無限迷宮 Part5
《9月12日8時15分》
何だかんだで3階層まで到達した。10階層以上はまたしても洞窟エリアだが、20階層以下と違いかなり明るい。洞窟全体が淡く輝いていて、視界はかなり確保出来る。
ランク戦は15日に行われるので、まだ三日ある。
前日には家に帰りたいので後二日か。
「明後日の昼頃までは特訓に使ってもいいかもな。」
ここからはまったりと進んでみよう。
この1週間は極力魔物を避けながら最短ルートで進んできたが、後二日で脱出するだけなら余裕がある。
魔物に見つけてもらえるように、魔力強化全開で進んでみるのも良いかもしれない。
そう思って刀と銃に可能な限り魔力を込めた。
「ふんっ……………………………………………あ!」
ある程度まで込めると、刀が折れて、銃も割れてしまった。
どうやらキャパオーバーしてしまったらしい。レベルアップの恩恵でかなりの量を一度に注げる様になったからな。戦闘中にやるのとは違い、たっぷり時間がかけられるというのもあったと思うが。
武器にはそれぞれキャパシティがあるのか。コレは知らなかった。銃と刀でダメになるタイミングが違い、刀よりも銃の方が長持ちした。
単純に体積で決まる訳でも無いようだ。
「もっかい!」
魔力を込められるキャパは、戦闘においてかなり重要なものになるだろう。幸い同じ刀と銃は買ってあるので、限界ギリギリを把握出来るまで試してみる事にした。
「ふんっ……………」
パキンッ、バキ。
「え!?もう??」
今度はそんなに込めていないと思うけど…込め方も重要なのか?
「くそ!もう一回やるぞ!」
その後も練習を続け、手持ちの武器を全て使ってしまった。
しかも限界値は分からず仕舞いだ。
「………ま、いっか。」
これも魔力が上がったことの証明だ。前向きに捉えよう。
「『変身』っと。」
ここから先は魔法のみで進む事にした。
ここまでの道中で、生体魔法もかなり使い熟せるようになっている。魔導書が無いので、相変わらず使える魔法は変身だけだが、変身は生体魔法の真髄だ。これが使い熟せれば大概の事には応用が効く。
俺は四肢を竜化させ、そこに魔力強化を施した。この場合は武装強化では無く身体強化になるのだろうか?
……どっちでも良いな。
自分の体というだけあって、刀や銃のように壊してしまう事もなく、込められる限界値がハッキリと分かった。VITなのかSTRなのか分からないが、能力値が成長するにつれて込められる魔力は増えそうだ。
「おっ!早速1体来たな!」
100mくらい先にアルマジロの様な魔物が見える。向こうもこちらに気が付いた様で、俺は軽く手を上げて挨拶してみた。
「…え?お、おい!」
するとアルマジロは、もの凄い勢いで逃げ出してしまう。
このままでは折角の全開魔力強化が試せないと思い、追いかけようと一歩踏み出した。
瞬間
ゴォッ!!
「…っなぁ!?」
気がつくとアルマジロを通り過ぎ、200m程移動していた。
「やぁっべぇ!全開強化ハンパない!!」
俺は慌てて引き返そうとして、すんでのところで踏み止まる。このままの状態で戻ろうとしたら、またしても行き過ぎてしまう。
俺はなくなく脚の魔力強化を切り、両手だけで戦う事にした。
少し遅れてアルマジロが俺に追いつき、後ろを振り返る様な仕草をしている。俺が追い抜いたのが見えなかったのだろう。
再び逃げ出そうとしたアルマジロに走り寄る。どうやら魔力強化無しでも充分に追いつける様だ。
「それっ。」
アルマジロに追いついた俺は、軽く腕を振るった。
パンッ!!
それだけでアルマジロは粉々になり、洞窟の壁に魔石と粉々の死骸が叩きつけられる。
「………。」
魔力強化って凄いな。
ある程度加減をしないと、まともな戦闘は出来なそうだ。
そこからしばらく、3階層のアルマジロや大蛇を相手に練習をした。初めは弱めの魔力強化から試していき、だんだんと慣らしていきながら込める魔力を増やしていった。
その過程で変身の魔法の練度も上がっていき、四肢の他に胴体の下半分くらいまでは竜化出来る様になった。ナニもしっかりとカバー出来たので、これなら地上に出ても大丈夫だろう。
どうやら魔力強化と変身の魔法には通ずるところがある様で、今後も練習していく事になりそうだ。
結局3階層で丸一日を使ってしまい、俺はやや急ぎ足で2階層へと進む。
2階層へ着いた頃には、13日の昼過ぎになっていた。明日の昼には地上に出たいので、寄り道はそこそこにしておこう。
昨日一日で随分と魔力強化に慣れたと思う。
流石にまだ全開まで込めると振り回されてしまうが、8割くらいまでならコントロール出来る様になった。
「―――。」
「―――。」
練習がてら、変身した体に魔力強化を施した状態で進んでいると、通路の角を曲がった所から何やら話し声の様なものが聞こえる。
人…だよな?
