究明 Part2
「レイノを殺した者を、探し出す。」
ザラの目には決意の火が灯っていた。
「お姉ちゃん、多分サチには言いづらい仮説があると思うよ…お姉ちゃんならわかるよね?」
サァラは俺を気遣って言ってくれるが、俺はその仮説は既に破棄している。
「…タケヤとキィンが犯人では無いか、という事か。」
ザラが眉間に皺を寄せて言う。
「いや、それは無いと思うな。」
「え?」
「ゲートの防衛部隊は確かに振り切った、というか防衛部隊は追いもしなかっただろう。その状況でレイノが死ねば、当然その2人は怪しく思える。」
「…私は、ギルド側の追っ手がいたと思ったわけだがな。」
「ああ、けどそれは違ったという前提で考えると、真っ先に怪しいのはその2人だ。」
「けど違うんでしょ?」
「そうだ。」
また回りくどいと言われる前に、さっさと話してしまおう。
「タケヤとキィンの武器は、ザラと同じだろう?」
サァラを拘束した時に確認済みだ。
「だとすれば、レイノの首を裂いたのは、あのフォトンブレードとかいう剣だが…アレは些か切れ味が良すぎる。」
恐らくはエネルギー体で出来ているため、極薄の刃を作る事が出来るのだろう。その分横からの力には弱いが。
「あの剣で斬ったら、首を裂く程度じゃ済まない。飛ぶと思うんだ。…まぁそれだけなら上手く加減も出来るかもしれないが、レイノが気付いた何かは、身内からの殺気では無いだろう。それなら陣形を組んだりしないもんな。」
「そう…だな。レイノなら殺気の出所くらい分かると思う。」
「視界が暗転したのも、何らかの魔法やスキルによるものだろう。君達の技術の中に、森の中を急に暗くしたり、他人の視界を暗くしたり出来る物があれば別だが…」
「そんなの聞いたこと無いよ。仮にそんな物があっても、大掛かりな装置になるんじゃないかな?」
当然、自分の部隊がそんな物を運んでいれば気がつくだろう。
彼らにはガリバーも無いのだから。
「……あの2人じゃ無いなら、誰が。」
ザラは心底ホッとしたような表現で言う。
「それはまだ分からない。恐らくはギルドと組合を対立させたい誰かだろう。わざわざギルドの目の届かない所で殺している事もそうだし、現に対立しているしな。」
対立というか、一方的に嫌われているだけだが。
「どうやったら…探せるんだ?」
「一先ず、ゲンガさんと落ち合おう。」
「誰だそれは?」
ザラに話していないのか。
「サチの前に会ったギルドの人だよ。」
「な!…他にもいたのか。」
良い反応をするなー。
ゲンガさんがいつ戻るかは分からないが、とりあえず明日まで待ってみて、戻らなければ俺達だけで動こうという話になった。
俺がゲンガさんにメッセージを送っていると、サァラから質問をされる。
「サチ、今日はもうギルドに帰るの?」
「あー、いや。俺は転移出来ないから帰れないんだ。どこか泊まれる部屋はあるかな?」
「うーん。難しいかも。」
現界に転移した時にこの施設に居たのは組合員だけでは無かったらしい。たまたま訪れていた他組織の人間や、お客さんなんかも居たという。
組合員には宿舎として割り当てられた部屋があるが、来客者用の部屋は2部屋しか存在しなかったそうだ。お客さんが施設内に泊まるなんてそうそう無さそうだもんな。
組合員以外の者達には、宿舎の空き部屋や医務室などが割り当てられたそうだが、それでも部屋が足らず、中には相部屋となっている者達もいるらしい。
当然俺が泊まろうと思えば誰かと相部屋になるわけだが、現界人の俺を受け入れてくれる人が何人いるのか…
なんて考えていると
「私の部屋に泊まる?」
サァラがそう提案してくれた。
「良いのか?」
「うん。」
「ダメだ!」
まぁ、当然姉に止められるよな。
可愛い妹の部屋に蛮族が泊まるだなんて、考えたくも無いだろう。
「これからみんなに呼びかける。作戦の一時中止と、貴様の寝床の提供をな。結果が出るまで大人しく待っていろ。」
そういう事になった。
俺としては、寝床を無心する立場だ。大人しく従うしか無い。
その後、サァラと駄弁りながら時間を潰していると、ザラからお呼びがかかった。
時刻は22時を回ったところだ。
「…というわけで、貴様には私の部屋に泊まってもらう事になった。」
「いや、それは無いだろ。」
「……通路で寝るか?」
ザラも本当に嫌そうな顔をしているが、俺だって同じだ。下手をすれば一晩で100回死ぬ可能性もある。そんなのはあのスーツ仮面の部屋だけで充分だ。
「はぁ…私だって嫌だが、受け入れ先が無かったんだ。帰還派はまだ、お前の事を信用していないからな。」
在留派には聞けなかったんだろうな。
気まずさみたいなものがあるのだろう。
「てかレイノに怒られるんじゃ無いか?俺以外の男を部屋に招くなんてーって感じで。」
「……は?貴様まさか、レイノが男だと思ってたのか?」
「……え?違うの?」
「レイノは女だ!」
つ、つまり……
「ザラって…レズなのか?」
「なんでそうなる!!」
いやいや、そもそも恋人とは言って無いんだよな。
俺が勝手にそう思っていただけで。
「レイノは私の師であり、親友だ。」
「お、おう。先入観って怖いな。」
そんなこんなで俺はザラの部屋に泊まる事になった。
どっちがベッド使う?
