ギルバード様とお友達作り!!
全寮制の冒険者育成学園に入学したギルバード様とそのメカケである私。
届いた合格通知にはギルバード様と私の学費は全額免除となったお陰でエッテルニヒ家の方々に迷惑をかけずに済んでよかったです。
剣術を教えてくれたセバスチャンさんや髪のお手入れ方法を教えてくれたメイドのアリシアさん、それと送り出してくれたエッテルニヒ公爵夫人様。
『ここが貴女の家です』って言ってくれたときはとっても嬉しかったなぁ。
平民である私がギルバード様のお側にいるからなのか、それとも入学試験首席のギルバード様の噂が広まっているのか。
とにかく寮から校舎までの道を歩いていると他の生徒の視線がもの凄く突き刺さる。
いつも衆目に晒されているギルバード様は狼狽えることなく、いやむしろ見てくれと言わんばかりに肩で風をきって歩いている。
これが貴族ッ、私も見られることに慣れなければ!
中々大勢の視線に反応する野生の勘と戦いながら歩く。視線をさっと逸らされると条件反射で飛びかかりそう……。我慢、我慢……。
「なあ、リュウト。もしかしてギルバードってアイツか?」
「銀髪、女連れ。聞いていた特徴と一致する。あと指差すのはマナー違反じゃなかったか?」
「まあまあまあ、まずは話しかけてみよーぜ!」
黄緑色の髪の少年とバンダナ少年が話しかけてきた。キラキラと好奇心に溢れた顔なので多分ギルバード様のファンだ。
「俺の名前はタイガ。んで、このカボチャヘアーがリュウト。アンタ、最近噂の女ったらしの首席野郎ことギルバードだろ?」
タイガの話に首を傾げつつも、ギルバード様は差し出された手を握る。
「噂……?なんの話かわからないけど、俺の名前はギルバード。ギルバード・エッテルニヒだ」
「アンタもSクラスなんだろ?俺たちもなんだ。これからよろしくな!」
「ああ、よろしくなタイガ」
わあ、ギルバード様すっごく嬉しそう!
やっぱり同性のお友達が作るって張り切ってから、すぐに出来て嬉しいんだぁ!
そういえばエッテルニヒ公爵夫人、もといお義理母様にお友達を紹介すると目標を掲げていらっしゃった。
ホカホカした思いでギルバード様とタイガさんを見つめているとリュウトさんが話しかけてきた。
「タイガの紹介にあった通り、俺の名前はリュウト。タイガとは友達で、ギルバードさんの噂を聞いて気になっていた」
「どうもご丁寧にありがとうございます。エミリア、と申します」
元気溌剌なタイガさんとは違い、リュウトさんは冷静沈着な人物なのだろう。
「リュウトさんのクラスもSなんですか?」
「ええ、もしかしてエミリアさんもですか?」
「はい、これからよろしくお願いしますね」
リュウトさんも嬉しそうに頷いた。も、もしかしてこれは私にもお友達が出来るかも!?
ギルバード様がSクラスの扉を開いた。
他のクラスとは違ってSクラスの扉は材質から別のものだ。高級感が溢れている。
室内にいた生徒の視線が一斉にギルバード様に注がれる。
一切気にすることなく室内に入り、空いた席に座る。手招きされたのでギルバード様の隣の席に座ると、私の後ろの席にリュウト、ギルバード様の後ろはタイガが座った。
「初日ってどんな授業をするんだろうな!」
タイガが体を乗り出してギルバード様に話しかける。ギルバード様は机の中にあった資料をまくった。
「初日の午前は簡単なハンティング、午後は入学式らしい」
「入学式か、俺じっとするの苦手なんだよなあ」
「じっとしていると眠くなるもんな」
「お、分かってくれるかギルバード!特にこう、ポカポカした天気だともう眠くって堪んなくなるぜ」
あぁ、ギルバード様があんなに楽しそうにお喋りしていらっしゃる……。今日という日をお友達の日として記念日にしなければッ!!
