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ギルバード様の圧倒的器……!

Q.いったい1話のうちに何回視点変更すれば気が済むのですか……?


A.百回は視点変更したい

 四天王が一人、土竜のカルマは地面の中で頭を抱えた。形が整った、赤いマニキュアの塗られた親指の爪を噛む。


「勇者、やはり成長の速度が他の生命体の比ではないッ!」


 ガリガリと手に持ったノートに書き込み、化粧が崩れるのも構わず顔を擦る。難題に直面したときに出てしまう癖だ。


 カルマの頭上、地上では四天王のリュウトとタイガがギルバードとエミリアを相手に激戦を繰り広げている。


 桁違いな魔力と暴力の衝突は地下深くにいるカルマの本能を揺さぶった。それでもカルマは我を忘れて戦いに参加することはない。


 なぜなら、彼女は既に魔王の楔から解き放たれているからである。魔石の研究を続けて千年、魔石に刻まれた呪言を消すことに成功したカルマは悠々自適に生活していた。


 平穏を望む彼女にある日、魔の手が伸びる。そう、冒険者だ。趣味の人間誘拐がバレ、警戒されていたこともあり、カルマは狩りの対象になってしまった。


 闘争を望まないカルマは仕方なく魔王軍に入り、今の地位を獲得した。それでも人間殲滅を望む魔王とは折り合いが悪く、彼女は機をうかがっていた。


 そう、勇者の登場を。


 互いが消耗したところでとどめをさす、というシンプルな作戦のために今日まで準備していた。


 低レベル帯にしか感染しない病気を研究し、勇者だけは死なないように調整した。その結果、エミリアとギルバードが生き残ったのだ。


 当初はゴブリンを素手で倒したというエミリアが勇者に違いないと思っていたが、事態はそう簡単ではなかった。


 学園に忍び込み、学長の秘書として信頼される立場となって生徒の情報を見る。


 エミリアの次に討伐数が多く、その他の学生に大きく差をつけた人物。そう、ギルバード・エッテルニヒの存在。


 ギルバードの職業(ジョブ)のおかげで彼もまた、勇者である可能性を捨てきれなかったのである。


 そして、恐ろしいことにどちらが勇者なのかはさして問題ではないのだ。問題なのは二人とも強いのである。


 レベルは低い。それはもう、四天王が赤子の手を捻るほど。欠伸をするほどに弱いのだ。


 だが、魔物の本能。闘争のために生まれた生き物としての勘が告げるのだ。


『彼らは生まれついての強者』


 二人が自分の不死者(アンデッド)を屠る姿を思い起こすたび、魔王にすら感じたことのない恐怖がカルマを襲うのだ。


 そして、彼女の理性は告げる。


『彼らに敵対すれば、魔物は一匹残らず絶滅させられるだろう』と。


 そうとなればカルマの決断ははやい。一切の躊躇なく彼女は魔王を裏切った。魔王城に忍び込み、ある人物の耳元に甘い声で囁く。


「さあ、お兄さんが貴方を待っているわ」


 ◇◆◇◆


 魔王軍幹部、四天王の二人を鎮圧した私達は尋問に移っていた。


 ギルバード様に歯向かった二人は地面の上で正座し、俯いて地面を見つめていた。


「えっと、別に正座しなくてもいいんじゃないかな」


 敵にも慈悲をお与えになるギルバード様に首を振る。コイツらは魔物であり、敵だ。格の差というのを見せつけ、屈服させる必要がある。


 断じてギルバード様に傷を負わせたタイガへの恨みではない。


「まあいっか。じゃあ最初の質問から。どうして学園にスパイを?」


 ギルバード様の質問に二人は答えない。どうやらこの後に及んでダンマリを決め込むようである。


「勇者の偵察に来ました」


 足元に落ちていた石を拾い、片手で握り潰すとタイガが早口で答えた。


「なるほど、その勇者というのは誰なんだ?」

「ギルバードかエミリアのどっちかだと思います!」

「あ、おいタイガッ!」


 スラスラと質問に答えるタイガ。慌てたようにリュウトが嗜めるが、既に答えた後だった。


「それで俺たちを襲ったのか。じゃああの不死者(アンデッド)もお前たちが?」


 ギルバード様の問いかけに二人が首を横に振る。ふむ、と少し考えこまれた後、再び口を開いた。


「最後の質問だ。どうして今、俺たちを襲ったんだ?」


 最後、という単語に二人の方が跳ねる。やがて、観念したようにリュウトが話し始めた。


「ギルバードの成長が異様に早くてな、今殺さなければ永遠に殺せないと判断した。俺がタイガに指示を出したッ!」

「何言ってんだリュウトォ!違う、俺が提案したんだ!首謀者は俺だッ!殺すなら俺を殺せッ!」


 リュウトが叫び、遮るようにタイガも叫ぶ。黙らせようと一歩踏み出すとギルバード様が首を振る。嗜められた私はその意図が掴めずにいた。


「ギルバードッ!分かるだろ、タイガは馬鹿だ!スパイとかそんなことを考えられるヤツじゃないッ!俺を殺せッ!」

「最初にスパイをはじめたのは俺だッ!学園に賄賂流したりしたのも俺の命令だッ!弟をダシにリュウトをキョーハクしたのも俺なんだッ!俺なんだよォ!!頼むからリュウトは殺さないでくれよォォ!!ギルバードォ!」


 お互いワンワンと泣きながら叫び散らす。ギルバード様は静かにその全てに耳を傾け、やがて口を開いた。


「友達を殺すわけないだろ」


 へ?と二人は間抜けな声を出す。私も驚いたが間抜けは声は出さない。


 薄々そんな気はしていたのだ。ギルバード様はとても優しい方だからきっと全てを許すだろう、と。


「四天王だったことは驚いたがまあ、俺たちは無事だった。そして二人の話を聞いて分かったことがある。つまりー」


 ギルバード様が言葉を切って不敵に微笑む。


「悪いのは魔王、だろう?」


 その時、全身を鱗で覆われた小さな竜がギルバード様と二人の間に降り立った。


「ドラゴン!?ギルバード様、お下がりくださいッ!」


 襲われる前に殺そうと短剣を構えるが、やんわりとギルバード様に遮られる。


「ドラコ!?お前、どうして、魔王城の外に!?」


 リュウトが慌てたように駆け寄ると、ドラコは嬉しそうに尻尾を振った。


 二人は信じられないものを見たという顔でギルバード様を見つめる。


 ギルバード様は神の如き微笑みで魔物二人を見つめていた。


「俺たちを許してくれるのか、ギルバード……?」

「殺そうとしたのに……?」


 互いの顔を見るタイガとリュウト。まだギルバード様の話が飲み込めていないらしい。


「俺たちが友達になれたように、そのドラゴンがここに来たように、きっと種族という垣根を超えて未来を明るくできる。魔物と人間の共存のために二人の力を貸してくれ」


 ギルバード様が二人に手を差し伸べる。二人は頷き、地面に片膝をつく。


「「我らの忠誠を受け取りください、ギルバード様」」

「ああ、受け取ろう」


 この時、四天王の二人とドラゴンがギルバード様の軍門に下った。

ギルバード様はやっぱりすげぇぇぇ!!!!!

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