無限迷宮 Part4
俺は走った。
それはもう走り続けた。
時折エヴァさんから貰った地図を確認しながら迷宮を駆け抜ける。
ランク戦まで後10日。
今は19階層に入った所だ。
地図のお陰で、最短距離を進む事が出来ているが、未だエヴァさんの背中は見えない。一体どんな速度で走っているのか。
所々魔物の死骸が散乱しているので、ルートは同じだと思うんだが。
不眠不休で走り続けて追いつかないなんて事があるのか?
「……あるな。」
エヴァさんは、外見から言って時空属性だろう。
階層移動は無理でも、同じ階層内なら転移でサクサク進めるのかもしれない。
生きた魔物がそれなりにいるのは、何も素通りしたからでは無いのだ。
だとしたら、彼女は既に地上に出てしまったかもしれない。
まぁ、地上で礼を言うと言ってしまったので、追いついても気不味いだけなのだが…
「もう一回会いたかったなー。」
地上に出てから再び会えるとは限らない。
どんな理由でガリアイに来たのかは分からないが、無限迷宮が主目的では無い事を祈ろう。
「…っと。またか。」
19階層は洞窟では無く森だった。
どうやらこのダンジョンは、階層毎にその様相が変わるらしい。
26階層から20階層までは洞窟だったので、10階層毎に変化していくのかもな。
この森では、主に猿の魔物が出現する。
洞窟エリアとは違い、ツヤツヤはしていない。
まぁこんな森の中で油塗れだったら、あっという間に火災が起きるだろうからな。
またしても目の前に現れた猿は、全身が深い緑色の体毛で覆われており、うっかりするとかなり近くまで接近してしまう。
索敵か探知のスキルが生えないと、かなり危険だ。
「今度は6匹かよ。」
猿共は群れで襲ってくるので、そこもまた厄介だ。
俺は武装強化した刀で、次々と木を切り倒す。
その間も猿共は枝から枝に飛び移りこちらに接近してくるが、足場が無くなると地上に降り立ってきた。
樹上にいると厄介だが、地上に降りてきた猿は然程脅威では無い。
俺は右手に持った銃を乱射する。
5発撃ち尽くした所で、ガリバーから直接装填。もう一度空になるまで撃ち尽くす。
「キ、キィッ!キィー!」
計10発の弾丸で、6匹の内4匹までは仕留めた。
残り2匹は逃亡を図るが、身体強化した俺からは逃げられない。すぐさま追いつくと、左手の刀で斬り殺す。
「…っふう。……魔石抉るの面倒いな。」
猿は素材としての価値が分からなかったので、魔石だけを回収する様にしていた。
既にかなりの数の魔石が溜まっていて、換金が楽しみだ。
「ォォオオオオォオオッーー!!」
緑猿の魔石を抉っていると、遠くの方から動物の咆哮の様なモノが聞こえた。咆哮からは、並々ならぬ魔力を感じる。
「……階層ボスか?」
各階層にはボスが存在する。
ここに至るまでの階層にも当然存在した。
しかし、他の魔物と同様に瞬殺出来るとは思えず、時間も勿体無いのでスルーしてきた。
ダンジョンボスと違い、階層ボスは倒さなくても次に進めるのでわざわざ相手にはしない事にしているのだ。
「けど、帰還の目処もたったしなー…。」
地図を得たお陰で、階層移動には然程時間が掛からなくなった。これならランク戦までに帰還する事が出来そうだ。
であれば、戦闘経験やレベル上げをある程度優先して進んでも良いかもしれない。
ちょろっと寄り道していこう。
30分程森を歩いていると、少し先に強力な魔物の気配がした。
もしかしたら索敵スキルが生えたのかもしれないと思えるくらいにはハッキリと分かる。
「キィァアアーァ!アァッ!!」
ともすれば女性の叫び声にも聞こえる雄叫びを上げ、巨大な猿が樹上から見下ろしてくる。
「お前がボスか?」
「キィ!キィィイイァアッ!!」
返事をしてくれたのかな?
