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ステージ2  兎って寂しくても死なないんだぜ?



 世の中には、知らなくていいことというのはたくさんある。

 

 例えば誰かの秘密。

 例えば誰かのしょうもない性癖。

 例えば誰かの過去。


 それを知ったところで、誰かが得をするわけでもない。

  

 そんな『知らなくていいこと』で世の中あふれている。


 俺も、知らなくていいことを知っている。

 

 僕も、知らなくていいことを知っている。


 そして俺らの知っていることすら、誰かにとっては知らなくていいことなのだ。


     ★  ★  ★


 朝、とあるコンビニで。

「いらしゃっせー」

 俺の前を急いで商品をぶちまけるサラリーマン。

 

 のんびりジュースを買ってくる高校生。


 カフェインドリンクを買いに来るクマの凄い社畜っぽい人。


 みんなそれぞれの朝があり、それぞれの行き場に足を運ぶ。

 そんな光景を見ているのが個人的には面白かったりする。

 十人十色とはよく言ったものだ。

「ありがとーござっしたー」

「今日は朝のラッシュ酷かったねー、初瀬くん」

「そだね~、社畜乙」

「いや、まぁ俺らも人のこと言えないよね」

 俺の隣でレジ打ちをしている一つか二つ年上の青年、中崎くんが息を吐きながら煙草の棚に手をやる。

 この店でバイトを始めてもうすぐ1年か、早いものだな。

 そんなことを考えながら俺はフライヤーからチキンを棚に並べる。

「そういえばさ、初瀬くんもうすぐ試験じゃない?」

「あー、でも通信制の高校なんで、テストとかラクショーっすよ」

「それで赤点とったら笑っていい?」

「英語以外なら」

 二人で笑う。


「でも大変だったよね、いじめられて学校変えるなんて」

「まぁーもう気にしてないっすけどね、居心地悪いの嫌いなんで」


 そう、俺は元いじめられっ子。

 特に何が理由というわけではないが、ただ目つきが気に入らないという理由でクラスのボスクラスの人間に目を付けられ、流れるようにいじめられっ子コースまっしぐら。

 当時はかなりへこんで学校に行けなくなってしまったが、学校に行かなくなったらなったで冷静になり、なんでこっちが逃げなきゃならないんだと思い即転校。

 現在の通信制高校に通いながらのバイトの日々を過ごしている。


 人間観察が趣味、というわけではないが、いじめの件があって以来、俺は他人を観察するのが癖になっていた。

 こいつはなんでこんな態度がでかいのだろう、とか、いい笑顔で接客に応じてくれるなぁ、とか。

 学生服で煙草を買いに来るなクソガキ、とか。

 

「まぁ、通信制のいいとこは時間がたっぷりあることですね、ゲームする時間が取れるんで」

「ほんと好きだねゲーム」

 中崎くんが苦笑いをする。

 それもそうだろう。

 バイトの休憩中にノーパソを開いてオンラインゲームをする奴なんてそうそういない。

 俺も見たことない、俺以外。


 しかし、それが俺、初瀬はせ 桐谷きりやなのだ。


「でも通信制だと友達出来ないんじゃない?」

「中崎くんだって大学ボッチだーって言ってたじゃん、それと一緒~」

「あ、言ったな!傷ついたから上がったらジュースを所望する」

「先に言い出したのは中崎くんなのでお互いに奢りあうで手を打ちましょう」

「ちなみに俺は友達?」

「中崎くんは同僚っすね」

「あ、まだフレンドじゃなかったか~」

「まずは俺とゲーム談義かアニメ談義できるようになってからっすね」

「え~、俺どっちも興味ないよ~、初瀬くんが服とかブランドに興味を持ってよ」

「気が向いたらだねー」

「絶対向かないよねー」


 別に現実に友達がいなくたって平気だし。

 寂しくないし。


     ★  ★  ★


「じゃあおつでーす」

「お疲れ~、あんまゲームばっかしてんなよ~」

「それは保証しませーん」

 夕方、シフトが終わり中崎くんと別れた。

 帰り道、だんだん暗くなっていく街を一人で歩く。

 

