盛り上がらない展開
現実はこんなものなのかも知れない。
山も無し、オチも無し、実につまらない展開だ。
俺とヒカルは密輸の現場候補の倉庫を見張っていた。
候補となった倉庫は3つあり、それぞれをクランメンバーが分散して見張っていたわけだが、密輸犯が見つかったのはそのどれでも無かった。
俺達と並行して調査をしていた情報部の人間が見つけ、あっさりと捕らえてしまったらしい。
もちろん、犠牲者が出る前に事態が収拾出来たのは喜ばしい事なのだが、どうにも釈然としない。
「なぁ。このクエストって同時に受注出来るクエストだったのか?」
「いや、情報部は別件で今回の密輸犯を追ってたらしいよ。そしたらたまたま光線銃の取引まで突き止めちゃったらしくて、クエストがキャンセルされちゃったみたい。」
うーん。
やっぱりモヤモヤするな。
特に不利益を被ったわけでは無いのだが…
いや、時間の浪費は不利益になるか。
「まぁ、組合の件でそれなりに報酬は入ると思うし、今回はちょっとしたお散歩って事にしとこうよ。」
ヒカルのこの大人感は何なのだろう。
俺なんかはどうしても物足りなさを感じてしまうのだが。
ともあれ、いつまでもうだうだ言ってても仕方ないので、俺達は再びギルドにて合流する事にした。
「今は…13時前か。新しくクエストを受けるには中途半端だな。」
「だなー。しゃーねぇから、オレは道場でも行ってみるわ。」
「じゃあ今日のところは自由行動だねー。せっかくだからサチは一休みしなよ!」
うん。
そうするか。
体は疲れていないが、精神的にはそこそこ休みたい気分だ。
「おう。それじゃ一先ず解散って事で!明日以降の事はまた夜にでも話そう。」
こうして俺達は解散となったわけだが、休みって何したらいいんだろうな。
「リコー。リコは何する予定?」
みんなが散り散りに歩いて行く中、リコがまったりと歩いていたので、後ろから声をかけた。
「…んー?特にこれといって無いわね。サチは?」
「俺も無い。」
この島には娯楽も溢れているのだろうが、突然の休みとなると調べるところから始めないとならない。
「研修飛ばしちゃってるから、その分自習でもするかなー。」
「それって休んだ事になるの?」
「……ならないか。…適切な休み方が分からない。」
「サチの場合、体の疲れは無いのよね?どういう時に心が休まるの?」
それはもちろん
「リコと話してる時。」
「……。」
あ、赤くなった。
癒さられる。
「や、やる事も無いし…ご飯でも行く?」
「行く!」
良かった。
無事に今日の予定が出来たぞ。
せっかくなので、拠点近くの美味い飯屋でも開拓しようという事になった。
思えば俺達は高坂屋とキャストカフェくらいしか行った事がないからな。
「あ、ここ。」
拠点から500mくらいの距離にある一軒のレストランの前で、リコが声を上げる。
「前に口コミで見た所よ。パスタが美味しいんだって。」
「お、いいね!そんじゃここにしよう。」
看板には『バレーノ』と書かれている。
外見もオシャレで、女性受けしそうな店だ。
14時過ぎという時間帯もあり、店内はそれ程混雑していなかった。
客層はやはり女性が多いが、男女の2人組という客も3組程見受けられる。
「いらっしゃま…あ。」
入店して直ぐに店員さんが来てくれたが、俺達の顔を見て固まってしまった。
「ん?どうかされました?」
店員さんは20歳かそこらという年齢で、顔立ちからして日本人に見える。ガリバーの翻訳機能が起動していない事からも、おそらく同郷の者だろう。
派手さの無いピンク色の髪をショートカットにし、瞳は茶色だ。メガネをしているせいか少し大人しめな女性という印象を受ける。
「…あ、いえ!2名様ですか?」
「ですです。」
どっかで会ったかなーなんて考えていると、店員さんが慌てた様子で案内してくれた。
俺達が席に着くなり、店員さんは奥に引っ込んでいってしまう。
「うーん…どっかで見た事ある気がするんだが…。」
「あんた…本気で言ってるの?」
おや?
呆れた顔をされてしまったぞ?
「え?リコ知ってるの?」
「知ってるも何も…私達の同期よ?」
マジで?
クランメンバー以外とも何人か話したけど、あの子は印象に残ってないぞ。
「まぁ確かに影の薄い子だったけど……確か7位よ?三日咲さん。」
「わお。イチトの下か。」
クランメンバーを除いたら1位だ。
いや、除かないが。
「優秀って事だよな?それが何で店員さんやってるんだろ。」
「ちょっと自画自讃っぽいけど……なんでかしらね?でもあの反応からして、あんまり掘り下げない方がいいんじゃない?」
確かにな。
気まずそうにしていたくらいだし、見つかりたく無かったのかも知れない。
分からない事は一先ず置いておく事にして、俺達は料理の注文をした。
注文する時に来てくれたのは、先ほどの三日咲さんでは無く男性の店員さんだった。
やっぱり避けられてるのかなーなんて考えていると、料理を運んで来てくれたのは、意外にも三日咲さんだ。
「…おまたせしました。」
「あ、ども。…ん?俺達飲み物は頼んでませんよ?」
注文したパスタの他に、ノンアルカクテル的な物が運ばれて来た。
「えっと、その…サービスです。」
「三日咲さんからだよね?ありがと、頂くわ。」
リコに名前を呼ばれ、三日咲さんは一瞬ビクッと反応した。
少しして意を決した様に話出す。
「あの…さっきは、すみませんでした。わ、私…びっくりしちゃって。」
「いや、別に失礼な対応された訳じゃないしな。こちらこそ唖然としちゃって悪かったよ。」
何せ誰だか分からなかったからな。
「いいんです!私…昔から影薄いって言われるし。」
的を射ているだけに返す言葉が見つからない。
「それで…も、もし良ければ、この後お話出来ませんか?…もちろんお2人に時間があればですが…。」
「いいわよ。私も話してみたかったし。」
「俺もおっけー。シフト何時までなんだ?」
「あ、オーナーに話したら今日はもう上がりで良いって言ってくれました。着替えて来ますので、お食事してて下さい。」
そう言って三日咲さんはパタパタと小走りして行った。
「リコ話したかったの?」
「うん。旅館の時以来、同期と関わって来なかったし。他の新人がどんな感じなのか知りたかったの。」
それは確かに興味あるな。
クランはCランクに上がったとが、俺達自身はまだまだ新人だ。同じ新人から学ぶ事もあるだろう。
「サチはそうでもない感じ?」
「いや、俺も話したいと思ってるよ。…あ、妬いちゃうかな?」
げしっ!
テーブルの下で蹴られた。
嬉しい。