思わず込み上げた涙をハンケチでそっと拭っていると、視界の端でリュウトも涙を拭っていた。
「タイガ、あんなにはしゃいで……。いつか弟にも……」
リュウトさんの呟きが聞こえた。リュウトさんはお兄さんなんだ。何才なんだろう。
リュウトさんに話しかけようとした時、教壇にいきなり人が現れた。
立ってお喋りしていた他の生徒も続々と着席した。
くたびれたシャツに皺皺の焦げ茶色のズボン。腰のベルトには何本かの短剣が収納されていた。
見知った顔にギルバード様の顔が綻ぶ。
「久しぶりですね、ギルバードさんとエミリアさん。それと他の皆さんは初めまして!この度新任教師になった冒険者のケインでぇす。
職業はレンジャー。弓や短剣、サバイバルなんかは俺に聞いてね」
冒険者レベル20という中堅として名を馳せている冒険者だ。過去に短剣の使い方を教えてもらったこともある。
身分に関係なく接してくれる信頼できる人、とギルバード様が評価している人だ。エッテルニヒ家お抱えの冒険者らしい。
ケイン先生の話が終わるとパチパチと拍手がなる。
「じゃあ、それぞれ自己紹介をはじめようか。一番端にいるエミリアさんから名前と職業、それとレベルを言ってね」
まさか自分から始まるとは思わず、ガタンと音を立てながら立ち上がる。いけない、淑女淑女。ギルバード様のメカケとして振る舞わなければ!
「エミリアと申します。職業はありません。レベルは15です」
なるべくお淑やかな声で自己紹介をすると、周囲がどよめいた。どうやら、私が職業なしであることとレベルに驚いているようだ。
職業なしに驚くのはわかるがレベルは15ぐらいが普通だと思う。コボルト千匹、ゴブリン四十匹ほど殺せば大抵これくらいのレベルになるほど経験値を貰えるのに。
もしかして、推奨レベルよりも低かったのかな?
「レベル15か、その辺りから魔物との戦いに慣れてきて油断しちゃうからね。気をつけて」
そういえば確かに最近短剣の扱いにも慣れてきた頃だ。うっかり油断して怪我しないようにしよう。母上様も『その体は一人だけのものではありませんよ』って気を使ってくださった。悲しませないようにしなきゃ!
ケイン先生の忠告に頷き、椅子に着席する。入れ替わるようにリュウトさんが立ち上がった。
「俺はリュウト、職業は魔法使い。レベルは14です」
通学中よりも少し冷たい声で自己紹介を終わらせる。先生が何かいうよりも先に席に座った。
ケイン先生に促され、ギルバード様が立ち上がる。
「ギルバード・エッテルニヒです。職業は剣聖。レベルは16です」
「上位の職業は文献が少ない。上を目指すなら地道な努力が必要になるぞ」
ギルバード様も凛々しい顔で頷いた。やはり、上に立つ者には困難が立ちはだかるのですねッ!!
不肖エミリア、微力ながら側で支えさせていただきます!!
「タイガ、魔法剣闘士、14」
リュウトさんよりもあからさまに声のトーンを下げてタイガさんが自己紹介した。思わずケイン先生も苦笑いをする。
「魔法剣闘士とは珍しいね。魔法だけでなく剣術も磨かないといけないね。それじゃ、次の人どうぞ」
「俺はディンセント・ダーワーク。王位継承権第30位だ。職業は魔法使い、レベルは……じゅうさん」
威勢良く話し始めたディンセントさんだったが、最後は消えかかった声になった。
「私はロック、ディンセント様にお仕えするものです。職業は斥候。レベルは12です」
一通り生徒の自己紹介が終わり、ケイン先生が名簿を閉じる。生徒の名前を2周唱えると大きく頷いた。
「よし、皆の名前は覚えたぞ。さて、そろそろ時間も押してるし、早速実力試しがてらにハンティング行こうか!」
お友達出来て、良かったね!!





