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異世界転移はされるもの!  作者: 二度寝
第4章 アダム
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これぞ主人公

 

 ランク戦が始まってから20分ほど経ち、ヒカルの順番がやってきた。



「がんばってくるね!」


「……ヒカルなら余裕。」



 会場へと降りていくヒカルは、特に緊張感も無くリラックスしている様に見える。


 試合のルールは決闘と同じだ。

 大精霊の加護が発動した方の負け。つまり致死ダメージを受けた方の負けだ。



 ヒカルの対戦相手は、なんとオーリオだ。

 俺が唯一決闘した大男である。



 2人の試合が行われる舞台が見える位置に移動した俺達は、応援の言葉をかける事も無かった。

 どう考えても余裕だからだ。



「それでは、宣誓と武装を。」



 審判を務める男性が、試合の準備を要請する。



「「武を用いた語り合いの結果に、言を用いて抗わぬ事を誓う。」」



 両者が宣誓を終えてすぐ、審判が開始の合図をした。



 直後。



 パリンッ!!


「…ァガァッ!!」



 オーリオの叫び声と共に大精霊の結界が発動した。



「そ、そこまで!!試合終了!…勝者、星宮!」



 噛ませ犬にもならなかったな。



「今なにした?」


「……ノーモーションで魔法使った。」


「発動早すぎんだろ。」


「いつもの空断じゃなかったよねー?」


「多分空間振動とかだと思うわよ?」


「な、なぁ…一応聞くが、ヒカルが私達のクランで最強なんだよな?」


「か、神様も負けないよっ!」



 メンバーがそれぞれ試合の感想を述べる。


 実際俺がヒカルと戦うとどうなるんだろうな?思考加速を使えば、先ほどの魔法にも反応出来そうだが…こればっかりはやってみないと分からないな。


 次は同じ舞台でツクリが闘う番だが、俺も別の舞台で出番が迫っている。見れないのは残念だが、そろそろ向かわなくては。



「そんじゃみんな、またな。」



 みんなに別れを告げて別会場へ向かう。



 俺の試合会場となる別会場は冒険課の屋上にある。

 着いた時にはまだ、俺の前の試合をやっていたが、それも5分程で終わり、いよいよ俺の番がやって来た。



「よろしくねー!」


「おう、よろしく!」



 俺の対戦相手は爽やかな好青年だ。

 日本組ではなさそうだな。



「宣誓を。」



 審判の合図で宣誓と武器の準備を行う。

 武装強化や身体強化は、開始の合図があるまで行えない。



「うっわ、関節剣とか初めて見た!感動!」



「だろ?男はロマンに生きなきゃな!」



 あ、審判がイラついてる。

 俺達は急いで武器を構えた。



「開始!」



 合図と同時に身体強化と思考加速。

 まずは目、続いて脚、最後に手の順で行う。


 相手も動き出しているが、まだ余裕があるな。

 武装強化もいけそうだ。最大値は掴めていないが、ちょろっと込めれば充分だろう。



「くらえっ!」



 関節剣が俺の眼前まで迫って来た。



「ふん。」



 左手の刀を振り上げる。



「は?」



 関節剣が真っ二つになり、相手が唖然としているその隙に、眼前まで接近する。



「てや。」



 そのまま刀を横薙ぎに振るい、対戦相手を真っ二つに…といったところで、大精霊の加護が発動した。



「そこまで。勝者、桐崎。」



「どもでーす!」



「はーっ!つっよ。」



 対戦相手に礼を言い、会場を後にした。


 ガリバーで予定を確認して、メンバーの戦いを見て回る事にする。俺の次の対戦までは、まだ時間があるからな。








 半日が終わった段階で、ありがたい事にクランメンバー全員が脱落する事なく勝ち進んでいた。


 しかしここからはそうはいかない。


 なぜなら…



「次は、サクラとツクリか。」



 メンバー同士で当たるからだ。



 同じクランの者同士は、トーナメント表で離して登録される。

 とはいえ、半日も過ぎれば当たらないままとはいかない。



「どっちも勝って欲しいな。」


「まぁ…分かるけどね。」



 とはいえ、順当に考えればツクリの勝ちだろう。