ここに来ているという事は冒険者、それもAランクの冒険者という事になるのだろう。ここはAランクより下は入れない筈だ。
「……。」
どうしたものか。
今更ながら気が付いたのだが、Eランクの俺が無限迷宮に入っているとバレても平気なのか?
ここから脱出する事しか考えていなかったが、出入り口には当然ギルドの職員が居るだろう。その者達になんて言えば良いんだ?
そんな風に悩んでいる間に、角を折れて来た4人組の男女がこちらに気付く。
「お?人いるね。」
「は?受付の女の子嘘ついたのか?」
「新しい人だったみたいだし、何かの手違いじゃない?」
「どっちでも良いでしょ。私達が困るわけじゃないし。…おーい!」
先頭を歩く女性が、手を上げながら呼びかけてくる。
「……ど、どうも。」
「やぁやぁ!これから帰り?……って、なんで裸なの!?」
あ。
その件もあったか。
今よりヤバイ格好の時に会ったエヴァさんはノータッチでいてくれたのにな。
「すみません。ツヤツヤの豚に燃やされまして…」
言い分も思い付かないので、俺は正直に話す事にした。
「ツヤツヤの豚って……そんなのいたか?」
「…!?まさか…オイルボア!?」
4人組が、信じられないといった表情で騒ぎ出す。
「それって20階層より先の魔物よね!?あんた何者!?」
「何者って言われましても……」
どうやら正直に話したのは失敗だったらしい。
けれどここまで言ってしまった以上仕方ない。全て話してしまおう。
「ああ…化神かぁ…。」
「なら、まぁ…仕方ねえか。」
「その弟子なら、オイルボアくらい倒せても不思議じゃないかもねー。」
俺がEランクであるというところまで話してしまったが、何故か丸く収まった。
ゲンガさん、一体どんなイメージを持たれているのだろう。
「よし!せっかくだから受付にも話してやるよ!そんな格好で出てったら騒ぎになっちまうしな!」
え?まじで?
何この人、すげぇ良い人なんだけど。
「…あ、ありがどゔございばずぅ。」
「お、おい泣くな!全裸の竜人を泣かせてるなんて、居心地悪すぎんだよ!」
あれ?
俺って竜人族だと思われてる?
「いや、俺は人族ですけど。」
「…そうなのか?」
そう言って男性が俺の全身を見回す。
「これは生体魔法で変えてるんですよ。」
「…そんなに作り変えて、大丈夫なの?」
男性の後ろから、女性が俺の体をチラチラ見ながら聞いてくる。
「まぁ…なんとかなります。」
ホントは練習中に何度か死んだが、流石に先天スキルまで明かすつもりは無い。
「…へぇー。まぁ化神の弟子ならあり得るのかしら。…どうせだったら、もう少し服っぽく出来ないの?」
「これは戦闘用ですからね。服も出来ると思います。」
俺は竜化を解除する。
「「ここでやるなぁっ!!」」
女性陣にキレられた。
その後、なんとか制服を再現して変身してみたが、胸元の部分がバックリ開いてしまった。
変身で形作れる物の質量は、練度によって上がる。俺の実力では、全身を覆う様には出来なかったのだ。
「ま、まぁ…それくらいなら良いかしら?」
「これもある意味、全裸と同じですけどね。」
服の様に見せているが、これも元々体の一部だ。
なのでこの服にも不死スキルが適用されて、破壊されてもすぐに再生される。竜化した時がそうだった。
「てかそれなら俺達が同行しなくても平気か?」
「いや、Eランク問題があるから行ってあげた方が良いでしょ。」
「…そうしてもらえるとありがたいです。」
俺は4人組と一緒に1階層に移動した。
「ここは何が出るんですか?」
「何って……ああ、君は下から来たんだったね。」
紳士系の男性が答えてくれる。
1階層にはポイズンラビット、パイソンラット、クレイジースライムが現れるらしい。
1番危険なのがクレイジースライムだそうだ。
このダンジョンに挑んだ多くの冒険者が、このクレイジースライムに追い返されているらしい。
「って言っても、さっき私達が通ったばっかりだから殆どいないわよ?」
リーダーっぽい女性が言った通り、殆ど魔物と出くわさなかった。出てきたのはポイズンラビットが2体、パイソンラットが1体だけだった。
それも4人組が討伐してくれたので、俺はただ歩いただけだ。4人組は全員Aランクらしく、相当強かった。個々の力もかなりのものだったが、何よりチームワークが素晴らしかったのだ。
俺達のクランも、ああいう戦いがしたいと思った。
そんなこんなで無事にダンジョンからの脱出と相成ったわけだが、受付ではやはり一悶着あった。それもゲンガさんの名前を出す事で解決したが…
お世話になった4人組に別れを告げ、俺は一先ず冒険課に向かう事にする。武装と服を買う為の金を作る為だ。
共有資金から出しても良いが、そこは一度話し合ってからにしようと思っているのでやめておいた。
「さぁ〜て、いくらになるかなぁ〜!」
この2週間、かなり頑張った。
その成果を数字で表せるとなれば、テンションも上がる。
楽しみだ。




