これぞ主人公
ランク戦が始まってから20分ほど経ち、ヒカルの順番がやってきた。
「がんばってくるね!」
「……ヒカルなら余裕。」
会場へと降りていくヒカルは、特に緊張感も無くリラックスしている様に見える。
試合のルールは決闘と同じだ。
大精霊の加護が発動した方の負け。つまり致死ダメージを受けた方の負けだ。
ヒカルの対戦相手は、なんとオーリオだ。
俺が唯一決闘した大男である。
2人の試合が行われる舞台が見える位置に移動した俺達は、応援の言葉をかける事も無かった。
どう考えても余裕だからだ。
「それでは、宣誓と武装を。」
審判を務める男性が、試合の準備を要請する。
「「武を用いた語り合いの結果に、言を用いて抗わぬ事を誓う。」」
両者が宣誓を終えてすぐ、審判が開始の合図をした。
直後。
パリンッ!!
「…ァガァッ!!」
オーリオの叫び声と共に大精霊の結界が発動した。
「そ、そこまで!!試合終了!…勝者、星宮!」
噛ませ犬にもならなかったな。
「今なにした?」
「……ノーモーションで魔法使った。」
「発動早すぎんだろ。」
「いつもの空断じゃなかったよねー?」
「多分空間振動とかだと思うわよ?」
「な、なぁ…一応聞くが、ヒカルが私達のクランで最強なんだよな?」
「か、神様も負けないよっ!」
メンバーがそれぞれ試合の感想を述べる。
実際俺がヒカルと戦うとどうなるんだろうな?思考加速を使えば、先ほどの魔法にも反応出来そうだが…こればっかりはやってみないと分からないな。
次は同じ舞台でツクリが闘う番だが、俺も別の舞台で出番が迫っている。見れないのは残念だが、そろそろ向かわなくては。
「そんじゃみんな、またな。」
みんなに別れを告げて別会場へ向かう。
俺の試合会場となる別会場は冒険課の屋上にある。
着いた時にはまだ、俺の前の試合をやっていたが、それも5分程で終わり、いよいよ俺の番がやって来た。
「よろしくねー!」
「おう、よろしく!」
俺の対戦相手は爽やかな好青年だ。
日本組ではなさそうだな。
「宣誓を。」
審判の合図で宣誓と武器の準備を行う。
武装強化や身体強化は、開始の合図があるまで行えない。
「うっわ、関節剣とか初めて見た!感動!」
「だろ?男はロマンに生きなきゃな!」
あ、審判がイラついてる。
俺達は急いで武器を構えた。
「開始!」
合図と同時に身体強化と思考加速。
まずは目、続いて脚、最後に手の順で行う。
相手も動き出しているが、まだ余裕があるな。
武装強化もいけそうだ。最大値は掴めていないが、ちょろっと込めれば充分だろう。
「くらえっ!」
関節剣が俺の眼前まで迫って来た。
「ふん。」
左手の刀を振り上げる。
「は?」
関節剣が真っ二つになり、相手が唖然としているその隙に、眼前まで接近する。
「てや。」
そのまま刀を横薙ぎに振るい、対戦相手を真っ二つに…といったところで、大精霊の加護が発動した。
「そこまで。勝者、桐崎。」
「どもでーす!」
「はーっ!つっよ。」
対戦相手に礼を言い、会場を後にした。
ガリバーで予定を確認して、メンバーの戦いを見て回る事にする。俺の次の対戦までは、まだ時間があるからな。
半日が終わった段階で、ありがたい事にクランメンバー全員が脱落する事なく勝ち進んでいた。
しかしここからはそうはいかない。
なぜなら…
「次は、サクラとツクリか。」
メンバー同士で当たるからだ。
同じクランの者同士は、トーナメント表で離して登録される。
とはいえ、半日も過ぎれば当たらないままとはいかない。
「どっちも勝って欲しいな。」
「まぁ…分かるけどね。」
とはいえ、順当に考えればツクリの勝ちだろう。
どちらもレベルは同じ、スキルレベルも同等だ。
しかし、サクラには制限がある。
それは…魔法が使えないという制限だ。