 とぼとぼ一人で歩いていると、何やら目の前で穏やかじゃない空気を感じた。


 一人の女子高生を複数人の男が囲んでいた。

 明らかに友人という空気ではない。

「ねぇねぇ、今一人?よかったら俺らと遊ばない?」

「困ります、人を待ってるので」

「そんなこと言うなって~、もしかして女の子待ってる?」

「いえ……か、彼氏を待ってます」

「え、なーんだよ、こんなかわいい子を待たせるとかありえねーって、そんなやつ捨てて俺らと遊ぼ―」

「だからいやですって!」

「もー、いいじゃんってば!」

 言い合いにしびれを切らした男の一人が彼女の腕をつかんだ。

「は、はなして!」

「俺らと遊んでくれたら放してやるよ」

「ぎゃはは、放す気ねーやつじゃん」

 

 目の前でこんな光景が繰り広げられていても――

 誰も助けようとしない。

 誰もがチラ見をして素通りする。


 気持ちが悪い。


「ほんとにやめてください!人を呼びますよ!」

「呼んでみろよ~、それとも彼氏が助けてに来てくれるってかぁー?」

「ほんとは誰も待ってねんだろー?苦しい嘘つくなって」

「ほんとに…いやっ」

「………」

 俺はその隣の自販機で缶コーヒーを買った。

 ガコンと、音を立てて缶コーヒーが落ちてくる。

「あぁ?何見てんだこら」

 男の一人がこちらを睨んできた。

「いや、別に」

「じゃあどっか行けバーカ!」

 と、足元に唾を吐き捨てて女の子のほうに向かう。

 女の子はこちらに助けを求めるように見てきたが、俺は喧嘩ができる人間ではない。

 気まずそうに眼をそらしてその場を離れた。

 女の子の表情が落胆を見せる。

 その表情を見て申し訳なさを感じる。


 俺は喧嘩はできない。だから。 

 少し離れて俺はまだ開けていない缶コーヒーを―――


 ―――思いっきり振りかぶり、男の一人の頭めがけてぶん投げた。


 ばごっ!

 鈍い音が周囲に響いた。

「いってええええええええええ!!!」

「どっから飛んできやがった!?」

「あいつか!!」

 男たちの視線がこちらに集まる。


「あ、手が滑ったっすわ」

 そう言って、足元に転がっていた空き缶もついでに投げる。

「てめぇぶっ殺してやる!」

「待ってろコラァ!」

 男たちが女子高生そっちのけでこちらに向かってくる。

 十分女子高生と男との距離が離れたのを確認して。


 ―――一目散に逃げた。


「あ!逃げんなコラァ!」

 逃げる直前、女子高生がその場を離れたのを確認した。

 これであとはあの男たちを撒けばいい。

 いじめっ子から逃げ続けた脚力を見せつけてやる。


 本当はもっとかっこよく助けててみたいものだが、何事もうまくいかないものさ。

 無様な助け方もかっこよく思おう。


 そんなことを考えながら人込みを使って男たちを撒いた。

 もう二度と出会わないことを願おう。

 喧嘩になったら秒殺される。


 駅に駆け込み、電車に乗って帰路についた。


 今日の出来事は話のネタになるな。

 そう思いながら帰り着き、ノーパソを開いて電源を付ける。

「友達なんて、こっちにたくさんいるからいいもんねーだ!!」


 『ラビ』さんがログインしました。


     ★  ★  ★


「ふはははははははは!今宵も宴を楽しもうじゃないか同盟者!!」

「お、いつにもましてテンション高いねラビさんw」

「っふ、少しな」

 

 そう、『アルグレイド・オンライン』の世界なら俺は独りじゃない。

 ネトゲでも友達に入ると思います、俺は。

 この『ラビ』でなら、『夜空の騎士団』でなら俺は一人になることはない。

 僕のことも気にせずに俺は俺のままでいられる。


 だってここでの『ラビ』は、超痛い中二病患者なんだもん。


「む、今宵はグレイヴはいないのだな」

「そうだね~、今日はいつもの二人になったねw」

「っふ、奴も奴で忙しいのだろうさ、さぁー!今宵の宴の始まりだぁぁぁ!」

「いぇーい!」


 こうして俺は、『黒猫』と共にクエストに向かう。


 『黒猫』は、たまたまクエストが同じになったときに馬が合ったプレイヤーだ。


 女性アバターだから女性、という決めつけはネトゲ界において愚の骨頂。

 ネカマプレイヤーだっているからな。

 だから俺は男女どちらとも乗れるようなアニメやゲームのネタで話を広げてみたら思いのほかお互いの好みが合い、俺が所属していたギルド、『夜空の騎士団』に誘った。


 しかしオフ会には参加しておらず、やはりネカマだから参加しにくいのかな?と俺は一人で思っていた。別に気にしないのに。

 今回のオフ会はどうなんだろうか?