ボス猿は体長4m程で、手には小さ目の木を棍棒がわりに持っている。
周囲には緑猿が20匹以上控えており、ボスの指示を待っているかの様に見えた。
「『変身』。」
念の為頭部を竜鱗で覆っておく。
首から下が素肌なので些か間抜けだが、頭部を吹き飛ばされると思考が一時的に停止してしまうので、そちらが優先だ。
ゲンガさんの様に全身を変えられれば良いが、今の俺にはまだそこまでの練度が無い。
もっと積極的に使った方が良いかもしれないな。
「行くぜクソ猿!!」
ドッパァッン!!
挨拶がわりに銃撃を1発。
「キキキィ!」
ボス猿はその巨体からは考えられないくらいに俊敏に動き、弾丸を回避した。
それを合図にした緑猿達が四方八方に散り、こちらへと向かってくる。
弾倉に残った4発を牽制に撃ち込みながら、左手の刀に目を落とす。
どうせバレてると高を括って、刀の方には会敵前から武装強化を始めていた。
「雑魚は引っ込んでろ!!」
充分過ぎるほどに魔力を溜め込んだ刀を、迫り来る緑猿へと振り抜いていく。
「ッギィ!」
「…キッ!」
一振りする毎に緑猿の数が減っていき、凡そ半分程斬った所でボス猿が吠えた。
「キキィ!!」
すると、俺の周囲に屹立する木々がザワザワと音を立てて動き出す。
「おいおい、猿の癖にスキル使うのかよ。」
魔物も当然スキルを使うが、敢えてバカにしてみた。
何の効果も無かったが。
「キィーーィキィー!」
動き出した木は、枝や蔓を伸ばして俺の動きを止めにかかる。
「邪魔!」
木々から伸びた枝や蔦は刀を一振りするだけで、千切れ飛んで行った。
俺はその勢いのまま、未だ高みの見物を決め込んでいるボス猿へと向かって跳躍する。
ここのところのレベルアップによって、俺の脚力は化け物じみていた。そこにさらに身体強化をプラスする事で、10m程の距離を一気に詰める事が出来た。
「キィ!?」
「さいなら!!」
弾丸は躱せても、木々をハシゴしながら迫り来る俺からは逃げられなかった様だ。
ボス猿が目前まで迫った所で刀を横薙ぎに振るう。
「……ッギ!?」
ボス猿の腹部に『一』の字が描かれ、少し間をおいてから上半身と下半身がお別れする。
ボス猿が死んだ事で、緑猿達は散り散りに逃げて行った。
全てを追いかけるのは無理だし、そんな気にもなれなかったので、3匹だけ撃ち殺して終わりにした。
「わお。でっかい魔石だ。」
ボス猿から取れた魔石は、緑猿のよりふた回りは大きかった。
寄り道した甲斐はあったかな。
「けど、大した相手じゃなかったなー。」
経験値的には美味しいのだろうが、イマイチ戦った感が無い。
魔力が無限に使えるというアドバンテージは、俺が思っている以上に有用なのかも知れないな。
刀も銃も未だに壊れないし、身体能力もここの魔物に引けを取らない。
こんな事なら防具と制服にも魔力強化をしておくんだったと何度後悔した事か。
あの見事な壊れっぷりを見るに、魔力が好きなだけ使えなければ俺なんて到底太刀打ち出来ないダンジョンなのだろう。
けどそんな仮定は無意味なので、自重する事なく経験値を稼ごうと思う。そうすればいずれは魔力無しでも無双出来る様になるだろうしな。
寄り道も済んだし、しばらくは真っ直ぐ上階を目指すことにする。ゴール間際で時間に余裕があるようなら、そこで狩りをすれば良いんだ。SSSランクのダンジョンなら、浅い階層でもそれなりに経験値を稼げるだろう。
「よし!気を取り直して行きますかー!」
何となくの方針も決まったので、俺はダンジョン攻略を再開した。