君が使いなよ。俺はソファでいいから。
それは悪いよ。
じゃ、じゃあ…一緒に…。
みたいな展開は無く、ザラの部屋にはベッドが2つ有った。レイノと同室だったようだ。
「貴様にレイノのベッドを使わせるなんて…」
「じゃあ交換するか?」
「くっ…私のベッドを使わせるのも嫌だ。…私はどうすれば!」
知らん。
お前が決めてくれ。
「こ、こうなったら……レイノのベッドに2人で寝るしか…」
「なんでだよ!?」
コイツ、もしかしたらめちゃくちゃアホなんじゃないか?
「もういいよ。ソファで寝るから。」
正直一緒じゃ無ければ何でもいいんだ。
そもそも俺は寝るつもりが無い。
ただ、同じベッドで寝たんじゃ抜け出すのが大変だからな。
「そ、そうか?ならそうしよう。…一応言っておくが、変な事をするなよ?部屋にセンサーを設置した。不審な動きをすればアラームが鳴るぞ。」
「………。」
「おい!何故黙る!貴様…やはり不埒な真似を…」
「あ、あー、いや!違うって!そういう事じゃ無くてだなぁ…」
まさかの展開で挙動不審になってしまった。
ザラが銃を抜いたので、仕方なく俺は正直に打ち明ける事にした。
「…つまり貴様は、私が眠った後に1人で調査をしようとしていたのか?」
「ああ、まぁな。俺は眠る必要が無いし。」
スキルの説明をして、何とか信じてもらった。
「だったら最初から正直に話せば良いだろう?何もそんなコソコソと動かなくても…」
「それは、なんというか…クセだな。」
ギルドに居た時は、俺が眠らないと周りに心配された。ここでもそうだろう。ザラはともかくサァラは心配してくれる気がする。
俺は本当に眠らなくても問題ないのだが、心配をかけるのはなんだか申し訳なくなってしまうのだ。
とはいえ、寝る振りをするだけのつもりで泊まるところを無心した結果、結構めんどくさい事になってしまって後悔している。
「ふん。貴様の仲間とやらは随分とお優しいんだな。」
「ああ。自慢の仲間だ。」
ザラはつまらなそうに吐き、話を続ける。
「私は貴様の心配などせん。存分に調査とやらをしてくれて構わんぞ。…ただし、その場合私も付いていく。」
「…君って実は、俺の事好きなの?」
「貴様を信用していないからだ!目を離せば何をするか分からんからな。」
それでも一晩中この部屋に軟禁しないあたり、多少は信用してくれているのだろう。少なくとも、本当に調査をするつもりがあるのだと認識してくれる程度には。
「あー、じゃあお言葉に甘えて、一緒に調査に行こう。俺も、一日も早く解決したいし。」
と言いつつ、今日一日はフルで無駄にした気もするが。
「ああ。…だが目星は付いているのか?言っておくが私は、下手人の姿を見ていないぞ?」
「見ていなくても手掛かりはあるだろ。」
「手掛かり?」
言いづらい事だが、一緒に来ると言うのであれば仕方がない。俺の予想では、確実に残っている筈なのだ。ザラが、忌み嫌うこの時代の地に還すとは思えない。何らかの手段で保存している筈だ。
俺は、調査の第1ステップを話す。
「レイノの遺体を見に行くぞ。」
俺達はザラの部屋を出て、安置所に向かう。