もちろんクエストでは使っているのだが、ここでは使えない。少なくとも公には。
サイカイア総帥の疑惑に関しては、メンバー全員が知るところだ。ギルドの者達の目がある所で、生命魔法を使うわけにはいかない、というのは全員共通の意見である。
まぁ、バレない範囲でなら良いんだけどな。
ここまでの試合では、サクラは魔法無しでやっているようだが、ツクリを相手にするならそうはいかないだろう。表向きには分からない『筋力増強』などの魔法は使うと思う。
その程度でツクリに通用するかは怪しい所だが。
「お、始まるぜ!」
「楽しみだねぇー!2人ともここ2週間で随分強くなったし!」
ここまでの試合も見てきたが、2人とも本気で戦う必要の無い程度の相手ばかりに当たってきた。
本領を発揮するところが見られるのはこれが初めてだ。
「いくよ、ツクリ!」
「ああ、手加減しないぞ!」
2人は同時に動き出す。
ツクリが大槌を振り上げ走り寄り、サクラは矢を放つ。
ツクリは連射される矢を左右に躱しながら接近し、『土槍』の魔法を発動する。
地面から現れた土の槍を、サクラはバックステップで躱した。そのまま今度は、3本まとめて矢を放つ。
3本のうち2本がツクリの脚を掠める。
機動力を削がれたツクリに対し、トドメの矢を放ったところで試合終了だ。
「これは、予想外だったね。」
「……ツクリを近づかせない程の弓さばきが見事だった。」
ああ。
正直サクラを舐めていたな。
試合後に再生するとはいえ、躊躇なく親友の体を狙えるとは思わなかった。案外度胸が据わっている。
いや、俺がいない2週間で精神的に強くなったのかもな。
「2人共お疲れ様ー!良い戦いだったよー。」
観客席に上がって来た2人を、みんなで出迎えた。
「いや、あそこまで一方的にやられるとはな。」
「ツクリの土槍もスピードがあって危なかったよ。」
確かにあの魔法は発動までが早かった。流石にヒカル程では無いものの、この2週間で随分と魔法を使いこなすようになったと思う。
とはいえ、あまりのんびりと話してもいられない。
この後すぐに、俺とイチトの試合が始まるからな。
「なんかアレだな。やっぱりイチトと当たったかーって感じだな。」
「ああ。最初にトーナメント見たときにニヤけたわ。」
なんとなくそんな予感はあった。
イチトとは組手などの訓練で何度も手合わせしているが、ここ最近はご無沙汰になっている。その上本気でぶつかりあったらどうなるか。
ちょっと楽しみだ。
「イチト、レベルいくつになった?」
「23。サチは?」
「58。」
「58!?」
試合の舞台に向かいながらそんな話をする。
「悪いがこの試合はもらいだな。」
「おいおい、レベルが全てじゃねぇぜ?」
それは分かっているつもりだが、流石に倍開くとな。
試合結果は分からないが、俺が有利なのは間違いないだろう。
今はとりあえず煽り作戦を実行中だ。
言葉とは裏腹に、油断なんてしていない。
「てか、不死スキルってこの場合どういう扱いになるんだ?」
「ああ、それは試した。普通に意味なかったわ。」
以前オーリオと決闘をした時には、不死のおかげで大精霊の加護は発動しないと思っていたが、試合の合間に試してみたら違った。
一般的な人間が死ぬレベルの攻撃を受ければ、加護は発動してしまう。
つまり俺は、この試合システムの中でスキルの恩恵を受けられないという事だ。
「あ、やっぱり?だったらオレにもやっぱり勝ち目アリだな。」
「はん!能力値が違う。俺の圧勝だ。」
そんな話をしているうちに舞台に着いた。
「ま、やれば分かるこった。オレもこの2週間遊んでたわけじゃねえんだ。それを今から見せてやるぜ!」
「おう!精々頑張れ!俺は2週間で30回は死んだ。その成果を見せてやろう。」
そして、俺とイチトの試合が始まる。