 また参加しないのだろうか?

 そう思いながら何気なくグレイヴに乗って誘ってみた。


「行ってみようかな…?」


 その言葉に、不思議とテンションが上がった。

 ゲームで仲良くしているからリアルでも仲良くなれる、そう思っていたからなのか。

 それとも会ってみたいという好奇心があるからだろうか。

 その両方なのか。


 俺はログアウトして天井を仰いだ。

 あぁ、なんか楽しみになってきたな。


「今日は、寝よう」


     ★  ★  ★


 夜になると、いつも聞こえてくる。

 頭の中にもう一人の自分がいる感覚。


 見た目はほとんど俺に近い。

 なぜほとんどかっていうと、向こうにいる俺は左目が赤い。

 なぜオッドアイなんだ?

 中二病の成れの果てか?

 俺はいつもそう思いながら眠りについていく。


 ―――かわいそうな僕。


 僕はいつもそうだ。

 誰かのためにと必死になって、裏切られて。

 友達のためと駆け回るのに、その『友達』を名乗っていた人たちは離れて。

 結局いつも一人で泣いている。


 可哀想だ。

 

 誰かが助けてくれたらいいのに。 

 そう思っても誰も助けてくれない。

 僕は一人で生きていかなきゃいけない。


 ゲームをしているときの『ラビ』は羨ましいよね。

 あんなに友達がいるんだから。


 あぁ、僕が守ってあげなくちゃ。


 可哀想な僕は、僕が守ってあげなくちゃ。


 誰にも邪魔させない。


     ★  ★  ★


 数日後、俺は秋葉原に来ていた。

 オフ会当日だからだ。


 ジーパンにパーカーのいつものラフスタイルで、好みのピアスを付けて集合場所に向かう。

 団長とはオフ会で何度も会ってるし、グレイヴとも顔見知りだ。

 誰か来たらすぐわかるだろう。

 

 そう思いながら集合場所でみんなを待っていると、おずおずとこちらに近づいてくる人がいた。


 黒いパーカーを着て短パンを履いた女の子。

 サラサラの黒髪に若干ジト目気味のその子は、スマホで自分の姿を何度も確認しながら前髪をいじっている。

 これからデートなのだろうか、初心な感じがして少し和んだ。


 いいなぁ、デート。

 俺も彼女いたらデートとかするんだろうなー。

 まぁ、クソオタですし女性と縁がない人生を歩んでますけど。


 そんな時、後ろから声がした。

「よー!ラビー!」

「お、グレイヴか」

 振り向くとそこには茶髪のさわやかな笑顔を向ける青年が現れた。

 その耳には俺と同じデザインのピアス。

 『グレイヴ』だ。

 以前遊んだ時にお揃いのピアスを買っていたものだ。

「あ、やっぱピアスつけてきたんだ」

「あ?まーお前も来るしな、ほかにピアスとか持ってないし」

「あっはははは確かにー!つーか前髪切れよなお前、アバターみたいになってんぞ?」

「切る暇ないんだよーだ、お前こそ髪なんか染めてチャラくなっちゃってまぁ」

「いいじゃん茶髪くらい普通だって!」

「団長はまだ見たいだし、もうちっと待つか」

「そうだね」

 俺と同い年で高校3年生だというが、俺が言えた話じゃないが校則大丈夫なのかな?

 俺が以前通っていた高校は黒髪基本のピアスなんて御法度だったからなぁ。

 と、『グレイヴ』と他愛もない話をしていたら、誰かが近づいてきた。


 それは先ほどの彼氏待ちかもしれない女の子だった。

「あの……ラビ、さん?」

「…?」

 『ラビ』という名前を知っているとなると、ギルドのメンバーだろうか。

「あの……はじめ、まして…『黒猫』…です」

「―――へ?」





はい

どっちがメイン主観なんやねんって思われるかもしんないけど

こんな感じにのんびり進みますw

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