 どちらもレベルは同じ、スキルレベルも同等だ。


 しかし、サクラには制限がある。


 それは…魔法が使えないという制限だ。



 もちろんクエストでは使っているのだが、ここでは使えない。少なくとも公には。


 サイカイア総帥の疑惑に関しては、メンバー全員が知るところだ。ギルドの者達の目がある所で、生命魔法を使うわけにはいかない、というのは全員共通の意見である。


 まぁ、バレない範囲でなら良いんだけどな。


 ここまでの試合では、サクラは魔法無しでやっているようだが、ツクリを相手にするならそうはいかないだろう。表向きには分からない『筋力増強』などの魔法は使うと思う。


 その程度でツクリに通用するかは怪しい所だが。



「お、始まるぜ!」


「楽しみだねぇー!2人ともここ2週間で随分強くなったし!」



 ここまでの試合も見てきたが、2人とも本気で戦う必要の無い程度の相手ばかりに当たってきた。

 本領を発揮するところが見られるのはこれが初めてだ。



「いくよ、ツクリ!」


「ああ、手加減しないぞ!」



 2人は同時に動き出す。


 ツクリが大槌を振り上げ走り寄り、サクラは矢を放つ。


 ツクリは連射される矢を左右に躱しながら接近し、『土槍』の魔法を発動する。


 地面から現れた土の槍を、サクラはバックステップで躱した。そのまま今度は、3本まとめて矢を放つ。


 3本のうち2本がツクリの脚を掠める。


 機動力を削がれたツクリに対し、トドメの矢を放ったところで試合終了だ。



「これは、予想外だったね。」


「……ツクリを近づかせない程の弓さばきが見事だった。」



 ああ。

 正直サクラを舐めていたな。


 試合後に再生するとはいえ、躊躇なく親友の体を狙えるとは思わなかった。案外度胸が据わっている。


 いや、俺がいない2週間で精神的に強くなったのかもな。



「2人共お疲れ様ー!良い戦いだったよー。」



 観客席に上がって来た2人を、みんなで出迎えた。



「いや、あそこまで一方的にやられるとはな。」


「ツクリの土槍もスピードがあって危なかったよ。」



 確かにあの魔法は発動までが早かった。流石にヒカル程では無いものの、この2週間で随分と魔法を使いこなすようになったと思う。


 とはいえ、あまりのんびりと話してもいられない。


 この後すぐに、俺とイチトの試合が始まるからな。



「なんかアレだな。やっぱりイチトと当たったかーって感じだな。」


「ああ。最初にトーナメント見たときにニヤけたわ。」



 なんとなくそんな予感はあった。


 イチトとは組手などの訓練で何度も手合わせしているが、ここ最近はご無沙汰になっている。その上本気でぶつかりあったらどうなるか。


 ちょっと楽しみだ。



「イチト、レベルいくつになった?」


「23。サチは?」


「58。」


「58!?」



 試合の舞台に向かいながらそんな話をする。



「悪いがこの試合はもらいだな。」


「おいおい、レベルが全てじゃねぇぜ?」



 それは分かっているつもりだが、流石に倍開くとな。

 試合結果は分からないが、俺が有利なのは間違いないだろう。


 今はとりあえず煽り作戦を実行中だ。

 言葉とは裏腹に、油断なんてしていない。



「てか、不死スキルってこの場合どういう扱いになるんだ?」


「ああ、それは試した。普通に意味なかったわ。」



 以前オーリオと決闘をした時には、不死のおかげで大精霊の加護は発動しないと思っていたが、試合の合間に試してみたら違った。


 一般的な人間が死ぬレベルの攻撃を受ければ、加護は発動してしまう。


 つまり俺は、この試合システムの中でスキルの恩恵を受けられないという事だ。



「あ、やっぱり?だったらオレにもやっぱり勝ち目アリだな。」


「はん!能力値が違う。俺の圧勝だ。」



 そんな話をしているうちに舞台に着いた。



「ま、やれば分かるこった。オレもこの2週間遊んでたわけじゃねえんだ。それを今から見せてやるぜ!」



「おう!精々頑張れ!俺は2週間で30回は死んだ。その成果を見せてやろう。」



 そして、俺とイチトの試合が始まる。




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