目オヤジはレジカウンターに買い物カゴをどかっと置き、「おう、いつものちょうだい」と無愛想に言った。

 私はタバコの陳列棚から素早くアカマルのボックスを一つ抜き取り、レジにスキャンさせ、無言で年齢確認ボタンをこちら側で押した。妖怪たちは人間が作ったルールに従うのが嫌いなことが多い。無用なトラブル防止のためにも、私の店では明らかに成人している「モノ」であれば従業員側で年齢確認のボタンを押している。

 続いて私は、買い物カゴに入っている鬼殺しのワンカップや夕刊新聞、さきいかなどを素早くレジに通した。

「ありがとうございます。六点で千二百八十円です」

「おう。クレジットでな」一つ目オヤジは財布からクレジットカードを取り出してカウンターに放った。

 私はカウンターからクレジットカードを丁寧にとり、レジにスキャンする。

「しかしあれだなー。このコンビニは酒のつまみは他のコンビニより豊富だが、それでもまだまだよ。大王イカのあたりめやオオグソクムシの燻製とか並べられねえの?」

 私はクレジットカードを一つ目オヤジに返しつつ、「私も発注できたらしたいと思っているんですけどね、この辺りは需要があると思いますし。でもああいう商品は癖が強くて人間にはあまり好まれないんですよ。うちの店には人間、妖怪、神様、機械など様々なお客様が来られるので武器になる商品ですが、やはり全国的にみるとお客様はまだまだ人間が多いですし、本部のほうでも採算がまだ合わないと考えているようですよ」

 私の言葉に一つ目オヤジはガハハと笑った。

「そりゃあそうか。上品な人間様にあの旨さはわからねえか。あのアンモニア臭が癖になるっていうのによ」

「人間にとってアンモニアは毒ですからね」

「じゃあ、またくるわ」そう言って一つ目オヤジは口笛を吹きながら店を出て行った。



 気配がする。私はパン売り場の前出し作業をしていた手を止め、レジのほうに意識を集中した。レジの周りには誰もいないはずだが、なんだか気配がする。

 音はしない。匂いもしない。視界にも映らない。しかし、よく目を凝らしてみるとレジのディスプレイの光が屈折してみえる。

 私は素早くレジのところまで駆け寄り、お客様に向かって頭を下げた。

「大変お待たせいたしました。いらっしゃいませ」

 常連のお客様の一人である透明人間は笑いながら「全然待っていないよ」と言った。

「タバコ。いつものセッターの十ミリのカートンとアイスコーヒーのSサイズね」

「かしこまりました」

「しかしいつもながら凄いね。よく僕が来たことに気がつけるね。他の店員じゃこうはいかないよ。さすがは日本人。君の祖先はきっと忍者なんだろうね」

来たんなら声くらいかけろよ、という気持ちを抑え、私は笑顔で「おそれいります」と返した。

 彼はクレーマーの一人だ。前に他の従業員が彼がレジに来ていることに気づけず、「客を何分待たせる気だ! 接客仕事のくせに客を蔑ろにするなんて仕事やめちまえ!」と従業員に怒号を発し泣かせたことがある。「店員が気づいていないようでしたらお声がけお願いいたします」とでも言いたいが、そう言いようものなら「客に気づくのがお前らの仕事だろ!」と怒鳴られるのは目に見えている。

 彼は徹底して気配を断っており、こちらに気づかせる気なんてもともとないのである。

 しかし、彼は単価の高い客の一人だ。毎回の買い物で五千円前後の買い物をする。来店頻度は週に三回程度で、週計算だと約一万五千円、月計算だと約六万円、年計算だと約七十二万円のお金を落としていくことになる。いわゆる上客の部類である。クレーマーといえど、彼一人を失うと年間約七十万円の売上損失になる。

 私はタバコのカートンをレジ裏から取り出しつつ「いつもありがとうございます。カートンには特別にターボライターのサービスをさせていただきます。それと来週から新発売のタバコがあるのでその試供品もお付けしておきますね」と丁寧に対応した。

「うん。ありがとう」顔が見えなくても透明人間が上機嫌なのが分かった。

「今後ともご贔屓にしてください」会計を終え、レジから離れていく透明人間に頭を深々と下げた。

めんどくさい客には丁寧に対応するのが一番である。彼らは難癖をつけたがる。そしてこちらの態度を観察しているのだ。こいつはどう反応するのかと。それに引っかかってこちらが言い返そうとするとドツボに嵌る。同じ土俵には立たず、丁寧すぎるほどの物腰で接するのが得策である。

 透明人間が店を出たのを確認すると、従業員の一人である座敷わらしが話かけてきた。

「店長さんはよく透明人間さんが来たことが分りますね。私は全然分かりませんでした」

 私は苦笑した。「こればかりは経験の賜物だよ」

 座敷わらしは首をかしげた。「経験ですか?」

「そう、つまり慣れだよ。私にとってここは戦場だからね。視覚以外にも、音や匂い、感覚にも常に気を張っているのさ。だから姿が見えないくらいでは別にどうってことはないよ」

 私がそう答えると、副店長の林が横から口をはさんできた。

「俺も全然気がつきませんでしたけどね」

「お前は副店長なんだからそろそろ気配だけで分かるようになれ」

 林は呆れたような顔をして「自分は妖怪でも忍者でもなくただの人間なんで、気配だけで分かるようにはならないと思いますよ」と抑揚のない声で言った。



ここまで読んでくださりありがとうございました!

もし感想などがあればぜひ聞かせてください。

アドバイスもあればお願いいたします。


次回は3/28㈯の投稿予定です。

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